453.ライラの大冒険 漆 part1
453.ライラの大冒険 漆 part1
王城から爺さんが帰ってきた。行きだけで無く帰りも、更に王城の中すら隠れて護衛をしていたなんて事がバレた日には……きっと雷を落とされるだけでは済まないだろう。
この件は、オレ、アシェラ、ライラだけの秘密として、墓場まで持って行こうと思う。
「アルド、王と会ってきた」
「はい……」
「お前のドラゴンスレイヤーとしての功績で、便宜をはかってもらえる事になった。どこかで落としどころを考えてくれるはずだ。恐らくなにがしらの罰は下るだろうが、重い物にはならないだろう。良かったな」
「ありがとうございます、お祖父様。そうであれば、お祖父様の引退も取りやめに?」
「それは話が別だ。ワシは王への言葉通り、ブルーリング家当主を引退する。貴族の当主が、王の前で引退を口にしたのだ。撤回するなど出来るはずも無い。何よりワシの矜持が許さん」
「……やっぱり僕のせいで……すみません」
爺さんは眉根を下げて、呆れた顔で口を開く。
「ワシもいい歳だ。今回の件が無くとも、そう遠く無い先に限界がきていただろう。最近、長く執務を行うのがキツくてな。ここらが潮時だった。それとも何か、お前はワシに死ぬまで働けとでも言うつもりか?」
「い、いえ、そんなつもりはありません。僕もお祖父様にはゆっくりと過ごしてほしいと思っているんです……不甲斐ない孫で申し訳ありません」
「アルド、一度しか言わんから良く聞け。お前は既に類まれなチカラを持っている。しかも、そのチカラに振り回されず、自制する心すら持つお前の資質は、正に英雄のそれだ。使徒だ始祖だと言っても、お前の本質はその心。英雄の資質こそがお前を形作っている。それさえ忘れなければ、お前は大丈夫。きっと仲間がお前を助けてくれるだろう」
「……僕は英雄なんかじゃありません。いつも必死に生きているだけです」
「フフッ、今はそれで良い。そう言えるお前なら道を間違う事も無いだろう。お前はお前の信じるままに生きろ。その先に見える物もあるだろう」
「良く分かりませんが……分かりました」
こう答えるオレを、爺さんは眩しい物でも見るように小さく笑みを浮かべていたのであった。
爺さんの下から、自室へ戻ってきた。オレの部屋にはアシェラとライラがおり、先ほどの爺さんとの話を聞かせている。
「………………って事だ。お祖父様は当主を引退するらしい」
「そう……でも、ご当主様もいい歳。ゆっくり休ませてあげたい。これからはボク達がご当主様の分まで頑張らないと」
「……これも全部、フリードのせい……ひいてはリュート家のせい……」
鼻息の荒いアシェラとは違い、ライラは思い詰めた顔で小さく呟いている。
これは放っておくと、マズイ方向へいきそうだ。
「ライラ、それは違うぞ。フリードは兎も角、リュート家は今回の件に何も関わって無いだろ」
「でもリュート家のせいで、フリードが無茶をして……」
「ライラ、今回の件もそうだけど、悪意が無くても争いは起こるんだ。フリードだって、本心ではラーハルトって人を助けたかっただけなんだろう。でも立場が違えば争いは起こる。でも間違えちゃいけない。争いは当事者だけの問題なんだ。その理由がどうであれ、テーブルに乗って無い者にまで責任を押し付けちゃいけない」
「アルド君の考えは異質。普通は罪を犯せば、その一族郎党 罪を着る」
「連座制ってヤツか……オレはその考えが嫌いなんだ。親や兄弟だって考え方から価値観も違うのは当たり前の話だろ? 現にオレとエルは双子なのに、性格から価値観に至るまでまるで違う。でも罪だけは共に償うなんておかしいだろう。やっぱり罪は犯した者の物で、償う機会を奪うべきじゃないと思うんだ」
「償う機会……アルド君は罰さえその人の財産だって言うの?」
「それはその人次第かな。本当に反省した後の償う機会なら、それは財産に成り得るんじゃないか?」
「……まだ納得は出来ないけど、アルド君の考え方は好き………………だったら、私はまだアルド君の隣に立ってて良いんだ」
ライラの呟きの後半は聞き取れ無かったが、心から安心した笑顔に、オレまで嬉しくなったのであった。
◆◆◆
私はライラ、アルド君の妻の末席に連ならせてもらっている。
今回のアルド君を巡る一連の出来事に、リュート家が大きく関わっているなど、当初の私には知る由も無かった。
しかし、フリードから情報を得た今となっては、ジッとしてる事など出来るはずも無い。
「ラーハルト兄様は万能薬で治すとして、後は何とかフリードを……取り敢えずアシェラに相談しよう」
私は3人の妻の中で、最も長くアルド君の隣にいるアシェラへ相談する事にした。
「アシェラ、少し話がある」
「何?」
「実はね………………」
アシェラとの会話は酷く簡単に済む。変に取り繕ったりしないので、非常に楽だ。
ここ一連の事件にリュート家が関わっている事と、自分がリュート家の出である事を話していった。
「そうなんだ……それでライラはどうしたいの?」
そう話すアシェラの目の奥には微かな敵意が見える。
ここでリュート家を擁護するような事を言えば、即座にアシェラは敵になるのだろう。
「先ずはラーハルト兄様を治す。そうすればフリードの目的は果たされて、アルド君を狙う理由は無くなる。でも問題が2つある。1つはどうやって薬を飲ませるか。もう1つはフリードの扱い。アイツにアルド君の減刑を嘆願させるには、何らかの情報を話す必要がある」
「うーん……ボクには分からない。アルドに相談したほうが良いと思う」
やはりそうきたか……しかし、私とリュート家の関係を話せば、若返りの霊薬の事も話さなくてはならない。
私には、その勇気はまだ持てそうに無い……
「アルド君にだけは話せ無い……まだ話す勇気を持て無いの……アシェラ、お願い。助けて……」
アシェラは何かを考えて、困ったように答えた。
「ごめん、やっぱりボクでは判断出来ない。お師匠に相談しよう……」
「うん……」
こうしてある意味 一番怖い人へ、私の命運を託しに向かう事になったのである。
◆◆◆
アルド君に隠れてアシェラと一緒にブルーリングへ飛んできた。
恐らく今この瞬間にも、密偵の類がこの領主館を見張っているのだろう。
念の為 私とアシェラは、ベールで顔の下半分を隠している。
「お師匠なら多分この時間は、オヤツを食べ終わってお昼寝してるはず」
「分かった」
本当は貴族の奥方にも、色々と仕事があるはずなのに……私はあの人が領主館で働いている姿を見た事が無い。
微妙な思いを胸に秘め、お義母様の私室へと向かったのである。
「お師匠、アシェラです」
ノックをして呼び掛けても、何の返事も無い。
いないのか? そう思っても、アシェラは何度も呼び掛けている。
「アシェラ、いないのかも」
私の言葉を聞いても、アシェラはゆっくり首を振って、ここにいると確信しているようだ。
そうして私が諦めた頃、部屋の中から物音が聞こえてきた。
「なーにー、むにゃむにゃ……」
本当にいた!
驚いた私とは対照的に、アシェラはお義母様へ口を開く。
「お師匠、話がある。とっても大事な話」
お義母様は寝起きの顔から一転、真剣な顔で口を開いた。
「アシェラ、アナタが顔を隠して見つかる危険を冒してでもやってきて、尚且つそこまで言うのだからよっぽどの事なんでしょうね。良いわ、入って頂戴」
お義母様の部屋へ通されて、アシェラは先ほどの私とリュート家の関係を話していく。
「そう、話は大体分かったわ。要はリュート家の跡継ぎに薬を飲ませて、フリードって騎士から王子へアルの減刑を願い出るように画策すれば良いのよね?」
「うん。でもボクにはどうすれば良いのか分からない」
お義母様はアシェラから一転、私へ向き直って口を開いた。
「ライラに幾つか質問があるんだけど、良い?」
「はい……」
「先ず、ライラはリュート家との関係をどうしたいのかしら? このまま一生、親族と会えなくても良いの? それとアナタとラーハルトって人の関係を教えて頂戴。最後にフリードって騎士と話した際の状況をなるべく詳しく聞かせて」
「はい……私はアルド君がいれば何もいらない。そもそもリュート家とは出奔してから一切の連絡はしていない。このまま一生 戻らなくても構わない」
「そう、アナタに覚悟があればそれで良いわ。言い難い事を聞いてごめんなさい」」
「大丈夫。それと私とラーハルト兄様の関係は……少し複雑。私は幼少期 神童と呼ばれ、とても大切に育てられた。それは跡継ぎであるラーハルト兄様よりもずっと……きっとラーハルト兄様は不安だったんだと思う。いつか私に跡継ぎの座を奪われないかって。そんな状態が続いて私が学園を卒業した際の事、ラーハルト兄様は私に無理やり縁談を用意したの。相手は侯爵家の次男。その頃の私は自分より能力の低い者を見下してたから……実際に会った時に相手を怒らせてしまった。そしてその件をお父様へ事実より重く伝え、リュート家から放逐するように進言したの。きっと嫁に行かないのであれば、私を追い出したかったんだと思う。それ以来、リュート家の者とは会ってない」
「思ってたのと随分違うけど、なるほどね。それでブルーリングに流れてきたと……」
「ええ。そしてお義母様……ラフィーナ、アナタと会って、その10年後 最愛の人アルド君と出会ったの」
「分かったわ。じゃあ最後よ。フリードって騎士と話した状況を詳しく教えて頂戴」
「うん、あれはメイド服に着替えてから………………」
私はなるべく客観的に、当時の状況を話していく。フリードに見つかった事、嘘を吐いて情報を聞き出した事、そして消えるように姿を消した事を説明していった。
「じゃあ、情報を聞き出した後は、逃げるように去ったって事?」
「うん。アルド君達の場所を知られないよう、廊下を曲がった際、空間蹴りで窓の外へ飛び出してフリードを撒いた」
「なるほど、完璧ね。良いわ、これなら十分いけるはず!」
お義母様……いえ、ラフィーナは、とんでもなく悪い顔で何かを企んでいる。魔法師団時代にも稀にこの顔を見たが、いつもロクでもない事ばかりを仕出かしていたのを思い出す。
敵にすれば厄介この上無いが、味方で良かったと心から安堵したのであった。




