472.グリフォン part1
472.グリフォン part1
オレ達は今、月明りを頼りに森の上空を駆けている。
「エル、この辺りじゃなかったか?」
「うーん……そうだと思いますけど、こう暗いと……」
やはり想定した通り、この明るさでは森の中を窺うのは難しい。
「しょうがない。本当は奇襲で一当てしたかったが、範囲ソナーを使うぞ」
「分かりました」
エルの返事を聞いて、直ぐに最大の範囲ソナーを使った……おー、いるいる。
グリフォンは群れの魔物だからか、10匹ほどの塊を作って眠っていた。
「あー、やっぱり起きたか……エル、予定通り主を引き付けてくれ。カズイさんは隙を見てフラッシュを。オレは雑魚を殲滅する」
「分かりました」
「が、頑張るよ!」
緊張するカズイへ小さく頷いた後、眼下に広がる鬱蒼とした森を見つめた。
「オレが先行する。2人共、付いてきてくれ。「守りの壁」だけは切らすなよ。行くぞ!」
それだけ言うと、返事を確認する事も無く、オレは真っ直ぐに森の中へと突っ込んでいく。
先ずは雑魚……主はその後でじっくり攻略すれば良い。
奇襲されるとは思ってもいなかっただろうグリフォンへ向かって、真っ直ぐに吶喊したのである。
◆◆◆
グリフォンの群れへ突っ込んで行く兄さまを追い、闇が支配する森の中へとやってきた。
最初に思ったのは「暗い」、この一言である。
月明りに目が慣れていたのか、殆ど何も見えない……主は何処に?
焦る僕の前には、グリフォンの群に吶喊する兄さまの姿があった。
くそっ、早く主を見つけないと……焦れる心とは裏腹に、1つの疑問が湧き上がる。
何故、兄さまはあんなにグリフォンの位置が正確に分かるのか……今も2匹のグリフォンの首を刎ね、次を目指して弾丸のように爆ぜていく。
数瞬の思考の後、「範囲ソナー」に思い至った。なるほど……視界の悪さを範囲ソナーで補っているのか。
現に今も、兄さまから範囲ソナーが飛んでくる。
これも兄さまの強さの一つ……固定概念に囚われず、柔軟な思考でその場の最適解を導き出す。
使える物は何でも使うと言っても良い。頭の固い僕には難しい判断だ。
思考が逸れた。関心するのは後で良い。
頭を振り、直ぐに兄さまに倣って100メードの範囲ソナーを1つ打つ……いた。グリフォン達の一番後ろ……目を凝らせば、主は兄さまの動きを追おうと、必死に目を凝らしている。
やっぱり……主とは言え、この暗さではかなり視力が落ちるようだ。
「カズイさん、主を見つけました。フラッシュの準備に入ってください」
「わ、分かったよ」
カズイさんの返事を聞き、僕は主へと狙いを付けた。
季節は春とは言え、森の中は草や背の低い木が生い茂っており、走れないまでも余計な音を立ててしまう。
であれば、地上から1メードほどの高さを駆けるのが尤も効率的だ。
僕は空間蹴りとバーニアを使い、主の下へと突っ込んでいった。
グリィィィィィィィ!
主は牽制のためか、威嚇混じりの咆哮を放ってくるが、それは前に見た……気合で威圧を撥ね除け、盾にリアクティブアーマーを起動し、主 目がけてぶち当ててやる。
ドォォン!
腹に響く爆発音と共に、主は後へ吹っ飛んでいく。
こんな簡単に真正面から攻撃を食らうなんて……カズイさんの言う通り、間違い無くコイツは鳥の弱点を受け継いでいる。
どうする……いっそ主を先に倒した方が良いのか……そんな僕の迷いを見透かすように、主から無数の風魔法が飛んでくる。
盾と魔力盾で弾くが、想定より攻撃がだいぶ重い……群れの数も過去のゴブリンやマンティスとは比べ物にならないほど少ない事から、この主は回復能力と自身の強化に加護を使ったのだろう。
「この様子だと、舐めて戦える相手じゃない……朝はやっぱり兄さまの雷撃が効いていたのか……」
主の顔の半分は焼け爛れているが、煙を上げながらも僕を睨みつけている。
叩き切ったはずの翼も綺麗に治っており、コイツの回復能力の高さを物語っていた。
「カズイさん、コイツはやっぱり簡単に倒せそうにありません。予定通りフラッシュをお願いします」
「わ、分かったよ」
それだけ告げると、僕は再度 主へと吶喊する。
先ずはカズイさんにも突ける隙を作り出さないと……しかし、コイツの挙動は読み難い。
ただ俊敏なだけなら、この程度の速さどうとでもなるのに……風竜よりも確実に遅いのに、動きに何とも言えない緩急があるのだ。
フワッと動いたと思ったら、いきなり目の前にいたり、素早いと感じたのに実際はそれほどでもなかったり……
クッ、先ずは隙を……どうする……どうすれば良い……こんなんじゃダメだ。
そうは思うものの、主だけで無く周りのグリフォンからも魔法が飛んできて、意識を割かれてしまう。
結局、主に集中しきれない僕は、良いように攻撃をもらい続けていた。
傍目には僕が窮地に陥っているように見えただろう。しかし、その実、僕にはダメージの類はほぼ無く、虎視眈々と逆転の一撃を狙っていた。
これはチビさんのドラゴンアーマーのお陰である。守りの壁だけで無く、鱗は殆どの攻撃を弾き、皮は衝撃を吸収してしまう。
なるほど……これなら母さまの魔法にも耐えられたはずだ。
妙な納得につい笑みが零れてしまった。
主はそれを余裕と受け取ったのだろう……苛立ちを隠そうともせず、更に苛烈に攻撃を仕掛けてくる。
激しさを増す主の攻撃は、徐々に疾く、鋭くなっていく……それと反比例するように僕は付け入る隙が大きくなっていくのを感じていた。
それはそうだろう。コイツが厄介だったのは、揺らぐロウソクのような不規則な挙動だ。
疾く、鋭くなると言う事は、動きが徐々に直線的になっているのと同義なのだから。
貝のように閉じこもる僕へ、主はとうとう業を煮やしただろう。前足を大きく振り上げ大振りの一撃を放ってくる。
きた!
僕は盾を持つ左手に力を籠め、主の顔面を目指し、渾身のバッシュを叩きこんでやった。
ギィィ!?
防戦一方だった僕が反撃してくるとは思わなかったのだろう。主は大きくのけ反り揺すられた脳の影響から、フラフラと数歩 後ずさりした。
「今です! カズイさん!」
僕の言葉を受けカズイさんは主との間に走り込み、勇気を振り絞るように叫び声を上げた。
「ふ、フラッシュ!!」
その瞬間、目を閉じていても眩むほどの眩い閃光が辺りを包む。
ギィィィィィィィ!!
主はカズイさんのフラッシュをまともに食らい、絶叫を上げて暴れ始めた。
今なら簡単にコイツを倒せるんじゃ? 四肢と羽を切り落とせば、無力化できるはずだ。
回復能力を持っているとしても、瞬時に生やす事などできるはずも無い。
右手の片手剣を握る手にチカラを入れた所で、主は思いもしない行動に出た。
一言で言えば、暴走……魔力の消費など一切考慮せず、風を纏いながら辺りへ無秩序に風魔法を放ち始めたのである。
更に自身も縦横無尽に空を駆け、辺り構わず爪と嘴を振るい始めたのだ。
これは……周りの木も草も、同族であるグリフォンにすら攻撃している……何て厄介なんだ。
「カズイさん、コイツは放っておきましょう。作戦通り、グリフォンを倒した後で、改めて相手をした方が良さそうです」
「う、うん。分かったよ」
当初の作戦通り……であればグリフォンには騎士剣術は不向きだ。
僕はカズイさんへ向け口を開く。
「それと申し訳ありませんが、盾を預かってもらえますか? グリフォンには僕の戦い方は相性が良く無いので……」
「盾を? それは構わないけど……大丈夫なの?」
「はい。では行ってきます。カズイさんは距離を取って援護をお願いします」
「わ、分かったよ。でも無茶はしないでね」
小さく頷いて、先ずは兄さまの下へ向かったのである。
◇◇◇
グリフォンの群れに吶喊して数分が過ぎただろうか。
時折 打つ範囲ソナーの情報から、どうやらエルとカズイは主と戦いを始めたようだ。
作戦通りに進んでいる……そう安堵するも、目の前には無数のグリフォンが残っているわけで……
現に少しでも足を止めれば、途端に魔法が撃ち込まれ、爪や嘴を付き込まれる状態だ。
「エル、早く来てくれよっと……」
グリフォンとすれ違いざまに、バーニアを吹かせながら魔力武器(片手剣)を振り抜いて、首を落としてやった。
やはり雑魚に過ぎないとは言え、グリフォンの挙動はやり難い。
しかも鬱陶しい事に、コイツ等は一か所に固まらないのだ。どれだけ動いても、直ぐにオレを取り囲もうと包囲網を敷いてくる。
結果、1匹を倒しては包囲され、その中の1匹を狙って倒すと言う事を繰り返しているのだ。
2人でなら……そんな愚痴が出る程度にはグリフォンの動きは洗練されていた。
「流石は個でもBランク。群れだとA~Sって言われるだけはあるって事か……」
いっそ魔力の消費を気にせず、ウィンドバレットやリアクティブアーマー、雷撃を使って圧倒したい気持ちが湧いてくる。
しかし、グリフォン戦は所謂 前哨戦だ。
次に控える主との戦闘を考えれば、無駄な魔力など使えるはずも無い。
ジリジリと精神を削られていくような感覚の中、唐突に森の一部から眩い光が放たれた。
「やっとか……遅いんだよ、エル……」
直ぐに範囲ソナーが飛んできて、その後にはエルとカズイがやってくる。
「兄さま、遅くなりました」
「ごめん、アルド。僕がもっと早く隙を突ければ良かったんだけど……」
「2人共、無事で何よりだ。それより主も直ぐに回復するだろうし、コイツ等をサッサと片づけるぞ」
「分かりました」
「僕はサポートをするから……2人は思いっ切りやっちゃって」
「助かります、カズイさん。エル、行くぞ!」
「はい!」
少しの不安もあったが、無事エルと合流できた。後は主の視力が戻るまでが勝負だ。
こうしてオレとエルは、グリフォンへ何度目かの戦闘を再開したのである。




