428.獣人族 part2
428.獣人族 part2
オリビアを加えても特に問題は起きず、オレ達は無事にググの街の領主館へ到着した。
最初こそ戦えないオリビアを守らねば! そんな気持ちでいたのだが、その心配は領主館に着くまでの僅かな時間で杞憂となった。
領主館へ到着すると、既に3台の馬車が用意され騎士やメイドが忙しそうに走り回っていたからである。
どうやら王都までの移動は、ググ家として馬車を出してくれるようだ。
考えてみれば、領主代行のギリクも同行するだろうし、当然の事だった。
そんな中、奥からギリクと団長がやってきて嬉しそうに声をかけてくる。
『アルド様、お待ちしておりました。今しばらく準備に時間がかかりますので、こちらでお休みになってください』
『ありがとうございます。申し訳ありません。お言葉に甘えさせて頂きます』
どうやら、準備にもう少し時間がかかるらしい。オレ達はギリクに促されるまま、客間へと移動したのである。
全員が席に着き、一通りの挨拶を終えた後、謎の沈黙がこの場を支配した。
実は先ほどからギリクと団長が、オリビアへチラチラと視線を送っており、「誰だ、この女性は?」と目が訴えているのだ。
先ずはオリビアを紹介しなければ。
『改めまして。これは私の妻の1人、オリビアです。今回のグレートフェンリル王都までの旅に同行させるために連れてきました』
『妻のオリビア=ブルーリングと申します。この度は急な事でご迷惑をおかけしますが、何卒よろしくお願い致します』
嫁を連れてくる……ギリクと団長は、この瞬間 全てを悟ったらしい。
2人は少し動揺しつつも、その場で立ち上がって挨拶を始めた。
『こ、ここググ領の領主代行をしております、ギリク=フォン=ググと申します。アルド様とは、共に苦難へ立ち向かう戦友として懇意にさせて頂いております。今回の件、奥様にも多大な心配をかけた事、申し訳なく思っています。平にご容赦していただければ……』
『ぐ、ググ領の騎士団長を任されています、ノイル=フォン=ググと申します。王都までの旅では、精一杯 護衛を務めさせて頂きます』
どうやら2人は、無理矢理 結婚させられそうになっている件で、妻が乗り込んでくるとは想像もしていなかったらしい。今はひたすら恐縮して小さくなっている。
そりゃそうだろう。オレだってこんな事になるなんて思ってなかったもん!
きっとコイツ等は、オレの事を尻に敷かれている可哀想なヤツと思っているに違いない。その証拠に2人のオレを見る目からは、同情とも憐れみとも取れる感情が見て取れる。
『えー、ごほん……ま、誠に急な事で申し訳ありませんが、こうなりました……よろしくお願いします』
そこからは少しの談笑を挟み、一時の困惑から緩い空気になった頃、団長がゆっくりと立ち上がった。
『すみません。少々 段取りを修正してきますので、皆様方はもう暫くご歓談していて下さい』
あー、きっと馬車をもう1台増やすんだろう。
馬車が3台って事は、オレ達4人で1台、ギリクと執事で1台、世話係のメイドで1台のつもりだったはずだ。
団長は少し焦った様子で部屋を出て行ってしまった……ホンマにスマンこって、ごめんちゃい。
こうして想定より少し遅れて、オレ達は王都へ向けて出発したのであった。
どうやらググ領は、思ったよりも王都まで近かったらしい。出発して5日目の昼には無事 到着する事が出来た。
そして、やはり王都での滞在場所はググ邸である。
フォスタークの王都にブルーリング邸があるように、グレートフェンリル王都にも各領主が館を構えているのだろう。
『アルド様、長旅お疲れ様でした。先ずは部屋を用意してありますので、奥様とゆっくりくつろいでください』
『ありがとうございます、ギリク殿』
しかし、5日の旅とは言え、オレにとってはかなりの苦痛であった。
今までなら、騎士から馬を奪いつつ風を感じながらの旅だったが、今回は完全に馬車に詰め込まれての移動である。
正直、こんなにジッとしているのが辛いとは……これではアシェラに何も言えない。
唯一の癒しは、オリビアと2人きりだった事だろうか。普段 話せない事や考えを聞けたのは、何者にも代えがたい価値があった。
そう、王都までの旅での配車は、オレとオリビアで1台、ルイス達3人で1台、ギリクと2人の執事で1台、メイドが4人で1台の計4台での移動であったのだ。
たまに暇に任せてルイスが同乗する事があったが、そこは兄妹。歯に衣着せぬ言葉で言い合っていた。
ルイスが暇を見ては色街に入り浸っている件を、こっぴどく叱られている様は、見ていて心が洗われるようだった。
うむうむ、ルイス君や、1人だけ桃源郷に入り浸るなんて、神が許してもお天道様は許してくれないのだよ? 次回は是非、ワテクシも誘うように。
勿論 オレの気配を感じたオリビアに、ジト目を向けられたのは特筆しておく。
部屋に案内される際、失礼とは思いつつ部屋割りをこちらで決めさせてもらった。今更 無いとは思うが、襲撃を警戒しての措置である。
決めた部屋割りは、オレ、オリビア、ルイスで1室、カズイとネロで1室だ。
本来なら全員同じ部屋が良いのだろうが、流石にオリビアとネロ達を同室にするのはちょっと……何がって、オリビアの寝顔やあられもない姿を、オレ自身が見せたく無いのだからしょうがない。
ルイスだけは兄妹だけあってパスだ。
そんなルイスは、部屋割りが決まってからブツブツと文句を言っている。
「オレ、ネロ達と同じ部屋が良いんだけど……夫婦の寝室に一緒とか……しかも妹と同衾だぜ? バツゲームかって話だ」
「ルイス、私だってアナタと同じ部屋で寝るなんて嫌に決まってます! あまりアルドに無理を言わないでください!」
オリビアの剣幕に、ルイスは肩を竦めて呆れ顔である。
いや、あのー、オリビアさん……付いて来たのはアナタですよね? そう心の中で思ってしまったが、口に出した瞬間 烈火のごとく叱られるのは火を見るよりも明らかだ。
オレは貝のように口を閉ざし、この件に関し一切の言葉を吐かない事を決めた。
部屋に荷物を運びこみ、一息ついた所でネロ達の部屋へ集まる事にした。
開口一番、ルイスが全員を見回しながら口を開く。
「さて、明日はいよいよ王との謁見なわけだが……アルド、何か策はあるのか?」
「策か……特に考えて無いな。たぶん地竜討伐と素材の献上の件で、なにがしらの褒美をもらえるんだろうけど……」
「褒美ねぇ。正にその褒美が王女の婿ってのがなぁ。オリビアどうするよ?」
「どうもしません。既にアルドには、私達3人が妻として存在する事を正直に話すだけです」
「ふぅ……だそうだ。アルド、お前はどうする気だ?」
「オリビアと同じだ。正直に話して、しっかりと拒絶する。それ以外どうしようもないだろ?」
「だよな。実際にオリビアを見せれば諦めてくれると思うが、相手の人となりが分からない以上、ここで話しててもしょうがないか……」
そこからは、念のため貴重品は持ち歩く事、空間蹴りの魔道具は寝ている間も外さない事、何があっても人死にだけは出さない事を決めて、話し合いを終えたのである。
そして謁見の当日。朝からギリク達は忙しそうに走り回っていた。
「さてと、グレートフェンリル王の顔を見に行くか」
「ああ。一応、エルの収納に全員の予備武器が入ってるからな。万が一の場合は直ぐに取り出すから、オレの傍に集まってくれ」
これは今回の謁見に際し、エルが言い出した事だ。当然ながら王との謁見に、武器の持ち込みなど出来るはずもない。
しかし、オレとエルには収納がある。万が一、何か問題が起こって武器が必要になった場合……取り出す際にはオレの魔力も減るが、無手よりは数段マシである。
エルへ丁重な礼を言い、全員分の武器と同じ物を入れてもらっているのだ。
「分かってるぜ。まぁ、無手とは言え、ドラゴンスレイヤーへ挑もうなんてヤツ、早々いないだろうけどな」
「だと良いんだけど……」
色々な不安を抱える中、全員が準備を終え王城へと出発したのであった。
朝から王城へやってきたオレ達は、予想通り武器の類は没収され、待合室でひたすら待たされ続けている。
既に昼食の時間は過ぎ、しょうがなくリュックの中の黒パンと干し肉で腹を満たした所だ。
「アルド、流石に遅すぎませんか? 何時まで待たされるのでしょう」
こう零すのはオリビアだ。今はかわいらしい町娘の恰好での言葉である。
確かこの服は、オリビアの一番お気に入りの服だったはず。
白のワンピースに淡い青の上着を着て、可愛らしさの中にも大人の色気を感じさせる。
うーん、これ、オレの嫁なんだぜ? このままお持ち帰りしても良いかな?
笑みを浮かべながらオリビアを見つめていると、ルイスが呆れた口調で話し出した。
「お前なぁ、その顔 何とかしろよ。そのだらしない顔を見てると、緊張してるのがバカらしくなるぜ。なぁ、ネロ、カズイさん」
「そうだぞ。アルドばっかりズルイんだぞ。オレも嫁さんが欲しくなってくるんだぞ……」
「ハハハ。仲が良さそうで羨ましいね」
「ん? その言いよう……もしかして、カズイさんもそっち側か? そう言えばオクタールの神官の娘はどうなったんです? この前の休みもオクタールに飛んでましたよね?」
「え? ぼ、僕達はまだそんなんじゃないよ……ちょっと仲が良いだけで……」
「「まだ」ねぇ……ハァ、ネロ、春が来ないのはオレとお前だけみたいだぜ」
バカ話をしていると、不意にノックの音で現実に引き戻された。
『私です。ギリクです。入ってもよろしいですか?』
『どうぞ』
部屋に入ってきたギリクの顔からは、困り果てた感情がありありと伝わって来る。
やはり、これだけ待たされるのは、何か問題があったのだろう。
『実は………………』
ギリクの話では、やはりオリビアを連れて来た事が問題だったそうだ。
元々オレに妻が3人いる事は既にギリクから伝えられていたが、金と地位、爵位と名誉、それでダメなら女に酒も加えて篭絡すれば良いと考えていたのだとか。
マジか! やっぱりオリビアが来てくれて良かった! そんな蟻地獄みたいな誘惑をされたら、ルイス辺りがハマってしまうじゃないか!
いや、オレはほら、カミさん一筋って言うか……絶対に大丈夫ですよ?
しかし、オリビアを連れてきた事から、相手の思惑が全部 潰れてしまったと言うわけだ。
『どうなるんですか?』
『正直、私には分かり兼ねます。何より王女が非常に乗り気だったらしく……そんなに強い男性なら、是非 結婚して子を産みたいと言っていたそうです……』
あ、オリビアさん、その殺気をしまってくれると助かります……ほら、ギリクだけじゃなく、皆 怯えてるじゃないですか……オレも含めて……
『ただ王は別として、王子は是非ドラゴンスレイヤーと知己を得たいと申してます。恐らく謁見は中止になって、王子と個人的に面談する形になるのでは無いかと……」
王子か……また微妙な話だ。グレートフェンリルの王は、まだ40代と聞いている。
恐らくブルーリングが独立する際の王は、今の王であるはずだ。その時に王子がどれほどの権力を持っているのか……
いっそ王が死んじゃえば良いのに。そんな不謹慎な事を考えていると、またしてもノックの音が響いた。
『ドーガ王子がお見えです。入ってもよろしいでしょうか?』
メイドなのだろう。女性の声が聞こえ、部屋に入って良いかを尋ねられてしまった。
『お、王子が……しょ、少々お待ちください。アルド様、先ほどお話したドーガ王子です。へ、部屋へ招いてもよろしいですか?』
ギリクは見るからに狼狽している、きっとここで断ればギリクは非常にマズイ立場へ追い込まれるのだろう。
であればオレが吐く言葉は1つしか無い。
『はい、問題ありません。どうぞ、いらしてください』
そう返し、全員で王子を迎えるべくその場で立ち上がった。
『ど、どうぞ、ドーガ様。お入りになってください』
ギリクがその言葉を告げたと同時に、少し乱暴に扉が開けられ、精悍な顔つきのネコ? 虎? の獣人族が護衛と一緒に入ってくる。
『おい、ドラゴンスレイヤーってのはドイツだ?』
挨拶も何も無しにこれかよ……どこかの副団長が頭をよぎるが、ここは敵地だ。
なるべく刺激しないよう、軽く笑みを浮かべて頭を下げた。
『私です。アルド=ブルーリングと申します。ドーガ王子を拝謁 出来た事、大変 嬉しく…………』
『あー、口上は良い。それよりドラゴンを倒したお前の腕が見たい。今からオレと模擬戦をしろ』
何なんだよ、もぅ……グレートフェンリルには脳筋しかいないのか!
『あ、あのですね。そうは言われましても…………』
『ほら、行くぞ。付いてこい』
王子と護衛以外が呆然とする中、当の王子は楽しそうに部屋を後にするのであった。




