411..亀の歩み part2
411..亀の歩み part2
母さんと話して、これからの方針を決めて3日が経った。
この3日間で、結局 2度も団長に会いに行き、地竜討伐に向けて詳細な準備を進めている。
情報を集めて分かったのは、やはり母さんが言うように地竜の巣はググ子爵領では無く、隣のガーム伯爵領にある事だ。
そして更に驚くべき事実があった。巣と言う名が示す通り、地竜の巣では地竜が1匹では無く複数 確認されていると言う。
複数の地竜……それを倒すとか、どんな無理ゲーなのかと……団長も調べてみたそうだが、そんな魔境に近づく酔狂な者などいるはずも無く、それ以上の情報は得られなかったらしい。
結局 これ以上の情報は、実際に現地に赴いて自分の目で確かめるしか無いのだろう。
それとは別に、地竜の巣までの具体的な旅程も知る事が出来た。ガーム領にあるガラの街までは、ここググの街から馬車で8日。そこからは街道などは無く、荒野を2日ほど歩くと地竜の巣に辿り着けるそうだ。
そして、旅程とは別に、実は2度目の団長との面会の際 アオを呼び出し、作りかけの世界地図を見せてみた。
「今日は世界地図とグレートフェンリルの拡大図を持って来ました。団長はガラの街のおおよその位置を教えてください。アオはその後、近くのマナスポットの位置を書き入れてほしい」
「え? こ、これは……せ、世界の地図? ま、まさか世界とはこんな形をしているのか……あぁ、フェンリル様、矮小なる私などに、このような知識を得る機会を頂けるとは……感謝いたします……」
地図は基本どこでも最重要機密だ。ましてや世界全体の地図など……王侯貴族であっても見る事など出来るはずも無い。
団長の態度はそんな背景もあり、望外の知識を得る機会に対して跪いているのだ。
うーん、分からないでも無いですが、そんなに畏まられても……その地図はオレが主導で作ったんですよ? いつまでも跪いてないで、サッサととガラの街の位置を書き入れてくれませんかね。
「が、ガラの街はググ領ではありませんので、正確な位置は分からないのです。申し訳ありません」
「そう怯えないでください。最後はどうなるか分かりませんが、裏切る事さえ無ければ、私から何かをするつもりはありません。それにガラの街の位置はおおよそでも構いません。今は近くにマナスポットがあるかを確認したいだけですから。ですので気楽に書き入れて下さい」
団長はオレの言葉に頷き、震える手で丸を書き入れた。
「お、恐らくは、この辺りかと……」
「ありがとうございます。アオ、どうだ? この辺りにマナスポットはあるか?」
「……マナスポットはあるね。と言うか、この街の位置が本当なら、街の中にあるんじゃないかな?」
「街の中? あ、なるほど。獣人族もオクタールの街みたいに、マナスポットを中心に街を作ったって事か」
「恐らくそうだと思うよ。あれ? ちょっと待って。この反応……もしかして、このマナスポットは主不在かもしれない。大きさの割に反応が小さすぎるんだ」
「主不在? そんなマナスポットがあるのか?」
「極稀にだけどね。主が死んで、誰も次の主に成らない場合 主不在になる。例えば、近くに強大な魔物がいて近づけないとか、何かのはずみでマナスポットが埋まってしまったとかだね。後は人が街を作って、魔物や動物を寄せ付けない場合もある」
「強大な魔物って、その場合は魔物自体が主になるんじゃないのか?」
「そうとは限らないよ。アルドが以前 飛ばされたドゥオ大陸の奥地には、わざと主に成らなかった植物の魔物がいた。その植物は自分が動けないからか、マナスポットをエサに魔物をおびき寄せていたんだ」
「なるほどな。魔物の中にはそんなヤツもいるのか……因みに主不在のマナスポットを解放するには、いつもみたいに指輪を触れさせれば良いのか?」
「ああ。マナスポット自体は何も変わらない。僕との契約の証である指輪を押し当てれば良いよ」
アオの話では、どうやらガラの街の中にはマナスポットがあり、主不在で放置されている可能性が高いらしい。
主との戦闘は無さそうではあるが、街中にあるマナスポット……オクタールのように神殿で祀られているか、ブルーリングのように隠されているのか……どちらにしても、ぽっと出の旅人の手に触れられる場所にあるとは考え難い。
「実際にマナスポットがどんな状況かは行ってみるしか無いって事だよな?」
「そうだね。僕に分かるのは何処にどれぐらいの大きさのマナスポットがあるかだけさ。それ以上は使徒であるアルドの領分だ」
「分かったよ。ありがとな、アオ。団長もありがとうございました。私は一度ブルーリングへ帰ります」
「解放する前にはちゃんと教えてよ。こっちにも準備があるんだからさ」
「分かりました、アルド様。私に出来る事があれば何なりとお申し付けください」
欲しい情報は手に入った。これ以上は流石に難しいだろう。団長に挨拶をして、護衛として同道してくれていたルイス達と一緒に、ブルーリングへ帰路についたのである。
ブルーリングへ戻って次の日、関係者全員を領主館の客間へ集めて、地竜討伐についての諸々を話し合う事にした。
これは細かな認識のズレを修正したり、目的を明確化するためである……と言うのは建前で、今回のグレートフェンリルでの一連はオレの判断が全て裏目に出てしまっている。
正直な話、自分が信用できない。もしかして、また裏目に出るんじゃ……そう考えるともうダメだ。
面倒ではあるが、皆に自分の考えを聞いてもらわないと不安でしょうがない。
こうしてオレは、グレートフェンリルで起こった一連と、これからの行動を全員へ説明していったのである。
「………………と言うわけで、地竜を討伐しようと思っています。更にアオからの話では、ガラの街には主不在のマナスポットがあるようでして。先ずは解放して、地竜討伐の足掛かりにしようかと思います」
「兄さま、僕と母さまはマナスポットを解放した後で合流すると言う事ですか?」
「ああ。マナスポットを解放したら、ルイス達と交代してもらう事になるはずだ。ただ1つだけ懸念があってな……団長から聞いた話では、地竜の巣には複数の地竜がいるらしいんだ。考えてみれば、アイツ等も生物である以上、繁殖する必要があるからな。数がいるのは当たり前の話なんだろうな」
「でも……地竜が複数……大丈夫なんでしょうか?」
「エルの懸念は分かる。もし地竜同士が連携するようなら、オレ達では太刀打ちできないかもしれない。そこも含めて、先ずはガラの街のマナスポットを解放したい。その後は情報収集だな。必要なら威力偵察をして、向こうの連携を確かめる。上手く1匹だけ誘き出せるようなら、そこまで大した脅威じゃないと思うんだ」
「そうですか……分かりました……覚悟だけはしておきます」
「助かるよ、エル」
エルと話を終え、次はルイス達に話しかけようとした所で、母さん、アシェラ、オリビア、ライラ、マールが難しい顔をしながらオレを見つめてきた。
「ど、どうかしましたか? 母様。それに4人も……」
女性陣へ問いかけると、母さんが露骨に溜息を吐きながら口を開く。
「ハァ……アンタねぇ、私は地竜が群れでいるなんて初めて聞いたんだけど」
「あー、それは僕も団長から聞いたばかりでして……知らなかったと言うか……」
「アル、色々と事態が目まぐるしく変わってるのは分かるつもりよ。それを踏まえて言わせてもらうけど、良い?」
「あ、はい……」
「これだけは約束しなさい。絶対に無事で帰ってくる事! アンタがグレートフェンリル王家との折衝、地竜の皮の確保、ドラゴンスレイヤーとしての矜持、色々なシガラミがあって手探りなのは理解してるわ。でもね、アンタもエルも死ねないの……ううん、違うわね。死ぬわけにはいかないの。使徒だとか始祖だとかの前に、アンタ達は父親でしょ。無事に帰ってきて子供の成長を見届ける義務があるわ」
「はい、勿論です、母様」「はい、母さま」
「それと地竜戦だけど、アル、エル、私、それにライラも入れて4人で挑むわよ。本当はナーガも連れていきたいんだけど、あの子は立場的に難しいでしょうしね。今回は少数精鋭の短期決戦で挑むわよ!」
「はい!」「はい」
細かな部分での変更はあったものの、意外な事に大筋での反対は出なかった。心の中でホッと安心したのは秘密である。
そこからはルイス達へ、ガラの街までの同行を頼んだのだった。
諸々を報告して気が楽になった次の日、オレ、ルイス、ネロ、カズイの4人は早速 ググの街へ飛んで団長の下へとやってきた。
一応の仲間である団長へ、これからオレ達がどう動くかを説明するためである。
「アルド様、お越し頂けてありがとうございます。本日はどういったご用件でしょうか?」
使徒である事を打ち明けてから、団長はずっとこの調子だ。まるでオレが獣人族の始祖ギギであるかのように持ち上げてくる。
正直、非常に鬱陶しい……
「あの……もっと普通に話してもらって大丈夫ですよ? 私は今代の使徒ではあっても、獣人族の始祖ギギ様ではありませんので」
「いえ、アルド様が新しい種族の始祖だとしても、この世界を救う使徒様であるのには変わりありません。であれば、今を生きる1人の獣人族として、礼を尽くすのは当然の事。お気遣い無くお願いします」
そのお前の態度にお気遣いするのだと……喉まで出かかったが、これ以上言っても無駄だと諦める事にした。
「はぁ……分かりました。今日 伺ったのは、これから私達がどう動くかを話すためです。実は………………」
ルイス達とこのままガラの街へ行き、マナスポットを解放するつもりである事。マナスポットを解放後は、メンバーを入れ替え地竜へ挑む事。引き続き王家との交渉を頼みたい事と話していく。
「分かりました。では馬車と道中の護衛を手配致します。暫くお待ちください」
「あ、道中は馬術の練習に当てるつもりですので、両方とも必要ありません。馬もこちらで手配するので……お気持ちだけで」
実はネロとカズイは馬に乗れない事から、今回の移動の際に馬術の練習をする事になっているのだ。
森や谷、全ての障害物を無視できるため、空間蹴りで移動した方が早いのは確かである。
しかし、そこまで急ぐ必要が無いのであれば、馬を使った方が便利であるし何より楽なのだ。
団長からしつこく馬車と護衛の打診をされたが、正直な話あまり借りを作りたくも無い。
丁重にお断りをして、オレ達はガラの街を目指したのである。




