461.ケジメ
461.ケジメ
王から正式な沙汰が下った後、オレは爺さんと一緒に王城の客間へと通された。
「取り敢えずは何とかなったのは良いが……ワシやダンヒル……バーグ宰相、カムル殿下にシレア達は兎も角、次期リュート伯爵とフリードが何故 お前の減刑を願い出たのか……何か思い当たる節はあるか?」
「すみません、僕にも何が何だか……1つだけ心当たりがあるとすれば、ライラがフリードと顔見知りだったと聞いています。リュート家に連なる者とも懇意にしていたと……」
「そうか……ライラが……しかし、貴族家の次期当主が平民の罪の減刑を願い出るなど、余程の事が無いと出来るものでは無い。要は貴族家として王家へ借りが出来てしまうのだからな」
「そうですよね……僕も詳しい話を聞こうとしたのですが、何故かアシェラに止められてしまって……しかも母様の命令だと言っていましたので、それ以上は聞けませんでした」
「ラフィーナか……ハァ……であれば無理に聞き出すのは、どんな蛇が出てくるか分からんな。この件はワシが預かる。ブルーリングへ帰り次第、ワシが直接ラフィーナから話を聞く事にする」
「分かりました。僕も2週間後には一度ブルーリングへ飛びますので、何か分かれば教えて頂けると助かります」
爺さんとオレは、「魔王」を名乗る特級のバカ……ゲホンゲホン……頼りになる母を思い浮かべて、苦笑いを浮かべるのであった。
◇◇◇
爺さんとの話も落ち着いた頃、部屋に来訪を知らせるノックが響き渡る。
「申し訳ありません。カムル殿下が、少しお話をしたいと申されています。ご都合はいかがでしょうか?」
カムル殿下が? このタイミングで? 嫌な予感しかしねぇ……爺さんを見ると、オレと同じように苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
しかし、オレの減刑を願い出てくれた王子の誘いを断る事など出来るはずも無く……結果、了承する旨をメイドへ返したのであった。
一人メイドに案内されたのは、以前にも来た事がある王子の執務室である。
沢山の騎士が王子を守るように立つ中、一人の騎士が目に入ってきた。
フリード……今回の元凶とも言える人物。
一瞬、身構えそうになったが、ヤツに以前のような覇気は無く、まるで借りて来た猫のようだ。
むぅ……シオシオだな、お前……しっかり漬けた浅漬けみたいだぞ。
フリードへツッコミたい衝動を抑え、王子の前で跪いた。
「アルド=ブルーリング、お呼びにより参上いたしました」
「急に呼び出してすまなかった。先ずは顔を上げてくれ」
ゆっくり顔を上げると、王子の隣には中年の紳士が従うように立っている。
誰だ……見た感じは何処かの貴族のようだが……
「卿に来てもらったのは、どうしても会って話をしたいとコイツがうるさくてな……」
王子へ無理を通せる人物だと? オレの中の警戒度が一段上がる。
「アルド君だったね? 噂は聞いているよ……しっかりとね……私はラーハルト=フォン=リュート。君は知らないだろうが、全ての発端となった病を患った者と言えば分り易いか……私の与り知らぬ事とは言え、色々と迷惑をかけてしまったようだ。改めて謝罪させてほしい。すまなかった」
リュート……なるほど、この人が石化病を患ったのか。しかし、万能薬を渡していないのに、何故この人は普通に歩いているのだろうか。
もしかして石化病は治っていないのに無理をしている? 少し線は細いが、傍目には元気そうに見えるのだが……
「アルド=ブルーリングと申します。以前、殿下と近衛隊長が話されていた際、少しだけ聞こえてしまいました……確か「石化病」を患われたとか?」
「ああ、そうだ。今は完治して、この通り自由に歩く事も出来る」
ラーハルトはその場から少しだけ歩いてみせ、嬉しそうに笑っている。
「まぁ、尤も病み上がりで、今は立っているのが精一杯ではあるのだがね」
「そうなのですか。ご快復おめでとうございます」
「ありがとう……実は石化病が治ったのは全て我が妹の尽力によるものなのだ……」
「妹殿ですか? 私は詳しくは知りませんが、お話を聞く限り石化病と言うのは難病のように聞こえます。それを治してしまうとは、優秀な妹殿なのですね」
「……我が妹は既に鬼籍へ入っている……アルド君、君に少しだけ話を聞いてもらいたい。私が………………」
ラーハルトが唐突に話し始めた内容は、正直 判断に迷う内容であった。
何でも石化病で死にかけていたラーハルトの枕元に、亡くなった妹が立っていたのだとか。そして少しの言葉を吐いた後、薬を置いて直ぐに消えてしまったと言う。
「妹殿は何を言われたのですか? そもそも何故私にそんな話を?」
ラーハルトはオレを優しい目で見つめて、何か言いたそうな素振りをしてから小さく首を振った。
「これ以上は止めておこう。ただ君には聞いてほしかったんだ。私は妹に命を救われたのだと……そして妹の望みこそ……」
「ラーハルト様、これ以上は……」
「……そうだな、フリード」
カムル王子はオレ達の話を興味深そうに聞いている。
ラーハルトとフリードが、何故オレの減刑を願い出たのか……今の話に関係がありそうだが、2人はこれ以上、語るつもりは無さそうだ。
少しざわついていた場の空気が落ち着いた頃、ラーハルトは言い難そうに口を開いた。
「アルド君、実はフリードから君へ1つ頼みがあるそうだ。聞いてやってはもらえないだろうか?」
フリードがオレに頼み? ヤツを見ると、コチラへ申し訳なさそうな目を向けてくるだけだ。
この2人はオレの減刑を願い出てくれたと聞いている……しかし、元をただせば、その罪もフリードが原因なわけで……でも今のコイツの態度は……
あー! もぅ、先ずは話を聞いてそれからだ。
「お受けするとは限りませんが、お話だけは聞かせて頂きます」
「すまない。ではフリード、話せ」
「ハッ……アルド殿、以前の邂逅では色々と失礼をしました。それについては正式に謝罪します。申し訳ありませんでした……」
いきなり何だ……コイツは本気で以前の事を謝罪したい? バカな、今更 何故……
ラーハルトの病が治って、今が素のコイツとでも言うのか……分からない。例えそうであっても全てを許す事など……でも減刑を願い出て……
いきなりの事で軽くパニックになるオレへ、更にフリードは爆弾を投げつけてくる。
「申し訳ないが、私と模擬戦をしてもらいたい。受けてはもらえないだろうか?」
は? 模擬戦だと? コイツが? 何のために?
全てが納得できるわけでは無いが、そこそこの形に収まった今、何故コイツと模擬戦をしなくてはいけないんだ……意味が分からない。
「お断りします。私には、アナタと模擬戦をする意味がありませんので」
フリードも断られると思っていたのだろう。驚いた様子は無いが、鬼気迫る顔で尚も食い下がってくる。
「そこを何とかお願いしたい! 勿論、私がケガを負ったとしても責任を追及したりはしない……さ、最悪、死んだとしてもだ。頼む!」
何故フリードはこんなに必死なんだ……模擬戦をしてもオレに勝てるはずなど無いのに……コイツの意図が分からない。
「アルド君、私からもお願いしたい。これはフリードのケジメなのだ。男の意地と思って受けてやってはもらえないだろうか?」
ラーハルトまで……どう判断すれば良いんだ……何も返事を返せないオレへ、今度はカムル王子が口を開いた。
「卿よ。今回の件、フリードの行動は目に余るものがあった。動機はラーハルトの身を案じ、善意で行ったとしてもだ。そもそも卿を……ドラゴンスレイヤーを意のままに操ろうなど、身のほど知らずにも程がある。私としても一番の被害者である卿と、発端のフリードが1戦交えるのが良いと思うのだが……どうだ? 尤も今回やり過ぎたとは言え、フリードは腹心であるからな……殺さないでもらえると助かるのだが……」
王子の言い方では殺さなければ……いや、最悪は殺してしまってもしょうがないと言ってるように聞こえる。
この場の3人は、オレの減刑を願い出てくれた恩人でもあるわけで……オレは心の中で溜息を吐いて、口を開いたのであった。
「分かりました……しかし、私も人の子です……間違って殺してしまうかもしれません。その覚悟だけはしておいください……」
フリードへ本気の殺気を叩きつけるが、青い顔をしながらもしっかりと頷いている。
「では演習場へ移動しようではないか。フリード、ドラゴンスレイヤーに勝てとは言わん。ただ相応の戦いは 見せてみろ。良いな?」
「ハッ! 不肖フリード、精一杯ドラゴンスレイヤーとの模擬戦を努めさせて頂きます!」
フリードは何故 自ら追い込まれるような真似を……こんな事、今この場で言う必要なんて無いのに……コイツ、一体 何を考えている。
特大の疑念を胸に秘め、演習場を目指したのであった。
◇◇◇
オレは今、木剣の短剣を二刀持ち、地面を舐めるフリードを見下ろしている。
「もう止めたらどうですか? 実力の違いは明らかでしょう……」
先ほどからフリードに悶絶級の攻撃を当てているのだが、コイツは泥だらけになりながらも必ず立ち上がってくるのだ。
実力差は圧倒的で、勝てるどころかオレに一撃すら入れる事は不可能だろう。
しかし、コイツはいつまで経っても負けを認めないのだ。
その姿は、絶対に勝てない相手に何度でも立ち向かう、勇者のようですらあった。
「ま、まだまだ……わ、私はまだ立っている……遠慮はいらない。かかってこい!」
「……」
フリードへ割り切れない思いがあったのは事実だ。
本音を言えば、意趣返しが出来てざまあ見ろと思う気持ちもある。
しかし、こんな事……これじゃあ私刑じゃないか……目の前なフリードは、左腕が折れているのだろう。
盾などとうに持っておらず、左腕をダラリと下げて右手の片手剣だけを向けている。
ラーハルトやカムル王子も顔を顰めるだけで止める気配は無い。
と言う事は、これがフリードに課せられた罰なのか? 生殺与奪すらオレの好きにしろと言う事なのか?
心の中で小さなため息を吐いて、目の前のフリードを睨みつける。
その瞬間、オレから特大の殺気が吹き上がったのが分かったのか、フリードは震えながら目を見開いていた。
周りの者も、これから起こる凄惨な場面を予見して身を固くする中、オレが吐いた言葉は……
「僕の負けです……」
フリードはおろか、周りも呆けた顔で立ち尽くしている。
「アナタは死んでも降参しないのでしょう……であれば僕がアナタに勝つ方法がありません。この勝負、僕の負けです」
大事な事なので2回……ゲホンゲホン。
だって、見学している全員がフリーズしてアホの子の顔になってるし……これ以上はお腹いっぱいと言うか……ねぇ?
誰も口を開かない静寂の中、フリードがオレへ話しかけてくる。
「わ、私は……」
「アナタの覚悟は分かりました……以前の事を本気で悔いているのも理解できます……でも、このやり方は卑怯じゃないですか? 以前は有無を言わせぬ態度で一方的に嵌めておいて、今度は生殺与奪まで私に背負わせてくる……殺すか許すか2つに1つ……これでは脅しと変わらない……」
「そ、そんなつもりは……」
「無いと言うのですか? アナタが以前の事を本当に償いたいと思うのなら、こんな模擬戦じゃなく迷惑をかけた人へ誠心誠意 謝る事から始めるべきです。私だけじゃなく、今回の件で職を辞する事になったお祖父様を始め、私が脱走した事で叱責を受けたはずの騎士達。それにカムル殿下にも。今のアナタは、死んで責任から逃げようとしてるようにしか見えません」
「……」
「今は……簡単に許すとは言えませんが、許せるように努力してみます……今はそれしか言えません」
「君の寛容さに感謝を……ありがとう」
こうして、フリードと和解? をして、オレは1年間の期限付きでフォスターク王国を追放されたのであった。




