414.ガラの街 part3
414.ガラの街 part3
青く光り出した大岩を呆然と眺めていると、一足先に我へ帰ったルイスが口を開いた。
『お、おい、ここにいるのはマズくないか? 取り敢えず離れようぜ、』
『あ、ああ、分かった……』
4人でその場を直ぐに離れて、辛うじて大岩が見える場所へと移動した。
ここなら直ぐに怪しまれる事も無いだろうし、万が一マナスポットに何かあっても数秒で駆け付けられる。
しかし、あの岩がマナスポットだったとか……あー、びっくりした。光り出すまで全く何も感じなかったぞ。
『アルド、あの岩がマナスポットだったって事で良いんだよな?』
『ああ、そうだと思う。今はハッキリとここが領域の中だと分かるし、魔力も回復したからな』
『そうか。しかし、ビビったぜ。いきなり岩が青く光り出して、いつもの畏れを感じ始めたからな……』
『オレもだ。主のいるマナスポットは、見れば何となく分かるのに、あれは全く分からなかった』
『お前でもか。だったらオレ達に気が付かないのは当たり前だな』
こうなるとアオが調整を終えるのは……今が15:00だから、終わるのは19:00から20:00ぐらいか。うーん、暇だ。
いっそ、ミルドの時みたいに、マナスポットから離れていた方が良いかもしれない。
ただでさえ、今まで普通の岩だった物が青く光り出しているのに……絶対に騒ぎになるのが分かってる……こんな所にいたくない。
『しかし、あの青い光……今までただの岩だと思ってた物が急に光り出して、絶対 怪しまれるだろ……どうするつもりだ、アルド』
『どうするつもりって言われても……オレにも分からん……しかも、あれじゃあブルーリングへ飛ぶ事も出来ない……』
『だよな……あんな丸見えだと、飛ぶ所を見て下さいって言ってるような物だからな』
『これだったら、いっそ神殿にでも覆われてた方がよっぽどマシだった……ハァ……』
ルイス達も眉根を下げて、これからの行動を計りかねている。
『取り敢えず、館に戻ってマナスポットと地竜の事を調べよう。石碑の内容も気になるしな』
『分かった。本来はマナスポットに街を作ったはずなのに、ここが放置されてた原因も一緒に調べようぜ』
こうしてオレ達は逃げるように館へと戻ったのであった。
早速ズールのオッサンへ書物を読む許可を願うと、意外な事に快く了承してくれた。
どうやら外をフラフラ出歩くよりは、館の中でジッとしててくれた方がありがたいようだ。
「この棚のここからここまでが、過去にガラの街で起こった事柄の記録です。自由に読んでもらって構いません。但し、この棚以外の書物は触れないようにお願いします。良いですね?」
「はい、分かりました。私も籍を抜いたとは言え、貴族家の嫡男です。本来は書庫の立ち入りなど許される物では無い事は分かっています。格別の配慮、誠にありがとうございます」
オレの言葉と態度にズールは満足そうに頷き部屋を後にする。しかし、執事が書庫の隅に残っており、終始 監視をするようだ。
『よし、手分けして地竜の書物を探そう』
『分かったんだぞ』『うん。取り敢えず、内容は兎も角 地竜の事が書いてある物を探すね』
ネロとカズイは早速 書物を読み始めたが、この場には獣人語が読めない者が1人いる。
『悪いな。オレは何の役にも立ちそうも無い。せめて怪しい者が来ないか見張っておくぜ』
そう言ってルイスは書庫の扉の前に立ち、護衛を始めてしまった。
文字は兎も角 言葉だけでも話せれば、冒険者ギルドで聞き込みでも頼みたい所だが……こればかりはしょうがない。今後に期待だ。
書物を調べ始めて数時間が経った頃、メイドが食事の時間を知らせにきた。
「お客様、夕食の準備が出来ました。ご案内します」
もうそんな時間なのか……地竜の事が書かれた書物は見つかっていないが、公園のマナスポットについては少しだけ分かった事がある。
食事の際にズール騎士爵へ聞いてみようと思う。
王命で動いている以上、毒の可能性は無いとは思いつつ、食事に呼ばれたのであった。
メイドに促されるまま食堂に入ると、既にズール騎士爵だけでなく、夫人と2人の息子が席に座っていた。
すまし顔で座っているが、このオッサンは兎に角 貴族の作法にうるさい。ここはオレが代表で挨拶をしておかないと、また面倒な事を言い出しそうだ。
一つ小さく息を吸って、貴族の礼を口にする。
「本日は夕食のお招き、誠にありがとうございます。急な来訪であったにも関わらず、閣下のご厚意で滞在を許された事にも改めてお礼を申し上げたい。我らのような冒険者風情を、このような場に招いていただいた閣下の恩情へ感謝し、お礼の言葉といたします。最後に、私達はフォスターク王国から参った故、グレートフェンリルの作法には疎いものでご容赦下さい」
ズールは、機嫌良さそうに数度 頷いてから口を開いた。
「我等グレートフェンリルの作法とは少し違うが、素晴らしい挨拶だった。さあ、席に着いてくれ」
「はい、ありがとうございます」
促されるまま用意されている席へ座ったのは良いが、問題はカズイとネロが貴族のマナーを全く知らない事である。
普段ブルーリング邸での食事では、使徒の従者としてお目こぼしされているのがマズかった。
帰ってからにはなるが、これは2人にもテーブルマナーを覚えてもらう必要がありそうだ。
しかし、今 この席ではどうしようもないわけで……口うるさいズールには先に一言入れておこうと口を開いた。
「申し訳ありません。私とこのルイスは生まれが貴族家でありますが、こちらの2人は市井の出です。少々 閣下のお目を汚す事を先に謝らせて頂きます」
ズールはオレ達4人を見回してゆっくりと話し始める。
「私は冒険者に貴族のマナーを求めるような真似はしない。気にしないで食事を摂ってくれ。尤も君が想像以上の挨拶を見せてくれたのには少々驚いたがね」
「勿体ないお言葉です」
そこからは終始 和やかに食事は進んで行った。
ネロやカズイも、オレとルイスの食べ方を見様見真似で必死に食べている。
そんな友好的な空気の中、さり気なさを装い公園の石碑についてを聞いてみた。
「あの石碑を見たのか。あれは、このガラの街が作られる事になった切っ掛けになったものだと聞いている。良い機会だ、この街に伝えられている話を教えよう」
ズールは軽くワインを飲みながら、機嫌良くこの街が出来るまでの逸話と、あの石碑についてを話し出した。
要約すると、遠い過去 獣人族の始祖ギギは、フェンリルと共にこの地へとやってきたそうだ。
目的は地竜だったと伝えられてはいるが、詳細は長い時の中で失われてしまっている。
そして目的をを果たしたギギは、岩の前に自分の剣を突き刺して旅立ったという。
これだけを聞くと、「ふーん、そうなんだ」としか思わないが、使徒の使命を知っているオレからすれば疑問が幾つかある。
あのマナスポットが主不在だったと言う事は、使徒であるギギはマナスポットを解放しなかったのか? 若しくは解放はしたがギギが死んで主不在になったのか?
それに地竜……一体、ギギはここへ何をしに来たのか……
オレ達と同じように、地竜を素材として欲っしたのか、それとも 名声を得るため討伐に来たのか……
それからもズールの話を聞いて1つだけ分かった事がある。
そもそも、このガラの街は、マナスポットに作られたのでは無く、ギギの剣を一目見ようと集まった者達で作られた街なのだそうだ。
その証拠にズールの何代か前の領主代行によって剣は地面ごと持ち去られ、今はこの館のロビーに飾られているのだとか。
そんな物あっただろうか……入った時には全然 気が付かなかったが。
恐らく使徒であるギギは、マナスポットに剣を捧げたのだろう。しかし、後の人からすればギギの剣にしか興味が無かった事で……結果、あの大岩は放置されていたようだ。
何と言うバチ当たり……
しかし、伝承なんてそんなモノなのかもしれない。
因みに、石碑は剣を移転する際、元はこの場所にあった事を記して建てられたのだとか。
まぁ、マナスポットが放置されていた原因と石碑の経緯は分かった。
しかし、あのマナスポットをどうやって人に見られず使うのか……問題は全く解決されていないわけで。
どうしようかと頭を悩ませていると、不意に声が聞こえてくる。
「何でアルドだけノンビリ食事を摂ってるんだよ! 僕にだけマナスポットの調整を押し付けて! 折角 急いでやったのに!」
この声はアオだ。姿は見えないが、耳の奥から声だけが聞こえてくる。
恐らくマナスポットの調整が終わり、知らせてくれたのだろう。
しかし、いざオレの所にやってくると、当のオレは夕食の真っ最中である。
流石に扱いが酷すぎると、お怒りのようだ。
あー、弁解したいけど、この場でアオと話すわけにはいかないし……どうしよ。
「ハァ……もう、アルドは……言っとくけど、シャーベットはオレンだけじゃ無く、アポも追加してもらうからね! 絶対だよ!」
アオは一通り文句を言った後、勝手にアポの実の追加を宣言して消えていった。
はい、謹んで上級精霊様へシャーベットを捧げさせて頂きます。
こうなると、残っている問題はマナスポットが青く光っている事だ。何とかあの青い光を消せれば……これは後でアオに聞くとしよう。
結局 何故かズールのオッサンに気に入られてしまったようで、少し長目の夕食は終始 和やかに進んで行ったのである。
食事も滞りなく終わり、4人で客間へと戻ってきてからの事。
アオからの話を説明するため、部屋の隅に集まってもらってから小声で話し出した。
『皆、聞いてくれ。食事の途中でアオから連絡があった。マナスポットの調整は終わったらしい。当面の目標はクリアしたが、問題はマナスポットが青く光っている事だ。あれじゃあ、目立ちすぎて使えないし、直ぐに騒ぎになる』
『確かにな。何とかできるのか?』
『それをアオに聞いてみようと思う。悪いが、また世間話を頼んでも良いか?』
『分かったぜ。じゃあ、今度はネロとカズイさんの、今 気になっている女の話といこうぜ。どうなんだ、ネロ、カズイさん。気になる女の1人や2人いるんだろ?』
『ん? 女? オレは強いヤツが好きなんだぞ』
『気になる女の人かぁ……』
『お、カズイさん、その反応はいるって事ですね? 誰ですか?』
『い、いや、気になるって言うか……オクタールの神官の女の子と仲良くなっただけだよ……そ、そんなんじゃないよ……』
えーっと、ルイス達が楽しそうなんですが……オレもボーイズトークに参加したい……くぅ、オレは涙を呑んで部屋の隅で指輪に魔力を流すのだった。




