445.王子 弐 part3
445.王子 弐 part3
王都に付いてから一夜明け、今は王子へ謁見するため王城へと向かっている所だ。
今回の件は、表向きブルーリング家は関係無い事から、オレ、アシェラ、ライラは3人連なって徒歩で向かっている。
「しかし、3年も王都に住んでたのに、ここ等の景色は見覚えが無いなぁ」
「うん。遊びに行く時は商業街ばっかりだったから。貴族街はオリビアの家しか見覚えが無い」
「そりゃそうか。他の貴族家に行く用事なんて、そうそうあるわけ無いよな」
アシェラと話している後ろで、ライラが1軒の邸宅を懐かしそうに見つめていたのを、オレは気付く事が出来なかった。
他愛ない話をしながら歩いていると、直に王城へと到着した。
先ずは門番へ話しかけて、案内してもらわねば。
「すみません。アルド=ブルーリングと申します。殿下からの呼び出しにより、参上しました。取り次ぎをお願いします」
2人の門番は訝しそうにオレを見つめている。
それはそうだろう。普通、王子に呼び出される者など、貴族か豪商。
高ランクの冒険者であっても、徒歩でやって来る者などいるはずも無い。
更にオレ達の見た目も若すぎる事から、本当に王子へ取り次いで良いのか迷っているのだろう。
「お前等、殿下の名を出して、イタズラじゃ済まないぞ。本当に取り次いで良いんだな?」
「はい。お願いします」
門番の男は、もう一人へ目配せをし、王城の中へ入っていった。
すると、流石は王城。直ぐに補充の門番が現れ、役目を引き継いでいる。
「ん? お前、もしかして修羅か?」
補充の門番はオレを何度か見て、声をかけてきた。
「あ、はい、まぁ……そう呼ばれる事もあります」
「そうか……お前、でかくなったなぁ。何年か前、団長達との模擬戦を見せてもらった事がある。今日は何の用だ?」
「殿下から召集がありましたので、伺いました」
「殿下って……カムル殿下が? 直接?」
「はい……」
門番の目には、警戒の色が露骨に浮かび上がっていく。
「てっきりシレア団長へ、別れの挨拶にでも来たのかと思ったんだが……そう言う事なら、武器の類は預からせてもらうぞ」
「あ、はい。それは構いませんが……シレア団長が、どうかしたんですか?」
「ん? なんだ、お前は知らないのか……団長は、今月で騎士を辞職するんだ」
「え? シレア団長、騎士を辞めるんですか? まだ引退するような年じゃないのに……」
「……まぁ、騎士団の中でも色々あるんだよ。あの人を慕ってる人は多かったからなぁ。これからどうなるんだか……」
門番は小さく溜息を吐いて、それ以上 言葉を続ける事は無かった。
そうか……シレア団長、騎士を辞めるのか……
しょうが無い事とは言え、知っている人がいなくなる事に少しの寂しさを感じてしまう。
そんな世間話をしていると、先ほど取次を頼んだ門番が戻ってきた。
「カムル殿下がお会いになるそうです。ご案内します」
門番は、先ほどとは打って変わって低姿勢で案内してくれた。
きっと、さっきは若く冒険者の恰好をしているオレ達を舐めていたのだろう。
しかし、本当に王子の客だと言う事が分かり、この態度になったと思われる。
お前、最初の態度を王子にチクったら、きっと後で凄く怒られるぞ。まぁ、オレは言い付けたりしないけどな。
心の中で悪態をつきながら、門番に客間まで案内してもらった。
「で、では、ここで暫くお待ちください。殿下の準備が済み次第、係の者が呼びに来る手筈となっています」
「はい。丁寧にありがとうございます」
オレの口調から怒っていない事が分かり、門番はホッとした顔で出て行った。
さてさて、これからいよいよ王子との面会なわけだが、恐らくアシェラとライラはこの部屋で待たされるはずだ。
2人に近寄ってもらい、小声で話しかけた。
「アシェラ、ライラ、2人は多分ここで待つ事になると思う。無いとは思うけど、万が一の襲撃に備える事と出された物は口にしないでほしい」
「分かった。水は魔法で出して、お腹が減ったら干し肉を食べる」
「ここの物は口にしない。それと、アルド君には私達に向かって、定期的に局所ソナーを打ってほしい。10分以上ソナーが飛んで来ない場合、助けに行く」
なるほど。局所ソナーを定期的に打てば、オレからアシェラ達の様子は分かるし、アシェラ達もソナーが途切れればオレの窮地が分かると言う事か。
「なるほど。でも流石に10分は短すぎだ。20分間隔で打つようにするよ。30分以上ソナーが飛んでこなかったら、何かあったと思ってくれ」
「分かった。ソナーが飛んで来れば、そっちの大体の位置も分かる。途切れたら、直ぐに助けに行く!」
「30分……分かった……でも、直ぐに来て欲しい場合は局所ソナーを2回打ってほしい」
「2回か……分かった。ライラは凄いな。オレじゃあ、ソナーのこんな使い方、思いつかないよ」
「うんうん。ボクもライラは凄いと思う」
「そ、そんな事ない……私はアシェラみたいに強くないし……でもアルド君の役に立てて良かった」
こうして一通りの打ち合わせを終えた頃、部屋にノックの音が響き渡る。
「カムル殿下の準備が済みました。ご案内致します」
全員で向かい合い、一度だけ頷いてから扉を開けると、部屋の前には騎士が2人立っており、ゆっくりだが有無を言わさぬ強い口調で話し始めた。
「謁見はアルド様、お一人でお願いします。それと武器の類は預からせて頂きます」
「分かりました」
「では失礼ですが、背中のリュックと武器を」
オレは素直に、リュックと短剣2本、更に予備武器のナイフ2本を手渡した。
「では案内します。コチラへどうぞ」
騎士の1人はオレの荷物を何処かへ運んでいく。オレの案内はもう1人が行うようだ。
階段を下りたり上ったり……これは王子の執務室を分からなくさせる処置なのだろう。
そうして10分ほど歩かされて、ここがどこなのか分からなくなった頃、唐突に騎士が1つの部屋をノックした。
「アルド様をお連れしました」
「入れ」
「許可を頂きました。どうぞ、中へお入りください」
騎士に促されるまま部屋に入ると、何故か大量の騎士がフル装備で立っていた。
謀られた? 一瞬、そんな思いがよぎったが、大量の騎士の一番後ろに、カムル王子の姿が見える。
直ぐにその場で跪き、なるべく卑屈に見えないよう口を開いた。
「カムル殿下、お久しぶりで御座います。先ずはこの3年間、依頼を1度しか受けなかった件、ご連絡を差し上げなかった件を謝罪致します。申し訳ありませんでした」
「け、卿にも都合があったのだろう。正式に謝罪をするのであれば、私からは特に言う事は無い……」
跪いている故、王子の顔は分からないが、声からは特に怒りの感情は読み取れない。
むしろ、オレへの配慮すら感じられてしまう……何故??
しかし、そんな空気を破る声が騎士の1人から上がった。
「殿下! お待ちください。何の罰の与えないおつもりですか? この者は殿下との約定を3年間も知らぬ存ぜんで過ごしたのですよ? お咎め無しでは他の者に示しがつきません! どうか、ご再考を」
「フリード……では、お前はどうしろ言うのだ。約定では、依頼を受けるかどうかは向こうが決める事になっていたのだぞ……」
「それです。そもそも、殿下からの依頼を断るなど不敬も甚だしい。この度の事も踏まえ、新たに約定を結ぶ際には、全ての依頼を受けるよう強制すべきです。殿下の忠実な駒として、この者には思う存分 働いてもらいましょう」
おい、ちょっと待て。それはあんまりじゃないか? 時間が空いた時には、簡単な依頼なら受けても良いと思っていたが……コイツの言う事は、完全に王子の犬になれって事だろうが。
こんな話、絶対に飲めるわけが無い。
オレの纏う雰囲気が変わったからか、フリードと呼ばれた騎士はオレに向かって命令するように口を開いた。
「おい、アルドと言ったな。以前の約定を結んだ際には、まだブルーリング家に連なる者だったと聞いている。しかし、何がどうなってかは知らんが、今のお前はただの平民だ。ブルーリング家から廃嫡されたお前に、殿下へ条件を付けられると思うな。分かったか!」
何なんだ、コイツは……発言も顔を上げる許可も得ていない以上、オレは何も答えずジッと床を見つめる事しか出来ない……腹に特大の怒りを抱えながら。
そんな中、少し焦った声で王子の声が響いた。
「ふ、フリード! 幾らお前が近衛隊長とは言え、言葉が過ぎるぞ! ブルーリング家から籍は抜いたであろうが、この者は空を駆け、並ぶ者の無いほどの武の者だ。更に複数の竜種を屠ったドラゴンスレイヤーでもある。軽んじて良い者では無い」
「……申し訳ありません、言葉がすぎました、殿下」
フリードと呼ばれた騎士は、王子の言葉により素直に引き下がっている……少しの不満を含んだ声で。
場の空気が変わった所で、改めて王子がオレに話しかけてきた。
「ふぅ……卿よ、謝罪は受け取った。先ずは顔を上げてくれ」
「はい」
こうして、少しの問題はあったものの、王子との話し合いが始まったのである。
顔を上げてからの王子との会話は特に問題が無く進んでいった。途中、何度かアシェラ達へ向かって局所ソナーを打ったが、特に問題は起こっていない。
「そうか。ヴェラの街の魔物を倒して直ぐ、武者修行の旅へ出たのか……」
「はい。ドライアディーネからグレートフェンリル。そしてティリシアの端まで辿り着き、帰って参りました」
「なるほど。卿ほどの「武」があればそれも可能か。尤も、フリードの言では無いが、そうであれば先に知らせてほしかったがな」
「そこは重ねて申し訳ありません。最初は、それほど長い旅をするつもりはありませんでした。しかし、旅先で魔物の噂を聞く度、先へ先へと……妻達からも叱りの言葉を貰っています故、こんな事は2度とするつもりはありません」
「そうか……強い魔物を求め、戦い続けてきたのか……そ、それでは卿は、あの頃より随分と強くなったのだろうな……」
「あまり実感はありませんが……あの頃より体も成長し、より「武」を磨けたと自負しております」
「……」
王子は畏れを含んだ目でオレを見つめ、一度だけ小さくブルリと体を震わせた。
そこからは、新たに王子からの依頼を受ける事を約束したのだが、条件に付いては以前と同じで問題無いと言う。
「私としては問題ありません……」
オレが訝し気に先ほどの騎士を見たからだろう。王子は一度だけ騎士を見つめ、苦笑いを浮かべながら話し始めた。
「このフリードは来月から騎士団長になる男だ。私の事を第一に考えてくれる故、大変 助かっている。正直、父も高齢だからな。徐々に要職へ私の息のかかった者を当てている。これはその一環だ。本来、そんな忠臣の言葉には、ある程度 配慮すべきなのだが……卿だけは別だ」
王子はフリードを見つめ、次にオレへと視線を向けた。
「卿が本気を出せば、恐らくこの場は血の海になるのだろう……以前に見た卿の戦いは、およそ人の物では無かった……本音を言えば、私は卿のチカラが恐ろしくて仕方がない。出来れば縁を切って、2度と会いたく無いほどだ……しかし、私はフォスターク王国、次代の王。それほどのチカラを遊ばせておく余裕も、枷をはめずに野放しにも出来んのだ。卿には悪いと思うが、大人しく縛られてくれる事を望む……」
これは……どう返せば良いのか。恐らく王子の言葉は本心なのだろう。
それだけに、この返事を間違えれば、手痛いしっぺ返しがくるのが分かってしまう。
「……殿下の心配には及びません。私はこのフォスタークが大好きで、守るためにチカラを振るう事を約束します」
「そうか……その言葉、信じよう」
こうして、先ずは過去の謝罪と新たに約定を結ぶ話は終わった。
ここからは依頼の件だ。どこの貴族家の子息が病にかかったのか……それだけは絶対に聞きださねば。




