434.サナリス part1
434.サナリス part1
グレートフェンリルの王都を発って1ヶ月と少しが過ぎた頃、オレ達は無事に放置していたマナスポットに到着した。
「じゃあ、アオ。解放するぞ」
「こっちはいつでも良い。ただ周りに魔物がいないかだけは確認しておいてよ」
「大丈夫だ。もう範囲ソナーで確認済みだよ。近くの魔物は全部狩って、ルイス達にも見張ってもらってる」
「だったら良いか。アルドはどこか抜けてるから。僕も心配になっちゃうんだよ」
なんと! ワテクシが抜けてるとおっしゃるか、この上位精霊様は。
ここで言い返しても時間だけが過ぎていくわけで……反論したい気持ちをグッと堪えて、オレは収納から証を取り出した。
「じゃあ、行くぞ」
そうアオへ告げると同時に、証へ魔力を込めた短剣を突き刺した。
既に朽ちかけていた証だったが、短剣が刺さった場所から灰になって崩れていく。
ここで漁夫の利をされるわけにはいかない。直ぐにマナスポットへ、アオとの証である右手の指輪を押し付ける。
徐々にマナスポットが薄っすらと青い光を放ち出した。
皆も緊張していたのだろう。マナスポットが解放されて、肩の力を抜き安堵の溜息を吐いている。
「ふぅ……これでグレートフェンリルで今やれる事は本当に全部終わったな。ブルーリングへ帰ろう」
「はい、アシェラも待っていますしね。でも、マナスポットの解放を初めて見ましたが、こんなに神秘的な物だったのですね……本当にアルドが使徒なのだと、今 心の底から実感出来たような気がします……」
オリビアは、アシェラやライラとは違い戦闘には耐えられない。
自分の目でマナスポットを解放する瞬間を見る事で、オレが使徒だと心の底から感じられたのだろう。
「オレが使徒だと実感した所で、オリビアにも新しい種族を生んでもらわないとなー、むふふ」
「あ、アルド……こんな所で……何を……」
顔を真っ赤にしたオリビアの後ろには、ジト目をした3人の男達の姿が……
「え? あ、ち、違うんだ。ブルーリングへ帰れると思ったら気が抜けて……なぁ、オリビア?」
「知りません! 私に振らないでください!」
「あ、え、ちょ……」
この後ルイス達3人と真っ赤になったオリビアから、散々 文句を言われてしまった……グスン。
30分ほどが経った頃。アオがマナスポットの調整を終えると同時にブルーリングへ飛んできた。
さてさて、先ずはエルと父さんへ一連の報告をしないと。
ルイス達へ感謝を伝え、オリビアには先に自宅へ帰ってもらう事にした。
オレも癒しの空間である自宅へ帰るために、直ぐにでも執務室へと向かわねば!
「アルドです。入ってもよろしいですか?」
「どうぞ」
執務室の中には、父さんとエル、それにローランドの姿がある。
きっと何らかの執務を行っていたのだろう。
「アルド、ただいまグレートフェンリルから戻りました」
「おかえり、アル。報告書は読ませてもらってるよ。大変だったね。ゆっくりさせてあげたいけど、詳細な報告をお願いしていいかい?」
「はい、問題ありません。ではグレートフェンリルへ飛んだ所から。犬神の森に飛んで………………」
この報告は旅の総括だ。整理するためにも、最初から説明していった。
改めて話す事で思うのは、今回オリビアが付いてきてくれた事で、全てが丸く納まった気がする。
シャリアーヌ王女の件と言い、オレを籠絡しようとしていた件と言い、オリビアがいなければ もっと面倒な事になったに違いない。
本当に頭が下がる思いだ。
これは是非、なにがしらの感謝の気持ちを示さねば。
オリビアは生クリームが好きなので、プリンに生クリームを乗せるなんて良さそうだ。
こうして、他ごとを考えながらも、報告を行っていったのである。
「…………と言うわけで、グレートフェンリルのマナスポットを合計3箇所解放し、地竜の巣に魔瘴石で領域を作りました。ただ今後のグレートフェンリル王家との交渉は、お任せする事になります」
「実は既にアルが王都を出て直ぐ、タメイへ親書を持たせてグレートフェンリル王都へ向かわせたんだ。もう、この2ヶ月で何度かやり取りはしててね。こっちは任せてもらって構わないよ」
「そうなんですか? グレートフェンリルは何て?」
「アルの事を傑物のように書いてあったよ。同盟に関しても前向きに検討してくれている。ただ王都のマナスポットに関しては、難航してるみたいだね」
「あー、やっぱり……」
「王家と神殿関係者は直ぐにでも解放したいみたいだけど、宰相が安全面で難色を示しているらしい。僕としては、王家が前向きなのは少し意外だったかな」
アイツ等か……うん、あの親子なら細かい事は気にしないはずだ……国防が小さい事かは置いといて。
「報告はこれで終わりだね。今回は色々と面倒な事が重なったけど、全て良い形で纏まりそうだ。アル、ありがとう。為政者としてお礼を言うよ」
「や、止めてください。僕なんて至らない所ばかりで……本当はもっとスマートに出来れば良いんですけど……」
「充分な成果だよ。傍から見てると、英雄の所業に感じるけどね。そうだろ? ローランド」
「そうですね。アルドぼっちゃまは空を駆ける龍ですから。何処まで登っていくのか、傍らで見届けさせて下さい。素晴らしい冥土の土産になります」
この2人は放っておいた方が良い。特にローランドの目に微かな狂気が見える気がする……
「え、エル、そっちはどうだったんだ? ほ、ほら、腕の具合とか。おかしな所は無いか?」
「大丈夫です! この腕なら、チビのブレスにも耐えられそうです。兄さま、ありがとうございました」
「そうか……でも、違和感を感じたら直ぐに言えよ? 安全が確認出来た技術じゃ無いんだからな?」
「分かりました。違和感を感じたら、直ぐに言いますね」
これで報告は終わったわけだが、エルに少し聞いておきたい事がある。サナリスの事だ。
何とも都合の良い話てばあるが、アシェラの出産が近い事から、先に生まれたサナリスの様子が気になってしまったのだ。
「エル、サナリスは変わり無いか?」
エルに聞いたはずなのに、何故か父さんが食いぎみに横から口を出してくる。
「サナリスかい? 良く聞いてくれたね、アル。実はね、昨日、初めて魚を食べさせたんだよ。勿論 小さな欠片だよ? でもサナリスったら、初めての魚で目を丸くしちゃってねぇ。可愛らしく吐き出しちゃったんだ。チョロっと出る舌がもぅ、これまた可愛くて…………」
あー、これ、ダメな時の父さんだ……
「あ、そ、そうなんですかー(棒) え、エル、、食堂でお茶でも飲まないか?」
「そうですね。では父さま、少し席を外します」
「分かったよ。ローランド、昨日のサナリスは…………」
エルは困った顔で父さんを見ながら、オレに付いてきてくれた。
父さんはと言うと、ローランドと一緒になってサナリスの事を楽しそうに話している。
ローランド、お前もか……その顔、孫を猫可愛がりする近所のジジイと同じだぞ。
オレ達は2人して眉根を下げて、食堂へと向かったのである。
メイドにお茶を煎れてもらって一息ついた後、先ほど言いかけになっていた件を聞いてみた。
「エル、サナリスの様子はどうだ? 以前 言ってた下級精霊の件や額の石の件。何かおかしな所は無いか?」
オレの言葉にエルは少し考えてから口を開いた。
「……大丈夫だと思います。まだ危なっかしいですが、1人で歩けますし、少しだけ言葉を話せるようにもなりました」
「は? もう話せるのか?」
「いえ、まだ『パパ』」や『ママ』、『マンマ』や『バアバ』ぐらいです。しっかり話せるのは2、3年後みたいですね」
「そりゃそうか。でも、話せるようになった言葉の中に『ジイジ』は無いんだな……」
オレ達の間に微妙な空気が流れる。
あんなに可愛がってるのに、父さんはまだ呼ばれていないのか……哀れ。
それからも詳しい話を聞いていると、エルは難しい顔で少しの不安を口にした。
「ただ少しだけ気になる事があるんです……」
「気になる事?」
「はい。ある程度 動けるようになってからなんですが……何も無い場所を見て笑ったり、何かを掴もうとしたり……最初は特に気にして無かったんですが、もしかして僕達では見えない物が見えてるんじゃないかって……」
「見えない物が見える……もしかして魔力か?」
「僕もそう思って、アシェラ姉にも見てもらったんですが、「何も見えない」って言われてしまいました」
「アシェラでも見えないのか……だったら魔力の線は無さそうだな」
「単に感受性の強い子なのかと、安心していたのですが……1月ぐらい前、サナリスの好きなお菓子がテーブルに置いてあって、手が届かないはずなのに、何故か手に取って食べていたみたいです……」
「お菓子を? メイドがあげたんじゃないのか?」
「いえ、昼食の時間が近かったらしく、メイドがお菓子を欲しがるサナリスから取り上げて、ワザとテーブルの上に置いたらしくて……」
「それは……」
「他にもあるんです……サナリスが何も無い場所へ話しかけると風が吹いたり、何かが動いたりする事もあるらしくて……」
「風? 窓でも開いてたんじゃないのか?」
「いえ……窓はしまっていたそうです。そもそも、その日は風が吹いて無かった日でした」
うーん……どう判断したら良いんだろ。
一つ一つは小さな事だが、頻繁に起こるとなると、話は変わってくる。
やっぱり魔力が関係してる気がするんだけと……
話を聞く限り、魔力操作や魔力変化が出来れば同じような事が出来るはずだ。
もしかしてサナリスは天才で、生まれながら魔法が使えるとか。
あー、でもアシェラは魔力が動いて無いって言ってるのか……
むぅ、これは……もう一度、アシェラに見てもらった方が良いような気がする。
「エル、悪いけど、もう一回、アシェラに見させてもらえないか?」
「僕は構いませんよ」
こうしてサナリスを見せてもらう事になった。
しかし、これはどう考えれば良いのか……
どうやら、グレートフェンリルの件が終わってもノンビリはさせてもらえないらしい。
少しの心配を胸に秘め、オレは自宅へと重い足取りで向かうのだった。




