459.団らん
459.団らん
国外追放を言い渡される前日。オレは最後の団らんを楽しむべく、アシェラ達と一緒に領主館で過ごしていた。
「あー、行きたくないでちゅ。シャロンちゃんもパパといたいでちゅよね?」
「あー、あー。きゃっきゃ」
「いたた……それは引っ張たらダメでちゅよー。パパ、ハゲちゃいまちゅからねー」
客間の1室でシャロンと遊んでいると、アシェラの呆れた声が聞こえてくる。
「アルド、そろそろシャロンはお昼寝の時間。遊ぶのは止める」
「えー、もう少し良いだろ? 次に遊べるのは1年後かもしれないんだぞ?」
「ダメ。それよりやる事がある……」
「お、おう……約束だしな……」
実はアシェラ、オリビア、ライラと話した際に決まったのだが、1年もブルーリングを離れる事から全員と別れを惜しむ事になっているのだ……うん、まぁ、あれだ、ぶっちゃけ、子作りです。
特にオリビアとライラは、「私も子供が欲しい」と謎のプレッシャーを放っていたりする。
「じゃあオリビアの部屋へ行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
こうしてオレは朝っぱらから嫁3人の下を巡るため、領主館の客間を順番に回っていくのだった。
◇◇◇
3人の部屋を順番に周り、1巡した後の事。
「あー、太陽が眩しい……流石に少し疲れた……あ、昼食べてないや……」
1人、フラフラと食堂へ歩いていると、何やら中庭にクララの姿が見えた。あー、そうだった。クララにも謝らないと……
「クララ、少し良いか?」
クララはオレを見て、露骨に頬っぺたを膨らませながらご機嫌斜めの様子だ。
こりゃ、だいぶ時間がかかりそうだな……小さく肩を竦めながら隣へと腰かけた。
「もしかして卒業式へ出られない件、エルから聞いたのか?」
「もぅ、知りません! エル兄様もアル兄様も嫌いです」
「本当に悪いと思ってるんだよ……スマン、クララ。この通りだ」
謝ってもそう簡単には許してもらえないらしい。正論で言い聞かせても良いのだが、オレはクララに嫌われたくは無い。
結果、ひたすら下でに出て、ご機嫌を取っていく。
「1年後になるかもだけど、何かお土産を買ってくるから。な? アルジャナのお土産だぞ? こっちじゃ誰も持って無い。向こうの服なんかどうだ?」
お、今 耳がピクっと反応した……ここはもう1押しだ。
「それに土産話も沢山聞かせる。だから、な? 機嫌を直してくれよ。このまま別れたら兄ちゃん、悲しくて主に負けちゃうかもしれないだろ?」
「主」と言う言葉に、クララは過剰に反応した。
今まで膨らんでいた頬など微塵も無く、驚いた顔でオレを見つめてくる。
「アル兄様……絶対に帰ってくるって約束してください……じゃないと私は許しません!」
「分かったよ。オレもエルも無事に帰ってくる。約束だ」
「じゃあ、許してあげます。それと私は、ファリス姉様が着ていたような白くて大人っぽい服が良いです」
「ファリステアが着てたような服かぁ。向こうはこっちよりだいぶ暑いからな。薄手の物が多かった気がするけど……分かった。探してくる」
「ありがとうございます、アル兄様」
現金な物で、クララは満面の笑みで答えたのであった。
◇◇◇
少し遅い昼食を食べながら、またまた やり残しが無いかを考えている。
クララには謝ったし、アシェラ達にもアルジャナ行きを了承してもらった。ジョー達の件もローランドが何とかしてくれる。
アルジャナへの旅も最低限だが準備は終わったし……何も無いはずなのに、何故か引っかかるのだ。
「何か忘れてる気がするんだよな……何だっけかなぁ……」
そんなオレに声をかけてくる者があった……氷結さんである。
あ! そう言えば、この人の存在を忘れてた! 絶対に付いてくるって言うに、決まってるじゃないか!
「アル、準備は終わったの? アシェラ達と別れを惜しむのも良いけど、気を抜き過ぎると痛い目にあうわよ。因みに私は何時でも出られるわ」
「じゅ、準備は終わってます……少し聞きたいのですが、母様も付いて来るんですか?」
「何よ、嫌なの? アンタ達だけじゃ心配だから付いていって上げるんじゃない。感謝しなさいよね」
うわー、やっぱり付いて来る気なんだ。勿論、氷結さん専用魔法もある事だし、母さんなら戦力として申し分ないのは分かってる。
でもなぁ、今回は海越えに山越えがあるわけで……馬車での移動なんて出来るはずも無い。
氷結さんが素直に歩いてくれるんだろうか? 途中でギャーギャー文句を言う未来しか見えないんですが……
「か、母様? 今回の旅で馬車は使えませんよ? アルジャナまでほぼ1年も歩き続ける事になるはずです。本当に付いて来るんですか?」
「うっ……い、一年ぐらい歩いてみせるわよ。ら、楽勝じゃない!」
「それに食事も格段に貧相な物になるはずです? 更にトイレや風呂も……本当に、ほんとーーに良いんですね?」
オレの念押しに、氷結さんは露骨に視線を逸らしやがった。おぃぃぃ、その程度の覚悟で付いて来るって言ってたのかよ!
アンタ、Aランク冒険者でしょうが!
「あ、そうだわ! そう言えばクララの卒業式があったのよ! アルもエルも来れなくて、更に私もなんて……そんな可哀そうな事、私には出来ない! アル、ほんとーーーーに悪いんだけど、私は海越えと山越えが終わってから合流する事にするわ。本当は一緒に行きたいんだけど……アナタ達ばかりに苦労をかけてごめんなさいね……ヨヨヨ」
コイツは悩み抜いて出した苦渋の決断かのように、ハンカチで目頭を押さえている。おま、絶対に楽したいだけだろ!
しかしクララの卒業式へ出席するのが、父さんと爺さんだけではあまりにも可哀そうなのも事実であり……
結果、オレは喉まで出かかった言葉をグッと飲み込む事にした。
「分かりました。今回はエルも一緒に行くので手紙は書けませんが、マナスポットを解放する度に帰ってくるようにします」
「そうだったわね……今回は手紙でのやり取りが出来ないんだったわ……」
「大丈夫ですよ。先ずはマナスポットのネットワークを作るだけですから。エルもいますし、逃げるだけなら何とでもなります」
「アル、無理はしないといけない時だけで十分よ。安全を第一に考えて行動しなさい。良いわね?」
「はい、肝に銘じます」
こうしてオレは、何故か偉そうな氷結さんにありがたいお言葉を賜りつつ、全ての準備を終えたのであった。
◇◇◇
明日の朝には王城へ出頭する事から、夜の内に王都へ戻る事にした。
本当は明日の朝でも良いのだが、朝っぱらからバタバタしたく無い事から、皆で決めた事である。
「アシェラ、ライラ、明日はオレとお祖父様だけで向かう事になる。2週間ぐらいで一度ブルーリングに戻るから。後は頼むな」
「……ボクはアルドが心配。王国は国境までの移送で何かしてこない?」
「流石にそれは無いだろう。万が一、そんな事をすれば、次は間違い無く戦争だ。王国もそこまでバカじゃ無い。そもそもオレが騎士程度に負けるわけ無いだろ?」
「でも寝てる間に何かをされたり、薬を使われたら?」
「それは……お前の言う事は分かるけど、それこそどうしようも無いだろう。一応、オレは罰を受けて国外に追放されるんだ。王国もメンツがある以上、執行するまでオレを必死になって守るはずだよ。罰を受けさせる事も出来ませんでしたじゃあ、それこそ国の威信が揺らぐからな」
「アルドの言う事も分かるけど……やっぱり心配……」
こうは言ってみたものの、アシェラの言う事は尤もだ。
王がオレの扱いを面倒だと思えば、秘密裏に始末しようとしても不思議では無いのだから。
しかし護衛を付けるなどと言えば、お前等を信用していないぞと言ってるのと代わらないわけで……
なるべく気を付ける事しか出来る事は無いのであった。
◇◇◇
いよいよ王城へ出頭する日の朝。オレはドラゴンアーマーにリュックを背負い、完全武装の出で立ちである。
因みに以前のリュックは王子と面会の際、騎士へ預けたままになっているので、急遽新しい物を用意した。
今のリュックは新品で傷一つなく、まるでピカピカの1年生のようである。
「まだ馴染んで無いから食い込むか?」
新品のリュックが鎧の隙間に引っかかった事から出た言葉だ。
「直ぐに馴染む。それより本当にボクも付いて行かなくて大丈夫?」
「怪しいと思ったら直ぐに逃げ出すよ。心配しないでくれ。でもありがとな、アシェラ」
「うん……」
いつもはアシェラと同じかそれ以上に心配してくるライラは、アシェラの後ろに立ち何かに耐えるように拳を握りしめているだけだ。
「ライラ、行ってくる。安心して待っててくれ」
「……うん。アルド君、絶対 無事に帰ってきてください……お願いします」
「大丈夫だよ。それとお祖父様も明日にはブルーリングへ発つそうだから、2人へ道中の護衛をお願いしたい。もう何もしてこないとは思うけど、念のためな。それに2人の移動の形跡も残さないと怪しまれる」
「分かった。お祖父様はボクが守る!」
「うん……でもアルド君も気を付けて……」
嫁2人と話していると、爺さんが声をかけてきた。
「アルド、夫婦の別れを邪魔するつもりは無いが、そろそろ時間だ」
「もうそんな時間ですか? アシェラ、ライラ、行ってくる」
「行ってらっしゃい、アルド……気を付けて……」
「アルド君……絶対に、絶対に帰ってきて……お願いします」
心配そうに見つめるアシェラとライラを置いて、オレは爺さんと一緒に王城へと向かったのであった。




