457.罰 part2
457.罰 part2
嫁3人からアルジャナ行きの許可を貰った後の事。
先ずはエルと父さんへ今回の顛末を報告しないと……収納経由で手紙は送ってあるが、実際に会って話した方が良い。
顔を仮面で隠して、真っ直ぐに執務室へと向かっていった。
「アルドです。少しお話をしたいのですが、よろしいですか?」
「……どうぞ」
今のはエルの声だ。少し驚いていたのは、こんなに早くブルーリングへ帰ってくるとは思わなかったのだろう。
「父様、いきなり伺ってすみません。つい先ほど、今回の件で僕には宰相から。お祖父様には王家から書状が届きました。その件で、直接話した方が良いと思い飛んできました」
「書状……見せてもらっても良いかな」
「はい、これです。どうぞ。エルにも読んでもらった方が良いと思います。因みに内容は、お祖父様と同じ物でした。王家としては平民である僕へ、直接 手紙を送れなかったからのようです」
「なるほど……じゃあ、読ませてもらうよ」
父さんが手紙を読んでいる間にエルへ声をかけた。
「エル、久しぶりだな。元気にしてたか?」
「はい。兄さまも元気そうで」
「それがそうでも無くてな……手紙を読んでもらえば分かるんだけど、オレへの罰は「国外追放」に決まった」
「え? こ、国外追放って……ちょっと待って下さい。便宜を図ってもらえるんじゃなかったんですか?」
「その便宜を図っての結果がこれなんだろうな。まぁ、国外追放って言っても1年の期間付きだ。オレは明後日の謁見から1年間、フォスタークの地を踏む事は許されなくなった」
「1年……」
「微妙だろ? オレもこれが重いのか軽いのか判断出来ない。だからこその落としどころなんだろうけどな」
「確かに……重いようで軽い……軽いようで重い気がします……」
エルと話していると、父さんが会話に入ってくる。
「アル、手紙は読ませてもらったよ。エルも読むと良い。しかし、こうなったか……」
父さんは手紙をエルに渡して、眉根を寄せて困った顔をしている。
「エルにも言ったんですが、酷く判断に迷う沙汰でした。正直、僕には判断出来ません」
「恐らくこれは宰相の手腕だろうね。流石は20年以上、この国の政を差配してきただけはある。どこに対しても、上手く言い逃れ出来るように考えられてるよ」
「そうですか。父様がそう言うのであれば、僕程度で判断出来ないのは当然ですね」
「そんな事は無いよ。しかし、実際に手紙を送って来たとなれば、この沙汰は正式に決定した事になる。1年の国外追放……アルはどうするつもりだい?」
「お祖父様とも話しましたが、僕は受け入れようと思います」
「じゃあ、実際に1年もの間、国外で過ごすと?」
「はい。これはお祖父様、アシェラ、オリビア、ライラへも話した事なんですが………………」
アシェラ達へ話したように、この1年を使ってアルジャナを目指そうと考えている事を話していった。
「………………アシェラ達にはそれぞれ仕事がありますから、アルジャナへの旅はカズイさん達へ同行を頼もうと思っています」
「なるほど。彼等は元々アルジャナの民だ。一度は通った道でもあるし、適任だね」
「はい。それと以前の旅は帰る事に必死でしたから、マナスポットも最低限の物しか解放していません。今回の旅は、道中での解放も積極的に進めていこうと思ってます」
「ちょっと待って……それは流石に危険じゃないかい? アシェラもライラもいないんだよ? 実際にはアル1人で戦う事になる。もしも万が一があったら、それは世界の危機に繋がる事を分かっているのかい?」
父さんの懸念は分かる。しかし、オレも勝てそうに無い戦いをするほどバカじゃない。
しっかりと偵察をして、勝てそうな戦いだけするつもりだと話そうとした所で、真剣な顔のエルが口を開いた。
「兄さま……僕も行きます」
エルのいきなりの言葉に反応したのは父さんだった。
「ちょ、ちょっと待ってほしい。エル、いきなり何だい? アルと一緒に行くって……そもそも父さんが引退して、エルにはブルーリングの街を任せるって話してあったじゃないか。それはどうするつもりなんだい?」
「元々、僕1人では政務なんて出来ません。殆どをローランドが行って、僕はその補佐をする予定でしたよね? であれば僕が1年いない程度、どうとでもなると思います。そんな事より今は兄さまです……アシェラ姉もライラもいない……そんな状態でアルジャナまで旅をするなんて……兄さまも言ってましたよね? 無事に帰ってこれたのは「運が良かった」からだって。もしかして今回は運が悪いかもしれない……その時、兄さまはどうなってしまうんですか? 僕はそれが何よりも怖い……」
エルの独白を聞いて、父さんもオレも何も言う事は出来なかった。
確かにアルジャナからの旅では、運が悪ければ何が起こってもおかしくはなかったからだ。
山越えの際、キキとククを見殺しにしていたら? ハクさんと本気の戦闘をしていたら? 途中で倒した主がもっと強かったら? カナリス伯爵と敵対していたら? そして何よりオクタールでオーガと戦っていたら?
色々な偶然と運、そして仲間に助けられてオレは帰って来る事が出来たのだ。
恐らく楽しいだけじゃない。過酷なモノになるだろう。
そんな旅にエルが一緒に来てくれるなら、こんなに頼もしい事は無い。
「お願いします、父さま。僕を兄さまと行かせてください。お願いします!」
父さんはエルを見て、何かに思い至ったかのように口を開いた。
「……分かったよ、エル。僕は少しアルに頼り過ぎていたみたいだ。アルならどんな困難でも簡単に乗り越えられるってね。エルの言葉で目が覚めたよ。そうだね、僕達は家族だ。困った時には支え合うのが当たり前だ。エル、後の事は任せてくれて良い。アルを守ってあげてほしい」
「ありがとうございます、父さま」
こうして思ってもみなかったが、エルがアルジャナへの旅へ同行してくれる事となったのである。
そこからはローランドも呼び、エルがいない1年間 執務を全て任せる事と、ジョー達が開拓村で牧畜を試す件のフォローをお願いしておいた。
「以前から進めていた件ですね。アルドぼっちゃまのご友人であれば信用できます。彼等にはマナスポットを使って移動して頂きましょう」
「ああ、頼む。後はミルドへ飛んでマッドブルの子供を捕まえてこないといけないけど……それはアシェラとライラに頼むか。あの2人ならミルドの魔物程度に負ける事は無いからな」
「分かりました。アシェラ様とライラ様へお願いするように手配致します」
「自宅へ帰ったらオレからも話しておくよ。いつもありがとう、ローランド」
「そんな勿体ない。私などに礼はいりません。それよりアルドぼっちゃまもエルファスぼっちゃまも、お体にはお気をつけて……ぼっちゃま方はこの世界の光……希望なのですから」
おい、ローランド、何だその目は……目の奥にオレの苦手な信仰と言う名の狂気が見える。
こうして、ほぼ全ての事を押し付けるようにローランドへ任せる事になってしまった。しかし本人は何故か鼻息荒くやる気になっていたのは特筆しておく。
◆◆◆
カズイ達へアルジャナへの旅の同行を頼んだ事により、当然のようにルイスベルとネロの耳にも入る事となった。
「それは本当なのか? カズイさん!」
「え? ぼ、僕はアルドから頼まれただけだから……多分、本当の事じゃないかな」
「マジか……アイツが国外追放だと……王国は何を考えてるんだ。クソッ」
「ルイス、落ち着くんだぞ。1年なんて直ぐなんだぞ」
「そんな事は分かってる。そうじゃなくて、アイツがどれだけ世界のために尽くしてるのか……分かっているのかって話だ! 出来る事なら王城へ乗り込んで、洗いざらいぶちまけたくなってくるぜ」
「そんな事したら、アルドが一番困るんだぞ……」
「ふぅ……悪い、今のは愚痴だ。分かってる、そんな顔をするな。しかし、アルジャナへの旅か……」
「ルイス、当然、オレ達も手伝うんだぞ」
ネロの言葉に、ルイスベルは眉根を下げて何も返す事は無い。
「どうしたんだぞ、ルイス。アルドを助けないのか?」
「……実はな、ティリシアのカナリス伯爵から手紙が届いたんだ。これ以上の交渉は実際に現地で会って話さないと難しい……そりゃそうだよな。「マナスポットを修復する指輪を手に入れた」って話してあるんだ。そんな物、聞いた事も無い。疑ってくるのは当り前の話だ」
「どうするんだぞ……」
「出来ればアルドとエルファスにカナリス領まで来てもらいたい。そこで真実を話してカナリス伯爵に魔族と言う種全体の危機を知ってほしい……じゃないと、皇家に話を上げて交渉なんて出来っこない」
ネロはルイスベルを見るだけで、口を開こうとはしない。
アルドとエルファスにとって、魔族の危機は本質的に関係が無い。そもそもの話、ティリシアのマナスポットを修復するだけでも破格の話なのだ。
大切な時間と魔瘴石を使って、更に使徒の件を話すなどと言うリスクを負ってくれるのか……ルイスベルは、苦い顔のまま一言だけ呟いたのであった。
「アルドとエルファスに話してくる……」
ルイスベルの足取りは非常に重かったのは当然の事なのだろう。
◆◆◆
ティリシアの件は2人にだけ了承を貰えば良いと言う話では無い。先ずはヨシュア殿へ話を通すため、オレは領主館の執務室へ向かう事にした。
「申し訳ありません。ルイスベル=サンドラです。いきなり伺った非礼をお詫びします。ですが、どうしても聞いて頂きたい事があるのです。お話だけでもさせて頂けないでしょうか?」
「どうぞ」
今のはエルファスの声だった。そうか、アイツもいたのか……少しの安心とバツの悪さを感じながら、執務室の扉を開けたのだった。
「先触れも無くいきなり伺うような非礼、誠に申し訳ありません。この件は改めてサンドラから正式に謝罪させて頂きます」
「分かったよ。それでそんなに急いでどうしたんだい?」
「はい。実は………………」
カナリス伯爵とサンドラの間で行われたやり取りを、なるべく客観的に説明していった。
「………………と言う事です。カナリス伯爵としては「マナスポットを修復する指輪」と言う物がどうしても信じられないようです。父とも話しましたが、事は魔族の王にも説明する必要がある以上、全てを秘密にして事を進めるのは難しいと判断しました」
「なるほど。確かに、そのカナリス伯爵の言う通りだろうね。実際にそんな指輪は無く、嘘を言っているのはコチラなんだ。証拠を示せと言ってくるのは当然だろう。それを踏まえてルイスベル君。君は何を話したいんだい?」
「はい…………私と共に、アルドかエルファスをカナリス領まで同行させては頂けませんか? そして「使徒」の件を話す許可を頂きたいのです……勝手を言っている自覚はあります。しかし、それ以外に方法が思いつかないのです」
「ダメだ。許可出来ない…………と言いたい所なんだけど、この件はアルやエルじゃなく精霊様 本人が言い出した事だ。だったら僕程度に決定権は無いよ……しかしアルの国外追放にティリシアの件……世界は待ってはくれないみたいだね……もう1人の使徒様であるエルはどう思うのかな? 率直な意見を聞かせてほしい」
「僕は……魔族を助けたいと思いますし、アオの願いも聞いてあげたい……でも僕はカナリス伯爵と言う人に会った事がありません。信用できる人なのかどうか……この場では判断付きかねます」
「それはそうだね。既にエルフ、獣人族には「使徒」の件を話してあるんだ。今更 魔族にだけ秘密にする意味は無い。後は、そのカナリス伯爵が信用できるかどうかかな」
「それならアルドもカナリス卿には会った事があります。全てが信じられるわけではありませんが、ちゃんと損得の計算が出来、引き際もわきまえている方だと思います」
「なるほど、損得の計算は大切だ。愚か者との交渉は疲れるだけだからね……と言う事で僕はこの件に対して言う事は無いよ。後はアルと精霊様に相談してほしい」
「過分な配慮、ありがとうございます……」
何とかヨシュア殿からの了解は得た。後はアルドと精霊様……一番の難関を超える事が出来、オレは心の中でホッと息を吐いたのであった。




