412.ガラの街 part1
412.ガラの街 part1
ググの街を発って7日が過ぎた。道中、街へは極力寄らず、野営をして進んできた事から、想定より早くガラの街へ到着する事ができた。
今は街へ入るための身元確認の列に並んでいる所だ。
『しかし、ここまで急ぐ必要は無かったんじゃないか?』
『ん? 別に急いだつもりは無かったぜ。ただ団長からの話だと、以前使われた薬は隙間さえあれば簡単に使えるらしいからな。密閉された部屋よりも、野営した方が安全だっただけだよ』
『なるほどな。薬か……ずっと野営するわけにもいかないし、どうしたもんか……』
『アルド、相談なんだけどな。薬を感知する魔道具なんて作れないか? 毒を中和しろなんて無茶を言うつもりは無いんだ。毒の類を感知すると音が出るだけで良い。そんな魔道具があればお前の安全を確保出来る』
ルイスはこう言うが、薬物に反応する魔道具なんて聞いた事が無い。ゆっくりと首を振るオレを見て、おずおずとカズイが口を開いた。
『ルイス君の言うような事が出来るか分からないけど、アルジャナの魔道具に水の汚れを調べる物があるんだ。アルドなら毒を検知できるように改造出来ないかな?』
『え? そんな魔道具ありましたっけ? 僕は見た事 無いんですが」
『あ、僕達のパーティでは、アルドか僕が水を出してたから。魔法使いのいないパーティだと必須の魔道具だったよ。値段も手頃だったしね』
『なるほど。確かに冒険者にとって水の確保は生命線ですか……その魔道具を見てみないと正確な事は言えませんが、カズイさんの言う通り改造すれば毒を検知できるかもしれませんね』
アルジャナにそんな魔道具があったのか。ただ今の時点ではどうしようも無いわけで。
『アルジャナって事はお前の言う海だっけ? バカでかい湖を越えないといけないんだろ? って事は、しょうがないが当面は保留だな』
『ああ。何時かはまたアルジャナにも行かないといけないし、それまでは交代で見張りをするしか無さそうだ』
会話をしている間にも列は進んでおり、いつの間にかオレ達の番になっていた。
門番はオレ達全員を見て、少し驚いたように口を開く。
「何だお前等、種族がバラバラだな。ガラの街に何の用だ?」
この質問にどう答えれば良いのか。正直に地竜を狩りに来たって言ったら、また問題が出てきそうな気がする。
しかし、嘘を吐くとまた攫われるような事になり兼ねないし……悩んだ末、正直に話す事にした。
「僕達はグレートフェンリル王の命令で地竜を討伐するために来ました。ここガラの街では、地竜の情報を集めて討伐の準備をするつもりです」
「は? 王命で地竜を討伐だと? お前は何を言っている? おい、誰か聞いてるか? コイツ等、王の命令で地竜を狩りに来たって言ってるぞ!」
門番の声に休憩中の者も集まり始め、俄かに騒々しくなってくる。
「地竜を狩るって……バカなのか?」「おいおい、地竜にちょっかいを出して、この街まで被害が出るんじゃないだろうな」「王命だと? 誰か聞いてるか?」「こんな若造が地竜を? 倒せるわけ無いだろうが。止めさせろ」
場が混沌としてくる中、階級の高そうな者が奥から現れ、騒いでいる門番を一喝した。
「お前等、ウルサイぞ! 持ち場へ戻れ! 数日前に連絡は来ている。ほら、サッサと戻れって言ってるだろ!」
騒いでいた門番達は、上役だろう者からの声に渋々下がっていく。
場が落ち着いた後、上役はオレ達を見てあからさまに迷惑そうな顔で口を開いた。
「ハァ……話は届いているが、詳しい事を聞かせてくれるか。ここじゃ、話もできん。付いて来てくれ」
「分かりました。ただ馬はどうしましょう?」
「ん? そうか。ボル、馬を預かっておけ。さぁ、こっちだ」
言われた通り、オレ達は馬を預けて上役の後を付いていくのだった。
案内されたのは門番達の休憩所である。簡素な木造の建物の中にある、応接間へと通された。
「適当に座ってくれ。私はここの責任者をしているアグルだ。一応、軽く話は聞いてはいるが、詳しい事は何も知らされていない。どういった経緯があったのか、聞かせてくれ」
王命が出ているのに軽くしか話が届いて無いとか……まぁ、オレ達も地竜討伐の予定を報告しているわけでは無いので、しょうがない事ではあるのだが。
恐らく本来であれば、ギリクが他領と擦り合わせをして、都度 先触れを出すのが本来のやり方なのだろう。
やっぱり貴族が絡むと本当に面倒臭い。これだから……ぶつぶつ
「全てを詳細に話す事は出来ませんが、おおまかな経緯を説明します。僕達はググ領でレッサードラゴンを倒し、迷宮を………………」
アグルと名乗った上役へ、レッサードラゴンを倒して迷宮を踏破した所から一連の経緯を説明していった。
「………………と言う事で王命により地竜を討伐に来たのです。不審な点があれば、ググ領の次期領主であるギリク殿か、その弟君である騎士団長に訪ねて頂ければ、僕の話が嘘では無いと分かるはずです」
「ど、ドラゴンスレイヤー……は、話は分かりました。至急 上の者に確認します。ただ真偽を確認するのに暫くの時間を頂きたいのですが」
「暫く……それはどの程度の時間ですか? こちらとしては、長くは待てません。僕達は「王命」で動いているのですから」
「王命ですか……分かりました。その件も含めて上と相談いたします。重ねてお願いしますが、上の指示があるまで今しばらく待って頂けないでしょうか?」
「私達はそちらに何かを頼むつもりはありません。準備が出来次第、数日でいなくなる予定です。ですので、このまま通して頂けると助かります」
「し、しかし……それでは我が街が王命に協力しなかった事になってしまいます。何卒 暫くの間、お待ち頂きたく……直ぐに戻って参りますので。おい、誰か! 領主代行と隊長へ連絡を! 今すぐにだ! 急げ!」
返事の後に数名が走って行く音が聞こえてくる。
あー、やっぱりこうなったか……だから貴族が絡むと嫌なんだ。
辺りが騒々しく動き回る中、結局 アグルと名乗った上役を無視するわけにもいかず、暫しの足止めを食らってしまったのであった。
かなり急いだのだろう。1時間ほど待たされた所で、ガタイの良い中年の騎士が額に汗を滲ませながら部屋に入ってきた。
「お待たせしてしまった。私はここガラの街を守る大隊の隊長、ザンバと申します。館でこの街の責任者が待っている故、直ぐに案内させてもらいます」
責任者か……恐らく、領主にこの街の運営を任されている騎士爵なのだろうが、ぶっちゃけ行きたくない。
この街のマナスポットが何処にあるのかすら分かっていない現状、館とやらに逗留すれば監視されているのと変わらないわけで……絶対に自分達の行動範囲を狭める事になってしまう。
しかし、ググ領での事もある……あまり適当に扱うと、いらぬ波風を立てる可能性もあるのだ。
どうしよう……何か良い案でもあれば……
オレが言い淀んでいるのを見て、ザンバは更に口を開いた。
「館が気に入らないのであれば、引き留める事はしません。ただ私どもの都合も汲んで頂けると助かります。会うだけでもお願い出来ないでしょうか?」
こう話すザンバの顔は必死である。確かに、ここに軽くでも王命が届いていると言う事は、領主から正式な話が来ているに違い無い。
それを全く放置するなど、ここの責任者やザンバからすれば領主や騎士団長から何かしらの罰を受けてもしょうがないのだ。
こんな事で禍根を残すわけにもいかない……結局、心の中で溜息を吐いて同行を承諾したのである。
「分かりました。そこまで言われるのであればザンバ殿に同行しましょう。但し、挨拶の後は自由に行動させてください。それが条件です」
「本当ですか。非常に助かります。責任者に会って頂いた後は、アナタ方の行動を縛らない事を約束します」
こうしてオレ達は迎えの馬車に乗って、館へと向かったのである。
馬車に揺られてガラの街を眺めている中、どうしても1つ気になっている事がある。
実はガラの街に入る前から思っていたのだが、領域に入った感覚が今を持って一切感じられないのだ。
街に入る前は、余程 小さなマナスポットなのかとも思ったが、流石に街の中ですら感じられないのはおかしい。
もしかして、主不在のマナスポットは領域を感知出来ないのだろうか。
出来ればアオに聞いてみたい所だが、流石に今はマズイ。
焦れた思いが顔に出ていたのか、カズイが声をかけてくる。
『アルド、落ち着いて。ここはググの街じゃないんだ。王命が出てるんだから騎士が僕達に危害を加える事は無いんじゃないかな』
『そうですね。そこはあまり心配してないんですが……ちょっと気になる事があって……』
『気になる事? アルドが言うと、ボクも凄く気になってきちゃうよ。今は言えない事なの?』
カズイの言葉に少し考えてから、3人へ手招きして耳を貸してもらった。
『ぼそぼそ……実は、領域に入った感覚が無いんですよ。もしかして凄く小さいマナスポットかとも思ったんですが、流石に街に入っても感じられないのはおかしくて……』
3人は驚いた顔をしながらも一切の声は出さず、何かを考え始めた。
そんな中、ルイスが口を開く。
『それじゃあ、この街にはマナスポットが無いって事なのか?』
『うーん……その可能性もあるな。後は主のいないマナスポットは感知出来ないのかもしれない。どっちにしても一度アオと話したいんだけど、この状況で呼ぶわけにもいかないしなぁ』
『なるほど。じゃあ、サッサと挨拶を済ませて、宿なりで精霊様を呼ぶのが良いって事か』
『ああ、ググの街みたいに適当に逃げて、また攫われるなんて考えたくも無い』
『尤もだ。まぁ、時間はある。確実に進めていくのが一番か』
『だな』
面倒ではあるが、挨拶だけならそう時間もかからないだろう。
そう割り切って、オレ達4人は馬車に揺られるのだった。
門から30分ほど馬車に揺られると、街の中心にある役場のような場所に到着した。
どうやらここが館なのだろう。馬車は門番の騎士に誘導され、正面の玄関でゆっくりと停車していく。
そのまま騎士隊長のザンバ直々に館を案内してくれ、オレ達は客間の1室へ通された。
「暫くお待ちください。直ぐに領主代行を呼んできます」
大きな体で献身的に動く姿は、誰が見ても苦労性なのが見て取れる。
そうして10分が過ぎた頃、ザンバは責任者を連れて戻って来た。
オレ達4人はその場で立ち上がり、代表でオレが名乗りを上げる。
「お初にお目にかかります。アルド=ブルーリングと申します。この度はグレートフェンリル王の命を受け地竜討伐に参りました。このガラの街には数日間 準備のために逗留させて頂きたいと思っています。用事が済み次第直ぐに立ち去りますので、暫しの滞在を許して頂きたい」
責任者は神経質そうな見た目の中年の紳士であった。
オレの挨拶をジッと聞き、見下した様子で口を開く。
「ズール=フォン=ナジだ。ガーム伯爵家に仕える騎士爵家で、この街の政務の一切を任されている。領主代行、責任者、好きに呼ぶが良い」
それだけ言うと、オレ達の向かいのソファーへ座ってしまった。
これはどうすれば良いのだろう。隊長のザンバとは違い、オレ達を歓迎していないのは明らかである。
オレは心の中で溜息を吐き、話し合いの席に着いたのであった。




