420.地竜の王 part2
420.地竜の王 part2
エルの治療を母さんとライラに任せて、オレは1人 地竜の王の下へと向かっている。
間近で見るヤツは圧倒的……魔物の王と呼ばれる竜種の更に王。
こんなバケモノ相手に、オレ1人でなんて絶対に勝てるわけがない。
オレが今するべきは、コイツを倒す事じゃない。エル達が逃げる時間を稼ぐ事だ。
それだけを心に刻んで、地竜の王へと突っ込んでいく。
先ずは一当て。短剣二刀を抜き、魔力武器(大剣)を発動した。
コイツの肩には、まだ回復中の抉れた傷跡が見える。鱗と皮に守られていない今なら、楽に攻撃も届くはずだ!
今も魔法を撃った母さんを睨みつけている地竜の王は、オレを鬱陶しそうに見つめた後、石礫の魔法を撃ってきた。
馬鹿にするな! この程度の攻撃で!
軽く肩のバーニアを吹かして魔法を躱し、更に背中のバーニアで加速していく。
『もらった!』
未だに抉れた肩 目掛け、魔力武器を振り抜こうとした所で、オレの剣は不可視の透明な壁に弾かれてしまった。
は? 壁? 何で?
驚きで思考が一瞬 止まってしまったが、今は鉄火場だ。呆けている暇などあるはずも無い。
『も、もう一度だ!』
頭を振って、冷静になるように自分自身へ激を飛ばす。
次は、魔力武器(大剣)を肩越しに構え、渾身の突きをお見舞いするべく、体ごと傷口へと突っ込んでいく!
ギャリィィィィィィ
地竜の抉れた傷口に届く寸前、またもや何か固い金属のような物に当たったような感触で、剣先が滑っていく。
これは……障壁?
思い返せば、ガラの街の受付嬢が言っていた。地竜の巣には王がおり、何か特別なチカラを持っていると……それがこの障壁だったのか?
嘘だろ……コイツは地竜特有の固い皮と鱗に守られ、自己回復も持っている。更に障壁があるとか……
今 思うのは、やはり母さんの専用魔法は地竜の王にも届き得たんだ……障壁なんて物さえ無ければ……
改めて、魔法の師匠である氷結の魔女に対して、尊敬の念が湧いてくる。
普段の生活で、その1%でも回してくれれば……そんな思いが浮かぶが、今は頭を振って考えを振り払った。
その母さんへ振り返ると、ライラと一緒に未だエルの応急処置をしており、この場に留まっている姿がある。
地竜は母さんのみを脅威とみなしているらしく、隙を見せれば直ぐに向かって行くに違いない。
そっちじゃない、こっちを向け!
ウィンドバレットを顔目掛けバラまくと、地竜の王は目に怒りを浮かべ大きく息を吸い始めた。
グゥォォォォォォォォォ!!!!
咆哮……大気が割れるほどの大音量に加え、屈強な戦士ですら泣き出しそうな威圧。
それを間近で受けたオレは、体がバラバラになるかのような感覚を味わい、翻弄される木の葉のように吹き飛ばされてしまった。
くそっ、こんなヤツ規格外すぎるだろ!
泣き言が零れる中、ふと自分の耳が何の音も拾っていない事に気が付いた。
は? 無音? 自分の声すら聞こえない。今の咆哮で鼓膜をやられたのか……
圧倒的な実力差があるにも関わらず、更に耳を奪われた。
絶望がオレの中を駆け巡っていく……事ここに至っては、腹を括るしかない……
すぅー、はぁー、大きく深呼吸をし、覚悟を決めた。
良いだろう……全力だ。オレの全てをもって時間を稼ぐ。絶対にエルや母さん達を逃がす! 絶対にだ!
『くそ竜が! 舐めるな! お前は絶対に止める!』
叫んだ自分の声さえ聞こえない中、なけなしの勇気をかき集め、魔力武器に超振動を発動していく。
もしも、これさえも通じなかったら……本当に打つ手が無くなってしまう……
ヒィィィィィィンと鳴く魔力武器(大剣:超振動)を振り上げた所で、腹の底から声を張り上げた。
『行く!!!!』
とことん追い詰められ、更に耳も潰された。しかし、エル達を諦めるなど出来るはずもない!
恐らくコイツは数度の攻撃で、オレを取るに足らない相手だと見下しているはずだ。
現に時間が経つにつれ、明らかにオレから母さんへ意識が移っている。
精々、舐めておけ……その余裕ぶった顔に恐怖を張り付かせてやる!
最大でバーニアを吹かし、僅かに残る傷口への渾身の振り下ろし!
魔力武器が地竜に当たる瞬間、不可視のはずの障壁が浮き上がるが、超振動の刃は薄っすらと青く光る幕を容易く切り裂いていく。
いける! 確信を得たオレは、更に渾身のチカラを込めて、そのままの勢いで振り切った。
ギィィィィィィィィィィ!!!
コイツは攻撃が通るとは思っていなかったのだろう。一瞬の静寂の後に、地竜は空気が割れると錯覚するほどの絶叫を上げた。
超振動ならこのバケモノにすら届き得る……ここが正念場だ、追撃する!
暴れまわる地竜の背へ敢えて張り付き、傷口へ連撃を繰り出していく。
攻撃しては振り落とされ……それを何度か繰り返す内に、オレの心の中は焦燥感が溢れかえりそうになっていた。
確かに超振動であれば、障壁は抜く事が出来るのは事実である。しかし、今 この瞬間にも母さんが抉った肩の傷は徐々に回復していくのだ。
目の前にはどうしようもない現実が……そう、オレの攻撃力よりコイツの回復力が勝っている……
このまま続ければ、直ぐにオレの魔力が尽きるのは火を見るよりも明らかだ。
情けない話だが、ぶっちゃけ、今のオレの魔力は1/3を切っている。
アルジャナからの旅を経て、超振動の魔力消費も減ってはいるが、未だに制限無く使えるほどには熟練してはいない。
これ以上は無理だ……超振動を切って、一旦 地竜から距離を取った。
さっきの母さんの魔法以外に、障壁を抜かれた事など無かったのだろう。オレを、警戒するべき敵と認識したらしく、地竜の目には明らかな殺意が浮かび上がっていた。
くそっ、何だ、このプレッシャー……心の底から生物として根源的な畏れが湧き出してくる。
しかし、ここで飲まれるわけにはいかない! 渾身の気力を振り絞り、真っ直ぐに立ちつつ睨み返してやった。
お前の敵はここだ、ここにいる! 目を逸らす暇は無いぞ!
地竜は舐めた態度から一転、魔法で礫を無数に作り上げ、自分の周りに漂わせ始めた。
どうやら、オレを懐に入れたく無いらしく、礫の弾幕を張って対処するつもりのようだ。
確かにアイツの立場からすれば、オレに障壁を抜く攻撃があると分かったのなら、その行動も理解できる。
『やっと、こっちを向いたな……悪いがオレと遊んでくれよ。母さん達の所に行きたきゃ、オレを倒してからにするんだな!』
耳が死んでいる現状、キチンと言葉を発せているかも分からない。
しかし、そんな事はどうでも良い。魔力武器を携えて、オレは地竜へと突っ込んでいくのだった。
◆◆◆
オレはアルドの戦いを上空から見つめている。
ルイスとカズイは、自分達ではあの戦いに割って入っても邪魔になるって尻込みしてるけど、そんな事 関係無いんだぞ!
だって、エルファスが怪我をして、ラフィーナさんとライラは手が離せない……だったらオレ達が何とかしないと……
思えばアルドが魔族の精霊グリムに飛ばされた時だって、オレは何もできなかった……いや、知る事さえできなかったんだぞ。
また今回も何も出来ず、ここでアルドを見てるだけなんて……オレはバカだから、もしかしてルイス達が正しいのかもしれない。
でも、見てるだけなんて、我慢出来ないんだぞ。
もし、オレがここで死ぬ事になったとしても、一生後悔しながら生きるよりはマシだぞ。
きっと、母ちゃんも褒めてくれる!
今も眼下に見えるアルドは、果敢に地竜へ挑んでいるものの、特大のブレスと無数の魔法に翻弄されているんだぞ。
あれじゃあ……心の奥底から、言いようの無い焦りが湧き出してくる……
オレは、ルイス達が止めるのも聞かず、自分の心の声に任せるままアルドを目指し飛び出した。
◇◇◇
魔力武器を構えながら突っ込むオレを見て、お返しとばかりに数えるのも嫌になる程の礫を撃ち出してきた。
ふざけるな、何だ、この礫の数は……物には限度って物があるだろうが!
目眩がする数の魔法が、オレを狙って向かってくる。
躱せない……咄嗟に左腕へ魔力盾を発動させ、右腕の魔力盾を球状に展開して礫の雨を耐えていく。
ぐっ、思ったより攻撃が重い……これじゃあ、左の盾は兎も角、球状に展開した魔力盾が耐えられない……守りに入るとジリ貧になる。
なるべく弾幕の薄い所を……バーニアを吹かして躱そうとするものの、圧倒的物量の前に意味など殆ど無かった。
そんな中、地竜の口に魔力の光が灯り徐々に強くなっていく。
ふざけるな! ここにきてブレスだと? 魔力の光が見えると言う事は、コイツはわざと見せているんだ。
完全にオレの心を折るために……
光は見る間に臨界になり、次の瞬間には岩のブレスが超高速で飛んでくる。
くそっ! 骨が軋むほどのバーニアを吹かし、ギリギリで躱す事に成功するが、間近を通り過ぎるブレスは言葉に言い表せない迫力を秘めていた。
な、何だこれは……
エルはこんな物を受け止めたのか? 盾と左腕を失っただけで済んだのが、奇跡のようにさえ感じられる。
そんな絶望しか無い戦いの中、改めて地竜を見るも母さんの抉った傷跡は綺麗サッパリ無くなっていた。
詰んだ……唯一の勝ち筋すら無くなってしまった。既に皮も鱗も再生してしまっている。
幾ら超振動でも、障壁と鱗、更に皮まで一度に切り裂くなんて出来るのか?
崩れ落ちそうな感覚がオレを襲う。
嫌だ……死にたくない……それに、オレがやられれば、コイツは間違いなくエルや母さん、ライラを襲うだろう。
それだけは絶対に許容できない!!
既に魔力は2割も残ってない……打つ手も、ましてや勝ち筋なんてあるはずも無かった。
それでも! そう心の中で叫び声を上げて、再び魔力武器に超振動をかけていく。
そんなオレを見て、地竜は決死の特攻をかける事に気が付いたようだ。再度の嫌になるほどの礫を撃ち込んでくる。
正に横綱相撲。どうやらコイツは一切の油断無く、徹底的にオレを叩き潰すつもりのようだ。
咄嗟に魔力盾を展開するも、終わらない礫の雨にとうとう魔力盾が割れてしまった。
あ、魔力が……魔力枯渇寸前での魔力盾破壊……オレの魔力は感じるのも難しいほどしか残っていない。
ごめん……朦朧とした意識の中で、誰に呟いたのか自分でも分からない。
気合だけで無理矢理意識を呼び戻した時、何故かオレはネロの腕にの中に抱き抱えられていた。
『ネロ……何で……?』
『……、…………、…………』
何だ……? 何を言ってる……? あ、そうか、音を奪われたんだったか……
ネロは必至で何かを話しているが、オレに聞こえる事は無い。
オレが呆けている間にも、ネロはしきりに何かを訴えている。
何だ……? 何を言いたいんだ……?
そんなネロの口の動きを見て、やっと言いたい事が理解できた。「魔瘴石」、ネロはしきりにその言葉を発している。
確かにアオを呼んで領域を作れば、魔力の心配はいらなくなるのか……
回らない頭で、直ぐにアオを呼ぼうとしたが、ここは戦場の真っただ中だ。
こんな場所に戦えないアオを呼んで良いのか? そもそも領域を作っても、直ぐに魔瘴石を壊されるんじゃ?
幾つもの心配が頭を過るが、地竜はネロに抱かれたオレを驚いた顔で見つめるだけで、一切の攻撃をしようとはしない。
どのみち、このままじゃ、どうしようも無いんだ……死なばもろともか……
少しの躊躇いの後、オレは収納から魔瘴石を取り出すと、指輪になけなしの魔力を注いでアオを呼び出したのである。




