458.罰 part3
458.罰 part3
ヨシュア殿の下から、王都のブルーリング邸へと飛んできた。
「さてと、先ずはアルドに会わないとな。メイドはと……お、いた」
近くを歩いていたメイドへ声をかけ、アルドの居場所まで案内してもらう。しかし幾ら許可を得ているとは言え、他家のオレがこうも自由に歩き回って良いものなのか?
当のメイドは、毎度の事と特に気にした様子は無い……これで良いのかブルーリング。
そうしてメイドに案内されて向かった先は中庭である。
アシェラが恐ろしい動きで修行するのを、楽しそうに眺めているアルドの姿があった。
「アルド様、ルイスベル様がお見えになりました」
「ありがとう、下がってくれて良い。久しぶりだな、ルイス。元気にしてたか?」
「ああ、こっちは相変わらずだ。そっちはだいぶ派手にやってるみたいだな」
アルドはバツの悪い顔をしながら、今回の顛末を話してくれた。
「そうか……アシェラ達を乏しめられたのか。お前が怒る気持ちは良く分かる。ただもう少し穏便に出来なかったのか?」
「そこは反省してるよ。でもなぁ、アイツはアシェラ達を辱めて奴隷にして売るって言ったんだぞ? 次に同じ事があっても、オレは同じ事をすると思う」
「は? ちょっと待て。辱めて奴隷だと? 本当にそこまで言ったのか?」
「ああ。間違い無くアイツはそう言った。しかも実際に騎士をけしかけて捕らえさせようとまでしたんだ」
「……アルド、さっきの言葉は撤回するぜ。お前、良く我慢したな。そいつを殺さなかっただけ、お前は十分 理性的だ。しかし、ドラゴンスレイヤーにそこまで真正面から喧嘩を売るとは……そいつはバカなのか?」
アルドは肩を竦めるだけで、何も返してはこない。
「それと、カズイさんから聞いたんだが……お前の罰、1年間の国外追放だって本当か? それにアルジャナを目指すって……」
「ああ、本当だ。明後日には王城で国外追放を言い渡される予定だ。アルジャナの件は、どうせ1年間フォスタークを離れないといけないなら、良い機会だと思ってな」
「そうか……本当はオレも付いて行きたいんだが、ティリシアの件でカナリス伯爵に会いに行かないといけない……悪い」
「気にするな。お前はお前のやるべき事をやれば良い。アルジャナへはエルも付いて来てくれるし、心配するな」
「そうだな……」
会話が途切れどこかノンビリした空気が漂う中、オレは意を決して口を開いた。
「アルド、実はティリシアのマナスポットの件で頼みがある……お前が必死に使徒の務めを果たしているのは知っている……ただオレにはこれ以上どうする事も出来ないんだ……頼む、一緒にカナリス伯爵に会ってくれないか?」
「は? 急にどうした。話が見えないぞ。最初から話してくれ」
「ああ、そうだな。実は………………」
オレはカナリス伯爵とのやりとりを、最初から説明していく。
カナリス伯爵が連絡を寄越した事を喜んでいた件、迷宮からマナスポットを修復する魔法具が出たと嘘を吐いた件、そして「そんな魔法具は聞いた事が無い。疑っているわけでは無いが、実際に見せてもらえないだろうか?」と、やんわり拒絶された件を話していった。
「そうか……実際に嘘を吐いている以上、どうしようも無いか……」
「ああ。カナリス家は代々 皇家の1つ、ミュラー家と懇意にしているらしい。魔法具の話が本当なら、ミュラー家へ話を上げても良いと書いてあった」
「皇家……確か魔族は4つの皇家の中から皇帝を選ぶんだったよな?」
「オレも母さんから聞いただけで詳しい事は知らないんだが、4つの皇家で話し合って最後は多数決で皇帝を決めるそうだ。北のブリンガー家、南のギーレン家、東のミュラー家、西のシュミット家。それぞれが土地の代表のような立場らしい」
「なるほど。地域で情報や請願を集約、精査して中央へ陳情を上げるのか。情報の伝達速度を上げるためと、意思決定を速めるための知恵なんだろうな」
「な、何? 情報? 集約?」
「いや、何でも無い。困難の多い魔族は知恵を絞って必死に生きてるって事だよ」
「それも使徒の叡智か……今のって国の在り方の話なんじゃねぇのか? オレはお前にどれだけの知識があるのか怖くなる時があるぜ」
「そんな大した物じゃない。それよりカナリス卿の件だ。要は使徒の件を話さないと、これ以上の交渉は難しいって事だろ?」
「ああ……無理を言ってる自覚はあるんだ。でもお前に頼む以外に考え付かない……アルド、本当に申し訳無いが、頼めないだろうか?」
オレの心からの嘆願に、アルドは少し呆れながら口を開いた。
「父様やエルは了承してるんだろ? だったら何でオレが断ると思うんだよ。そもそもの話、悪いのはグリムでお前に責任は無いだろう。それにティリシアのマナスポット修復はアオが言い出した事だ。あんなのでも、一応 オレの精霊だからな。お前の頼みが無くても、ちゃんと仕事はする。だから、そんなに抱え込むな」
「悪い……全魔族に代わって礼を言う。ありがとな、アルド」
そこからは具体的な日程や詳細を詰めていったのである。
◇◇◇
ルイスからカナリス伯爵の話を聞き、オレも同行する事を決めた。
ああは言ったが、実際にはカナリス伯爵と直接 話をして、信用できると判断しない限り使徒の件は打ち明けるつもりは無い。
ルイスもそれは承知しているのだろう。話の端々で「最終判断はお前に任せる」と言っている。
「カナリス領へ行くのは決定として……マナスポットで飛ぶ以上、流石に騎士は連れて行けないな……オレ達が出て行った後、お前は1人で交渉するのか?」
「まぁ、そうなるだろうな。今回の話で魔族に損は無い。オレ1人でも大丈夫だろ。それとネロがお前の手伝いをするって言ってたぜ。どっかで合流してくるんじゃないか?」
「ネロが……だったらカズイさん達と合流するタイミングだと思う。オレは国外追放されたら、ドライアディーネとフォスタークの間にあるマナスポットを使って、一度 ブルーリングへ戻って来るつもりだからな」
「なるほど。じゃあオレもそのタイミングで合流させてもらうぜ。ボーグのオッサンにドラゴンアーマーも作ってもらったし、カナリスまでの護衛ぐらいはさせてくれ」
「もう十分手伝って貰ってるよ。それよりチビさんの皮を使ったドラゴンアーマー、完成したのか?」
「ああ、オレ達の分からって話だったからな。1週間くらい前にもらってきた。次はお前とエルファスの分を作るって言ってたぜ」
チビの皮を使ったドラゴンアーマー……あれがあればオレ達の防御は一段階上がるはずだ。出来ればアルジャナへ向かう旅に間に合わせたい。
「ルイス、1つ頼んでも良いか?」
「どうした?」
「オレとエルのドラゴンアーマー、アルジャナへの旅に間に合わせたい。何とか出来ないか、ボーグへ伝えてくれないか? オレはブルーリングを出歩くなんて出来ないからな」
「なるほど。確かにアルジャナへの旅に、あのドラゴンアーマーはあった方が良いな。明後日に国外追放の処分を受けるとして、王都を発つのは次の日か。そこから国境まで1週間……マナスポットまでの移動もあるし、合計で2週間って所だな。分かった。ボーグのオッサンに伝えておく。他の者の分は後回しにしてでも、何とか間に合わせてほしいってな」
「助かるよ、ルイス」
「こんな事ぐらいしか出来ねぇけどな。じゃあ、早速行ってくる。またな」
ルイスはそれだけ告げて、足早に行ってしまった。
さてさて1年も帰ってこれないのなら、やり残した事が幾つかある。その1つに思い至りオレは露骨に顔を顰めるしか出来なかった。
「ハァ……時間も無いし、しょうがないか。本当はアイツの世話にだけはなりたく無かったんだけどな」
そう呟いてオレが向かったのは「アオの間」である。アオから魔瘴石が数か月後には壊れると聞いているため、新しく領域を作り直すためにやってきたのだ。
早速、右手の指輪へ魔力を込めてアオを呼び出した。
「どうしたんだい、アルド」
「アオ、新しく領域を作ってほしい。細かい説明はしないけど、オレは1年間 この国を出て行かないといけなくなった。だから今の内に領域を作り直しておきたい。頼めるか?」
オレの話を聞いて、アオは露骨に訝しんでいる。
「何で人が使徒の行動を縛るんだよ。この地でオクタールみたいな事が起こったらどうするのさ」
「流石にそんな事が起こるようなら、帰ってくるよ」
「だったら出て行く必要なんて無いじゃないか。人はやっぱり理解に苦しむね」
うーん……本音と建前をどうやって説明すれば良いのか……暫く考えたものの、アオの納得しそうな言葉は浮かんでこない。
しょうがないので、ストレートに話してみた。
「お前に言っても分からないだろうけどな。人の世ってのは建前がいるんだよ」
アオは小さく首を振って、心底意味が分からないと態度が示している。
「建前って何だよ。要は嘘で誤魔化してるだけじゃないか。だから人は、いつまで経ってm………………」
「ストーーップ、アオ! その件はもう良いんだ。今は時間が無くてな。取り敢えずこれで新しい領域を作ってくれ」
「もう、アルドは……ハァ……分かったよ」
アオは不機嫌そうにしながらも、領域を作っていく。
少しの時間の後。空中には今まで通り儚く光る魔瘴石とは別に、生命力に満ちた光を放つ魔瘴石が浮いていた。
「魔瘴石が2つか……こうして見ると壮観だなぁ」
「そうだね。じゃあ。1つに纏めるよ」
アオの言葉と共に、2つの魔瘴石はお互いに近づいていき、溶け合うように1つになっていく。
「完成だ。これでまた数年は大丈夫だよ」
「そうか、ありがとな、アオ」
「それで、アルド。さっきの話の続きだけど、1年もこの国を出て行くんなら、その間どうするつもりなんだい?」
「エルや父さんにも相談したんだけどな。どうせ1年も帰って来られないなら、アルジャナを目指そうと思ってる」
「なるほど。確かに何処かのタイミングで、ドゥオ大陸にも渡らないといけないからね。丁度良いか」
「ああ。それに今回の旅はエルも付いて来てくれるからな。この機会に道中のマナスポットも解放するつもりだ」
「良いね。まだまだ沢山のマナスポットを解放しないといけないんだから、エルファスと一緒に頑張ってよ」
それだけ言うと、アオは嬉しそうに笑いながら消えていった。
ふぅ……これで1つ終わったか。他にやっておかないといけない事は……あー、そう言えばクララが学園を卒業するんだった……卒業式は1カ月後か……流石に出れないなぁ……絶対に出席するって約束してたのに。
明日はコッソリとブルーリングへ飛んで、アシェラ、オリビア、ライラ、シャロンとゆっくり過ごすつもりだったから、クララに謝らないとなぁ。
オレは気まぐれなお嬢様の機嫌を、どうやって取るか頭を悩ませるのであった。




