467.出発 弐
467.出発 弐
誰がカナリスに残るのか、腹を割って話し合った結果、やはりルイス、ネロ、ラヴィ、メロウの4人がティリシアへ残る事が決まった。
オレは早速 朝から3人の魔道具改造に精を出している。
「本当にスマン……オレのせいで……」
「前にも言っただろ。ティリシアのマナスポット修復はアオが言い出した事なんだ。お前が責任を感じる必要なんか無いって。ほら、シャキッとしろよ」
ルイスはバツが悪そうに頭を下げているが、コイツに責任が無いのは明らかだ。
「でもアルジャナを目指すのはお前とエルファス、カズイさんだけになっちまう。個の強さは心配してないが、野営だってあるんだぞ。本当に3人で大丈夫なのか?」
「問題無い。そりゃ人数が多い方が野営の負担は減るけど、その代わり少人数は小回りが利く。どっちも一長一短だ。気にするな」
ルイスはオレとエルを見て、何かを考えてから小さく溜息を吐いた。
「お前とエルファスならオレが心配する必要も無いか……分かった、今回は甘えさせてもらう」
わざと軽いノリで手を上げ、ヒラヒラと振ってやった。
これでルイス達は男2人に女2人だ。恐らく交渉事が主体になる以上、4人いるのは色々と助かる事もあるだろう。
例えばダンスやパーティなんかへの出席である。
勿論、ネロ、ラヴィ、メロウの3人には、貴族のマナーやダンスを叩き込む必要はあるだろうが。
こうして思わぬ時間を食ってしまったが、出来る全ての準備を終えた次の日、オレ、エル、カズイの3人はカナリスの領主館を発ったのであった。
◇◇◇
領主館を出て最初に行ったのは、情報を得るため冒険者ギルドへ顔を出す事だった。
「さてと、意味は無いかも知れないけど、情報収集だけはしておこう。万が一、この近くで主が暴れてるなんて事があったら、ルイス達に危険が及ぶ」
「そうですね。出来ればこの辺りのマナスポットも解放しておくと、移動が楽になるはずです」
「なるほどね。それだったら精霊様へ聞いてみるってのはどうかな? 開放した後、手紙をルイス君へ送っておけば、万が一の事があっても安全に逃げられるんじゃない?」
「なるほど。ギルドで情報収集した後にでも、アオへこの辺りのマナスポットの場所を聞いてみましょう」
「分かりました」
「それが良いね」
うーん、この3人での行動はとてもスムーズだ。エルとは元々 阿吽の呼吸だし、カズイはそんなオレ達と凄く噛み合っている。
これは魔王を名乗る人や、何でも殴って解決しようとする人がいないからかもしれない。
こうして気楽な男3人でギルドの扉を叩いたのであった。
久しぶりのカナリス冒険者ギルドは、特に変わった様子も無く記憶のままである。
強いて言えば、この2年で受付嬢の顔ぶれが少し変わったであろうか。
「エル、お前はまだ上手く魔族語を話せないだろ? カズイさんと掲示板にどんな依頼があるか見てきてくれ。オレは受付嬢から直接 情報を聞いてくる」
「分かりました。カズイさん……申し訳ありませんが翻訳をお願いします」
「任せてよ。掲示板は向こうにあるよ。早速、見に行こう」
カズイは以前に来た事があるからか、先頭に立って掲示板へ向かっていく。
さてさて、向こうはカズイに任せて大丈夫そうだ。オレも自分の仕事をしないと。
1番 暇そうな受付嬢は……お、あの一番 若そうな受付嬢、忙しいオーラを出してる割りに書類がさっぱり進んで無い。
うん、ヤツが一番暇そうだ。早速、声をかけ最近の情報を聞いてみた。
『すみません。ちょっと良いですか?』
『え? わ、私ですか?』
『はい、そうです。カナリスへは久し振りに来たので最近の情報を教えてほしいんです』
『この人……何で私に……折角、コッソリ「マリーの略奪愛:宮廷昼ドラ編」の最新刊を呼んでたのに……ぼそぼそ』
『え? 何ですか? 良く聞こえませんでした』
『い、いえ、何でも無いです。か、カナリスの街の情報でしたよね?』
『はい、そうです。特にこの辺りの魔物の情報……異変でも起きて無いかを教えてください』
『うーん、そう言われましても……特段、目立った話は聞いて無いですけど……』
受付嬢と話していると、後ろが急に騒がしくなってくる。ん? 何だ? 喧嘩でもしてるのか?
振り返った先には、何故か数人の冒険者から詰問されているエルの姿が……
何かを言われているのだろうが、エルは魔族語が分からない。カズイがエルの前に立って、必死に冒険者を宥めていた。
誰だ、アイツ等……頭の中のスイッチを「戦闘」に切り替えて、向かおうとした所で受付嬢が口を開く。
『あ、思い出しました! そう言えば、あの騒いでる人達、「ダカートの風」の皆さんが話してました。故郷の村の近くにグリフォンが群れを作ったって。グリフォンは単独でもBランクの魔物なので、誰も討伐の依頼を受けてもらえないみたいです……』
『なるほど。情報ありがとうございます』
受付嬢に礼を言い、ゆっくりと歩いていく。近づいていくと、懐かしい声が聞こえてくる。
『頼む、アルド! お前にしか出来ないんだ』
『ちょっと待ってください、パーガスさん! この人はアルドじゃないんです』
『カズイ君、何を言ってるのよ。どこから見てもアルド君じゃない。お願い、パーガスの言う事は本当なの。アルド君、助けて』
「あ、あの……多分、兄と間違えてるんだと思いますが、僕は弟のエルファスです……」
『何をいってる? 魔族語で話せ! 何で知らないフリをする! どうしても無理ならそう言えば良いだろうが!』
『だから! この人はアルドじゃないんですって……もぅ……』
あー、だいぶ拗れてるな……わざと気配を殺して、パーガスの後ろから肩を軽く叩いてやった。
『あ? 誰だ! 今は忙しいんだよ!』
文句と共に振り返ったパーガスは、オレの顔を見てアホの子の顔で固まっている。
『お久しぶりですね、パーガスさん。お元気でしたか?』
『あ、アルドが2人? ど、どうなってやがる……』
もう少し遊びたい所だが、オレ達はギルド中の注目の的だ。あまり目立ちたく無いので、ここらでお開きにしようと思う。
『あ、そっちは双子の弟でエルファスです。因みに僕と同じドラゴンスレイヤーなので怒らすと怖いですよ?』
『は? ふ、双子? しかも、ドラゴンスレイヤーが2人だと……』
この混沌とした場で、全ての状況が分かる者はオレしかいないわけで……エルとカズイ、パーガスとウィズ、ザザイとソーイを連れて併設されている酒場へと移動したのであった。
先ずは魔族語が分からず、困惑しているエルへ状況を説明しなくては。
「エル、この人達は「ダカートの風」ってBランクパーティだ。アルジャナからの旅で世話になった」
「あ、だから僕が知らない顔をして怒ったんですね」
「あー、そこは後で説明させてくれ。先ずは紹介するぞ。こっちはパーガス。ジョーと同じ枠だから適当に扱って良い。次にウィズさん。何と詠唱魔法使いだ。このパーティの攻撃の要になってる。で、こっちがザザイさん。パーガスと同じ前衛で騎士剣術を使う。最後にソーイさん。この人は斥候だ。以前 一緒に迷宮へ入ったが、足の運び方や罠の解除、オレ達に無い物を持っている人だ」
エルはオレの説明に納得した後、パーガス達に向き直って挨拶を始めた。
『エルファス=フォン=ブルーリング……です。兄さまの……アルドの弟です。よろしく……お願いします』
『さっきはスマン。アルドだと勘違いしちまった。オレはパーガスだ。よろしく頼む』
『ごめんなさい。てっきりアルド君が帰ってきたと思って……私はウィズよ。Bランクの魔法使い。よろしくね』
『全くお前等は……カズイ君が止めてただろ。ザザイだ。騎士剣術を使う。よろしく頼む』
『名前はソーイ、斥候だ」
これで取り敢えずの自己紹介はできた。後はパーガス達が何故あんなにも焦っていたのか……受付嬢の話ではグリフォンが出たとか何とか……
『皆さん、お久しぶりです。以前は色々とありがとうございました。また会えて嬉しいです」
「久しぶりだな、アルド。ドラゴンスレイヤーとの模擬戦は今でもオレの自慢だぜ」
「コイツ、本当にいつも酒場で自慢してるのよ? 最近じゃあ同じことばかり言うから「オウム野郎」って噂されてるわ」
「そ、そんな噂になってるのかよ! 誰だ、そんな事を言うヤツは!」
「ん? 私よ。いつもいつも同じことしか言わないから、酒場で皆に言いふらしておいたわ」
「は? ふざけるなよ? お前、バカなのか? パーティメンバーの悪口を言いふらすとか……」
「本当の事なんだから良いじゃない。ねぇ、アルド君」
コイツ等、漫才を始めやがったよ……聞いていたい気持ちもあるが、先にグリフォンの件を聞かないと。
「ハハハ……お2人共、相変わらずみたいで……受付嬢から聞いたんですが、何でもグリフォンが群れを作ったとか?」
4人は先ほどから一転、神妙な顔で話し始めた。
「アルド、すまないがチカラを貸してくれないか?」
「すみません。僕は受付嬢から「グリフォンが群れを作った」としか聞いて無いんです。受けるにしても断るにしても、先ずは何があったのかを聞かせてください」
「ああ、分かった。実は………………」
パーガスが語った事は恐らくオレ達にも関係する事であった。
4人は年齢はバラバラではあるものの、全員がダカート村 出身と言う事で組んだパーティである。
親兄妹から親戚まで、全てが顔見知りと言う事で信用できると、ザザイが声をかけたのが始まりだそうだ。
そんなダカートの風だが、最近 故郷のダカート村から1通の手紙が届いたのだとか。
差出人は村長。内容は驚く事に、村の南にある森にグリフォンが群れを作ったと言う報告と、何とか討伐してもらえないか? と言う要請だった。
直ぐにリーダーであるザザイは全員へこの事実を伝え、パーティとしてどうするかを相談したのが4日前だそうだ。
パーガスは直ぐにダカート村へ行くべきと主張。ウィズとザザイは自分達では返り討ちに会う……しかし何とかはしたい。手伝ってくれる者を募るべきだと主張。そしてソーイは意外な事に、全財産を注ぎ込んでも冒険者ギルドへ依頼を申し込むべきと主張した。
4者 意見はバラバラではあるものの、全員が生まれ故郷を救うべきと発言したのだ。
これが同郷でパーティを組んだ者の強さなのか……ギルドと交渉をしつつ、協力者を募っていた所にオレを見つけたと言うのが、今回の全体像だと言う。
『話は分かりました。それで森と言うのは……先ほどの話の中で、守り神がいるとか言ってませんでしたか?』
『ああ。オレも見た事は無いんだが、バアちゃんから「白鷹様」って森の守り神がいるって聞いて事がある』
『私も聞いた。森には猟師と白鷹様にお供えをする村長しか入っちゃダメだって。パーガスのアホは子供の頃、白鷹様に会うって言い出して、森で迷子になったのよね』
『おま、いつの話だよ! ガキの頃の話じゃねぇか!』
『オレもお前の捜索に駆り出されたぞ。全く……お前は昔から悪ガキだったからな。お陰で親父は1ヶ月、猟に出られなくて困り果ててた』
『あ、そっか。ゾゾイのお父さんは猟師だったわね……』
『ああ……今はグリフォンが現れて……森にも入れずどうしているのか……」
なるほど、それぞれに村を救う理由があるのか。
しかし守り神か……話を聞くに鷹が動物の主だったのだろう。
そこへグリフォン……飛べる魔物が現れて、マナスポットを奪ったとみるのが正しいか。
カズイから通訳してもらっているエルを見ると、真剣な顔で頷いている。恐らくオレと同じ答えに辿り着いたのだろう。
であればオレが吐く言葉は決まっている。
『分かりました。ダカート村へ同行します』
ダカートの風の面々は、零れるような笑みを浮かたのであった。




