427.獣人族 part1
427.獣人族 part1
いきなりグリムが現れて、オレ達は混乱の真っただ中にあった。
アオから聞いた話は、魔族が徐々に衰退していると言う、恐ろしい内容だったからだ。
直ぐにでもアオの言う通り、ティリシアのマナスポットを修復した方がいいのか? いや、それは対処療法に過ぎない。
根本的に、グリムが魔族を愛さないと、この問題は解決できないはずだ。
この場には解けない難問を突き付けられたような、暗い空気が満ちている。
そんな中、当事者でもあるはずのルイスが、努めて明るく口を開いた。
「ふぅ……グリム様の事は、お前の精霊様やドライアド様、フェンリル様やアグニ様が何とかしてくれるんだろ? じゃあ、オレ達はオレ達に出来る事をしようぜ。ティリシアのマナスポットの件はその後だ。今更 焦って動いても大して意味は無いだろ?」
「いや、そりゃそうだろうけど……お前はそれで良いのか?」
「いつも言ってるだろ。お前が全部背負う必要なんて無いんだ。確かに出来るチカラをお前は持っているのかもしれない。でも、お前がやらなきゃいけない事じゃないだろ? そもそもグリム様に愛想を付かされたってんなら、それは過去に魔族って種 全体が背負った罪だ。お前が責任を感じる必要なんて無い」
「そんな簡単に言わないでくれ……アオにも言ったが、オレはアルジャナからの旅で沢山の魔族に助けられたんだ。カナリスの風の皆やランバさんって商人、カナリス卿にだって世話になった。それにお前やリザース師匠、ラヴィさんだって魔族だろ。オレは、そんなに簡単に割り切れない……」
ルイスは少し笑みを浮かべながら、尚も言葉を続ける。
「ありがとよ。お前が使徒で本当に良かった。オレは今、心の底からそう思ってる。ただな、それをするのは最初じゃない。2番目だ。先ずはマスナポットを解放して世界を救う。それでも余裕があるなら、その時には少しだけチカラをかしてくれ……頼む」
「分かったよ……先ずはグレートフェンリルの件を片付ける。これで良いのか?」
「ああ、そうだ。それで良い」
ルイスはオレとの話を終えると、次にアオへ向き直って口を開いた。
「アルドの精霊様、教えてください。ティリシアのマナスポットは魔瘴石があればいつでも修復できるのでしょうか?」
「ああ、出来るよ。但し、幾つの魔瘴石が必要になるかは分からないけどね」
「え? ま、待ってください……魔瘴石が複数必要なのですか?」
「そうだね。ティリシアのマナスポットは、過去にアルドが解放した どのマナスポットより大きいんだ。あれだけのマナスポットを修復するには、たぶん3個……いや、5個は必要なんじゃないかな」
「5個……そんなに沢山……」
5個の魔瘴石……それは5つの迷宮を踏破しなければならないと言う意味だ。ルイスはその途方も無い労力を考え、言葉を失ってしまった。
「ルイス、心配するな。グリムが持ってきた魔瘴石があるだろ。それを使えば良いだけだ」
「それは……グリム様がお前への贖罪のために取ってきた物だ……魔族のためだけに使って良い物じゃない」
コイツは……俯いて背中を丸めるルイスの尻を、強めに叩いてやる。
「元をただせば、全部アイツ……グリムのしでかした事なんだ。その尻拭いに使うんだぞ? 何が悪い。堂々と使えば良いんだよ。なぁ、皆?」
「そうだぞ。アルドの言う通りなんだぞ。ルイスが全部背負う事なんて無いんだぞ」
「ルイス君、申し訳ないと思うなら、その分アルドを手伝って返せば良いんじゃないかな? だって2人は親友なんでしょ? 困った時はお互い様だよ」
「ネロとカズイさんの言う通りだ。そもそもお前は、ティリシアまでオレを探しに来てくれたじゃないか。オレはその借りも、まだ返してないんだからな」
「いや……あれはグリム様の代わりに贖罪をするためで……」
この期に及んでも、まだごちゃごちゃと……本当にお前ってヤツは……
「ハァ……ルイス、もう良いだろ? そんなに背負い込むな。どうしてもお前が首を縦に振らないなら、この魔瘴石を今ここで叩き壊すぞ。正直 アイツの世話になるのは気が進まなかったんだ。実際、この魔瘴石も持て余してるんだからな」
ここまで言った事で、やっとルイスは顔を上げてくれた。
少し恥ずかしそうにしながら、ゆっくりと口を開く。
「分かったよ。ありがとな、皆。悪いが その魔瘴石、使わせてくれ」
こうして、いつのタイミングかは分からないが、グリムの持ってきた魔瘴石を使って、ティリシアのマナスポットを修復する事が決まったのである。
少しの時間が経ち、全員が落ち着いてからの事。
「ふぅ……話を戻すぞ。それでギリク殿は何て言ってたんだ?」
「あ、そうだ、そうだった……色々あり過ぎて忘れてたぜ。本来はそれを伝えに来たんだったよな」
ルイスの言葉に、この場にいる全員が頷いている。
これも全部グリムのせいだ。アイツだけはいつかギャフンと言わせてやらねば!
そこから聞いたルイス達の話では、今から2週間後にグレートフェンリルの王都で謁見が決まったらしい。
しかも、地竜討伐の功績により、貴族同席の中で大々的に行われるのだとか。
「ちょと待ってくれ……貴族の同席ってどう言う事だ? オレはなるべく地味にって言ったよな?」
「ギリク殿もそう動いたらしいんだが、王が娘の婿を皆に披露するって言って強引に決めたそうだ」
おい、ちょっと待て……オレが婿に入る話、まだ消えて無かったの?
ハァ……どっかでオレが使徒だって話さないといけないのか……そうすれば、強引に娘と結婚させようなんて思わないはずだ。
どうしたものかと考えてた所で、オレの隣から、とびきりの殺気が2つ吹き上がる。
あ……そう言えば、この話は報告していなかった……周りに心配させないように、敢えて隠していた案件だ。
この場には、当然ながら散歩に付いて来たアシェラと、ルイスに伝言を届けに来たオリビアがいるわけで……2人は薄っすらと笑みを浮かべているのに、目の奥が笑っていないと言う、恐ろしく難解な顔でオレを見つめている。
「あ、アシェラ、オリビアも……べ、別に隠していたわけじゃないんだ。ただ心配かけたくなかっただけで……ほ、本当だ! 信じてくれ!」
「うん……しーーっかり聞く。だから全部キッチリ話して」
「私もじっくり聞かせてもらえますか? 夫がとんでもない事を隠していたのを、見過ごすわけにはいきませんから……ねぇ、アルド?」
2人は尚もとびきりの殺気をオレへと向けてくる。ご、誤解だ! 信じてくれ! オレは無実だ!!
そこからはルイス達、立会いの下、2人から尋問され続けたのであった。
その間、ルイス達は一切の声を発さず、借りて来たネコのようになっていたのは特筆しておく。
何とか2人からの尋問を切り抜け、やっと少し落ち着いた空気が流れだした頃。
「………………って事で、オレは断ったんだ。それはギリク殿も理解してる。ただ、どうしても王が納得してくれなかったみたいだ。そうだよな、ルイス」
「うぇ? お、オレ? お、おう、その通りだ。オレは獣人語を話せないから、詳しい内容は分からなかった……で、でもアルドは、とびきりの殺気を出してギリク殿を脅してたぜ。オレがコイツを抑える程度にはな」
事の経緯を聞いて、やっと理解してくれた所で、アシェラが先に口を開く。
「話は分かった。でも浮気ダメ、絶対!」
「お、おう」
こうなると、当然 次はオリビアの番だ。
オリビアはアシェラと違い、何かを考えながら話し始めた。
「話は理解できました。でも何故 話してくれなかったかは納得してませんよ? ただ王との謁見には、私達の3人の誰かが付いて行くのが良さそうな気がします」
「お、お言葉のままに……」
これは付いてくるって事なの? そうなると、順当にいけばライラなのだろうが、言葉が話せないと意味が無いわけで……
もしかして、獣人語を話せるようになったらしい、オリビアが付いて来る流れになるのか?
まぁ、兄であるルイスもいるし問題は無いのかもしれないが。
少しの心配の種を抱えつつ、ググ領から王都への移動も考慮し、1週間後にグレートフェンリルへ飛ぶことになったのである。
あれから自宅へ帰り、ライラとも相談した結果、やはりオリビアが付いて来る事に決まった。
そして予定の1週間が経った朝の事。
以前 作った新品のワイバーンレザーアーマーに身を包み、腕には「石」の付いたブレスレットを着けている。
傍から見る分には、貴族の娘が冒険者の真似事をしているように感じるだろう。
「オリビア、本当に付いて来るのか? 絶対に守るつもりだけど、もしかして戦いだってあるかもしれないんだぞ?」
「大丈夫ですよ、アルド。私だって学園では魔力学科の主席だったのです。3年生の競技会では、騎士学科を抑えて優勝したのですよ? 覚えてませんか?」
そう言えばそうだった。オレとエルは王からの命令もあって、2年生から競技会には出場していない。
代わりに魔法学科の代表となったのはオリビアである。
そして何とオリビアは、2年生の大会では惜しくも決勝で負けてしまったが、3年生では見事 優勝を勝ち取ったのだ。
因みにSクラスの教師が圧力をかけたらしく、ルイスとネロは競技会に参加できなかった。その頃には2人共、冒険者として活動していたから、と言うのが理由だったはずだ。
「そう言えばそうだったな。随分前の事で忘れてたよ」
「勿論アルド達とは比べ物になりませんが、自分の身ぐらい自分で守れます」
そう言って、右手に杖を持って魔法を撃つ格好を見せてくる。
うーん、実にかわいらしい。ここはオレちゃんが、戦闘について手取り足取り教えてあげねば! ついでに夜の戦闘の方も……ぐへへ。
オレのだらしない顔を見て、残りの嫁2人が呆れた顔で見つめてくる。
「アルド、もっと真面目にやる!」
「アルド君、絶対オリビアに怪我をさせないで」
おっと、もう少し真剣にならないと……貴族の娘であるオリビアに実戦経験は無いのだから。
「分かった。絶対にオリビアは守って見せる。安心して待っててくれ」
「うん、アルドが本気ならそれで良い。それとオリビア、これ。オリビアのお気に入りの服が入ってる」
「服ですか? アルド達は鎧姿で謁見するのでしょう? 私もこの鎧で臨むつもりでしたが……」
「ダメ。アルド達はドラゴンスレイヤーとしてだけど、オリビアは違う。もっと大事な女の戦いがある。この服は戦闘服。絶対に持って行くべき」
「女の戦いですか……言われてみれば確かにそうですね。分かりました、アシェラ。この服を着て謁見に臨みますね。王女だろうと、アルドは絶対に渡しません!」
3人は鼻息荒く頷き合っている……この団結力は一体……
色々な思惑が重なる中、こうして、オレ、ルイス、ネロ、カズイさんに加え、オリビアがグレートフェンリルへの旅に同行する事になったのである。




