476.隠れ家 part1
476.隠れ家 part1
1秒だか1時間だか分からない感覚の中、気が付けばオレ達3人は指輪の間に立っていた。
「ふぅ……やっとブルーリングへ帰ってこれたな。何かドッと疲れた気がする……」
「分かります、兄さま。気が緩んで、疲れが一気に出るんですよね」
「僕は感じないけど、2人には実家だしね。何となく気持ちは分かるかな」
確かにオレとエルにとって、この地が一番 安心できる場所なのは間違い無い。
きっとカズイにとっては、アルジャナのベージェが、それに当たるのだろう。
「じゃあ早速、皆の顔を見たい所だけど……このまま向かって良いものなのか……エル、カズイさん、どう思います?」
「あー、確かに……兄さまは表向き、国外追放中ですし……うーん……」
「たぶん王子の手の者が見張ってるんじゃない? アルドの姿を見られると流石にマズイよね……」
折角 帰ってきたのに、シャロンやアシェラ達に会えないなんて、そんな事、納得出来るはずがない!
断固 改善を要求する! 権力には屈しないのだ!
冗談はさておいて……いっそカズイに伝えてきてもらうか? いや、少しでもリスクがあるなら止めた方が良い気が……
結果、大の男が3人、指輪の間の前で頭を抱える事になってしまった。
「しょうがない……範囲ソナーを打って、誰か来てくれるのを待つか」
「それが良いですね。顔さえ見られなければ、どうとでも誤魔化せますし」
「マスクがあれば、尚良いかもね」
エルとカズイの了承を得て、100メードの範囲ソナーを打ってみる……む? 爺さんを始め、アシェラ達やマールはこちらに向かってくるが、何故か父さんと母さんの反応が感じられ無い……留守なのか?
頭に?を浮かべながらも数分が経った頃、扉が乱暴に開かれる音と同時に、皆が一斉にやってきた。
「アルド! おかえり!」「アルド、良く無事で帰ってきてくれました。おかえりなさい」「アルド君! 私も子供、赤ちゃんが欲しい!!」
「エルファス! 凄く心配したの……おかえりなさい……」
アシェラ、オリビア、ライラが嬉しそうにオレへ抱き着いてくる中、反対にマールは涙を浮かべながらエルに抱きしめられている。
「ただいま、アシェラ、オリビア、ライラ。心配かけてごめんな……愛してる……」
「ボクも……」「私も愛してます……」「私も愛してる。だからアルド君の赤ちゃんがほしい」
3人の嫁を抱き締めて、改めて幸せを噛みしめているのだが、1人 明らかに空気が違う者がいる。
一体ライラは何故、こんなにも鼻息が荒いのか……謎だ。
慌ただしかった空気も少し落ち着いた頃、アシェラ達の後ろからクララが前に進み出た。
「アル兄様、エル兄様、おかえりなさい」
「クララ……卒業式、出られなくてごめんな。約束してた服もまだ手に入れてないんだ……」
「クララ、ただいま。それと卒業おめでとう、もう立派な淑女だね」
「ありがとうございます、エル兄様」
そう言ってクララはエルに抱き着いている。え? クララを抱いてクルクルと回るのはオレの役目じゃ? 何でオレ、ガン無視されてるの?
くそぅ……どうやらエルの放った「立派な淑女だね」が、クララにクリーヒットしたみたいだ。
くぅぅ、羨ましい、妬ましい……それはオレの役目なのに!
オレの捨てられた子猫のような目に、エルは呆れた顔で見つめてくる。
次はオレか? オレの番なのか? 満面の笑みでクララに両手を広げてみても、飛び込んでくる様子は無い……何故だ!
見るからに落ち込んだオレを見て、クララは困った子供を見るような目の後、小さく溜息を吐いて飛び込んできた。
「ふぅ……アル兄様、おかえりなさい!」
「クララ、ただいま。綺麗になったな」
これだよ、これ。クララとの再会にはこれが無いと! クララを抱き上げ、クルクルと回りながら、やっとオレの憂いは取り払われたのであった。
そんなオレとクララを見つめる目が2つ……「やっぱりアルドは年下が好き……」「もう少し秘薬を飲んだ方が良いのかも……」不穏な会話は、オレの耳に届く事は無かったのである。
◇◇◇
領主館のカーテンを閉めてから、オレ、エル、カズイの3人は怪しいマスクをはめて会議室へとやってきた。
今回の旅を報告するためだ。
途中、カズイにアシェラ達が「初めまして」と挨拶を始めた場面があったが、経緯を説明すると、驚いた顔でカズイを眺めていた。
なるべく早目にドライアドから発毛剤をもらおうと思う。
会議のメンバーはオレ、エル、カズイは当然として、爺さんとマール、アシェラとオリビア、ライラとクララの全9名である。
「アルド、エルファス、それとカズイ君も、疲れているとは思うが報告を頼む」
「はい。では僕が代表で。予定通りカナリス領に着いてから………………」
今回の旅でカナリス伯爵へ使徒の件、更に魔族の危機を話した事。以前 世話になったダカートの風の依頼でカナリス領のマナスポットを解放した事を話していった。
「………………と言う事です。ティリシアのマナスポットについてはルイス達に任せようと思います」
「そうか……ネロ君にラヴィ嬢、メロウ嬢はルイス君に付いて行ったのだな」
「はい。それと今回のマナスポット解放について、少し相談したい事があります。実は………………」
マナスポットは主がいなくても解放できる件。更にその方法を使えば、コチラのマナスポットを奪う事もできる件を説明していった。
「そうか……過去の使徒は精霊様がマナスポットを守ったのか……」
「アオからしっかり聞いたわけではありませんが、恐らくは……」
祖父さんは何とも言えない顔で考えこんでしまった。
そんな沈黙を破る者がいる……アシェラだ。
「アルド、マナスポットはボクが守る! 数日なら、シャロンはマールに見てもらえば良い」
「それはそうかもしれないけど……主相手にお前1人で戦うなんて、危険過ぎる」
「まだ主じゃない。マナスポットのチカラを取り込む前なら、オーガでも問題無い!」
あ、そっか……主になる前なのか……でもオクタールの時みたいに、2つ目のマナスポットを奪いにくる事だってあるはずだ……しかしここにいる者でマナスポットを守るには、オレ達に匹敵する戦闘力を持つアシェラが適任なのは事実である。
「……分かったよ。ただオクタールの時みたいな事だってあるかもしれない。絶対に無理はしないでくれ。危ないと思ったら、直ぐに逃げるんだぞ? 最悪はマナスポットの1つや2つ、明け渡したって良いんだ。そんな物より、お前にもしもの事があったら……オレはきっと世界を救わなくなる。それだけは覚えていてくれ……」
「分かった。ボクは死なないし、マナスポットも守る!」
いや、だから……危なくなったら逃げて欲しいわけで……
ハァ……まぁ良い。アシェラへ話す前に、オレへ一報を入れるようアオに話しておこう。
「後は近いうちに、カズイさんにはマナスポットへ飛んでもらい、ダカートの風へ今回の顛末の説明と、ルイス達へマナスポットを解放した件を手紙にして送るつもりです」
「崖の中腹にあるマナスポットか。空間蹴りを使えるルイス君達にとって、大きな助けになるかもしれんな」
「そうですね。あの場所では、空を飛べる者以外は使えませんから。ですので皆さん、アオに飛ばしてもらう際には十分気を付けてください」
魔道具を使えない爺さんは眉を顰め、他の者は全員が頷いている……何故クララまで?
むむむ……不思議に思い、クララを注意深く観察すると、腰に見慣れた魔道具の姿があるではないか!
「クララ、おま、まさか……空間蹴りを?」
「はい、アル兄様。卒業してブルーリングへ戻ってからずっと練習してます。ねぇ、アシェラ姉様、オリビア姉様、ライラ姉様」
クララの言葉にアシェラ、オリビア、ライラが笑みを浮かべながら頷いている……まさか、お前等が教えたのか?
「アルド、クララに魔道具の許可を出したのはワシだ。将来、戦になる可能性がある以上、逃げる算段は必要だ。特にクララは、お前達2人の急所にも成り得るからな」
爺さんの言う事は分かる。確かに空を飛べると言うのは、安全を確保する上で非常に有効だ。
でも……でも……クララが飛行(非行)少女になっちゃったじゃないかぁぁぁ!!
オレの心の中には、アホな叫びが木霊するのであった。
◇◇◇
爺さんへの報告も終わり、オレ達はと言うと……何故か開拓村にいたりする。
「凄い……報告は聞いていましたが、この規模……実際に自分の目で見ると想像以上です……」
「そうだな。オレも久しぶりに来たが、正直 驚いてる」
今が一体どういう状況なのか……報告が終わったと同時に、アシェラ、オリビア、ライラ、マールに促されるまま、有無を言わさずオレとエルは開拓村へ連れて来られたのだ。
そして先ほどの言葉となる。
「アルド、こっち」
「エルファスも。早く」
ほぼ出来上がった城壁を呆然と眺めているオレ達へ、アシェラとマールの声が響く。
2人は悪戯が成功したかのように笑みを浮かべ、オレとエルを手招きしている。隣のオリビアとライラも同様だ。
これが氷結さんであったなら罠を心配する所なのだが、オレ達を呼ぶのは愛する嫁達である。
エルと視線を交わした後、小さく肩を竦めて後を追ったのであった。
「城壁も後は門が出来れば完成だな。次は建物か……」
「うん。でも門と領主館を作ったら、グラン家は開拓村から手を引くみたい。そっからはお義父様やお祖父様に引き継ぐらしい」
「は? ちょっと待て。クリスさん達が開拓に参加してたのは、自分達が治める領地を得るためって話だっただろ……まさか、父さんや爺さんが約束を破ったのか?」
思いもしなかった事実を聞いてしまった……クリスさん達は約束通り、街を1つ作り上げたと言うのに……それを反故にするなど、幾ら身内とは言え流石に看過できない。
憤りと共にオレから軽く怒気が立ち上ったのだろう。アシェラは驚いた後、早口で事の流れを教えてくれた。
「アルド、違う。落ち着いて!」
「いや、そうは言うけど、クリスさん達はカシューを捨ててブルーリングに来てくれたんだろ? それを最後の最後で裏切るなんて……幾ら父さん達でも、オレは納得できない!」
「だから違う。言い出したのはクリスさん達。お義父様やお祖父様は反対した」
は? どういう事だ? クリスさん達が自分から身を引いた? 何で?
オレを落ちつかせるように諭し、アシェラの話す内容はこうだった。
色々な援助を受け、ここまで開拓村を作り上げたものの、グラン家にはこの規模の街を運営する能力は無い。
しかも、開拓村は街が出来たばかりであり、これから田畑を作り治水も行わなければならないのだ。
更に人を誘致して、物流も整えて……街を軌道に乗せるまでに、途方もない労力と専門的な知識がいる。
この街は妖精族の起点になる事が決まっている以上、失敗は許されない。
そうした背景もあり、結果グラン家はこの街の運営を放棄したと言う。
「でも、ただ放棄しただけじゃ無い。グラン家の代表が、街の運営を間近で学ばせてもらう事になってる」
「運営を学ぶ?」
「そう。街はここ1つじゃ全然足りない。妖精族の未来のために、ここから西へ沢山の街を作る」
「それって……ここ以外にも街を作る予定なのか?」
「うん。ライラの地図が役立った。ここが落ち着いたら、新たに3つの街を作る」
「3つって……ここだけでもかなり無理したはずだ。ブルーリングにそんな余力があるのか?」
「ここまでの大きさは無理だって。実際はヴェラの街ぐらいの街を作るって言ってた」
「なるほど……先ずは人を住む拠点作りを優先するのか。確かに人の営みがあれば、徐々に道も整備されて、長い時間で開発されていくか……」
「うん。それにクリスさんが言ってた。今は街を作れるのはグラン家だけだって。遠い未来、この国の歴史にグラン家の名が刻まれるなら、それは家を発展させる事なんかより、ずっと名誉な事だって……」
アシェラには悪いが、オレにはその感覚を理解できそうにない。
歴史に名を残す……これ以上無いほどに名誉な事なのだろうが、価値を感じられ無いのだ。
騎士爵とは言え、グラン家も立派に貴族だったと言う事か……
「分かったよ……クリスさんやグラン家は納得してるんだな? だったら、オレからこれ以上、言う事は無い……」
「アルド……」
微妙な空気の中、オレとエルはアシェラ達に着いていくのであった。




