473.グリフォン part2
473.グリフォン part2
エルと2人、辺りに散らばるグリフォンへと吶喊した。
先ほどの戦いでは、1匹倒しては囲まれを繰り返していたのだが、今はエルがいる。
グリフォンがオレを囲もうと動く前に、片手剣と短剣を持ったエルが突っ込み、包囲を完成させる前にグリフォンを倒していく。
当然、次はエルを包囲しようとするのだが、オレがそれを見ているだけのはずが無い。
グリフォン達はオレ達2人を相手に包囲網を敷く事はできず、戦いは乱戦にもつれ込んでいった。
しかし、改めてエルの動きを見ると、凄まじいの一言である。
右手に片手剣、左手に短剣を持ち、グリフォンのお株をを奪うかのように一撃離脱で確実に数を減らしていく。
オレも負けてはいられない。魔力武器(片手剣)を両手に発動し、グリフォンに向かってバーニアを吹かしたのである。
「先ずは1匹……」
真っ直ぐにグリフォンの1匹へ突っ込み、眉間へ右手の魔力武器(片手剣)を突き入れてやった。
一度だけ痙攣するようにブルリと体を震わせ、チカラ無く崩れ落ちて行く。
まだ数えるのが面倒なほどグリフォンがいる以上、立ち止まるのは悪手だ。直ぐに30メードの範囲ソナーを打ちバーニアで次の獲物へ吶喊するのだった。
「4匹……」
すれ違いざまに首を刎ね、心臓を貫いて数を減らしていく。稀に飛んでくる風魔法は全て「守りの壁」を張り無視させてもらった。
サポート役のカズイさんも、グリフォンの翼では無く主に足、動きを制限するようにウィンドバレットを撃っている。
そうして数分が過ぎた頃、満足に動けるグリフォンがいなくなった所で、怒りで毛を逆立てた主が暗闇から姿を現した。
「エル、カズイさん、主だ……ここからが本番だ……気を抜くなよ」
主は、どうにかフラッシュから立ち直ったのだろう。しかし不思議な事に体のあちこちから血を流し、見るからに疲弊している。
何故? そんな疑問にエルが口を開いた。
「アイツはカズイさんのフラッシュをまともに食らい、辺り構わず魔法を撃ち暴れまわっていました。あの傷はそのせいで付いたと思います。直ぐに回復するとは思いますが、疲弊している今が好機です」
「そうか……確かに戦闘の途中でいきなり目を奪われれば、そうでもして けん制するしか無かったんだろうな……分かった、このまま押し込むぞ」
「はい! カズイさん、盾を返してください……」
「うん。はい、これ。僕は残りのグリフォンを何とかしてみるよ。2人は主に集中して」
「ありがとうございます。エル、消耗してても相手は主だ。舐めてかかると痛い目に合う。全力で行くぞ」
「はい。アイツは手負いの獣と同じですから……油断は絶対にしません」
オレは小さく頷くと、一言だけ声を発し、主 目掛けて吶喊した。
「行く!」
主は傷だらけでありながら、真っ直ぐに立ち、オレ達を真正面から受け止めるつもりのようだ。
恐らく、今付いてる傷など直ぐに回復するのだろう……正に回復能力を持った者だけが出来る、捨て身の攻撃である。
先ずは証の位置の知りたい……後ろを影のように付いて来るエルへ、ハンドサインを出した後、相手の間合いに入る寸前、真上にバーニアを吹かせ主から距離をとった。
思わぬ挙動に主はオレへと意識を割かれている。
そこへ気配を殺していたエルが、渾身のリアクティブアーマーを仕込んだ盾で突っ込んだ。
直撃を受けた主は面白いように吹き飛んで、地面を何度も転がり大木に当たり、やっとその動きを止めた。
この隙を放っておくほど、オレ達は甘く無い。エルは正面、オレは上から主へ向かって真っ直ぐに突っ込んでいく。
グリィィィィィィ!!
この期に及んで咆哮とか……バカにしてるのか!
オレもエルも、今更この程度の咆哮で怯むなどあるはずが無い。
エルは主の顔面に渾身のバッシュを叩き込んだ。
ガン!!
鈍い音と共に、主は再度 地面を転がされ、更に前足へ片手剣を突き入れられている。
ギィィィィ!
主が絶叫を上げる背後には、既にオレが忍び寄っている……
そっと背中へ触れソナーを打つも、主の意識は完全にエル1人へ向けられ、オレには一切の関心すら示す余裕は無い。
おいおい、ソナーを打たれても無視かよ……よっぽどエルに脅威を感じてるんだろうな……
しかし、好きにソナーを打たせてくれるなら、断る理由など無いわけで……
結果、エルは足を止め、正面から主の相手をし、オレがコソコソと背中からソナーを打つと言う、おかしな状況が出来上がっていた。
うーん……シュールだ……コイツがオレに構っている余裕が無いのは分かる。ただこの絵面は、オレの下っ端臭が酷い事になってる気が……
正に虎の威を借りる狐! ジャイ〇ンの影に隠れるス〇オ!
微妙な思いを感じながらも、計6回のソナーでおおよその事は知れた。
「エル! コイツの証は嘴だ! 一気に攻めるぞ」
「はい!」
オレ達の纏う空気が変わったのを察したのか……主はエルを怯えるように見つめている。
エル1人でも押されていたのだ。同じくらいの強さであるオレが加われば、主に勝機などあるはずが無い。
そんな主は、状況を察したのだろう……オレとエルを交互に見て……何と尻尾を巻いて逃げ出したのである……
◇◇◇
「エル、オレは右から回り込む!」
「分かりました。じゃあ僕は左から!」
本来、この暗闇の中、50メードも離れれば直ぐに見失ってしまうが、オレ達にはソナーがある。
適度にソナーを打ち、必死に逃げる主を確実に追い込んでいく。
しかし、主のくせにマナスポットを放り出して逃げるなんて……完全に想定外だ。
このペースだと直に領域を外れるだろうし……コイツは一体 何がしたいのか……逃げてどうなるものでも無いだろうに……
そろそろ本気で追い込もうとした所で、主は思いがけない行動にでた。
グリィィィィ!!
咆哮と同時に残りの魔力を解放するかのように、風魔法を乱射し始めたのだ。
「うおっ、危ねぇ。エル、守りの壁を張るぞ。多分、最後の悪あがきだ」
「分かりました」
エルの返事が聞こえたと同時に、後ろからくぐもった悲鳴が聞こえてくる。
何だ? 今のはカズイさんの声? まさかオレ達を追ってきたのか?
直ぐに範囲ソナーを打つと、やはりカズイが地上へ落ちて行くのが感じられる。
マズイ! てっきりどこかで待機してると思ったのに……
「エル! 主の最後っ屁でカズイさんがやられた! 主は後回しだ。カズイさんの下へ急ぐぞ!」
「え? あ、はい!」
範囲ソナーを頼りにバーニアを吹かすと、カズイは直ぐに見つかった。
主の風魔法にやられたのだろう。ドラゴンアーマーに守られていない首から血が滴り落ちている。
しかも空を駆けている際に魔法を受けたのだろう。意識を失い大木の枝にぶら下がっていた。
「カズイさん!!!」
オレはバーニアを最大で吹かし、カズイの下へと走り寄った。
間近で見る傷は、凄惨の一言である……首の右側が大きく抉れ、今も尚 鼓動のタイミングで血が噴き出しているのだ。
直ぐに応急処置の回復魔法をかけるが、この傷の深さでは一気に修復は無理だ……先ずは血止めを……
「エル、応急の血止めは終わった! 取り敢えずカズイさんを木から降ろす。お前は辺りの警戒を頼む!」
「はい!」
カズイのドラゴンアーマーは血で真っ赤に染まり、一刻を争う事態なのが嫌でも理解できる。
この出血量……直ぐにでも輸血をしないと……近くの開けた場所へカズイを寝かし、最速でソナーをかけた。
やっぱり血が足りない……心臓が悲鳴を上げている。
「エル、オレは輸血魔法を使う。お前は首の治療を頼む」
「首……僕にはエルフと人族の違いが分かりません。僕の体を参考に修復して大丈夫なんでしょうか?」
「今はそれしか手は無いんだ……しょうがない。拒絶反応が怖いが、それは後の話だ」
「拒絶ですか? 良く分かりませんが……分かりました……」
そこからはエルが首の修復、オレが輸血魔法でカズイの治療を行っていく。
数分が過ぎ、徐々にカズイの顔に赤みがさしてきた頃、エルもおおよその修復を終え、カズイがゆっくりと目を開けた。
「僕は……」
「目が覚めましたか!? 良かった……主の魔法を受けて意識を失ったんです。何処かおかしな所はありませんか?」
「主の魔法……おかしな所……」
カズイのボーっとしていた目へ、徐々に理性の光が灯っていく。
「あ! そうだ。いきなり魔法が飛んできて、避けようとしたけど当たっちゃったんだ……」
「主が悪あがきで、風魔法を出鱈目に撃ったんです」
「そっか……魔力の残りを気にして、守りの壁を切ってたから……ごめん」
「謝らないでください。僕も主が逃げるなんて思ってもいませんでしたから。それに悪あがきの風魔法も……あんなに往生際が悪い主がいるなんて……」
「そうなんだ……」
「それとカズイさんに1つ言っておかないといけない事があります。その首なんですが、時間が無くて人族として修復しました。エルフとの違いを調べる余裕が無かったんです」
カズイは驚いた顔の後、自分の首を恐る恐る撫でている。
「お、おかしな感じはしないけど……」
「今は良くても後になって出てくる可能性もあります。違和感を感じたら直ぐに言ってください」
「わ、分かったよ……因みに違和感が出たらどうなるのかな?」
「……切り取って新しく修復するしか手は無いと思います……」
カズイは顔を引きつらせ、大きく喉を鳴らしている。
当面はこれで問題無いはずだ。後は主を追わないと……無駄だとは思いつつも、念のため最大で範囲ソナーを打ってみた……やはり何処にも主の反応は感じられ無い。
「どうやら主には逃げられたみたいです」
「そうですか……しょうがないです」
「ごめん……僕が魔法を食らっちゃったばっかりに……」
「カズイさん、謝るのは止めて下さい。あれは運が悪かっただけです。それよりこれからの事を考えましょう。主がいない以上、どうやってマナスポットを開放すれば良いのか……」
エルもカズイも当然ながら答えなど知っているはずも無い。
オレ達は誰も何も言葉を発さず、眉根を下げて沈黙を貫くしかできなかった。
暫くの時間が過ぎ、頭が煮えてきた頃、オレは小さく溜息を吐きながら口を開く。
「取り敢えずマナスポットの位置も知りたい。アオを呼ぼう」
エルとカズイは、小さく頷いたのであった。




