421.地竜の王 part3
421.地竜の王 part3
ネロに抱かれながら、なけなしの魔力でアオを呼び出した。
「ここは? うわ!! ち、地竜がいるじゃないか!! あ、アルド、僕をどこに呼び出すんだよ!」
「すまない、アオ……悪いけど、直ぐに領域を作ってくれ……」
不思議な事に、耳が潰されているにも関わらずアオの声だけはハッキリと聞こえる……自分の声すら聞こえないのに。
「アルド!? どうしたんだよ、その姿! ボロボロじゃないか!」
「急いでるんだ……頼む、領域を……」
アオは、ボロボロになってネロに抱かれているオレを見て、全ての言葉を飲み込んで直ぐに領域を作ってくれた。
魔力が急速に回復していくのを感じる……これなら!
ここからは、魔瘴石を守りながらの戦いになるだろうが、領域の中なら超振動だって制限無しに使えるはずだ。
最悪は隙を見て、至近距離からのコンデンスレイだって撃てるかもしれない……勿論その場合は、オレも燃え尽きるだろうが……
しかし、事ここに至っては、命を惜しんでコイツと戦うほどの余裕は無い。
「ネロ、アオ、助かった。直ぐにここから退避してくれ」
「……、…………………、………」
「あ、アルド、本当に大丈夫なのかい? あの地竜、凄い量の瘴気を持ってるよ……」
「ネロ、耳をやられて何も聞こえないんだ。生きてたら後でゆっくり聞くから。頼む、直ぐに逃げてくれ。アオもだ。今回は流石に大丈夫とは言えない。オレに何かあったら……エルの事を頼むな」
ネロはまだ何かを言っていたが、本当にオレの耳が聞こえない事が分かったらしく、悔しそうな顔でルイス達の下へ去っていった。
「し、死ぬなんて許さないからね! 絶対、絶対に生きて帰ってきなよ! 約束だよ!」
もう返事をしている余裕は無い。言葉の代わりに片手を上げると、アオは心配そうな顔で消えていった。
さあ、第2ラウンドと行こうか。ここからは魔力の制限が無い分、さっきまでのオレとは違うぞ!
最初から魔力武器(大剣)に超振動をかけ、念のために魔力を纏って防御力も上げておく。
準備が全て整った後、空へ駆け出そうとした所で、頭の中へ声が響き渡る。
『精霊と共にある者……お前は今代の使徒なのか?』
いきなりの声に驚いて周りを見るも、誰かがいる様子など微塵も無い。
え? どこから? 誰が?
敵か? 味方か? 耳が潰れて何も聞こえないはずなのに……しかし、今はノンビリ考えている暇など無いわけで。
構わず無視しようと決めた瞬間、目の前の地竜が揺れるような振動と共に、その場へ座り込んでしまった。
『待て、質問に答えろ。お前は今代の使徒なのか? 何故 我を襲う。使徒ギギとの盟約は守っているはずだ』
は? え? ちょっと待って……まさか……
目の前の地竜は尚も座ったまま、オレを見つめ続けている。
「ま、まさか……しゃべってるのはお前なのか……? え? うそ?」
『お前とは不敬だな。我は地竜の王。かつてギギと共に旅をした、使徒の従者だ』
ちょ、ちょっと待って! 地竜って話せるの? しかも使徒ギギの従者だった? 更に盟約とか。情報量が多すぎるんですが……
オレだけで無く、母さんやライラ、全員が驚愕した顔を晒しながら、地竜の王との話し合いが始まったのである。
今は地竜の王の前に全員が集まり、和気藹々……いや、緊張の面持ちで話し合いを行っている。
取り敢えずの休戦の後、最初にエルの回復を行い、次にオレの耳を治した。そしてエルが意識を取り戻した所で話し合いの席についたのである。
母さんは最後まで渋っていたが、地竜の王が人の言葉を解する以上、力づくで押し通すつもりは既に無かったようだ
まぁ、実際は戦っても負けそうなので、体よく折れてくれたとも言うが。
先ずはいきなり襲い掛かった事を謝罪をし、聞いた地竜の王の話はこうだ。
遠い過去の事、地竜の王が卵から生まれた時、最初の記憶は使徒ギギのベッドの中だったそうだ。
今となっては経緯不明だが、地竜の卵を手に入れたギギは、自分自身で温めて孵化させたのだとか。
ちょっと待って。どこから突っ込めば良いんですか……地竜が卵で繁殖するのは良いとしても、わざわざ自分で温めて孵すとか意味が分からない。
そして更に意味不明な事に、ギギは地竜の王を愛情込めて育ててくれたらしい。
「……」
全員が何と言って良いのか、言葉に詰まっている。
そりゃそうだろ。ヒヨコやウズラならまだしも、地竜って魔物じゃん! 卵を孵すって、鳥なの? インプリンティングなの? しかも、氷結さんよりよっぽど理性的って……魔物にも知性ってあったんですか?
沸き上がるオレの疑問に、地竜の王 自身が答えてくれた。
『我は確かに魔物ではあるが、幼い頃は食事から身の回りの一切を、ギギとフェンリルが用意してくれた。そして、言葉を解する知性があると分かってからは、父ちゃん……ごほん、ギギは人族の言葉を教えてくれたのだ』
おま、今 父ちゃんって言ったよな? あー、何かギギとコイツの関係が分かってきたぞ。
知ってか知らずか、使徒ギギは兎に角、コイツを卵から孵化させて愛情を込めながら育てたんだ。
そして、コイツもギギへ父親に向ける愛情を持つに至ったのだろう。
「あ、アナタと使徒ギギの関係は分かりました。じゃあ、さっき話していた盟約と言うのは何ですか?」
『うーむ、今代の使徒であれば無関係では無いか……良いだろう。ギギは自身の死期を悟った頃、マナスポットを手放す旅へ出た。ギギが死ねば、当然ながら何が主になるか分からぬからな。それを防ぐため、各地のマナスポットを手放し、代わりに動物を主へと据えていったのだ』
「なるほど……確かに主不在のマナスポットを放置するのが危険な事なのは分かります。自分の死後を憂いて、過去に解放したマナスポットを動物の主に譲り渡したんですか」
『その通りだ。そしてまた、ギギは我の身の安全にも心を砕いてくれた。その頃の我は、既に成竜になっていたからな。ギギの子供達にも、我を恐れる者が現れ始めていたのだ』
「それも分かる話です……大きすぎるチカラは恐れを生みますから……」
地竜の王は寂しそうな顔でゆっくりと頷いた。
『ギギはマナスポットの中でも、一番 果てにある物を選び、我に守るよう頼んできた。以来、我はマナスポットが汚染される度に、新たに生まれた主を屠っている。それこそ、我がこの地に住む理由だ』
「そうだったんですか。確かにガラの街の文献では、魔物の襲撃がある度に地竜が倒していたと書かれていました。でもアナタは、自身でマナスポットを手に入れようとは思わなかったんですか?」
『我がマナスポットを? くだらん。我は地竜の王だ。既に比類無きチカラを持っている。マナスポットなど手に入れてみろ、数年で寿命が尽きてしまうではないか。あれは弱く浅はかな者だからこそ、欲するチカラだ。我からすれば愚かとしか言いようが無い。尤も、我の眷属であっても、過去には我に成り代わらんと、マナスポットを欲する者もいたがな。可哀そうだが、その都度 屠ってきた』
「そんなことが……」
地竜の王の話は全てが筋が通っており、非常に分かる話である。
きっとオレやエルも、自分の寿命を悟った際には、過去に解放したマナスポットを動物に譲る日がくるのだろう。
地竜の王はそれからも、何処か懐かしそうに昔話を語っていく。
きっと、この地では、こんな昔話を出来る相手などいなかったのだろう。竜故に、表情は窺い知れないものの、終始 機嫌良く話していた。
『だいぶ時間も経った。続きは明日にして、今日は休むと良い』
おぅふ、気まで使えるとは! 何処かの魔法使いに、アナタの爪の垢でも煎じて飲ませたくらいです。
「あ、ありがとうございます。しかし、休むと言っても、何処で……」
『この地には、我を恐れてどんな魔物も入ってはこない。好きな場所で休むが良い』
なるほど……確かに地竜の王を、襲うなんて頭のおかしいヤツなんているわけ ありませんよね?
いやー、こんな理性的な方を、襲うバカがいたなら今代の使徒であるオレがやっつけてやりますよー(棒)
魔瘴石でブルーリングへ飛ぶことも考えたが、まだ話し合いの途中だ。母さんとも相談した結果、オレ達はこの地で一晩の休息を取る事に決めた。
ぶっちゃけ、ブルーリングへ逃げ帰ったが最後、この地へ飛ぶなんて勇気は出て来ないと判断したのは秘密だ。
因みに交代で見張りは立てたのだが、地竜の王が言うように襲ってくるようなバカはいなかったのは特筆しておく。
微睡の中、地面が揺れる振動で飛び起きた。
『にいちゃぁぁぁぁぁん!!!!!!』
な、何が起こってる!? 轟音と立っていられないほどの揺れに、オレはパニック寸前だ。
それは皆も同様だった。ルイスは空間蹴りの魔道具を外しているにも関わらず必死に空へ逃げようとし、ライラなど何故かお鍋を被りながらお玉を構えている。そんな中でも、氷結さんだけは起きる素振りさえ見せなかったが……
そんな揺れも直に収まり、目に入ってきた光景は……電車の車体ほどの巨体を持つ地竜の王が、シベリアンハスキーほどのフェンリルへ、必死に顔を擦りつけている姿であった。
『兄ちゃん! 僕ね、ちゃんと父ちゃんの言い付け守ってたよ。何度も何度も、魔物がマナスポットを狙ってきたんだ』
「わん、わん!」
『うんうん。兄ちゃんの教えてくれた「守りの壁」があったから、あんなヤツ等の攻撃なんて全然 効かなかったよ。だって、父ちゃんも僕の壁と鱗があれば、どんな敵にも負けないって言ってたでしょ』
「わん……くぅーん」
『だ、大丈夫だよ。だって僕は父ちゃんの息子で兄ちゃんの弟だから!』
えーと、これは……何となく全てを察しますが、何て言うか……この絵面は色々とツッコミどころが多すぎて……
取り敢えず、一言だけ言わせてもらうなら、昨日 オレ達が死にそうになったのって、一体 何だったの?




