431.獣人族の王 part1
431.獣人族の王 part1
ルイス達の成長に驚いた次の日、早速ドーガ王子へ王との面会を頼む事にした。
シチュエーションはこうだ。
謁見のような正式な場では無く、お茶会を開くので、顔だけでも出してほしいと頼むのである。
やはり、どうやっても不意打ちのような面会では、今より更に印象が悪くなってしまう。
今回は顔見世だけ。必要なら後日、正式にエルフの王族から場を作ってもらった方が良いと判断したのだ。
「結局、こうなったか。これならググ領でのゴタゴタを片付けた後、とっとと帰った方が良かったんじゃないか?」
「そう言うなよ。やってダメだったんだからしょうがない。少なくてもドーガ王子とは知己を得たんだ。今回はそれで良しとしよう」
「そうですよ。相手は一国の王です。簡単に会えるはずは無いのですから、時には引く事も大切な事です。嫌われてしまっては元も子もありません」
「分かったよ。それで、そのお茶会とやらは、いつ開くんだ?」
「ドーガ王子は任せておけって言って、直ぐに何処かへ行っちゃったからな……正直、分からん」
「あのバカ王子に任せて大丈夫なのか? 嫌な予感しかしないんだが……」
ルイスの言葉に、苦笑いで返すしか出来なかった。オレも全く同じ事を考えていたからだ。
あのアホは何も考えずに行動しそうで怖い……ヘタすると、引っ掻き回されそうな気がする。
しかし、今の状況では、アホ王子以外に頼る相手がいないわけで……領主代行のギリクに頼もうかとも思ったのだが、今回の一連でかなり強引に話を進めたらしく、難しいと断られてしまったのだ。
こうして王城の1室で、これからの予定を考えていると、不意に扉を乱暴にノックされてドーガ王子の声が聞こえてくる。
『おい、アルド、いるか? オレだ、ドーガだ。開けるぞ』
こちらが返事をする前に、このアホ王子は扉を開けやがった。
お前なぁ、それじゃあノックの意味が無いだろうが……万が一、オリビアが着替えでもしてたらどうするつもりだったんだ? オレ、本気でキレるぞ?
そんなオレの気持ちを微塵も考慮せず、アホ王子は一方的に話し始めた。
『お茶会の用意が出来たぞ。親父には好きな時に顔を出すように言っておいたぜ』
『そ、そうですか。王は参加してくれるのですか……良かった』
『あ? ちゃんと伝えたから来るだろ。じゃあ行くぞ。付いて来い』
え? おま、まさか……返事をもらって無いの? 嘘だろ?
オレ達の動揺を気にした様子も無く、アホ王子はどんどん先に歩いていってしまう……
結局、コイツには何を言っても無駄だと諦めて、オレ達は全員でドーガ王子の後を付いて行くのであった。
お茶会が始まり、この場は妙な緊張感に支配されている。
参加者は、オレ、オリビア、ルイス、ネロ、カズイに加え、主催者であるドーガ王子。そして何故かもう1人。美しい淑女が優雅にお茶を飲んでいた。
この女性は誰だ? 全員の視線が集まっているのに気が付いて、アホ王子が口を開く。
『こいつはオレの妹のシャリだ。朝飯の時に見かけたからな。ついでに誘っておいた』
ちょ、おま、特級のアホなのか?! 妹のシャリって、オレが縁談を蹴った相手じゃねぇか! どうすんだよ!
オレの動揺を他所に、この場の空気が一気に張り詰めるのが分かった。
『お、お初にお目にかかります。あ、アルド=ブルーリングと申します。で、殿下を拝謁出来た事、誠に光栄で御座います……』
全てがいきなりの事で、当たり障りの無い言葉で挨拶をすると、次にオリビアは口を開いた。
『私はアルドの「妻」のオリビア=ブルーリングと申します。殿下におきましてはご機嫌麗しく存じます。グレートフェンリルの作法には疎いもので失礼は平にご容赦頂きたく……』
殊更「妻」と言う部分を強調するオリビアに、シャリ王女は眉間に皺を寄せて返してくる。
『シャリアーヌ=ロワ=グレートフェンリルです。お兄様から言われ、お茶会に参加させて頂きました。この場は正式な場ではありません。無礼講で構いませんので、是非 「詳しい」お話を伺わせて頂きたいわ』
そこからは、全員が自己紹介をするものの、オリビアとシャリ王女の間にある、謎の空気に圧倒されオレ達の口が非常に重かったのは特筆しておく。
結局、お茶会は2時間ほど開かれたが、王が現れる事は無かった。
やはりあのアホ王子は、一方的に言っただけで何のフォローもしていなかったのだ。
そして問題のシャリアーヌ王女とオリビアだが……何故か仲良くなっていた。
事の発端はシャリアーヌ王女がくしゃみをした事である。
今はそろそろ秋も暮れて、冬に入ろうと言う季節。見た目を重視したからか、少し薄着のシャリアーヌ王女が小さくくしゃみをしたのをオリビアは見逃さなかった。
『シャリアーヌ殿下、少しお寒いですか?』
敵認定をされていたオリビアだったが、本当に心配した様子でシャリアーヌを気遣ったのだ。
『え、えぇ……今日は少し冷えますね……』
『殿下、少し手に触れさせてください』
『え? て、手ですか? 構いませんけど……』
『では失礼します』
そうしてオリビアはシャリアーヌ殿下の手に触れて、エアコン魔法を使ったのだ。
『あ、温かい……これは……何故?』
『これはエアコン魔法と言います。殿下の周りだけ、温めました』
『エアコン魔法……こんな魔法が……』
『はい。殿下も魔法に興味がおありなんですか?』
この出来事が切欠で、2人は意気投合したのである。
後から聞いた話では、シャリアーヌ殿下はグレートフェンリルでは珍しい魔法使いなのだそうだ。
生まれつき獣人族としては魔力量が多かった事から、小さな頃から魔法に興味があったのだとか。
しかし実際に魔法を習ったは良いが、周りは圧倒的に脳筋が多く、魔法の優位性を認めない。
酷い者になると、『魔法なんて口先だけでゴニョゴニョ言うだけで、実戦では何の役にも立たない』と言い放っているそうだ。
脳筋の国……そんな感想を持ったと同時に、ドーガ王子が口を開いた。
『魔法ねぇ……オレもそう思ってた口だったが……昨日の模擬戦を見て、考えを改めたぜ』
何の事かと思ったら、カズイの戦闘力とオレがウィンドバレットを纏ってルイス達に圧勝した件だった。
アホ王子曰く、騎士団の中でも昨日はその話題で持ちきりだったのだとか。
『魔法がああまで有効だとはなぁ。あの手数で来られちゃ、手も足も出ねぇ。後は威力があればなぁ』
コイツは……昨日のウィンドバレットは当然ながら「そよ風バージョン」だ。
オレの魔法の威力が、あれで精一杯だと勘違いしているらしい。
『ドーガ王子、昨日は模擬戦でしたので、威力を抑えてあります。それに私には無理ですが、魔法を極めれば地竜をも一撃で屠れるようになります』
そこからは、男チームと女チームに分かれて、魔法談義となったのは当然の事だったのだろう。
男チームでは当然の如く魔法の戦闘での有用性を。
女チームでは、もっぱら回復魔法についての考察であった。
何でもグレートフェンリルでは、回復魔法使いが少ないため、欠損など大怪我を負った者は、お隣のドライアディーネまで治療に行く者が多いのだとか。
しかし、それは当然ながら身分が高い者や金を持っている者であり、市井の者は我慢しているのが実情である。
『私は、この国に回復魔法を広めたいのです。そうすれば、欠損などの大怪我をした者も元の生活に戻れるはずです! 先ず手始めに、学園の魔法学科で回復魔法を必修に……』
素晴らしい。王女として民を思う心に、思わず聞き入ってしまうほどであった。
何故こんな優秀な王女の兄がアホなのか……本気で不思議に思う。
そうして最初の頃のギスギスした空気もどこ吹く風。王女とオリビアは旧知の仲であったかのような気安さを見せ始めた頃。
王女が爆弾を投げつけやがった。
『そうです! 回復魔法があれば、今の腑抜けた模擬戦なんかでは無く、より実戦に近づけられるはずなのです! あぁ……血沸き肉躍る殿方の戦い……滾りますわぁ……』
おま、なんば言いよっと? そんな理由で回復魔法を広めるつもりだったの!? オレの感動を返せ!
やっぱりアナタは間違いなくコイツの妹です。オレが保証します。
こうして、何とも言えない気持ちを残して、2時間ほどのお茶会は終わりを告げたのであった。
お茶会も終わり、王子からの厚意でもう1晩だけ王城で宿を借りる事となった。
「この調子だと王との面会は難しいかな……」
「まぁな。でも王子と王女、2人とは知己を得たんだ。今回はこれで良しとしようぜ。ブルーリングが独立するのは、まだだいぶ先だろ? だったら、急ぐ必要は無いんじゃないか?」
「そうだよなぁ。やっぱりここらが頃合いか……良し、明日、ブルーリングへ帰ろう。王への根回しは、引き続きギリク殿へ任せるとして……気長に待てば、機が来る事もあるだろうしな」
「ああ、そうだ。それにあの王子なら、申し込めばいつでも会ってくれそうだしな。たぶん機会があれば、王へ進言くらいはしてくれるんじゃないか?」
王との面会を断念し、明日には帰路へ着く事を話し合っていると、また乱暴に扉をノックする音が響く。
今度は何だ……この乱暴な叩き方は絶対にお前だろう!
肩を竦め、扉に近づこうとしたと同時に声が響いた。
『おい、アルド、早く開けろ。親父が会ってくれるらしいぞ』
は? マジで? 諦めて帰ろうと話していた矢先にこれである。本当にこの国では全てが空回りだ。
『は、はい、直ぐ開けます』
王子来襲を防ぐため閉めてあった鍵を外し、扉を開けると嬉しそうな顔のドーガ王子が立っていた。
『ほ、本当に王が会ってくれるんですか?』
『おう、本当だ。その前に、先ず部屋に入れてくれ』
『あ、すみませんでした。どうぞ』
護衛2人と一緒にドーガが入ってくると、途端に部屋が狭くなる。
この部屋には既にオレ、オリビア、ルイス、ネロ、カズイの5人がおり、ドーガ王子と護衛が入ってくれば当然の事だ。
『殿下、こちらに座って下さい』
『おう、スマンな』
『で、王が会って頂けると言うのは本当なんですか?』
『ああ。シャリのヤツがな、晩飯の時にお前の嫁さんの事を話したんだ。「あの方であれば私は何も言いません」ってな。そしたら親父のヤツ、「ドラゴンスレイヤーと知己を得るのは国にとっても益になるか……」って言い出しやがった。本当、勝手だぜ。シャリの事になるといつもこれだ』
『そうなんですか。シャリアーヌ殿下はとても愛されてるんですね』
『あ? あれは甘やかしてるって言うんだよ。んとによ……で、本題だ。明日から執務が忙しいらしくてな。今からなら「会ってやっても良い」って言ってるんだが、どうするよ?』
『今からですか?』
『ああ。一応、一国の王だからな。明日からは執務で本当に忙しいらしい。お陰でいつもオレに手伝えって愚痴りやがる。オレは机に座ると、体が痒くなるって言ってるのに……酷ぇだろ?』
このチャンスを逃せば、いつ次が来るのか分からない……これは受けるべきだろう。
『分かりました。今から会わせて下さい。お願いします』
『分かったぜ。じゃあ、親父に伝えてくる。使いの者をやるから待っててくれ。それと会うのはお前だけだからな。流石に私室へぞろぞろと出向かれるのは、親父も嫌だろうしな』
『分かりました』
話が終わると直ぐにドーガ王子は出て行ってしまった。本当に台風みたいな人だ。
「アルド、1人で本当に大丈夫ですか? 誰か1人ぐらい連れて行っても……」
「大丈夫だよ、オリビア。武器も収納に入ってるし、昨日オレの腕は見せてある。王の前で何かをしてくる事は無いよ」
「それはそうでしょうけど……」
「アルド、カズイさんから話は聞かせてもらった。使徒の件はどうする気だ?」
「そこは、その場の状況次第かな。信頼できそうなら話してみる。まぁ、護衛もいるだろうし、難しいだろうけどな」
「そうか……分かったぜ。お前の判断に任せる」
いきなりの事だが、王と面会できる事になった。しかし、王のフットワークの軽さと言い、先日の騎士の飲み会と言い、大丈夫か、この国……
オレのボヤキがグレートフェンリルの夜に響くのであった。




