418.地竜の巣 part3
418.地竜の巣 part3
調査を終えルイス達と合流した後、取り敢えず地竜の巣から離れる事にした。
今は少し早い野営の準備を始めている所だ。
先ほどまでの緊張感から解放されて、どこか緩い空気が流れる中 皆の反応は様々だった。
ルイスとネロは、初めて見た地竜の感想を興奮気味に語っているのに対し、カズイは、想像以上の存在感に圧倒されたのだろう。
何も語らず、黙々と石を拾って寝床を確保している。
母さんとライラなど、既に地竜の事など興味なさげに、アシェラの生まれてくる子供の名前を話し合っていた。
うーん……確かに緊張しすぎても良い結果が出ないのは分かる。でも、これは気合いを抜きすぎじゃないでしょうか?
『母様、流石にもう少し緊張感があった方が良いと思うんですが……』
『何言ってるのよ。ずっと緊張してたら疲れちゃうじゃない。ヤル時はヤル、それで良いの。そんな事よりアンタも一緒に名前を考えなさいよ。自分の子の事でしょ。私は女の子だと思うのよね………………』
子供の名前……当然ながら、オレも興味津々の話題である。
結果、オレ、母さん、ライラの3人で輪になって、延々と名前を考える羽目になってしまったのであった。
女の子ならシャロンが良いと決まった所で、既に1時間が経過していた。
ルイス達とエルの呆れた顔に気付かなければ、男の子の名前にもう数時間費やしていたかもしれない。
焦れたルイスが溜息を吐きながら口を開いた。
『ハァ……アルド、それでどうするつもりなんだ? あの地竜のボスに挑むのか?』
ジッと会話が途切れるのを待っていてくれたのだろう。ルイスの声音には、少しの苛立ちが混じっている。
ルイスよ、氷結さんには、後で良ーく言い聞かせておくので許してほしい。
『待たせて悪かった。母様にはキツく言っておくから。本当にスマンかった』
『ちょっと待ちなさい! 何で私のせいになってるのよ! アンタとライラも同罪でしょうが!』
『いや、そこは、ほら、母様はいつも何かやらかすので、ドサクサに紛れて押し付けちゃえって……ダメでしたか?』
『アンタ……私の事をそんな風に思ってたの……』
『あ、違うんです。ほら、良い意味でトラブルメーカーって言うか……』
『トラブルメーカーに良い意味があるわけ無いでしょうが!』
そこから話は更に脱線して、結局 場が落ち着くのに数十分の時間が必要であった。
『で、どうなんだ?』
数十分ぶりに、同じ質問がルイスから飛んできた。本当にすまない、ルイス。これも全て氷結さんのせいなんだ。
いつかコンコンと言い聞かせるから勘弁してほしい。
『正直、まだ判断しかねてる……仕掛けるなら、魔法による奇襲。遠距離からボスへ、母様の専用魔法を叩き込むのが良いと思う』
『なるほど。ラフィーナさんのあの魔法なら確かに地竜へも通じるか』
ルイスの疑問も当然だ。周辺の地形の把握、地竜の群れの規模、ボスの存在。調べるべき事が終わった以上、そろそろどうするかを決めなくてはならない。
『母様、エル、ライラ、多数決をしましょう。地竜へ挑むべきだと思う人は手を上げてください』
オレの言葉を聞き、エルは何かを考えながら腕を組んでいるだけで微動だにしない。反対に母さんとライラは、不敵な笑みを浮かべながら手を上げている。
『では撤退するのが良いと思う人は挙手を』
それまでジッと動かなかったエルがゆっくりと手を上げた。
これで母さんとライラが賛成、エルが反対の意見を表明した事になる。
『賛成2、反対1ですか……』
『アル、アンタはどうなのよ。どっちにも手を上げなかったじゃない』
『僕は条件付きの賛成って所です。あくまで試すのは魔法だけ。母様の魔法が効かなかった場合は、直ぐに撤退するべきかと』
『それって、追撃を入れれば倒せそうだとしても、撤退するって事よね?』
『はい。回復持ちの怖さは、時間が経てば経つほど、ここらが不利になっていく事です。まるで真綿で首を絞められるかのように、じわじわと追い詰められていく……そんな状況になってから撤退を判断しても、きっともう遅い……』
『それは地竜を倒した事のある、ドラゴンスレイヤーとしての意見って事かしら? 良いわ、アンタの案でいきましょ。私の『魔王の一撃』で決められなかった場合は撤退よ。ライラもそれで良いわね?』
『はい、お義母様……』
不服そうなライラだったが、渋々ながら頷いている。こうなると後はエルだけか。
『エル、母様の魔法だけを試す。それでダメなら撤退だ。これでも反対か?』
『正直、ボスを倒しても、他の地竜がいます。万が一、一斉にブレスを吐かれたら、僕1人では防ぎきれません。でも魔法を試すだけなら大丈夫かと思います』
なるほど……考えてみれば、地竜のブレスを防げるのはエルの盾しかない。エルからすれば、全員の命が自分の盾にかかってる状態で不安だったのだろう。
魔法での奇襲だけならブレスが飛んでくる方向も制限される事から、エルも地竜に挑む気になったようだ。
『じゃあ、決行は明日の朝。母様の専用魔法を試しましょう。攻撃は一撃離脱、何があっても絶対に深追いはしない。これだけは守ってください』
『私の「魔王の一撃」に耐えられるとは思わないけど、撃ったら即 退避ね。分かったわ』
『分かった。アルド君とお義母様に従う』
『分かりました』
作戦は決まった。これだけ安全マージンを取れば、オクタールの時のようなギリギリの戦闘にはならないはずだ。
それぞれが気合を入れる中、ルイスが申し訳なさそうに口を開く。
『それでオレ達はどうすれば良い? 出来れば見学させてもらえると嬉しいんだけどな……』
断られる事を恐れてか、ルイスの言葉は普段よりだいぶ弱弱しい。
しかし、その目には闘志が漲っているのが見て取れた。
『分かったよ。その代わり、今日と同じだぞ。見学は攻撃の届かない上空で、絶対に降りてこない事。良いな?』
『ああ、任せてくれ! 絶対に危険な真似はしない、約束する! よっしゃ、ネロ、カズイさん、地竜戦だぜ! 風竜戦もレッサードラゴン戦も見逃したからな。今度は絶対 目に焼き付けてやる!』
『やったぞー! 地竜戦を見られるんだぞ!』
『地竜か……僕はルイス君やネロ君みたいに楽しめるか分からないけど、アルドの戦いはしっかり見届けるよ』
これで全員の行動が決まった事になる。各々が荷物の再確認を行い、明日の地竜戦へ意識を切り替えていった。
夕食も摂り終わった頃、ルイス達から今日の見張りは自分達3人で行うと提案があった。
どうやら地竜戦に対し、疲れを残さないようにと配慮してくれたようだ。
エル、母さん、ライラとも相談し、ありがたく提案を受けさせてもらう事にした。
『悪いな。全部押し付けて』
『気にするな。オレ達は出来る事をやってるだけだ。お前等の体調を最高な状態で送り出す。それが今のオレ達の仕事だよ』
ルイスの言葉に感謝しつつ、星空を眺めていると、つい愚痴とも本音ともとれる言葉が零れてしまった。
『ハァ……使徒だ、何だって言っても1人じゃ休憩も満足に取れない。過去の使徒も仲間と旅をしたんだろうな』
『どうした、いきなり』
『いや、オレはいろんな人の助けを借りて、何とか使徒としてやっているけど、過去の使徒はどうだったのかと思ってな』
『過去の使徒とその仲間か……案外 オレ達みたいに、腐れ縁の親友だったかもしれないぜ?』
『ハハッ、そうかもしれない。もしそうだったら旅も楽しめただろうな』
『違いない』
ルイスとくだらない話をしながらも、改めてこんな旅に同行してくれている親友たちへ、心の中で頭を下げたのだった。
そんな和やかな空気の中、今回の作戦の肝となる我等が母 氷結の魔女様は、機嫌良さそうに小さなケースを取り出した。
『それって母様の専用魔法に使う弾頭が入っている収納箱ですよね?』
『ええ、そうよ。今回 初めてオリハルコンの弾頭を使うんだから。ちょっと魔力の通りを確かめておこうと思ってね』
『なるほど。確かにぶっつけ本番だと少し怖いですか……』
母さんは弾頭を掌の上に乗せると、魔力を通りを確認している。
そのまま10分ほどが過ぎ、母さんがいきなり立ち上がって宣言した。
『魔力の通りは問題無いわね。流石にミスリルよりは扱い難いけど、多分 問題無く撃てると思うわ』
むむむ、ミスリルより魔力の通りが悪い? 考えてみればオリハルコンの弾頭を、いきなり実戦で使うのは色々と問題があるのでは?
発動出来ないだけなら良いが、暴発でもした日には死人が出兼ねないわけで……
『あのー、母様、ちょっと聞きたいんですが、オリハルコンの弾頭って幾つあるんですか?』
『ん? 今回はヨシュアに無理を言って3つ用意してもらったわ。これで神金貨1枚使ったみたいね』
マジか! 神金貨1枚で4個、上手くいけば5個は作れると踏んでたのに現実は甘く無かった。
『これ3つで神金貨1枚……何が恐ろしいかって消耗品って所がもぅ……父様、泣いてなかったですか?』
『切った張ったをやるのよ。命の値段だと思えば安いモノでしょ。ヨシュアも笑って用意してくれたわ。ちょっとだけ指先が震えてたけど……』
『やっぱり……』
エルを見ると苦い顔で何かを考えている。そう言えば、お前もそっち側だったよな。
ただ、こればっかりはどうしても譲れないんだ。悪いが何とか予算を捻出してやってくれ……本当にスマン。
エルに心の中で謝りつつ、更に言い難い事を言わねば……
『母様、地竜のボスへ挑むのに、ぶっつけ本番は流石にマズイんじゃないかと……魔法が発動しないだけなら良いですが、暴発なんて事になったら怪我人……最悪は死人が出るかもしれません。勿体ないのは重々承知の上で、1回だけ試し撃ちをしませんか?』
『弾頭に魔力を通してみて、多分 大丈夫だとは思うけど、アルの言う事は尤もね。分かったわ。試し撃ちをしましょう』
『ありがとうございます。エルも良いよな?』
いきなり話を振られたエルは、尚も苦い顔をしつつ頷いてくれた。
『じゃあ、ちゃちゃっと行くわよ。皆、下がりなさい。アルは念のため、球状に魔力盾を出しておいて』
『はい』
オレが魔力盾を展開したと同時に、風が母さんの下へ強く吹き始める。
掌の上の弾頭を包み込むように圧縮空気の弾が作られていき、完成した風の弾はゆっくりと浮き上がっていった。
『じゃあ、形を変えて回転させるわよ……』
言葉の通り風の弾は、弾頭を先端に細長く変化し、徐々に回転していく。
『やっぱりミスリルみたいにはいかないわね……ちょっとこれはギリギリかもしれないわ……』
そう零しながらも回転はどんどん速くなっていき、辺りには「キュィィィィィン」と言う甲高い音が鳴り響いている。
『行くわよ!』
その瞬間、圧縮熱で陽炎を立ち上らせていた風の弾が消えた。いや、超高速で打ち出されたのだ。
空気を切り裂くような轟音と共に、空気との摩擦熱で暗い夜空に赤い軌跡が走る。
ドォォォォォォォン!!!
かなり遠くの地面に撃ちこんだはずなのに、風の弾は着弾と共に大爆発を起こして、爆風がここまで吹いてきた。
何だ……この破壊力は……こんな魔法、個人が撃って良いはずが無い……
全員があまりの破壊力に口を開けないでいる中、当の本人である氷結さんは荒い息を吐いて口をひらいた。
『ふぅ……試し撃ちしておいて良かったわ。ミスリルの弾頭とは、だいぶ勝手が違ったわね。ちょっと魔力の残りもギリギリよ。でも、このオリハルコンを使った「真・魔王の一撃」なら地竜のボスにも通じるに違いないわ。アル、私を褒め称えなさい!』
そう言って氷結さんは手を腰に当て、ふんぞり返りながらのたまわっている。
あ、いや、凄いのは認めますが……この魔法、本当に「魔王の一撃」なんて名前にするつもりなんですかね?
ちょっと中二病すぎて、口に出すのは憚られるって言うか……
オレが言い淀んでいる横では、ルイス達が氷結さんを囲んで魔法の威力を褒め称えている。
あー、調子に乗るのであんまりエサをやらないでください……あ、ほら、言ってる傍から2発目を撃とうとしてる。
エル、絶対に止めろ! それ1個で3000万もするんだぞ! 流石にぽんぽん撃って良い代物じゃない! そもそも、2発目を撃つ魔力が無いだろうが!
こうして、少しの混乱があったものの、全ての準備を終えたのであった。




