415.ガラの街 part4
415.ガラの街 part4
ルイス達のボーイズトークを尻目にアオを呼び出した。
『何だよ。さっきは無視して自分だけご飯を食べてたくせに!』
『さっきはどうしても話せなかったんだ、悪かったよ。ちゃんとオレンとアポのシャーベットは作るから、な? 機嫌直してくれって』
『もぅ、本当にアルドは……』
シャーベットを作る約束をすると、アオの怒りは幾分かマシになった。
早速 あのマナスポットの青い光を消せるのかを聞いてみる。
『アオ、さっき解放したマナスポットだけど、青く光ってるだろ。あれって光らなくする事は出来るのか?』
アオは途端に苦い顔で口を閉ざしてしまう。この反応を見ると、光らなくする事は出来ても、なにがしらの問題があるって所か。
『あれだけ目立つと、見つからずに使うなんて出来ないんだ。何とかならないか?』
尚も黙っていたアオが、嫌そうにゆっくりと口を開いた。
『……出来ない事も無い。ただね、マナの流れをかなり絞る事になる。それこそ、土地がマナスポットの恩恵を受けられなくなるぐらいに』
『それって折角マナスポットに街を作っても、意味が無くなるって事だよな?』
『ああ、そうだよ。人の暮らしに関わる事で分り易いのは……恐らくだけど、この辺りの農作物は、収穫量が2~3割落ちるんじゃないかな』
『2~3割も、そんなに……』
『マナスポットの恩恵を受けられなくなるんだ、当たり前だろ。それに、ここのギフトは魔力量だったけど、ギフトも当然ながら制限されるからね』
『え? マジ? ここのギフト魔力量だったの? マナスポットを制限するとギフトも減っちゃうの?』
『当たり前だろ。元に戻すまで、ギフトも減ったままだよ』
『マジか……』
これはキツイ。例え微々たる物でも、魔力量が増えるのは本当にありがたい。それが「おあずけ」されるなんて……トホホ。
しかし、今の状態では飛べない処か、最悪は「怪しい」と言ってマナスポットを壊されかねないわけで。
心の中で特大の溜息を吐きながら、アオに制限を頼み込んだ。
『いつまでとは言えないが、グレートフェンリル王家と話が付けば使徒の件は話せるはずだ。その時には、マナスポットを囲むように建物を建ててもらえるよう話してみる。だからアオ、それまでマナスポットを制限してほしい。頼む、この通りだ』
アオは苦い顔をしながらオレを見つめている。
『頼む!』
『ハァ……もぅ、分かったよ。今回だけだからね! それとなるべく早くしてよ。あんまり長くマナの量を制限すると土地がどんどん弱っちゃうんだから……本当は僕達 上位精霊は、全ての大地にマナを行き渡せるのが仕事なのに……』
『分かった。なるべく早く王家と話を付ける。ありがとう、アオ!』
『じゃあ、僕はマナスポットを調整してくるから。シャーベットの約束も忘れないでよ!』
そう言ってアオは消えてしまった。
青い光が消えれば、あのマナスポットは今まで通り静かな公園に戻るはずだ。
アオには無理を言ったが、正直 本当に助かった。
こうなるとマナスポットは問題無いとして、後は地竜の情報収集か……何百年も経っているいる以上、使徒ギギが地竜の巣へ何をしに行ったのかは調べても恐らく分からないだろう。
そこは改めてフェンリルにでも聞いてみるか……あー、でもアイツ話せないからなぁ。
アオかアドに通訳を頼んでも良いが、まともに訳してくれるんだろうか……外国人と幼稚園児を間に入れた、伝言ゲームになる気がする……
まぁ、考えてみれば、使徒ギギが何をしたのかは興味以上の意味は無いわけで、やっぱり普通に地竜の情報を集めれば良いか。
思考を切り替えて、カズイの気になる女子の話題で盛り上がっているルイス達へ、喜び勇んで合流したのだった。
アオにマナスポットの光を抑えてもらうよう頼んだ次の日の朝。
『アルド、オレなりに考えてみたんだけど、地竜の情報集め、2手に別れた方が良いんじゃないか?』
『2手に? 何でだ?』
『うーん、オレは獣人語が読めないし話せないだろ? 正直 書庫で調べ物をするにも全く役に立たない。だったら、いっそギルドで聞き込みをする際の護衛でもしてた方が良いんじゃないかと思ってな』
ルイスの言う事も一理ある。確かにギルドにも聞き取りには行く予定だったし、書庫もそんなに広いわけじゃない。
ただ1つだけ気になる事を聞いてみた。
『お前の言う事は分かった。ただ1つ聞かせてくれ』
『何だ?』
『書庫で調べ物をする間、1日中やる事が無くてボーっと突っ立ってるのが暇なんて理由じゃないよな?』
オレの言葉にルイスは露骨に目を逸らし、目線を泳がせている。
やっぱりか……ぶっちゃけ、ルイスからすれば、周りが忙しそうにする中サボる事も出来ないし、やる事も無い……うん、確かにキツイ。
『分かったよ、今日は2手に別れよう。そうだな……カズイさんとネロが書庫で、オレとルイスがギルドでどうだ?』
『オレは構わないが、何でお前がギルドなんだ?』
『特に理由は無いが……強いて言えば、地竜について生の声が聴けるなら直接 聞いておきたいってぐらいかな』
『なるほど。確かに地竜には、お前とエルファスがメインで挑むんだ。生の声が聞けるのは貴重か』
『ああ、空気だけでも感じられればありがたい』
『って事だ。ネロ、カズイさん、書庫の方、頼みます』
『オレも体を動かしたいぞ……』
『分かったよ。先ずは内容は別にして、地竜の事が書かれてる物を抜き出しておくね』
ネロに軽く謝ってから、オレはルイスと一緒に冒険者ギルドへ向かったのであった。
ギルドに到着すると、中は人影がまばらであった。この時間であれば、冒険者の多くは既に狩場へ向かった後なのだろう。
早速 忙しそうにしている受付嬢へ声をかけた。
「すいません、少し教えてもらいたい事があるのですが、よろしいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「地竜の巣の事なんですが、知っている事があれば教えてください」
「地竜の巣……もしかして地竜に何かするつもりなんですか?」
「あー、まだ決めてませんが、もし倒せそうなら挑んでみようかなぁって……」
オレ達の話が漏れ聞こえていたのか。さっきまでの喧騒が消えていき、オレと受付嬢の声だけがこの場に響き始める。
「絶対に無理です。地竜は人が倒せるような相手じゃありません。悪い事は言いませんから、止めておいた方が良いです」
「やっぱり、そんなに強いんですか?」
オレの更に突っ込んだ質問に、受付嬢は呆れた顔で口を開いた。
「分かりました。私が知ってる事を教えますから、良ーーく聞いてください。先ず地竜と言うのは全ての竜種の中で一番固いんです。普通の剣では傷一つ付ける事は出来ないんですよ。それにブレス。ドラゴンのブレスはどんな鎧でも防げないんですから」
それは全部 知っている事だ。実際に戦った事があるオレには痛いほど分かっている。
更に情報を得るため、オレの知ってる事を話してカマをかけてみた。
「後は自己回復をするんですよね? 固くて回復を使うので並外れた攻撃力が要るって聞いた事があります」
「それは一部の地竜だけですね。地竜の中でも長い年月を生きた個体は、回復を使えるようになると言われています」
「え? 回復は全ての地竜が使えるわけでは無いんですか?」
「そう言われていますが、簡単に考えないでください。そもそも攻撃は通らず、万が一通っても直ぐに回復するんですよ? 更に地竜の巣には、何百年も生きた王がいると言われてるんです。王は回復以外にも特別なチカラを持っているとも言われているんです。名を上げたいのは分かりますが、もっと現実を見て行動しないと本当に死んじゃいますよ?」
「地竜の王……特別なチカラですか……」
受付嬢から一通りの話を聞き、併設されている酒場へとやってきた。
『おい、あの受付嬢から何を聞いたんだ?』
『実はな………………』
ルイスへ受付嬢から聞いた内容を包み隠さず話していく。
どうやら地竜の巣には、何百年と生きた王と呼ばれる個体がおり、特別なチカラを持っているのだとか。
全ての話を終えると無言の時間が続き、暫くしてルイスは吹っ切ったような明るい口調で口を開いた。
『そもそも地竜討伐は絶対条件じゃない。どうしても無理だと判断したら、他の方法を考えようぜ。地竜がいるんだ。風竜だって火竜だって何処かにいるはずだろ? 何ならそっちを狩っても良いんじゃないか?』
ルイスのあまりに軽い言葉に、思わず呆気に取られてしまう。
確かに地竜討伐は絶対じゃない。ギリクが上手く王家と話を付けてくれれば、こんな事する必要は無いのだから。
『……そうだな。確かにそうだ。チカラを見せるだけなら、他にも方法は幾らでもあるはずだよな』
『ああ、そうだ。まぁ、そうは言っても、ここまで来た以上、準備だけは進めていこうぜ。どうするかの最終判断は、お前とエルファス、ラフィーナさん、ライラに任せる』
『分かったよ』
そこからも、ギルドにいる者に声をかけたのだが、受付嬢 以上の情報を持つ者はいなかった。
結局 受付嬢より詳しい情報も無く、陽が傾いてきた事から館へと帰ってきた。
今は客間で4人、お互いの成果を話し合っている所である。
『………………って事で、こっちは地竜の王がいるらしい事、王は特別なチカラを持っているかもしれない事が分かりました。出来れば巣の規模なんかも分かれば良かったんですが、地竜の巣には誰も近づこうとしないみたいですね』
『そっか。地竜が群れでいるんなら、ボスがいるのも当たり前なのかもね。こっちも昔の話だけど、色々と分かった事があるんだ。実はね………………』
カズイの話を聞くと、どうやら このガラの街は過去に何度か魔物に襲われた事があるらしい。しかし、その際には必ず地竜が現れ、魔物を倒してしまうのだとか。
『地竜がガラの街を守ってるんですか……』
『どうなんだろうね? 実際は縄張りを荒らされるのを嫌ったとかじゃないかな。だってドラゴンが人を守るなんて聞いた事無いよ』
確かに竜種と言えば魔物の王と言われる存在だ。魔物が人を守るなんて話は聞いた事が無い。
『そうですよね。僕も聞いた事がありません。カズイさんの言うように縄張りを守ろうとしたか、単純にほかの魔物を鬱陶しいと思ったか……そう考えるのが普通ですね』
『うんうん。でも地竜の王……本当にそんな存在がいるのかな?』
『受付嬢の話では、そう言われているみたいで真偽は分りません』
『そっか……それだと、これ以上はこの街で調べられる事は無いのかもしれないね』
『そうですね。マナスポットは開放しましたし、情報も、これ以上は難しいかもしれません。後は実際に見てみないとどうしようも無いですか』
この街でやるべき事は既に残っていない。ルイスとネロの顔を見ても、どうやら同じ意見のようだ。
『皆、明日には、この街を発とうと思う。どうかな?』
『良いんじゃねぇか。やる事はやったんだ。これ以上の滞在は遊びになるぜ』
『オレは早く地竜が見たいんだぞ。明日、向かうんだぞ』
『僕も良いと思うよ。その地竜の王って言うのが気になるけど……』
『じゃあ、反対は無しって事で。領主代行には夕食の席で話そう。各自、自分の荷物だけは確認しておいてください』
こうして明日には、この街を出発する事を決めた。しかし、ネロよ。街を出たら目視出来ない高さまで登って、先ずはマナスポットでブルーリングへ飛ぶ予定だぞ? いきなりその足で地竜の実地調査なんて行かないからな?
ネロの荒い鼻息に、一抹の不安を抱いたのだった。




