417.地竜の巣 part2
417.地竜の巣 part2
ガラの街へ飛んだ後、先ずは全員で上空へと退避した。眼下に見えるガラの街は、小さな光が幾つも灯り人の営みを感じさせる。
『取り敢えず、地竜の巣がある方角へ向かいます。何処か野営が出来る場所を探しましょう』
全員が頷くのを確認して、空を北へと駆けて行く。
ブルーリングで既に夕食は摂り、オヤツにポテチまで食べているのだ。今日の野営地は寝る事さえ出来れば問題無い。
どこか緩い空気で空を駆ける中、直に大きな木が生えている広場を見つける事ができた。
『今日はあの木の上で野営しましょう』
オレが最初に枝へ降りると、皆も同じように降りてくる。
『さてと、アル。野営の順番だけ決めてサッサと寝るわよ。こんな所で夜更かししても良い事なんて何も無いんだから』
『そうですね。じゃあ、最初は母様とライラ、次にエルとネロ、その次がルイスとカズイさん、そして最後が僕でどうでしょうか?』
『分かったわ。皆、聞いたわね? この木にハンモックを吊るして休みましょ。あまり離れ過ぎないように気を付けてね』
母さんの言葉を受け、各々がハンモックを編んで木に結び付けていく。
皆、この作業も慣れたものだ。大きさや形、自分に合った物を作っている。
しかし、我が母上である氷結さんは、ハンモック作りに悪戦苦闘中であった。
サボる時には適当に編んで直ぐに眠るのに、何故か野営の際には一切の妥協を許さず完璧な物を追求するのだ……寝れれば問題無いだろうに、意味が分からない。
『アル、手伝って頂戴。そこの網目をもうちょっと右にしたいのよ』
『どれですか……え? これですか? これぐらい良いじゃないですか』
『ダメよ。これだと背中に感触があって熟睡出来ないじゃない。あと、ここも もう少し何とかしたいのよねぇ……』
『……』
えー、これぐらい良いじゃないか。そもそも野営で熟睡するつもりなのかと、小一時間 問い詰めたい。
結局 ルイス達が眠りに付き、見かねたライラが代わってくれるまで、オレは氷結さんの寝床を作らされていたのだった。
地竜の巣に向かって、既に2日が経った。
オレ達の目の前には草原が広がり、彼方には薄っすらと地竜がその巨体を晒している。
地竜……複数いるとは聞いていたが、ここから見えるだけでも片手近くの数がいた。一体 何匹の地竜がいるのか……
想像よりも多い数を目の当たりにして、オレはハンドサインで『後退』の指示を出す。
数百メード戻り、偶然見つけた窪地に素早く逃げ込んだ。
マジか。あの数……全部合わせたら両手で足りないんじゃないのか?
全員が何かを考える中、オレはゆっくりと口を開いた。
『想定より数が多すぎる……あの数は……』
「撤退」誰しもが脳裏にこの言葉がよぎった事だろう。しかし、全く反対の意見を口にする者がいた。
エルだ。
『兄さま、撤退はいつでも出来ます。折角ここまで準備して……このまま何もせず撤退するのは勿体ないと思うんです。先ずは地竜の規模を把握しませんか? 最終的に討伐は諦めるとしても、情報を得るだけでも価値はあるはずです』
確かに地竜は空間蹴りが使えれば、逃げるだけならそれ程 恐れる必要の無い相手である。
もしかして、1匹だけ引き離して倒すなんて事も、地形次第で出来るかもしれない。
『そうだよな。エル、お前の言う通りだ。やる前から諦めててもしょうがないか。分かった、先ずは地竜の情報を集めよう。撤退するかどうかの判断は、その後だ』
改めて全員の顔を見て口を開く。
『って事で、先ずは情報を集めようと思います。どうでしょうか?』
『良いんじゃないかしら。無理に突っ込むのはバカのやる事だけど、相手は地竜よ。全てのリスクを無くすなんて出来るわけが無いんだから』
『じゃあ、僕、エル、母様、ライラの4人で偵察する事にしましょう。バラバラで動いて、万が一 戦闘になった場合、各個撃破され兼ねません』
『まぁ、妥当な判断ね。それで調べるのは、地竜の数と配置、後はここら一帯の地形ってとこかしら』
『そうですね。他に気になる点は都度 調べれば良いかと』
纏まった所で、ルイスがおずおずと話に入って来る。
『アルド、オレ達はどうすれば良い? 因みに、ここまでの道中 ズールのオッサンの手の者はいなかったよな?』
ここに来る間、何度か範囲ソナーを使って見張りがいないかを確かめたのだが、反応は無かった。
恐らく、オレ達を見失った事でガラの街へ帰ったのだと思われる。
ルイスの言葉は、それを踏まえてどう行動すれば良いのかを聞いているのだ。
『そうだな……出来れば3人には離れててもらいたいんだが……』
しかし、ルイスだけで無くネロの顔にも「一緒に行動したい」と書いてある。
カズイだけは眉根を下げて、2人を呆れた様子で見つめているのだが。
『はぁ……見学したいんだろ?』
『ああ。邪魔はしない、約束する。だから許可をくれないか?』
『オレも見たいんだぞ!』
ルイスやネロ、カズイでは、地竜が相手では荷が重すぎるのは覆しようがない事実だ。
しかし、これからも使徒の仕事を手伝ってもらうのであれば、過保護にしすぎるのも違うと思う。
判断に迷って母さんを見ると、困った顔をしてはいるがゆっくりと頷いている。
であれば、安全は確保した上で見学する程度は後々のためになるはずだ
『ルイス、ネロ、空間蹴りを使って、地竜の攻撃が届かない高さまで上るなら見学しても良い。その代わり、何があっても降りてこないって約束出来るか?』
『ああ、約束する。何があっても上空からは降りない。これで良いか?』
『オレも約束するんだぞ! やったー、地竜戦を見られるんだぞ!』
おーい、ネロさんや……まだ情報収集だって言ってるだろうに……直ぐに地竜と戦うなんてしないからな?
思う所はあるが、これでルイスとネロが見学する事に決まった。しかし、この場にはもう1人いるわけで……
『カズイさんはどうします?』
『うーん……少し怖い気もするけど、ルイス君とネロ君が見学するなら僕も参加させてほしいかな』
『分かりました。カズイさんには2人のお目付け役をお願いします。絶対に危ない事をしないよう、見張ってて下さい』
『分かったよ』
こうして、最終的な判断は保留にしつつ、地竜の情報を集める事が決まったのてあった。
地竜の調査を始めるに当たって、先ずはここ地竜の巣の地形を調べる事から始める事にした。
空間蹴りで空高く駆け上がると、眼下には一面の草原が見える。
『所々小さな林はあるにしても、ここら一帯ほぼ草原なのか……』
オレの独り言に返す言葉がある。エルだ。
『そうですね。これだけ見晴らしが良いと、1匹だけをおびき寄せるのは難しいかもしれません』
エルは眼下に広がる草原を見て、難しい顔をしている。
『うーん……地竜の習性次第だろうけど、実際に固まって生活している以上、群れで生きる魔物なんだろうな。攻撃をしかけた瞬間 全部の地竜が襲ってきそうだ……』
『はい……いっそ遠距離からコンデンスレイで……あ、ダメか。素材も何も燃やし尽くしちゃいますね……』
エルが言うように、コンデンスレイでの狙撃を考えてはみるが、倒せはしても恐らく素材の一切合切が燃えてしまうはずである。
それではボーグに頼まれていた地竜の皮も得られず、王に対して討伐の証拠も示せない。ただ地竜を虐殺しただけになってしまう。
『上手くいかないなぁ』
『そうですね』
そんなオレ達2人の話を聞いていた母さんが、ドヤ顔をしながら会話に入ってきた。
『確かにアンタ達のコンデンスレじゃあ一切合切 焼き尽くしちゃうものね。でも私の「魔王の一撃」ならどう? 狙った獲物だけを確実に倒せるんじゃない?』
氷結さんは鼻の穴を大きく膨らませ、これでもかと言うほど態度がデカくなってやがる……うぜー
『た、確かに母様の専用魔法なら一撃離脱なんて事も出来るかもしれません……でも素材の回収はどうするんですか?』
『そんなの簡単よ。地竜が群れで生きる魔物なら、絶対にボスがいるはずだわ。ソイツを完膚なきまでに一撃で倒す。そうすれば他の雑魚は畏れて逃げていくに決まってるわ』
母さんは当然のように話しているが、そんな単純な話なんだろうか……
氷結さんの言う事だしなぁ、デッカイ落とし穴がありそうで怖いんですが……
『そんなに簡単にいくでしょうか? 相手は竜種なんですよ?』
『ダメならサッサと逃げれば良いじゃない。何のための空間蹴りよ。アルは変な所で細かいんだから』
えー、オレが細かすぎるの? いや、全部 計画通りになんて、いかないのは分かってるけど。
もうちょっと、こう、真剣に考えてほしいなぁって思うのは贅沢なんでしょうか?
しかし、他に良い案があるわけでもなく……エルとライラにも相談した所、おおむね了承してくれた。
『じゃあ、母様の案で進めましょう。但し、本当にボスがいるかどうかも分かりません。今日はこのまま調査に当てて、野営の時に最終判断をしようと思います。それで良いですか?』
『はいはーい。分かりましたー。どうせ私以上の案なんて出ないんだから、直ぐに試せば良いのに……ぶつぶつ』
母さんは一人で愚痴を零しているが、流石にもうちょっと慎重にいきましょうよ……頼みます、本当に。
それからも、見つからない程度の上空から調査を進めていると、一段 高くなっている丘に二回りは大きい地竜の姿があった。
あれは……母さんの言うように間違いなくボスだ。その証拠にアイツの周りには、他の地竜は一切近寄らない。
普通の地竜が10tトラックほどの大きさなのに比べ、電車の車両ほどある。放つ気配も普通の地竜とは比較にならないほど圧倒的だ。
生物としての格の違いに圧倒されてしまいそうになる。
そんな中、委縮した空気をぶった切るように母さんが吠えた。
『上等じゃない! 魔王たる私に相応しい相手ね。直ぐにあの大物ぶった態度を取れなくさせてやるわ!』
凄い……何が凄いって、これだけ圧倒的な存在感を放つ相手を見ても折れない。その鋼の心へ素直に尊敬の念が湧いてくる。
まぁ、何も考えて無いだけかもしれないが。
『母様、おおよその情報も得られました。一度 離れて野営の準備を始めましょう』
地竜の巣から離れる途中、ライラと母さんの会話が聞こえてくる。
『お義母様の「魔王の一撃」なら皮膚の薄い所を狙えば、地竜でも耐えられないはず』
『そうね。前足の付け根なんて狙いどころかもしれないわね』
『うんうん。一撃で無理なら、私も追撃の魔法を叩き込む!』
『まぁ、私の一撃で決まるはずだけど、生き残った場合はお願いするわね』
何だろう……2人の殺意が凄いんですが……もしかして地竜に恨みでもあるんでしょうか?
エルと2人で小さくなって、闘気を漲らせている女傑たちの後ろを付いて行くのであった。




