468.ダカート村 part1
468.ダカート村 part1
『本当か? ドラゴンスレイヤーが来てくれるなら、こんなに頼もしい事は無ぇ!』
『はい。因みに村まではどれくらいの距離なんですか? 後、方角も教えて下さい』
『村までは歩いて4日って所だ。方角は南。悪いが直ぐにでも発ちたい。頼めるか?』
『僕達は旅人です。急ぐなら今からでも大丈夫です。但し、森にグリフォンの脅威があるのなら、村の人のためにも食料や回復薬を余分に持っていった方が良いんじゃないですか?』
パーガスはゾゾイへ振り返り、子供が親にねだるかのように口を開いた。
『ゾゾイ、アルドの言う事は尤もだ。良いよな?』
『ああ、直ぐに物資を集める。ウィズは馬車を。ソーイは食料、オレは薬品を集める。パーガスは、ドラゴンスレイヤー殿の宿の手配と諸々の擦り合わせだ。森の中も多少は覚えてるだろう? 今日中に全て揃えるぞ。集め終わった者から宿で待機だ。良いな?』
全員が頷いて肯定の意思を示す。
4人は直ぐにパーティの予算を分け、散っていった。
この動きは一朝一夕に出来るものでは無い。
ベテランパーティの手際を、オレ達は関心しながら眺めていたのであった。
◇◇◇
パーガスに案内されたのは、中級冒険者が使いそうな1軒の宿屋であった。
『おーい、バアさん、コイツ等に部屋を1つ頼む』
『なんだいなんだい? まだ尻に殻が付いたヒヨッコじゃないか。こんな若造達にウチの宿代を払えるのかい?』
『おい、ヤメロ! コイツ等はオレ達なんか比べ物にならない手練だ。宿代はオレが持つ。バアさんは何も言わず部屋を用意してくれ』
『出世頭の「ダカートの風」が偉く低姿勢だね……分かったよ、部屋はウィズの隣だ。ただね、先に言っとくよ。騒いだら叩き出すからね。ほら鍵だ、持ってきな』
宿屋の婆さんの毒気に苦笑いを浮かべつつ、部屋へ入るとパーガスが口を開いた。
『すまねぇな。あのバアさん、荷物もキッチリ預かるし、飯も美味い。口が悪いのだけが欠点なんだ。気を悪くしないでやってくれ』
『大丈夫です。それより、ダカート村の事をもう少し詳しく教えて下さい』
『ああ。村は………………』
パーガスは村の規模から特産品、普段の生業まで事細かく教えてくれた。
『村人が1000人で、簡単な石の壁で覆われてるんですか』
『ああ、一応、酒場に商店、武器屋もある。まぁ、武器屋っつても実際は金物屋みたいなもんだがな』
『それなりの規模の村ですね。それなら予算もあるでしょう? 何でギルドに討伐依頼を出さないんですか?』
『ソーイもそう主張したからな、ギルドにも討伐依頼は出したんだ。ただ、おかしな事に数日前、Aランク全員へ待機命令が出された。どうも領主様が噛んでるらしくてな、オレ達にはどうしよもねぇ。全く……どっかの偉い様の護衛のためらしいが、迷惑な話だぜ』
おぅふ……これはもしかして、オレやルイスを護衛するためにカナリス伯爵が差配したんじゃ?
カズイに通訳してもらっているエルも、微妙な顔で苦笑いを浮かべている。
あー、これはある意味、あれだな、自分達の尻拭いだ。
元々、ダカートの風の話から、マナスポットが汚染された可能性が高いのは分かってる。
向かうのは決定事項ではあったが、少し気合を入れた方が良さそうだ。
これでタッチの差で村が壊滅してたとか……寝覚めが悪いなんてモンじゃない。
それからもパーガスから村の様子を聞きながら、皆が帰ってくるまでの時間を過ごしたのであった。
◇◇◇
次の日の朝。馬車へ荷物を積み込み、ダカート村へと進み始めた。
想定より荷物が多くなった事から、全員が徒歩での移動である。
『すまねぇな。助けてもらうのに歩きなんて……ウィズのヤツがもう1台用意してりゃあ良かったんだが……本当、気がきかねぇ』
『アホーガス、何か文句があるの!? これでも予算をやり繰りして、大きめの馬車にしてもらったのよ! だいたいアンタこそグチグチ言うだけで何にもしてないじゃない。本当、図体だけで何の役にも立たないんだから』
また始まったよ……この2人は暇があれば夫婦漫才を始める……お前等、もう付き合っちゃえよ。
そう思っていたのはオレだけじゃないらしく、エルが微笑ましい物を見るよう口を開く。
『お2人……仲が良い……お似合い……です』
悪意の無いエルが放った一言で、2人はお互いの顔を見て、真っ赤になって俯いてしまった。
お前等、中学生かよ……これだけ見ても両想いなのは誰でも分かると言うのに……パーガス、お前それでも男か? サッサと抱き寄せてブチューってやれよ。肝心な所で芋を引きやがって……父ちゃん、情けなくて涙がでてくらぁ。
謎の父親目線が出てしまったが、旅自体は順調そのものだ。
途中で何度かゴブリンやウィンドウルフが出たが、ダカートの風が積極的に狩っていた。
どうやらオレ達の消耗を少しでも抑えるために、露払い役を引き受けてくれているらしい。
相変わらず面倒見が良いと言うか……気の良い先輩パーティに守られて、オレ達は気楽に歩いて行ったのである。
◇◇◇
カナリスの街を出て3日目の夕方、目的地であるダカート村へ辿り着いた。
肩ほどしか無いものの石の城壁があるため、門へ迂回すると門番が声をかけてくる。
『お前等、止まれ! ん? お前、ザザイか? それにソーイも。そっちはウィズにパーガス。お前等、ザザイに迷惑かけてないだろうな?』
『うわ、ノールのオッサンかよ……大丈夫だよ、いつまでも子供扱いするなよな……』
『お久しぶりです、ノールさん。パーガスのアホと違って私はザザイの言う事をちゃんと聞いているわ』
『ノール、久しぶりだ。村長から手紙をもらって駆け付けた。村の様子はどうだ?』
ノールと呼ばれた門番は渋い顔で重い口を開いた。
『こっちは北側だからな。被害は少ない。ただ南側は……今は死人こそ出て無いものの、正直 時間の問題だろう……』
『そうか……直ぐに村長の下へ向かう。この荷物は食料と薬だ。必要な者へ分けてくれ』
『助かる。回復薬が底をついてたんだ。ありがたく使わせてもらう』
ゾゾイは門番に向かって深く頷くと、こちらに振り向いて口を開く。
『村長の下へ向かう。アルド君、悪いが君達も来てほしい。頼めるか?』
『はい、そのために来たんです。問題ありません』
『助かる。時間が惜しい。直ぐに向かおう』
門番はオレ達が持ってきた荷物を整理して配るため、ここへ残るようだ。
ダカートの風が先導する形で、オレ達は村長の家へと向かったのである。
『ここだ』
ザザイが立ち止まったのは、村の中心にある建物の前だった。
恐らく、村の運営も行っているのだろう。パッと見では、小さな役場のように見える。
『村長、いますか? ザザイです。助っ人を連れて戻りました。開けてください』
急いでいるため、ザザイはノックをしながらも声を張り上げている。
数分がし、息を切らせた壮年の男が中から勢い良く扉を開け放った。
『ざ、ザザイ……来てくれたのか……』
『はい、頼もしい、助っ人も連れてきました。もう大丈夫です』
『お、おぉ……そんな協力者まで……』
村長は辺りを見回して、ダカートの風以外にオレ達3人しかいないのに気が付くと、露骨に肩を落としてしまった。
村長からすれば、新米冒険者しか連れてこれなかったのに、村人が絶望しないようザザイが嘘を吐いたと思ったのだろう。
『取り敢えず入ってくれ……』
オレ達は、微妙な空気のまま村長宅に上がらせてもらった。
『取り急ぎ、今の状況を教えてください』
ザザイの言葉を受け、村長はポツリポツリとこれまでの経緯を話していく。
村長の話はこうだ。
南の森の異変に気が付いたのは3か月ほど前になると言う。
月に一度のお供えを持っていった際、いつもなら遠目に姿を見せる白鷹が、一切の気配すら現さなかったのだとか。
不審に思いながらも、その日はいつも通り村へ帰ったそうだが、それから数日後、森で何かが戦っている気配を感じたそうだ。
『戦いの気配? それはどんな?』
『詳しい事は分からない……しかし時折、何かの叫び声が聞こえたり、酷い時には空へ魔法が放たれる事すらあった……』
『魔法が? 白鷹様と何かが戦っていたと言う事ですか?』
村長はゆっくり首を振り、疲れた顔で口を開く。
『本当に何も分からないのだ。1つ分かる事は、途中 何度か間が空いたが、その騒動は2週間ほど続いた。やっと落ち着いたと安堵したのも束の間、それ以降 白鷹様を見た者はいない……』
『……』
『そして、それを境にグリフォンが現れるようになった……最初は稀に見かける程度だったが、徐々にその頻度が増えていき、今では森どころか村を襲うまでに……ザザイ、全てを退治してくれなど無茶は言わん。だが、ヤツ等が村へ入るのだけは防いでくれんか? 頼む……ワシ等にはお前達しか頼れる者がいないのだ……』
『……グリフォンは空を飛びます……しかも単独でもBランクの魔物……オレ達でどれだけの事が出来るのか……』
縋るような村長の目が、絶望の色に染まっていく。
そんな目を無視するように、ザザイはオレへ向き直って土下座せんとばかりに頭を下げた。
『アルド君、無理を承知で頼みたい。村を救ってはもらえないか……オレが払える物なら命ですら持っていってもらっても構わない……頼む、この通りだ』
ザザイの後ろにはパーガス、ウィズ、ソーイまでも同じように頭を下げている。
『頭を上げてください、皆さん。正直、今の時点で僕達にどれだけの事が出来るか分かりません。ただ全力を尽くす事を約束します』
『ありがとう、恩に着る……』
この光景を見ていた村長は訝し気な顔で口を開いた。
『ザザイ、この青年たちは?』
『飛び切りの助っ人です。恐らく、カナリス……いや、ティリシアで一番強いと思われる方ですよ』
『ティリシアで最強だと? こんな若者がか?』
『ええ。この方はドラゴンスレイヤー。魔物の王と呼ばれる竜種を屠った勇者です』
『ど、ドラゴンスレイヤーだと? この年で? そんなバカな……ザザイ、お前は騙されているんじゃないのか? 幾らなんでもこんな若者が竜種を倒すなんてあり得ない』
ザザイは、村長の言を否定するように、ゆっくりと首を振る。
『彼に初めて会ったのは2年前。あれから私もギルド経由で調べてみました。分かった事は、フォスタークに地竜と風竜を倒したパーティがあると。そしてその中には貴族に連なる者が数人いた……その中の1人の名がアルド=フォン=ブルーリング……今、目の前におられる、この方の名です』
うーん、オレの名はティリシアにまで知れ渡っているのか……まぁ、広めようとしてたのは事実で、勿論 不満は無いのだが、何と言うか……少しこっ恥ずかしい。
『アルド=ブルーリングです。今は貴族籍を抜いて平民ですのでフォンは持っていません。ザザイさんの言われる通り、私は仲間と共に竜種を2度倒した事があります』
ダカートの風の連中は何故か誇らしげにしながら村長を見ている……おい、パーガス、お前が褒められたわけじゃ無いんだぞ? 何でそんなに偉そうなんだ。
しかし、村長は信じ切れていないのだろう。眉間に皺を寄せて、困惑している。
『ザザイの言う事だ……真偽は別にして相応のチカラは持っておられるのだろう……分かりました。何卒、村をお救いください』
そう言って村長は額を地面に擦り付けるように頭を下げたのだった。




