第41話 完全に変態じゃねぇか
クイーンミノタウロスは、その場にずっと座り込んでいるだけで、自らは一切攻撃してくることはなかった。
そもそも太り過ぎていて、動くことすらできなさそうだ。
その代わり、次々とミノタウロスを産み増やすという特殊な能力を使ってきた。
数十秒に一体ずつ、クイーンミノタウロスの下腹部から飛び出してくるのである。
……放っておいたら永遠に生み続けるのだろうか?
どんな原理だろう。
まぁそもそもダンジョン内で魔物が出現する仕組みもよく分からないので、考えても仕方ないか。
「ブモオオオオオッ!!」
「おら!」
「~~~~ッ!?」
誕生してすぐに襲いかかってくるミノタウロスを、俺は【豚人帝の牛刀】で例のごとく瞬殺してやった。
もしこちらがミノタウロスを倒すペースが、ミノタウロスが生まれるペースよりも遅かったとしたら、延々とミノタウロスが増え続け、この部屋に溢れかえっていたかもしれない。
だが一撃で倒せてしまえるので、まったくその心配は要らなかった。
俺は新たなミノタウロスが生まれてくるまでの間に、無防備なクイーンミノタウロスへと斬撃を叩き込む。
「ブモオッ!?」
何の反撃もしてこないが、ボスだけあってなかなかHPが高いようだ。
分厚い脂肪で身体を護っているからかもしれないが、何度か斬りつけてもまだ耐えている。
それでも十五回ぐらい攻撃を続けると、ついには断末魔の声と共に絶命した。
「――エクストラボス:クイーンミノタウロスを倒しました」
出現した宝箱を開けてみると、そこにあったのは、
「何だこれ? パンツ……?」
取り出して広げてみれば、明らかに黒いパンツである。
しかも往年のプロレスラーがよく穿いていたような、ブリーフ型のぴっちりしたやつだ。
学校用の海パンにも近い。
「そういえば、どのミノタウロスもこれを穿いてた気がする……」
装備したら名前や簡単な説明文を見ることができるようになるので、仕方なく身に着けてみることにした。
「ん? おかしいな? 穿いてみたが何の反応もないぞ?」
「――装備するには衣類をすべて脱ぐ必要があります」
「いやいや、つまり裸になれってことかよ!?」
仕方がないのですべての服を脱いで、そのまま穿いてみることにした。
幸い外套と尻尾は外さなくても大丈夫なようだ。
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女王牛のパンツ:『猛牛の層塔』のエクストラボス攻略報酬。筋力10%上昇。精神50%上昇。
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……名前はともかく、これもまた破格のステータス上昇効果を持つようだ。
ちなみに「精神」というのは、ピンチ時に能力が上がったり、クリティカル攻撃の確率が上がったりするほか、減少したHPやMPの回復速度、さらには状態異常などへの耐性などにも関わる能力値らしい。
ただ、
「完全に変態じゃねぇか!」
パンツ一丁で、外套なんて、もはや露出狂そのものである。
これで首には髑髏の飾りを提げて、お尻には尻尾、そして巨大な牛刀を担いでいるのだ。
「……こんな姿じゃ絶対に街中を歩けないな」
ダンジョンを出ると、来たときと同じ夕方になっていた。
何だかんだで、攻略に丸一日かかってしまったからな。
まぁそれでも早いくらいか。
金ちゃんによれば難易度が高いダンジョンほど広大になり、ボスを倒すまで何日、何十日とかかるようなケースも少なくないらしい。
と、そのとき。
『小森殿! 今どこにいるでござるか!?』
『金ちゃん?』
珍しく金ちゃんの方からリモート通話が入った。
俺が許可していれば、相手の方からも掛けてくることができるのだ。
『どうしたんだ、そんなに慌てて?』
『街にっ……魔物の大群が押し寄せてきたでござるよっ!』
『え?』
『すでに街中にまで魔物が入り込んで、大変なことになっているでござる! 先ほどここにも魔物が襲撃してきて、リュナ殿が撃退してくれたでござるよ!』
『マジか。いや、俺は今までずっとダンジョンに籠ってて、ようやく出たところだ』
本体の方は相変わらず家に籠ったままだが。
『っ! ここにもっ……』
『金ちゃん?』
『小森殿、いったん切るでござるよ! あちょーっ!』
金ちゃんまで魔物と戦っている!?
どうやらなかなか深刻な状況のようだ。
俺は急いで街へと戻るのだった。
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