443.王子 弐 part1
443.王子 弐 part1
王子に対しての動きを決めて2週間が過ぎた。
ナーガさんは、次の日の内に「直接話した方が早いですから」と言って、王都へ飛び王子との調整を進めている。
恐らくナーガさんであれば、そう時間も経たずに調整するだろうと、軽く考えていたのだが……
嫁達と一緒に昼食を食べている中、来客を知らせるノッカーの音が響き渡る。
「誰だろう?」と玄関を開けると、少し疲れた様子のナーガさんが立っていた。
「アルド君、調整は無事に終えました。1週間後の朝から王都で王子と謁見となります」
え? もう? 仮にも相手は一国の王子様ですよ? 早くても後1~2週間はかかると思ってたんですが……アナタ優秀過ぎませんかね?
取り敢えず、応接間へ上がってもらい、事の詳細を聞いたのであった。
「ナーガさん、お疲れ様でした。こんなに早く謁見の場を用意してもらえるなんて、思ってもいませんでした……何か無茶とかしてませんよね?」
ナーガさんはオレの言葉に、悪い顔を浮かべながら口を開く。
「大丈夫ですよ。何も無茶な事はしていませんから……ただ、王都のギルドマスターへ、溜まっていた借りを返してもらっただけです」
小さく「ストレスで、髪の毛がだいぶ抜けたでしょうが良い気味です……クククッ」と呟いていたので、この件に深入りするのは止めておこう。
お茶を飲み、落ち着いた所で、改めて詳細を聞かせてもらった。
どうやら謁見は王城の中、王子の執務室で内々に行われるらしい。その際には、今まで放置していた件を謝罪し、新たに王子からの依頼を受ける、約定を交わす事になるのだとか。
期限や条件についての詳細は、流石にナーガさんも首を突っ込む事は出来なかったそうだ。
恐らく、諸々の詳細については、その場で決める事になると思われる。「予め条件は考えておいた方が良い」と言われてしまった。
確かに何も考えずに向かえば、ほぼ王子側の主張を丸呑みする事になるのは想像に難くない。
問題は、放置していた負い目がある以上、コチラから強い要望を出すのは難しい事だ。
どうしても譲れない部分以外は、譲歩する事になるのだろう。
「………………と言う事です。それと、謁見の場にはアルド君1人で臨む事になります。流石に何も無いとは思いますが、念のため周囲への警戒は怠らず、極力 出された物は口にしないでください」
「分かりました」
ナーガさんとの会話を終えて、先ずは一連の報告のためにも、父さんの下へ向かう事にした。
「アルドです。王子の件で進展がありました。少しよろしいですか?」
「どうぞ」
執務室には、いつものメンツであるエルと父さんの2人がいた。
「先ずはナーガさんから聞いた話から説明します。恐らく………………」
2人へ、何処かの貴族家の子息が「石化病」にかかった事、ドライアドの知恵を借りて、「石化病」の治療薬である「万能薬」の情報を得た事、材料は既に集め終わり、アドに「万能薬」を作ってもらった事を順番に話していった。
「そうか……「石化病」と言えば、徐々に体が動かなくなり、死に至る病だったはずだよ。アル、その「万能薬」をどうやって手に入れた事にするつもりだい? 場合によっては、その薬だけでも奪い合いが起こり兼ねない」
「ナーガさんとも話したんですが、迷宮の宝箱から手に入れたと、嘘を言おうと思います」
「そうだね、それが良い。ドラゴンスレイヤーであるアルの武なら疑われる事は無いだろうしね」
「はい。それと実はナーガさんに王子との謁見の場を用意してもらいました。王子との謁見の際………………」
そこから更に、ナーガさんと決めた件を説明していく。
「………………と言う事で、王子からどうにかして情報を得て、貴族家へ直接「万能薬」を持って行こうと思います。今回の件は、表向き あくまで僕と王子の個人的な話です。であれば、王子の不興を買ってもブルーリングへの影響は殆ど無いかと」
父さんとエルは微妙な顔で黙り込んでしまった。
「これもナーガさんと話した事なんですが、後数年で独立を画策している以上、あまり舐められるのも良くありません。少しぐらいは扱い難い姿を見せるのが良いと判断しました」
暫くの沈黙の後、父さんが口を開いた。
「アルの言い分は分かったよ。話の筋も理解できる。ただ1つだけ言わせて欲しい。アルが全部 背負う必要なんて無いんだ。ただでさえ、使徒なんて大役を背負わされているのに……もう少し、僕達を頼っても良いんじゃないかい?」
「そうですよ。王子との謁見も兄さま1人で向かうのでしょう? 流石に危険すぎます。僕も同席させてください!」
「父様、ありがとうございます。エル、気持ちは嬉しいが、お前は留守番だ。将来、ブルーリングを継ぐお前が来れば、オレ個人の話じゃすまなくなる」
父さんとエルは苦虫を噛み潰したような顔で黙り込んでしまった。
「心配しないでください。十分気を付けますから。それと、僕の移動の痕跡が無いのは少しマズイので、明日には王都へ向かおうと思います」
「騎士に道中の護衛を……」
そこまで言いかけた所で、父さんは口を噤んでしまう。
「今回の件、ブルーリングは関係ありませんので、護衛は結構です……ルイスとネロも回復魔法の修行と、言葉の勉強がありますから。アルジャナ組も、カズイさんは兎も角、ラヴィさんやメロウさんはアルジャナの事をうっかり話しそうですし……王都へは僕だけで向かおうと思います」
「本当に大丈夫なのかい? アルがどれだけ強くても、人には休息が必要だ」
「大丈夫ですよ。何度も通った道ですし。それに、アルジャナに飛ばされた時なんて、1ヶ月以上も1人で生き抜いたんですから」
父さんとエルの何とも言えない顔を見ながら、執務室を後にしたのだった。
自宅へと帰ってきた。疲れた心に、先ずはシャロン成分を補給せねば!
アシェラの腕から優しくシャロンを抱き上げ、首筋へ顔をうずめる。
うーん、この匂い。薄っすら感じるミルクの甘い香りに、少しのオシッコの匂い……むむむ、あ、オムツが濡れてるじゃないか!
「アシェラ、オムツの替えを持ってきてくれないか」
「え? もうしてた? さっき変えたばっかりなのに」
「それだけ、元気な証拠だよ。ねぇー、シャロンちゃん。一杯食べて、一杯出して、早く大きくなってくだちゃいねー」
アシェラはオレの親バカ全開の姿に呆れた笑いを浮かべている。
早速、オムツを代えながら、アシェラ達に先ほどの父さん達との話を聞かせていく。
「3人共、聞いてほしい。父さんとエルに話したんだけどな………………」
3人へは自宅へ帰ってくる度に、途中経過を話していたので短い時間で説明を終える事が出来た。
「じゃあ、アルドは明日から1人で王都へ向かうのですか?」
「ああ、そのつもりだ」
アシェラ、オリビア、ライラは、お互いの顔を見ながら、何かを決意したように大きく頷いている。
「アルド、ボクも行く。妻なら付いて行くのに何も問題無い」
「アルド君、勿論 私も一緒に行く」
「は? ちょっと待て。ライラは兎も角、アシェラはマズイだろ。シャロンはどうするつもりなんだ?」
オレの言葉に答えたのは、意外な事にオリビアであった。
「シャロンは私が見ます」
「は? オリビアが……え? ちょ、ちょっと待って。え?」
「これは3人で決めた事。シャロンはオリビアが見てくれる」
「うん。アルド君を1人にはさせない。私の命に代えても守る」
「アルド、これは何も急に言い出したのではありません。以前からこうなる事も考えて、3人で準備をしていました。アシェラにはアシェラの、私には私の出来る事、やるべき事があります。アシェラとライラはアルドの補佐を。私はシャロンとこの家を守ります!」
そう話すオリビアの目には、明確な決意が見える。
であれば、甘えても良いのか……いや、でも……シャロンが……
「ほ、本当に大丈夫なのか? だってシャロンはまだ首も座ってないんだぞ?」
「大丈夫です。不本意ですが、私とシャロンは明日から領主館に住まわせてもらいますから。マールやお義母様には「いつでも歓迎する」と、言葉も頂いてます」
そこまで……何時の間に根回し してたんだろう。
「分かったよ……言う通りにする。本当は、オレも少しだけ不安だったんだ。ありがとな、アシェラ、ライラ、オリビア。こんなに優秀な嫁を持って、オレは幸せ者だ」
オムツを代えているオレの背に、3人は何も言わずそっと抱き着いてくる。
小さくもう一度、「ありがとう、3人共。愛してる」と呟いて感謝を伝えたのであった。
次の日の朝、領主館の前には、父さん、母さん、エル、マール、オリビアが立ち、オレ達の出発を見送ってくれている。
「では行ってきます」
「ああ、アルなら問題無いんだろうけど、くれぐれも気を付けて」
「兄さま、収納に、兄さま、アシェラ姉、ライラの武器を入れておきます。必要になるようなら、使ってください。恐らく王城では武器を取り上げられるでしょうから」
「悪いな、エル。必要になったら使わせてもらう」
「はい」
皆と言葉を交わし、いざ出発する段になって、母さんが前に出て口を開いた。
「アル、本当は私も付いて行きたいんだけど……」
「母様、何度も話したじゃないですか。母様は次期ブルーリング当主の奥方ですから。流石に同行は無理ですよ」
オレの言葉に、母さんは露骨に不機嫌顔になって何故か文句を言い始めた。
「何よ、アンタは使徒なんだから、姿を変える魔道具でも開発しなさいよ! そうすれば私も付いて行けるのに!」
おま、いきなり何を言い出すんだ……お前はジャ〇アンか? ジ〇イアンなのか?
そんな魔道具を作れるなら、真っ先にオレが使うっちゅーの!
しかし、こうなったコイツに理屈が通じるとも思えない。ヤツの怒りを抑えるため、務めて穏やかに話しかけた。
「か、母様、僕達は大丈夫ですから。それより、シャロンを頼みます。正直、シャロンとアシェラを引き離すのは……この選択が正しいのか、未だに判断できません……お願いです。シャロンを守ってやってください。エル、マールも頼む、この通りだ」
真剣に頭を下げるオレを見て、母さんは小さく溜息を吐いて口を開く。
「分かったわよ……シャロンは私の命に代えても守って見せる。ただ、1つだけ約束しなさい」
「約束ですか?」
「ええ。絶対に3人共、無事に帰って来る事。良いわね?」
「はい!」
「はい、お師匠!」
「はい、お義母様」
「兄さま、シャロンは僕が絶対に守りますから。安心してください」
「アルド、アシェラ、安心して。私だってサナリスをここまで育てたのよ。シャロンに不自由はさせないわ」
「ありがとうございます、皆。行ってきます!」
こうしてシャロンをオリビアに託し、オレ達は王都を目指し旅立ったのである。




