416.地竜の巣 part1
416.地竜の巣 part1
ギルドで情報収集を終えた次の日、オレ達はズール領主代行に挨拶をしてガラの街を後にした。
実は調べて分かった事だが、ガラの街から地竜の巣への道などありはしなかった。
考えてみれば、行先には地竜が群れでいる……そんな危険地帯へ向かう者などいるはずもなかったのだ。
しょうがなく、今はガラの街から北へ向かって草原を歩いている。
さてさて、そろそろ良いんじゃないかな? 30分ほど経った所で歩きながら最大の範囲ソナーを打ってみた……人の反応が1つ、2つ。
やはり、オレ達を付ける者の反応がある。その数2つ。
『ルイス、かなり離れてるが、2人付いてきてる。たぶん、ズールのオッサンの手の者だと思う』
『やっぱりか。あのオッサンの立場だと、オレ達が死んだかどうかの確認も必要だろうからな。尾行を付けるはしょうがないか』
『まぁな。ただ、どうやって撒くか……』
『あそこに丁度良さそうな林があるぜ。紛れて空へ逃げれば軽く撒けるだろ』
ルイスは100メードほど先にある木が密集した場所を指差している。
『分かった。どうせガラの街のマナスポットへ戻らないといけないんだ。早めに撒いておこう』
『了解だ』
全員で何食わぬ顔で林へと向かっていくのだった。
『アイツ等、完全に見失ってるぜ。改めてこの魔道具の破格さが良く分かるってもんだ』
こう話すのはルイスである。林に入って直ぐに空間蹴りを使い、木の上に隠れている事から出た言葉だ。
『じゃあ、このまま上空まで駆け上がって、マナスポットの真上まで移動しようか。そしたらアオを呼び出して落下する途中でブルーリングへ飛ばしてもらおう』
『なるほど。万が一見つかっても、鳥か何かだと思うだろうしな』
『ああ、そうだな』
そのまま全員で空へ駆け出していく。遠目に見た男達は、オレ達に気付く様子も無く必死に辺りを探していた。
尾行を撒いて30分ほどが経ち、オレ達はガラの街の上空までやってきた。
実は1つ懸念がある。昨夜 数時間とは言え大岩が青く光っていた事から、もしかして騒ぎになっていないか心配していたのだ。
しかし、眼下に見えるマナスポットの周りに人の姿は見当たらない。
これなら問題無さそうだと、胸を撫で下ろしてから指輪へ魔力を流していく。
『アオ、ここから全員で落ちるつもりだ。マナスポットの範囲に入ったらブルーリングへ飛ばしてくれ』
『呼んだと思ったらいきなり頼み事かい? 昨日からアルドは精霊使いが荒いよ。本当にもう』
『ブルーリングへ飛んだら、約束のシャーベットを作るから。頼むよ、アオ』
『むぅ……分かったよ。全員を飛ばすんだね? 一応、お互いの体に触れておいてよ。万が一があると面倒だからね』
アオの言葉に、全員が一塊になってお互いの肩や背中に触れていく。間違っても手を繋いだりはしない。
これがアシェラ達なら、確実に恋人つなぎなのだが。
『じゃあ、行こうか』
『おう』『分かったぞ』『うん』
4人で重力に引かれるまま落ちていく。そろそろスピードを落とさないと危ないんじゃ……そう思った瞬間、1秒だか1時間だか分からない感覚に包まれたのだった。
ブルーリングに飛んでからは、ルイス達へ礼を言って別行動をとらせてもらう事にした。
先ずはエルと父さんへ報告をしなければ……ぶっちゃけ面倒臭いが、今回の一連はデリケートな問題が沢山ある。
放置する事も出来ずに執務室へとやってきた。
『アルドです。少しお話したい事があります』
『どうぞ』
父さんの許可を得て入室すると、珍しい事にエルだけで無く、母さんとライラの2人も座っていた。
『母様、ライラもどうしたんですか? こんな所で』
『地竜討伐の作戦を、エル、ライラと一緒に立ててたんじゃない。それに今回は私の「魔王の一撃」の初披露でしょ。景気よくオリハルコンの弾頭を使いたいから、ヨシュアに頼みにきたのよ』
『オリハルコンの弾頭ですか……』
父さんを見ると、青い顔で頬がヒクついてる……うわぁ。
まぁ、1発ウン千万円の弾頭か……消耗品にその金額は、為政者からしたら確かにキツイだろうなぁ。
しかも、使うのは氷結さんだ。絶対に適当に扱うに決まってる。放っておくと、簡単に無くしそうだ。
その証拠に、以前ミスリルの弾頭が我が家のリビングに転がっていた。
あの弾頭1つでウン百万するのに……以来、弾頭専用のケースを作って持たせているのだが、適当に放置されているのをたまに見かける。
『地竜を倒せば神金貨の1枚や2枚、直ぐよ、直ぐ。ケチケチして怪我でもしたら目も当てられないわ』
言ってる事は一理あるとは思います。でも、そこらへ置きっぱにするのは違うと言うか……しかし、1つ言えば3倍になって返ってくるわけで。
オレ、エル、ライラ、そして父さんは、死んだ魚の目で氷結さんを見つめるしか出来ないのであった。
『ふぅ、ただいまー』『ただいま……』
『おかえりなさい、2人共』『おかえり、アルド、ライラ』
父さんへの報告を終えた後、ライラと一緒に自宅へ帰ってきた。
『聞いてくれよ、2人共。主不在のマナスポットって………………』
愚痴とも報告とも取れない話をしていると、アシェラが心配そうに口を開く。
『アルド、その地竜の王の特殊なチカラって何?』
『分からない。受付嬢の話でも詳しい話は聞けなかった。ただ、そんな言い伝えがあるってだけで……』
『そう……』
アシェラは少し膨らんだお腹を撫でた後、決意の籠った目で顔を上げる。
『アルド! やっぱr…………』
『ダメだ! 絶対にお前は連れていかない。ここでオリビアと一緒にゆっくりと過ごしててくれ』
『でも……』
『ルイスとも話したけど、今回の地竜討伐は絶対じゃない。チカラを示せれば何でも良いんだ。何処にいるかは知らないが、何なら風竜や火竜でも良い。どうしても無理だと思ったら、直ぐに戻って来るから』
『本当に?』
『ああ。母様からも、使徒や始祖としてじゃなく、父親として生きて子供の成長を見守る義務があるって言われたんだ。絶対に帰ってくる、約束するよ』
『分かった……』
お互いの身を労り合い、どこか甘い空気の中で見つめ合う……そっとアシェラの頬に手をやり、ゆっくりと顔を近づけた所でオリビアのわざとらしい咳が響いた。
『ゴホン! アルドの身を心配してるのはアシェラだけじゃないですよ……ねぇ、ライラ』
ライラは首振り人形のように首を縦に振ると、アシェラとオレの間へ体をねじ込むように入ってきて、そのまま抱き着いてきた。
『アルド君は私が守る……』
『ズルイですよ、ライラ!』
『ボクも!』
結局 3人を同時に抱きしめて、改めて幸せを実感したのだった。
アシェラのお腹を撫でつつ、オリビアとライラから「自分も赤ちゃんが欲しい」と搾り取られながら2日が経った。
この2日間はアオとの約束のシャーベットを作ったり、ライラに勉強を教えたり、果てはローザと一緒に魔道具を改良したりと有意義な時間を過ごせたと思う。
そんな幸せな時間も今日で終わってしまう……そう、地竜討伐である。
今晩、夜の闇に紛れてガラの街へ飛ぶ事になっているのだ。
ハァ……行きたくない。オレ、何で地竜を倒すなんて言っちゃったんだろ。ギリクに全部任せて、自宅でゴロゴロしてれば良かったんじゃ……ぶっちゃけ、後悔しか湧いてこない。
しかし、今更 無かった事になど出来るわけも無く。重い足取りで領主館へ向かったのである。
『アル、いつ飛ぶのよ。もう陽は落ちたわよ』
こう話すのは安定の氷結さんである。珍しく準備を終えている事から、今は氷結の魔女モードのようだ。
『そうですね。出来れば誰にも見られたく無いので、後1時間ぐらいしたら飛びましょうか』
『1時間? そんなの陽が落ちて直ぐじゃない。それなら今飛んでも変わらないじゃない』
実は何度もグレートフェンリルに飛んで分かった事がある。
考えてみれば当たり前の話なのだが、フォスタークとグレートフェンリルでは経度の関係から数時間の時差があったのだ。
こちらで日が暮れたばかりと言う事は、向こうでは既に陽が落ちて数時間が経過している。
『こっちで陽が暮れたばかりって事は、向こうでは陽が落ちて数時間が経ってるはずです。後1時間もすれば、寝静まる頃かと』
『それ前にも聞いたけど、こっちと向こうで時間が違うとか意味が分からないんだけど。地面は平なんだから太陽が登ればどこでも日暮れなんて同じじゃない』
コイツは……絵まで描いて何度も説明したのに! 他の者は理解できないなりに、一生懸命考えて納得してくれている。
お前はいつも面倒臭くなって逃げるから、理屈が分からないだけじゃないか!
周りはオレと氷結さんの会話を、我関せずの顔で見つめている。
『もう一回説明した方が良いですか? 正直 面倒臭いんですけど……』
『……分かったわよ。こっちと向こうじゃ時間が違う。意味が分からないけど、アンタが言うならそうなんでしょう……はいはい、分かりました。で、1時間後に飛ぶって事で良いのよね?』
『はい。メンバーは僕、エル、母様、ライラ。それと地竜の巣に、領主代行の手の者がいる可能性があるので、ルイス、ネロ、カズイさんも飛ぶ予定です』
『なるほど。その領主代行の手の者が、地竜の巣でアンタ達を探してる可能性があるって言いたいのね』
『その通りです。万が一 、向こうに人がいた場合、ルイス達にわざと姿を見せてもらい引き付けてもらおうかと』
『ふーん。じゃあ、準備は全部終わってるって事?』
『そのつもりです。多少は漏れがあるかもしれませんが……』
『それはしょうが無いわよ。何でも完璧になんて無理なんだから。じゃあ、時間もある事だし、簡単につまめる物を何か作って頂戴。少しお腹が空いてきちゃったわ』
『は? 今からですか?』
『ええ、今よ。アンタなら簡単に作れるでしょ』
コイツは何を無茶振りしてるんだ。こっちはドラゴンアーマーを着込んで、完全武装なのに……
しかし、氷結さんは言い出したら聞かないわけで。
結局 厨房にあった芋を薄くスライスして、ポテトチップスを作る事になってしまった。
『美味しい! 芋を揚げただけなのに、何でこんなに美味しいの?』『美味しいです、兄さま』『アルド、これ凄く美味しい』『芋がこんなに美味くなるなんてな。アルド、これも使徒の叡智なのか?』『これ美味いんだぞ』
皆からの評判がすこぶる良い。そうだろう、そうだろう。それは日本人の心を鷲掴みにして離さないソウルフードだ。
ほんの少し辛かったり甘かったりするだけで、何百何千と言う種類がある。
冷静になって考えてみれば、狂ってると言われてもしょうがない程、日本人を魅了した悪魔の食べ物なのだ!
くっくっくっ、貴様等もポテチの虜になるが良い。
ポテチを貪りお腹も膨れた所で、時計を見ればそろそろ良い時間である。
『そろそろ行こうと思います。皆さん、準備は良いですか?』
それぞれが荷物の中を覗いて最終確認を行っていく。
そんな中、アシェラはライラへ『石』の付いた腕輪を渡していた。
『ライラ、これ。ボクは行けないから……アルドをお願い』
『任せて。アルド君は絶対に死なせない。私の命に代えても守る』
今回の旅ではライラが『石』を使うらしい。魔力を回復する場面があるか不明だが、手札は多い方が良いのは確かだ。
『ライラ、アシェラにも言ったけど、何か違和感を感じたら直ぐに使うのを止めてくれよ』
『うん、分かった……』
『絶対だぞ』
ライラはオレの言葉を聞いて嬉しそうに笑っている。本当に分かってるんだろうか……不安だ。
一抹の不安を抱きながらも、オレ達はガラの街へと飛んだのであった。




