454.ライラの大冒険 漆 part2
454.ライラの大冒険 漆 part2
お義母様へ私とリュート家の全てを話した後の事。何故か私は、お義母様、アシェラと一緒にミルド領にある漁師村へ飛んできた。
「さてと、先ずは服ね。なるべくボロっちいのを手に入れないと……」
お義母様は悪い顔で呟いているが、一体 何をしたいのか全く分からない。
「お、お義母様? ここで何を?」
「直ぐに分かるわ。さぁ、行くわよ」
私はアシェラと顔を見合わせ、お互いに苦笑いを浮かべるしか出来なかった。この人の考えを理解できる者は、恐らくいないと思う。
しかし、何なんだろう、この頼もしさは……流石は魔法使いの王、魔王を名乗るだけはある。
私とアシェラは、謎の安心感と共に魔王の後を付いて行くのであった。
この人を信用した時が、私にもありました……今の私は、何故か漁師村の中でも特に貧しそうな子供から貰った服を着ている。
「うーん、本当はもっとボロが良いんだけど……しょうがないわね。次は器を探しましょ」
おい、ラフィーナ……お前は何をしたいんだ。この服、ボロボロで変な匂いまでするんだけど……
さっきの子供も、「もぅ着れなくなったから雑巾にしてた」って言ってたよな? 子供には、しっかり金貨を握らせていたので、満面の笑みでこの服? を渡してくれた。
「お、お義母様? これは一体どういう事なんですか? こんな格好じゃアルド君の前に出られない」
「ん? アルには見せないから大丈夫よ。そんな事よりボロっちい小瓶がどこかに落ちてないかしら?」
お義母様は私へ適当に返し、村の中を我が物顔で歩いて行く。
あー、村人が道を譲ってる……これじゃあ貴族の奥方が、侍女と奴隷(私)を連れて遊んでいるようにしか見えない。
本当にこの人を信用して良いのだろうか……何かとてつもない間違いを犯している感覚が、私を蝕んでいく。
毒を食らわば皿までとも言う。私は小さく溜息を吐いてラフィーナの後を追ったのだった。
結局、村の外れの海辺で、ボロボロの薄汚い小瓶を拾ってブルーリング領へ帰ってきた。
お義母様はメイドへ小瓶の内側だけを洗うように告げ、「これで完璧よ!」と鼻息荒く満面の笑みを浮かべている。
「さぁ、下準備は全て整ったわ。後はライラ、アナタがフラッシュの魔法を修行するだけね」
「ちょ、ちょっと待って下さい、お義母様。フラッシュの魔法? 一体何の事ですか?」
「そうね。アナタは知らなかったわね。オクタールのクソオーガを倒した際、アルが新しい魔法を開発したの。それがフラッシュ。実際に見た方が早いわね。アシェラ、見せてあげて」
「はい、お師匠」
アシェラは私とかなり距離をとると、向かい合うように立った。
「ライラ、これは目くらましの魔法。攻撃力は無いけど、上手く使えば1発で勝負を決められる」
「目くらまし……分かった。やって見せて」
なるほど。相手の視力を奪う魔法なのか。しかし来ると分かっていれば、どうと言う事は無いはずだ。
身構える私を前に、アシェラは一言だけ呟いた。
「フラッシュ」
その瞬間、アシェラが強烈な光を放つ。
ちょっ、待って……それは反則でしょ? てっきり目くらまし用の光の玉でも現れると思っていたら、アシェラ自身が強烈に光るとか。
戦闘中に敵から視線を切るなんて出来るはずも無い……これって使われたら絶対に躱せないんじゃないの?
目をシパシパさせながら暫く経つと、徐々に視力が回復してくる。
「どう? ライラ。今のがフラッシュよ。アナタにはこれを覚えてもらうわ。それに少しの改良もしてもらう」
「この魔法を覚えて……更に改良を……」
「ええ。早速、特訓に入るわよ。先ずは頭を剃り上げましょうか」
は? 頭を剃るって何? え? その剃刀……本気なの?
「大丈夫よ。エルフの秘薬「発毛剤」もあるわ。フラッシュを覚えたら、直ぐに髪は戻してあげるから」
「え? ちょっ、え? お、お義母様、ほ、本気なんですか?」
「えぇ、私は本気よ。大丈夫、直ぐに済むわ。天井の染みを数えてる間に終わるから」
「え……あ……い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
「アシェラ、捕まえて! ついでに睡眠も撃ちこんでおいて」
「はい、お師匠」
結局、根っからの前衛であるアシェラの動きに付いていけるはずも無く、私は「睡眠」の状態異常を撃ち込まれて意識を手放したのであった。
微睡の中から徐々に意識が覚醒していく……ゆっくりと目を開けると、見知らぬ天井が見える。いや、違う、ここはお義母様の私室だ。
「ライラ……ぷっ、お、起きたわね? じゃあ、早速、フラッシュの修行を始めるわよ……ぷっ」
私はお義母様の声で飛び起きた。震える手でそっと頭に触れる……ジョリ……無い……ジョリジョリ……やっぱり無い! 私の頭は丸坊主になっており、一切の髪が無くなっていた。
お義母様……いや、ラフィーナは私を見て、明らかに笑いを堪えている。
こ、この野郎……て、テメェ、ぶっ飛ばす!
怒りと共に立ち上がると、何故かアシェラに止められてしまった。
「ライラ、お師匠のペースに巻き込まれたらダメ。秘薬を使えば直ぐに髪は生えてくる。今は我慢する」
確かにアシェラの言う通りではある。しかし、何の説明も無く頭を剃り上げられた怒りを、どうやって抑えれば良いと言うのか。
「お師匠、そろそろ説明してほしい。ボロボロの服に小瓶。それにフラッシュ。ライラに何をさせるつもりなの? これじゃあ、ライラが可哀そう」
ラフィーナは肩を竦めてから降参するように両手を上げた。
「分かったわ。流石にちょっとやり過ぎちゃったわね。良いわ、教えてあげる。2人共、こっちに来て。ライラには………………」
ラフィーナの説明は私が想像すら出来ない物だった。大胆であり緻密? 半分ふざけてるのか? と聞き返したくなる作戦だったが、一応の筋道は通っていた。
「ラフィーナ……いえ、お義母様。本当に私がそれをするんですか?」
「ええ。これならアナタの兄も助かるし、フリードにアルの減刑も嘆願させられるでしょ? ただ1点、アナタはもう二度とリュート家には帰れなくなる……」
「リュート家に帰れないのは良いです。私の居場所はアルド君の隣だけ。それ以外は何もいらない」
「そう、分かったわ。そこまで想われるなんてアルは幸せ者ね」
そう言って、お義母様は安心したように笑っていた。
「じゃあ、フラッシュの修行をしましょう。私の修行は厳しいわよ。覚悟なさい」
「……分かりました、お義母様」
そこからは、ひたすらフラッシュの修行である。ラフィーナの言う通り、頭を剃り上げたお陰で数時間後には無事フラッシュを覚える事が出来た。
確かに魔法にはイメージが非常に重要だ。剃り上がった頭になった事で、効率もイメージも全てが数段上がったのは分かる。
でも無理矢理 頭を丸めるのだけは、やっぱり納得出来ないんですが……私はジョリジョリと心地いい肌触りを確かめながら、心の中で愚痴を零すのだった。
結局、全ての準備が終わるのに2日の時間がかかった。アシェラには初日に王都へ帰ってもらい、私はブルーリング領のお義母様の部屋で缶詰になっている。
「これで完璧ね。ライラ、良く頑張ったわ」
「いえ、お義母様の御指導のお陰です……」
私の髪は既に元通り……いや、元よりもかなり長くなっており、今は腰の辺りまである。これもお義母様が考えた作戦の1つで、「雰囲気が大切なのよ」との言葉を賜っている。
「じゃあ、作戦は今夜 決行よ。ラーハルトって人の時間は少ないらしいから、間に合わなくなっても面白く無いわ。良いわね、ライラ」
「分かりました、お義母様」
「じゃあ、化粧も着替えもこっちで終えて夜中にコッソリ王都へ飛ぶわよ。向こうでゴソゴソして、その恰好をアルに見られたく無いでしょ?」
「はい……絶対に嫌です。こんな姿をアルド君に見られたら……私は絶対に命を絶ちます!」
今の私の恰好は、ボロボロの服に伸びっぱなしの髪。更に貧相に見えるように化粧まですると言う。
こんな姿をアルド君には見せられない。万が一、見られてしまったら……ラフィーナを殺して私も死ぬ!
謎の殺気を出す私を見て、ラフィーナはゴクリと喉を鳴らしている。察しの良いラフィーナの事だ。恐らく私の決意が分かるのだろう。
こうして私はアルド君に見られない事を祈りながら、夜までの時間をフラッシュの最終調整に費やしたのであった。
今の時間は0:00を少し越えたくらいである。1時間ほど前から顔だけでなく、腕や足、見える全てへ化粧を施して準備は完了した。
「お義母様、起きて。お義母様……」
「うーん、むにゃむにゃ……くー、すやぁ……」
この野郎……お前、ふざけるなよ? 自分で言い出した作戦だろうが!
尚もラフィーナを起こしているが、一向に起きる様子が無い。こうなったら最後の手段しかない……魔法師団時代でも、この手であればコイツは間違いなく起きた。
くくくっ……恨むのなら、自分の優秀さを恨むが良い。次の瞬間、私はラフィーナへ向けて飛び切りの殺気を叩きこんだ。
今の今まで眠りこけていたはずなのに、ラフィーナは素早く身を翻して私へ杖を向けている。
「さぁ、行きましょ。お義母様?」
「……まさか、その手でくるとは……ハァ……分かりましたよ……隊長……」
ラフィーナの酷く呆れた声が、深夜の領主館に響いたのであった。




