456.罰 part1
456.罰 part1
爺さんが王城へ行き、3日が過ぎた。
この3日間は、王から「落としどころを見つける」と言われてる以上、勝手に動きまわる事など出来るはずも無く、暇を持て余している。
「あー、暇だなぁ。こんな事なら迷宮にでも潜って魔瘴石でも取ってこれば良かった」
「今は大事な時。勝手に動き回るのはダメ」
そう返すアシェラは、庭で格闘術の修行中だ。薄着で汗を流す姿には健康的なエロさがある。
うーん、眼福眼福。シャロンが産まれてお胸様も一段と存在を主張してるし、ここは夜の一戦をお願いせねば。
鼻の穴を膨らませてアシェラを見ていると、唐突に背後から声をかけられた。
「ただいま、アルド君。今帰ってきた」
「おかえり、ライラ。母様から魔法を習ってたんだろ? どうだった?」
「うん。ちゃんとフラッシュを覚えられた。これで目くらましは完璧」
「そっか……ん? あれ、ライラってそんなに髪長かったか? それに何か薄っすら光ってるような……」
「こ、これはお義母様から髪に良い薬をもらったからで、光ってるのはフラッシュの練習のし過ぎ?」
「そうなんだな。ライラは真面目だから、あんまり根を詰め過ぎるなよ。夜に光ってたりしたら幽霊みたいだからな」
何気なく放った言葉にライラはおろか、アシェラまで固まってオレをガン見してくる。
「ど、どうした? お、オレ、おかしな事でも言ったか?」
「アルド……もしかして昨日の夜 トイレに起きたりした?」
「ん? いや、何でか知らないけど昨晩はアドが椅子に座って見張ってくれてたからな。お陰で昨日は朝までグッスリだったぞ」
「そう……良かった……アルド君に見られてたら……ラフィーナを殺して私も死ぬところだった……ぼそ」
ライラの言葉の後半は良く聞き取れなかったが、嫁達の機嫌は良さそうだ。
未だにオレの処遇は宙に浮いたままではあるが、この癒しの時間を楽しもうと思う。
ライラが王都へ帰って来てから2日後の昼。とうとう王から呼び出しがあった。
その日は朝食を摂った後、恒例になったアシェラの格闘術を眺めていた所で、来訪を知らせる呼び鈴の音が響いたのである。
来客はどこかの執事でありセーリエが対応していた。そして手紙を預かると、爺さんのいる執務室へと歩いて行く。
「セーリエ、今の執事は王城からか?」
「はい。王家からバルザ様宛の物が1通。そして宰相からアルド様宛の物が1通です」
「オレとお祖父様に1通ずつか……オレも執務室へ同行する」
「かしこまりました」
オレ宛の物も爺さんに見せた方が良い。結果、セーリエと一緒に執務室へと向かったのであった。
「お祖父様、アルドです。王家から手紙が来ました。入ってもよろしいですか?」
「入れ」
執務室には爺さんの他にも2人のメイドがおり、どうやら片付けをしていたようだ。
「メイドは下がれ。アルド、手紙をこっちに」
「はい、どうぞ。でもこの部屋、随分片付いてしまいましたね……」
「ん? ああ、ワシはブルーリングに引っ込むからな。私物があっては後の者が困るだろう。必要な物以外は片づけている最中だ」
「お祖父様、本当に引退されるんですね……」
「そんな顔をするな……アルド、ブルーリングへ帰ったら釣りを教えてやる。騎士団の詰め所の裏に良く釣れる場所があるのだ」
「え? お祖父様、釣りをなさるんですか?」
「まぁな、小さな頃は竿とエサを持って通ったものだ……父にはどうせなら狩猟をしろと怒られたがな」
「そんな趣味が……」
「引退したら日がな釣りをして過ごすのが夢だった。後どれだけ動けるかは分からんが、そんな毎日も楽しかろう。お前にも教えてやる」
「ありがとうございます。楽しみにしていますね」
ひとしきり話した後、爺さんとオレは目の前にある2通の手紙の封を開けた。
オレは宰相からの物を、爺さんは王家からの物をそれぞれ読んでいく。
手紙には今回の始まりと顛末、そしてオレへの罰が書かれていた。
「……国外追放」
思わず漏れ出た言葉が、今回の件に対してオレへ下された罰の全てであった。
「こちらにも、同じ事が書かれてある……恐らく内容は同じ物だろう。形式上、平民に王家から直接 手紙など出せぬからな……内容は沙汰が下って1年の間、お前はフォスタークの土を踏む事は許されないとある……」
1年の期限付きなのが救いか……爺さんの話では、王も宰相もオレへ随分 配慮してくれたと聞いている。
「しょうがないのでしょうね……シレア団長からは、平民が王城で帯剣して騎士を害した場合、間違いなく死罪と聞いていますので……」
「そうだな。1年の期限が切ってあるのは、最大限の恩情なのだろう。恐らくこれ以上の譲歩は望めまい」
爺さんの言う通り、フォスターク王国としてこれ以上の譲歩をすれば、国としての威厳を失ってしまう。
それはある意味、個人の命よりも重いモノなのだろう。
「ハァ……良い機会かもしれません……アルジャナへの旅は纏まった時間が必要でしたから……この1年で僕はアルジャナの地を目指そうと思います」
「そうか……そうだな。お前は使徒だ。頻繁には難しいだろうが、マナスポットを使って家族と会う事も可能だろう」
「はい……アシェラやオリビア、ライラとも相談します。勿論、父さんやエルにも」
「それが良いだろう。沙汰は2日後の謁見で行われると書いてある。その間に旅の準備と暫しの別れを惜しむと良い……しかし、釣りを教えるのは1年後になってしまったな……」
「1年後を楽しみにしています。では僕はアシェラ達へ話してきます」
「ああ、妻は大切にしろ。下がって良い……」
執務室を後にして、オレは中庭で修行中のアシェラ達の下へ急いだのであった。
◇◇◇
正直な所、この罰が重いのか軽いのか判断出来ない……だからこそ上手い落とし所なのだろうが。
戦えない者が、1年もの間 国を放逐されれば耐え難い苦難なのは分かる。
しかし、オレからすれば、大した罰とは思えない。これは全種族の言葉が話せ、チカラを持つ故なのだろうか……
しかし1年も、ブルーリングを離れるのであれば、やっておきたい事がある。
それはノエルに頼まれた件。オレの結婚式の際、「農地を用意してもらえないか?」と頼まれていた件だ。
あれから何度もジョーと話したが、実は新しい特産品の開発も含めて、開拓村でマッドブルの牧畜を頼めないかを打診していたのだ。
勿論、初期費用の類はブルーリングから出す。
マッドブルは獰猛な魔物だけあって、ある程度の強さが無いと扱え無い。Bランクで尚且つ面倒見の良いジョーはうってつけの人材だ。
人手が足りないようなら本人もギルドの人間に顔が利くし、ナーガさんに話して依頼として発行しても良い。
仕事を気に入る冒険者がいるようなら、引退後の再就職先にも最適だ。
「でも2日で根回しは流石に無理だよな。ローランドへ話を通して後のフォローは任せるしかないか。後はオリビアにも罰の件を話さないといけないし、先ずはアシェラ達とブルーリングへ飛ぶか……」
そうしてアシェラとライラへ軽く経緯だけを話して、オレ達はブルーリングへ飛んだのである。
「アシェラ、ライラ、先ずはオリビアの所に行こう。シャロンもいるだろうし、腰を据えて話そう」
「うん……」
「……アルド君、本当に1年も帰ってこれないの?」
「詳しい話はオリビアも混ぜてからにしよう。実際、オレも聞いたばかりで、正直 どうして良いのか分からないんだ」
「……分かった」
マナスポットでコッソリ帰って来られるとしても、今までと同じようになど絶対に無理だ。
戦えないオリビアと、シャロンがいるアシェラは間違い無く留守番になるとして問題はライラ。
地図も大まかな物は出来ているが、詳細な物を作るには莫大な時間がかかるのは当たり前である。
それを放り出してまでオレに同行するのはどう考えても勿体ない。
どうしたものか……オレはどう話すか悩みながら、オリビアの下へ向かったのである。
「アルド、大丈夫でしたか? とても心配しました。アシェラもライラも元気そうで何よりです」
オレ達3人の顔を見て、オリビアは嬉しそうに口を開いた。
こんなに喜んでいるオリビアへ「1年間、国外追放になった」と言わなくてならないのか……正直、気が重い。
そんなオレの空気を察したのか、オリビアは一転、真面目な顔でオレへ話しを促してくる。
「アルド……何かあったのですね? 私は大丈夫です。聞かせてください」
「すまない……アシェラとライラにも、まだ簡単に説明しただけで自分でも整理出来てないんだ。実は………………」
オレは今回の一連をなるべく客観的に話していった。その間、オリビアは何も言わずにジッと聞いていた。
「………………ってわけで、オレは1年間フォスターク王国から追放される事になった……アルジャナから帰ってまだ1年ちょっとなのに……アシェラ、オリビア、ライラ、ごめん……」
「アルドが悪いわけじゃない。元はと言えばフリードって騎士のせい。アイツが余計な事をしなければ……」
「アルド君……ごめんなさい。私がもっとしっかりしてれば、何とかなったかもしれないのに……」
「ライラは何も悪く無いだろ。フリードの挑発をオレがもっと上手く躱せれば良かったんだ……3人共、本当にごめん」
オレ達の会話を聞いていたオリビアは、意外な事に誇らしげに頷きながら口を開いた。
「3人共、落ち着いてください。先ずはアルド、今回の件お疲れ様でした。1つだけ聞かせてください。フリードと言う騎士へ怒りを向けたのは、アシェラやライラが乏しめられたからですよね?」
「ああ、そうだ……」
「であれば私はアルドを誇りに思います。私は妻の名誉を汚されても、黙っているような殿方と結婚したつもりはありませんから。それにお祖父様の事は残念でしたが、お歳を考えれば良い機会だったのかもしれません。これからはブルーリングでゆっくり過ごして頂くのが良いと思います」
「お祖父様の件は、その言う通りだとして……国外追放は……オレが熱くなり過ぎたのは間違いないんだ……せめて素手だったら……」
オリビアはゆっくりと首を振り、優しく諭すように話しかけてくる。
「過去はどうやっても変えられません。アルドが反省すると言うのなら、それは次の機会へ生かすべきです。それより今後の事を話しましょう。1年もの時間があるのです。アルドはどうするつもりなのですか? 何か考えがあるのでは無いですか?」
「これからの事か……お祖父様にも話したけど、オレはアルジャナへ向かおうと思うんだ。元々、アルジャナへ向かうには纏まった時間がいる。3人には悪いけど、この機会を無駄にしたく無いんだ」
「アルジャナ……憎しみを克服した者達の末裔が住む国ですか……であれば、私とアシェラはお留守番ですね」
「ごめん。それにライラにも地図の製作を頼みたいと思ってる。アルジャナへはカズイさん達へ同行を頼もうと思う」
「嫌。私はアルド君と一緒に行く! 1年も会えないなんて絶対に嫌!」
「ボクも行く。シャロンは……オリビアに任せる……」
「2人共、オレは大丈夫だから。な? ……ライラ、地図作りはライラにしか出来ない。きっとアルジャナに付いたら、更に仕事が増えるはずだ。この1年を無駄にしたくない。頼むよ、ライラ」
「わ、私は……アルド君の隣が良い……アルド君がいなくなったら……生きている意味が無い……」
「途中のマナスポットを解放する度に帰ってくるから。お願いだ。将来の子供達のためにも、ブルーリングへ残ってくれ」
一向に引き下がらないライラだったが、何かを呟くと同時に最初とは違い声のトーンが落ちていく。
「これもラーハルト兄様とフリードのせい…………分かった……でも絶対に帰ってきて……それだけは約束してください……お願いします……」
「約束するよ。オレは絶対に帰ってくる」
ライラはこれで良いだろう。オレはもう1人、不満気な顔のお姫様へ向き直る。
「アシェラも。シャロンを……オレ達の大切な娘を、お前に見てて欲しいんだ。頼む、アシェラ」
「……アルドはズルイ。そんな事を言われたら嫌って言えない……」
「ごめんな。でもありがとう。シャロンへオレの分まで愛情を注いであげてくれ」
そして最後。オリビアへ向き直ってオレは口を開く。
「オリビア、いつもありがとう。本当に感謝してる」
「フフ、感謝だけですか?」
「勿論、愛してる。悪いけど1年間、アシェラとライラを頼むな」
「はい。アルドは安心して向かってください。家を守るのは私の仕事ですから」
こうして、何とか3人の嫁からアルジャナへの旅を許してもらったのであった。




