172.移動
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オレ達は今サンドラ領へと向かっている途中だ。
オレ、エル、母さん、アシェラの4人は、馬車の中で地図を見ながら頭を捻っている。
実は王家の遣いから貸し出された物があった。
まずはブルーリングとサンドラ領が入った正確な地図だ。
この地図はどんなにボロボロにしても良いから必ず返すように言われた。
オレなどは、そう言われても丁寧に扱おうとするのだが氷結さんは早速、落書きをして近道を探している。
「か、母様、良いんですか?ゴブリンの時と違ってこれは王家からの借り物ですよ?」
「ん?ボロボロにしても良いって言ってたから大丈夫でしょ。アルは変な所で細かいわね」
オレが細かいのだろうか……見ているとエルはこっち側で、アシェラは向こう側に見える。
女性が図太いと言う事なのだろうか……謎だ。
オレ達が馬車に乗っているので今はガルとベレットにオレ達の馬を引いて貰っている。
走りながらは無理だが馬車のスピードなら馬に乗りながら、もう1頭を引くのは難しくないらしい。
まぁ、オレには無理な事だが騎士には必修科目のようだ。
母さんと話した結果、結局は普通に街道を通って行く事に決まった。
ゴブリンの時は土地勘があったし、何より自領の事だった。
可愛そうではあるがサンドラ領での知人は全て王都にいるはずだ。
ここは王都から6日かかる所をブルーリングから4日で向かう事で許して欲しい。
そうこうしてると昼食の時間になった。
「そろそろ昼食にしましょうか」
オレの言葉で近くの見渡しの良い場所に馬車を止め休憩に入る。
ここには川が無いので馬車の屋根から桶を降ろし魔法で水を入れてやった。
「アルド様は相変わらず何でもこなすッスね」
「タメイとこうしているとアシェラを追いかけた事を思い出すよ……」
タメイと並んで馬に水をやっていると昔の事が思い出される。
「お姫様とはその後はどうッスか?」
「上手くやってる……と思う……」
「なんですかい、そりゃ。また発破をかけなきゃいけませんかね?」
「その時が来たら、頼むよ」
馬の世話はタメイに任せて、オレはさっきから腹を空かせたクマみたいになってる人達の世話だ。
厨房から持ってきたフランクフルトを、そこらで拾った枝に刺して人数分を焚火で焼いて行く。
フランクフルトは一度ボイルしてあるので、そのまま食べられるのだが調理した方が美味い。
焼きあがるまでの時間で白パンに切れ目を入れて野菜を挟んでいく。
スープは干し肉と野菜を煮込んで作っている途中だ。
休憩に入ってから30分が経った頃、昼食が完成した。
干し肉と野菜のスープ、フランクフルトと野菜を挟んだホットドッグだ。
「じゃあ、食べてくれ」
オレの言葉に全員がホットドッグに齧りつく。
意外な事にベレットまでもが眼を輝かせながら大きな口を開けて齧りついている。
オレが驚いた顔でベレットを見ていると、それに気が付いたのか顔を赤くして小さな口で齧り出した。
「スマン。そんなつもりじゃ無かったんだ。好きに食べてくれ」
オレは謝るがベレットはますます小さくなって行き、最後にはリスがクルミを齧る程になってしまう。
どうした物かと思っているとガルがベレットへ話し出した。
「オレはお前が美味そうに食べている所が好きだ。だから好きに食べろ」
ベレットはガルを見て小さく頷くとやっと普通にホットドッグを食べ始める。
オレはガルとベレットの距離感に違和感を感じた。
「ガルとベレットってそんな距離感だったか?」
「どんな距離感だよ」
「いや、そんな夫婦みたいな感じだったか?」
オレの言葉にガルとベレットは苦笑いを浮かべ、タメイはニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている。
「白状しちまった方が良いっスよ」
タメイの言葉にガルが絞り出すように話し始めた。
「今年の収穫祭が終わったら結婚する予定だ……」
「結婚?」
「ああ」
「誰が?」
「オレがだよ!」
「誰と?」
「ベレットに決まってるだろ。タメイと結婚するとでも思うのかよ!」
「……」
「……」
「……え?ベレットとガルが……」
「ああ」
「ベレット!考え直すなら今のうちだぞ!」
「どう言う意味だよ。そりゃ!」
「冗談だ……驚いたよ。でも、おめでとう。ガル、ベレット」
「ありがとうございます、アルド様」
「全く、アル坊は……ありがとよ」
「じゃあ絶対に生きて帰らないといけないな」
「ああ、そうだな」
「はい」
この世界に死亡フラグなんて無いのは分かっているが、言い様の無い不安が込み上げてくる。
どちらにしろ戦闘になればガル、ベレット、タメイ、はオレ達に付いて来れない。
安全地帯で待っていてもらおう。オレは心の中で、そう決めた。
ブルーリング領からサンドラ領への道は街道といっても、商人が行商に使うための物で宿場町がある訳でも道がしっかり整備されている訳でも無かった。
王都へ行く道より凹凸は多く深い。酷い時は話していると舌を噛んでしまう。
自然とオレは馬車では無く馬に乗って移動するようになった。
アシェラも馬車の中は退屈なのか、ちょくちょくオレの前に乗り込んできて景色を楽しんでは馬車に戻っていく。
驚いたのはドラゴンアーマーを着た母さんが空間蹴りでオレの後ろに乗り込んで来た事だ。
この間までお尻から落ちていたのに流石はAランク冒険者、今では安心して見ていられる。
しかし騎士の3人は空間蹴りの魔道具を知らない。眼を見開き、大口を開けて母さんを見ていた。
「タメイ!前!前!!」
タメイは馬車が右に寄って行くのを必死に戻そうと頑張っている。
「どう?アル」
「いつの間に、そんなに上手くなったんですか?」
「ふふん。ナーガと一緒に練習したもの」
「それは知ってますが……」
「コツさえ掴めば簡単だったわ。まあ、私だからこんな短期間で使える様になったんでしょうけどね」
「そうですか……」
何か言っても3倍になって帰ってくる未来しか見えないので軽く流しておく。
次の休憩の時間にガル、ベレット、タメイに詰め寄られた。
この3人に隠し事は今さらだ。オレは空間蹴りの魔道具の事を話してやる。
「そんな魔道具が……」
「ああ。ただ、お爺様から貸すだけにしろと言われててな」
「そりゃ、そうだろうな……」
「今度、お爺様に聞いておいてやるよ。ガル、ベレット、タメイに貸し出して良いかって」
3人は嬉しいのと、責任の重さ、を感じてか何とも微妙な顔をしていた。
出発から3日目の夜。
野営地を作って夕飯を食べ終えた頃。
因みに夕食は黒パンとイチジクに似た果物を見つけたのでそれのジャム。
干し肉はスープにして、アシェラが狩ってきた野兎の肉がメインディッシュだった。
「しかし、毎度、思うが野営の食事じゃねぇな。これは……」
ガルが呆れながら何度目かの感想を吐き出す。
「じゃあ、明日からガルは黒パンと干し肉だけの、悪魔のメニューな」
驚いた顔でガルは先程の言葉を否定しだした。
「おいおい。オレは悪いなんて一言も言って無いぜ。アル坊の料理の腕のお陰で、美味い物が食べられて嬉しいって話だ」
オレは肩を竦めてガルに返してやる。
その様子を見ていた母さんが、場を締めるように声を出す。
「はいはい。明日の昼にはサンドラの街に着くんだから朝になったら仮面を忘れないようにね」
「「「「「はい」」」」」
実は王家の遣いから渡された物はもう1つある。
それが仮面だ。大箱一杯に同じ仮面が入っており軽く50個はあっただろう。
”王家の影”と言う名の通り黒い仮面で口元の部分は無い。顔の上半分を隠すための仮面だ。
この仮面、思ったよりも性能が良いようで視界を殆ど遮らない。
これなら着けたまま戦っても問題ないだろう。
次の日の朝、朝食の用意をしていると妙な音が聞こえる。
周りを見渡すと、どうも森の奥から聞こえてくるようだ。
「範囲ソナーを使う。最悪は敵を呼び込む可能性がある。戦闘の用意をしておいてくれ」
オレは1000メードの範囲ソナーを打ってみた。
敵……森の方向には数えきれない程の魔物の群れがいる。
「森に敵の群れだ。取り敢えず逃げるぞ。用意しろ」
逃げられるなら逃げた方が良い。このまま情報も無く戦闘してもしょうがない。
全員で荷物を片付け馬車の屋根に仕舞う。
この間にも先程から気になっていた音はどんどん大きく多くなっていく。
この音は……ここまで来れば想像できる。恐らくは羽音……虫の羽音だ。
「準備できたぜ」
「分かった。出発だ」
そう言いエルとバレットが先頭、その後ろに馬車、シンガリがオレとガル。
野営地を逃げ出して5分ほどしてから後ろを見ると数えきれない虫の魔物が森から溢れ出している所だった。
「来るぞ。最大速度で進め」
これは1匹ずつ戦っても飲み込まれる数だ。
ゴブリンの時のように見晴らしのいい場所で焼き払うのが一番良い。
但し、ここには領域が無い。コンデンスレイを撃つにしても、オレとエル合わせて2発しか撃てないのだ。
土地勘があればここで食い止めるべきかどうかの判断もできたかも知れないが……まずはサンドラ軍と合流して情報を貰わなければ……
虫の魔物はカマキリのような形をして動きは思ったよりは早い。
早いと言っても全力の馬車と同じ程度ではあるのだが。
「ガル、あの虫の魔物を知っているか?」
「ああ。ありゃ、マンティスだ。動く物ならなんでも食っちまう虫の魔物だ」
「マンティス……」
改めて後ろを見るとジリジリと距離が縮まっている。
「アシェラ、マンティスを狙い撃てるか?」
「うん。余裕」
そう言いアシェラがオレの後ろに空間蹴りで乗り込んできた。
そのままウィンドバレット(魔物用)でマンティスを撃ち抜いていく。
後ろを確認すると驚いた事にウィンドバレットで死んだマンティスを他のマンティスが食べ始めた。
「うげ。共食いかよ。朝っぱらから気持ち悪い物を見せるな……」
「同感だ……」
それからアシェラは先頭のマンティスを上手く狙って倒していく。
後ろのマンティスは、かつて仲間だった物に夢中に齧りつき、見る見るうちに馬車から離れていった。
「タメイ、もう良いと思う。馬を休ませてやってくれ」
「了解ッス」
そう言うとタメイは馬車の速度を落とし、人が歩く早さほどまで落としていく。
「ガル、マンティスってのはあの数まで増える物なのか?」
「いや、元々、群れる魔物じゃないはずだ……本来は1匹で行動し、獲物が来るのを待ち構える魔物だったはず。こんな群れで襲い掛かって来る魔物じゃない」
「そうか……」
「嫌な予感しかしねぇな……」
「同感だ」
それきりガルとの言葉は途切れてしまうが、領域が関係しているのだろうか?
一度、アオに聞いてみたい……
オレは馬車に馬を寄せ母さんに聞いてみる。
「母様、アオに今回の事件が領域と関係があるのか、聞いてみたいのですが……」
「ガル達に見られる事?」
「そうです」
「アルの好きにしたら良いわ」
「そんな適当な……」
「だって何時かは言うんでしょ?それが早いか遅いかだけじゃない。だったらアルが信用できるかどうかだけじゃないの。だから、アルの好きにしたらいいわ」
何か言いくるめられた感がすごいが、氷結さんの言う事は尤もだ。
結局、最後はオレの人を見る目にかかってくるのだろう。
このまま行けば後、数時間でサンドラの街に到着するだろう。
そこでは恐らくアオを出せる場所は無い。
オレは腹をくくって一行の停止を指示した。
馬に水を与えそれぞれが休憩をするが、ガル、ベレット、タメイの顔には”何故ここで?”と困惑の色が見える。
「あー、何でこんな場所で休憩するのか不思議そうだが、これから見る事は他言無用で頼む」
「ん?分かったぜ」
ガルが代表で答えるが返事が軽い……
オレは意を決して指輪からアオを呼び出した。
「アルド。どうした?ん?ここは……領域に近いね……」
「やっぱりか。ここの近くでマンティスの群れと交戦したんだが領域と何か関係はあるか?」
「マンティスの群れだって?普段、群れない虫が群れるのは、虫が”主”になった時だけだよ」
「って事はマンティスが”主”って事か?」
「そんな事、僕が知ってる訳ないじゃないか。僕が知ってるのは群れない虫が”主”になると群れるようになる。って事だけさ」
「そうか。因みに一番近いマナスポットってどこにあるか分かるか?」
「ん?そうだね……この方向に5000メードって所かな」
「5000?すぐ近くじゃないか……」
「そうだね」
「その割には敵の領域に入った感じは無いぞ……」
「このマナスポットは魔の森よりだいぶ小さいからさ。ここは領域の外だね」
「そうか……マナスポットの大きさで領域の大きさが決まるのか……」
「その通りだ。アルドは最近、賢くなったんじゃないのか?」
オレは苦笑いを浮かべてアオへ返す。
「そうか?だとしたらアオのお陰だな……」
「アルドはいつもそれぐらい素直だと、とても良いよ」
アオにはどうやら嫌味は通じないらしい。特に新しい情報も無くそのままアオは帰っていった。
一応は情報も貰えた。さて、次の問題だが……
オレは苦笑いを浮かべながらガル達に振り向いた。
”第1話 プロローグのあとがき”にWifuLabs様のAIで作ったイラストを掲載してありますので見て貰えると嬉しいです。
次話は翌日8:00に掲載の予定です。
ブックマーク、高評価を頂けるとオラが小躍りして喜びますので是非、押してやってくだされ(*'ω'*)




