471.ダカート村 part4
471.ダカート村 part4
ダカートの風の皆が出て行った後、カズイは言い難そうに言葉に吐いた。
「ごめんね……勝手な事を言って……」
カズイは見るからに小さくなって、先ほどの言葉の真意を口にする。
「アルドとエルファス君は希望だから……使徒の件は別にしても、今のこの村ではグリフォンの脅威に対抗出来るのは2人だけだし……万が一、アルド達でも無理なんて事になったら、村の人はパニックになっちゃうと思うんだ」
頭を鈍器で殴られたような衝撃が襲う。
そうだ……パーガス達も言っていたじゃないか……カナリスギルドの総力でも、グリフォンの群れに対抗出来るか分からないって……
ドラゴンスレイヤーであるオレとエルが匙を投げた瞬間、この村の運命は決まってしまう。
それだけにカズイは、オレの弱音とも取れる言葉を否定してみせたのだ。
「すみません、少し軽率でした……そうですよね。もっと言葉を選ぶべきでした」
「え? あ、いや、アルド達に責任があるわけじゃないし、そんなつもりじゃ……」
「いえ。どこまで出来るかは分かりませんが、精一杯やってみようと思います。先ずは作戦を立てましょう」
そこからは気分を一新し、3人で具体的な作戦を立てていった。
「兄さま、やっぱり弱点をつくためには夜を狙った方が良いと思うんです。ただ、コチラもそこまで夜目が利くわけじゃ無いので、どうしたものか……」
「ソレなんだけどな。チビさんの「守りの壁」はグリフォンの魔法を完全に防いでた。ぶっちゃけ牙や爪の直接攻撃以外は無視しても良いんじゃないか?」
「「守りの壁」を常時出しておくんですか……でもそれだと魔力が……」
「そこは割り切るべきだと思う。オレとお前で「守りの壁」を出しながら全力を出せば、相手がグリフォンだとしても、5分もあれば40匹程度 殲滅出来るはずだ」
「確かにグリフォンだけなら兄さまの言う通りだと思います……でも主はどうするんですか? 回復能力を持っている以上、次は当然 主もやってくるはずです……」
オレとエルの間に沈黙が訪れる。
確かにエルが言う通り、主が5分もの間、何もせずにジッと傍観しているなど有り得ない。
会話が途切れた所で、カズイが青い顔で口を開く。
「ぼ、僕が主の足を止めるよ……」
オレもエルも、一瞬 カズイの言葉の意味が理解出来なかった。
一人で主の相手をするだと? 何を言っている……それは自殺行為だ。
オレが口を開こうとした所で、カズイは更に話し始めた。
「誤解しないで欲しいんだけど……全部 僕が抑えるって話じゃなくて……最初はエルファス君に主の相手をしてほしいんだ。僕はその隙をついて主へ「フラッシュ」を叩き込もうと思う……どうかな?」
なるほど。確かにフラッシュを撃つには10秒のタメが必要になる。エルが主と戦いながら、フラッシュを撃つのは不可能だ。
しかしカズイの言う通り、役割を分担するのであれば……
「その間、アルド1人でグリフォンの相手を任せる事になっちゃうのが心配だけど……」
「「守りの壁」で魔法を無視できるなら、グリフォンを数分 足止めする程度、僕1人で問題ありません……それよりカズイさん、フラッシュを使うって事は相手に近づかないといけないんですよ? そうじゃないと効果が出ませんから……魔法使いのカズイさんが自分から主に近づくって……凄く危険な事ですよ?」
「だ、大丈夫。ぼ、僕もオクタールでは「使徒の従者」って呼ばれてるんだ。少しはアルド達の役に立たないと……やってみせるよ……ううん、やらせてくれないかな?」
これはどう判断すれば良い……言い淀むオレの代わりにエルが口を開く。
「僕は良いと思います。それにカズイさんがフラッシュを使って、主が決定的な隙を見せるようなら、そのまま足の1本でも切り落として無力化しても良いかもしれません」
確かにグリフォンと主を同時に相手しなくて良いのは非常に助かる。
オレとエルからすれば、グリフォン程度 鬱陶しいだけで脅威にはならないのだから。
「本当に良いんですか? 僕とエルからすれば、主とは言ってもバーニアを使えば何とかなる相手です。でもカズイさんには……」
「ゴクリ……だ、大丈夫。ぼ、僕だって男だ。何時までもアルド達に守られてるだけのつもりは無いよ」
カズイの目には腹を括った者だけが持つ、気迫が見てとれた。であれば……
「分かりました。カズイさんの作戦で行きましょう。エル、絶対にカズイさんまで、主を通さないでくれ。頼むぞ」
「任せてください。カズイさんは僕が守ります」
オレとエルの会話を、カズイは何とも言えない顔で聞いていたのだった。
◇◇◇
作戦の詳細を決めてから、オレ達は交代で仮眠を取る事にした。夜襲をかけるのに寝不足とか、アホの所業であるからだ。
オレとカズイは先ほど魔力の回復で眠ったので、今はエルだけが夢の世界へ旅立っている。
「要はライトの魔法なんだ……失敗なんてするわけ無い……」
こう零すのはカズイだ。
今回の作戦の肝が自分である事にプレッシャーを感じているのだろう。必死に弱いフラッシュを発動させ、自分を光らせている。
うーん……サイズは違うけど、何か蛍みたいだなぁ。これで尻だけ光ったら完璧だ。
そんなオレの視線に気が付いた、カズイが話しかけてきた。
「アルド、付け焼き刃で無茶だとは思うんだけど、フラッシュの効果的な修行ってあるのかな?」
「効果的な修行ですか……」
オレの歯切れが悪いのには訳がある。
効果的な修行法を確かにしっている……しかし、それはカズイ、お前も知っているはずだろう?
真剣な顔でオレを見る様子から、敢えてオレの口から聞きたいのかもしれない……
「ありますね……カズイさんも良く知ってる方法ですが……」
カズイは悲壮な顔を浮かべた後、意を決して口を開いた。
「やっぱりソレしか無いよね……アルド、悪いんだけど、僕の頭を剃ってくれないかな?」
「本気ですか? 半分、冗談のつもりだったんですが……」
「僕だってやりたくないけど……命のやり取りをするんだ、しょうがないよ。何よりアルド達の危険を減らせるなら、僕の髪の毛なんて安い物だよ……ハハ……」
チカラ無く笑うカズイだったが、目には決意の火が燃えている。そこまでの覚悟があるなら……
「分かりました……カズイさんの男気、しかと見届けさせてもらいます!」
こうして寝息を立てるエルの隣で、何故かカズイの断髪式が行われたのである。
◆◆◆
「ふぁー、おはようございます……」
微睡の中から目覚めて、兄さまとカズイさんへと声をかけた……つもりだったが……むむむ?
誰だろう、この人……酷く人相の悪い人が兄さまの隣に座っていた。
「おはよう、エル。良く眠れたか? 魔力はどうだ?」
「はい、これなら夜襲にも問題ありません。体力も魔力も完璧です」
兄さまに遅れる事、人相の悪い人が口を開く。
「おはよう、エルファス君。少し魔力が減っちゃったから、僕も少し横にならせてもらっても良いかな?」
え? 今の声……まさか……
極悪人の顔をマジマジと見つめると、驚いた事に確かにカズイさん本人であった。
「あ、頭……そ、それに眉も……」
「あー、これ? フラッシュの練習のため、アルドに剃ってもらったんだ。頭だけより眉も剃ると、凄くイメージがし易いよ?」
そんな爽やかに、「ご飯でも食べよう」的な感じで返されても……しかも最後が疑問形なのは何故ですか?
まさか僕にも同じ事をしろと?
この状況が理解出来なかった僕は、笑いを噛み殺している兄さまへ口を開く。
「に、兄さま、これは一体……」
そこからは兄さまが事の顛末を話してくれた。
「使徒の従者」として、しっかり責任を果たしたいと言う、カズイさんの気持ちは分かる。ブルーリングへ帰れば、ドライアドから貰った「発毛薬」もあるので直ぐに元通りになる事も……
でも寝起きで、いきなりこれは無いんじゃないでしょうか? てっきり寝ている間に兄さまが、その筋の人からお金でも借りたのかと思ってしまったじゃないですか。
僕の合点がいった顔を見て、兄さまは大口を開けて笑い、カズイさんは苦笑いを浮かべていたのであった。
◇◇◇
カズイの光る頭を見て、エルが驚愕の表情を晒してから数時間が経った。外は既に暗く、そろそろ主へ挑むに良い頃合いだ。
「今日は半月か。本当は満月が良かったけど、こればっかりはどうしようも無いか」
「星の光もありますし、これだけ明るければ何とか敵の姿も見えるはずです。どうしようも無ければライトの魔法を使いましょう」
「ああ、そうだな。カズイさんも大丈夫ですよね?」
「うん。主を嵌めた後は、僕もグリフォン退治に参加するよ。羽を狙って地上へ落とせば良いんだよね?」
「はい。一気に殲滅しようと思います。主との戦闘に出て来られると、正直 鬱陶しいですから」
「じゃあ、アルド達が主と戦闘を始めたら、羽は狙わずに倒すよう切り替えるよ」
「頼りにしてます」
オレ達の会話をダカートの風の面々が少し離れた場所で聞いていた。
人族語で内容は分からないなりにも、空気だけは感じ取ったパーガスが話しかけてくる。
『もう準備は良いのか?』
『はい。大丈夫です』
オレの言葉に小さく頷いたパーガスは、一転 真剣な顔で口を開いた。
『……今更なんだがな……本当にオレ達に出来る事は無いのか? お前達に頼り切ってる自覚はあるんだ。雑用でも良い。やれる事があるなら言ってくれ……』
これは判断が非常に難しい。グリフォンを数匹でも片付けてくれれば助かるのは事実である。
しかし、「守りの壁」も「空間蹴り」も使えないパーガス達では、正直言って足手纏いになってしまう。
要はオレやエル、カズイは、意識の一部を絶えずダカートの風に割く必要が出てくるのだ。
この負担は、グリフォンを数匹間引く程度では吊り合いが取れない。
パーガスの気持ちは嬉しいが、丁重に断ろうとした所でザザイが口を開いた。
『止めろ、パーガス。オレ達ではアルド君とエルファス君はおろか、空を飛べる魔法使い……カズイ君にすら及ばない』
『ザザイ……オレだって弾除けぐらいには成れるはずだ』
『無理だな。空を飛べないオレ達じゃあ、お前の言う弾除けにすら成れない。オレ達は足手纏いなんだ、理解しろ』
『足手纏い……』
うわー、ザザイのヤツ、言い難い事をド直球で言いやがった。
まぁ、パーガスは少しアレだから、これぐらい真っ直ぐに伝えないと理解できないかもしれないが……
『……分かった。無理を言って悪かった……悪いが、頼らせてもらう……何も出来ん先輩でスマンな……』
『頭を上げてください。僕達を心配してくれたんですよね? ちゃんと分かってますから。グリフォン程度、直ぐに倒して戻ってきますから。美味しい朝食を期待してます』
『グリフォンを程度か……分ったぜ、飛び切りの朝食を用意しておく。ウィズには絶対に作らせないから期待しててくれ』
『ちょっと! アホーガス! それどう言う意味よ!』
『お前の料理の腕はGランクの新人レベルってこった。本当の事だろうがよ。村に戻る途中でも酷ぇ味のスープを作っただろ』
『あ、あれは塩と砂糖を間違えただけじゃない! 大体アンタこそ………………』
オレ達は夫婦喧嘩を始めた2人をよそに、ザザイとソーイへ肩を竦めてから、月が照らす空へ駆け上がっていったのである。




