433.獣人族の王 part3
433.獣人族の王 part3
空が白み始めてから寝たオレが起きたのは、昼食の直ぐ前の事だった。
昨日は王との話が終わって直ぐに寝てしまったので、皆には詳しい事は何も話していない。
それでも無理に起こさなかったのは、オレの体を心配してくれての事のようだ。
改めて心の中で感謝して、昨日の経緯を話していった。
「………………って事だ。王と王子には使徒の件を話して、同盟を申し込んでおいた。ここから先の話は、エルと父様に任せる事になると思う」
「そうか。昨日はいつまで経っても帰って来ないから、心配したぜ。取り敢えず、何とかなりそうで良かったな」
「ああ。王が人払いまでしてくれるとは思わなかった。王としてどうなのかってのは置いといて、肝の据わった人物だったよ」
「なるほどねぇ。あの王子にして王ありって所か」
「そうだな」
ルイスとの会話が途切れた所でオリビアが口を開いた。
「グレートフェンリル王の件は良いとして、精霊様はこの地にもマナスポットがあるとおっしゃったのですよね? そちらはどうするつもりなんですか?」
「そっちも当面は保留かな。マナスポットが王都の何処にあるかは分からないし、開放した瞬間から何時でも飛べるようになる。流石に向こうからしたら、許容出来る話じゃない」
「確かにその通りですね……では、私達の目的は全て果たしたと言う事ですか?」
「そうなるかな。後はグレートフェンリルにもう1つある、ティリシア側のマナスポットを開放して、ブルーリングに帰ろう。あっちの証もだいぶ時間が経ってる。ここまで来たらついでに開放しておきたい」
「アルドが、アルジャナからの旅で倒した主の証の件ですね?」
「そうだ。あっちは主がゴブリンエンペラーだった。強敵だったけど、超振動があったから昔みたいにギリギリの戦いじゃなかったんだ」
「ゴブリンエンペラー……お伽噺の魔物ですか……」
オリビアのどこか畏れを含んだ声が、妙に部屋の中に響き渡ったのであった。
使徒の件を話してから1週間が経った。
この1週間は、苦労性っぽい宰相やら国の重鎮やらと会談し、休む暇の無い忙しい日々を過ごしている。
実際に国の要職の方々と話してみた感触は、どうやらグレートフェンリルとしてはブルーリングとの同盟に前向きなようだ。
これは非常に嬉しい話であり、頑張った甲斐がある結果となった。
そして、これ以上の話は、オレに決定権が無い事から、ブルーリングより正式に使者を送る約束を交わし、この国をお暇する事になったのである。
『この1週間、驚く事ばかりだったぜ。しかし、ジジイ共……マナスポットぐらい解放させろってんだ。そしたら、お前も好きに来れるようになるんだろ?』
こう話すのはドーガ王子だ。最初こそ敬語で話していたが、慣れてからは元の言葉遣いに戻っている。
これはドーガ王子が言い出した事で、お互いに敬語は無しで話したいと頼まれてしまったのだ
お陰で、今では仲の良い先輩、後輩のように接している
『ああ、そうだな。でも国の事を考えたら、危機感を持つのはしょうがないだろ。ドーガの方こそ、もう少し考えた方が良いんじゃないか?』
『ケッ、お前もそっち側かよ。それにマナスポットを解放すれば、ここへフェンリル様が来てくれるかも知れねぇんだろ? だったら時間の問題だろうけどな』
実は王都のマナスポットは、王城の端にある大きな岩であった。
アオに直接見てもらったので、間違い無いはずだ。
しかし、そうなると疑問が出てくる。マナスポットが、何故こうも無造作に捨てられていたのか?
直ぐに宰相に調べたてもらった結果、遠い昔 この場所には神殿が建っていたらしい。しかし、王城を増築する際に移築したのだとか。
今回、改めてマナスポットだと言う事が分かり、王城の一部を取り壊して、再度 この場所に神殿を移築するよう神殿関係者から激しい要請が出ているそうだ。
お前等、ガラの街でも同じ事をしてただろ……
そっちの件も伝えておいたので、「急いで神殿を建てなくては」と、宰相が慌てていた。
全く……この適当さは獣人族の特性なのか? 大らかなのは良いが、締める所は締めて頂きたいと切に願う所である。
これで、この地でオレの出来る事は全てやったはずだ。
定期的に収納経由でブルーリングへ報告は入れているので、後はエルに引き継ごうと思う。
「これでオレの仕事は終わったかな。想定より長くなったけど、そろそろブルーリングへ帰ろうか」
「そうですね。帰りにマナスポットを解放するのであれば、帰る頃には冬に入ります。アシェラの出産も近いでしょうし、そろそろ切り上げた方が良さそうですね」
「出産……そうか……もうすぐ子供が生まれるのか……」
イカン、抑えようとしても、顔のニヤケが止まらないぞ。そんなオレをオリビアだけじゃなく、ルイス達もニヤニヤと見つめてくる。
「な、何だよ。良いだろ、別に」
「クックック、オレ達は何も言って無いだろうが。使徒様でもやっぱり子供が生まれるのは嬉しいと見える。しかし、帰ったらサナリスも歩けるようになってるだろうし、新しい種族ってのはどんな特性を持ってるのかねぇ」
それはオレも気になっている所だ。サナリスの見た目は、額の青い石以外に変わった所は無いし……精霊が寄って来るってのも、何か特段 問題が起こっているとは聞いて無い。
そもそもアオはマナの精霊だ。オレ達にマナは感じられないので、気が付いてないだけなのか?
アオがもう少し気にしてくれれば何か分かるかもしれないけど……アオだしなぁ……
「アルド、どんな特性を持っているかなど、小さな事です。どんな子が生まれようとも、私達は愛情を持って育てれば良いのです」
「そうだな、そうだよな。ありがとう、オリビア。よし、ブルーリングへ帰ろう!」
こうして、慌ただしくはあるが、明日には王都を発つ事をドーガに伝えたのである。
『おい、そんなに急がなくても良いんじゃねぇか? もっとゆっくりして行けば良いだろ』
こう話すのはドーガ王子である。オレが明日にはここを発つ件を伝えた事での言葉だ。
『ゆっくりしたい所だけど、オレも色々と忙しいんだよ。マナスポットを解放しないといけないし、何よりもうすぐ子供が生まれるんだ。絶対に出産の際には傍にいてやりたい』
『何だそれ。子供なんてモンはほっときゃ勝手に生まれてくるモンだぜ。お前が付いてる必要なんて無いだろうが』
コイツは……現代日本なら離婚されかねん案件だぞ? まぁ、この世界では一般的な考え方ではあるようだが。
『ドーガはそうかもしれんが、オレは違うんだよ。考えてみろ。自分の息子か娘に初めて会うんだぞ。絶対に何かが無いように、近くにいてやりたいじゃないか』
『うーん……オレには息子がいるが、そんな風に考えた事は無かったな。でも言われてみれば確かに……いや、でも……うーん……』
何故かドーガは考え始めてしまった。コイツは先ず、たまには脳ミソを使う事から始めた方が良さそうだ。
それから、ドーガだけで無く、王や苦労性の宰相から多少の引き留めはあったが、丁重にお礼を言いオレ達は王都を発つ事にした。
勿論 王都を発つ際には、世話になったググ領の領主代行ギリクへの挨拶も忘れてはいない。
こうして、きっと直ぐ戻る事になると思いながらも、オレ達は王都を旅立ったのである。
グレートフェンリルの王都を発って、既に一ヶ月が過ぎようとしていた。
季節は冬に入り、もう一ヶ月もすれば雪でも振ってきそうだ。
「オリビア、寒くないか?」
「大丈夫です。お義母様からエアコン魔法を習っているので、この程度の寒さは気になりませんよ。尤もこの風は少々歩き難いですが」
実はグレートフェンリル全域に言える事なのだが、他の土地と比べて風がかなり強い。
これは大平原と言われる、平原地帯にグレートフェンリルがある事に由来する。国土全体が平原であり、高い山など一切無い事から非常に強い風が吹くのだ。
「ドライアディーネとは偉い違いだぜ。あそこは山ばかりで、こんな風が吹くなんて事は無かったからな」
こう話すのはルイスである。因縁あるオクタールを含め、エルフの国ドライアディーネの国土は、大森林と呼ばれる山間部にある事からの言葉だ。
「そうだな。たぶん遠い昔、種族の特性に応じて住む場所を決めたんだろうな。エルフはドライアドが植物の精霊ってのもあって、山間部に住んだんじゃないか? 多少の不便さも魔法で補えば苦にならないしな」
「それだと獣人族はフェンリル様と一緒に走り回れる土地って事か? 確かにアイツ等には似合ってるな。喜んで草原を走り回りそうだぜ」
オレとルイスの会話を、獣人族のネロとエルフのカズイが微妙な顔で聞いている。
「あ、いや、2人共、悪口を言ってるわけじゃないぞ? 種族の特性を理解して国を作った先人達が凄いって言ってるだけで……なぁ、ルイス?」
「え? あ、ああ。そうだぜ。それを言ったら魔族なんて……土地を選ぶ余裕も無かったんだろうしな。正直、エルフと獣人族が羨ましいぜ」
あー、これは……先日のグリム来襲の件もあり、種族全体の話はルイスにとって特大の地雷だったかもしれない。
何と言って声をかければ良いのか、全員が口を閉ざし場に沈黙が訪れてしまう。
そんな空気を破ったのは意外な事にオリビアであった。
「ルイス、アナタの悪い癖が出ていますよ。アルドと会う前のアナタは、小さな事で直ぐにひがんで。最近は治ったと思っていたのですが、私の勘違いだったようですね。そもそも、土地柄が何だと言うのです。ティリシアの地も、一生懸命 親から子、子から孫へと受け継いできた大切な土地のはずです。そんな風に、アナタが簡単に卑下して良い物ではありません」
おぅふ、これは大正論だ。確かに何処の土地も、初めは何も無かったはずである。
先達がそこに家を建て畑を作り、そしていつしか国が出来たはずだ。
その連綿と続いて来た全てを、簡単に否定するなんて事、誰であってもして良い事じゃない。例えそれが子孫であったとしてもだ。
オリビアの言葉を受け、ルイスは苦虫を噛み潰したような顔をしながら口を開く。
「アルドと会って何年経ったと思ってやがる。小さな頃の事をいつまでもネチネチと……全く……でも、ティリシアの事はオレが悪かった。グリム様の事もあって、少しナーバスになってたみたいだ。悪かった」
ルイスの言葉を聞きオリビアは、まるで困った弟を見るような目で見つめている。
「何だよ、その目! お前はいつもオレの事を下に見てるだろ! だいたいだな…………」
そこからは、和気藹々? と兄妹喧嘩が繰り広げられたのだった。




