25話「教室にて」
教室は活気を取り戻した。
淀ある空気を吹き飛ばしたのは、ほかでもなく――
「き、きさま……一体、なんのつもりだ……!?」
「はっ、ちょっとは貴族らしい口調になったではないか」
俺の煽りに、激昂するルド。
家柄とか知るか。
ルシアンがこの場にいないのであれば、代行するまで。
そして彼の本音は、昨夜のお泊まり会で聴取済みだッ!
「これまでの日々、大変楽しめたぞ。
だがもうやめだ、こんな茶番はな」
振る舞いは強気に、大袈裟に。
俺さえも他人なのだから、遠慮はいらないだろう。
不敵に笑ってしまえばいい。
ルシアンにも許可は得ている。
ほどほどに、とも言われたが。
「お、俺に逆らえば……どうなるかわかっているのかァ! 俺はクロイツ家の長――」
「知らんといったはずだ!
お前の親とやらに、再教育してもらって出直してこい」
ルドに隙は与えない。
とにかく抵抗の意思を見せる。
大勢が見ている、という環境を活用せざるを得ない。
「その怒りよう、小物っぽく見えてきたぞ?」
「……ッ! よくも吠えたなルシアン……!
たかが弱小貴族の分際で――ッ!」
ルドは自分の手を、俺に向けてきた。
微かに帯びたその光は……魔力か?
コイツ魔法を使う気だ。
上等だ、撃ってくるといい。
いくら上級貴族とはいえ、それは御法度ときく。
お前は、しばらくの停学処分――
「あはは! あはははっ!」
「ん?」
俺の背後で笑い声がした。
振り返ると、さっきの青髪の女学生がいた。
腹を抱え、盛大に肩を揺らしている。
「君最高だよ、すごいすごい!」
「えっと……なにが?」
青髪女学生は手を叩くほど笑っていた。
そのあどけなさは無邪気だが、同時に異質だ。
「クロイツ家って、あのクロイツ家でしょう? それを相手にあんな……あはははっ!」
どのクロイツ家?
そりゃあ、ルシアンが逆らえないほどには上級だろうけど……。
彼女は俺の横に並び立った。
笑い疲れたのか、深く息を吐く。
「ふぅー。でも、これくらいにしておいた方がいいよ。君たちふたりともね」
「なんだ貴様は……邪魔をするなッ!」
ルドの矛先が彼女にも分散された。
「今すぐそこをどけ、どちらにつく方が賢いのか、よく考えることだ……!」
青髪女学生は平然としている。
脅し文句そのものを突きつけられた上で。
「んー? じゃあ、おもしろかったからシュタイン君の味方で!」
「ちょ――」
教室はさらにざわついた。
青髪女学生は突然、俺の腕に抱きついてくる。
う、動けないから離れて。
魔法飛んできたとき避けれないから!
というか、この子はどこの誰!?
その様子を眺めていたルドの顔を見てみる。
額に血管が浮き出るほど、怒っていた。
「そうか……その女が原因か? ではもろとも焼かれることだなッ!」
ルドの手の先に、魔法陣が浮かび上がった。
やばい。なにか撃ってくる。
この変な子を突き飛ばしてでも、回避を……!
「《アル――」
「《エルダ・ダーク・バインド》」
その瞬間、廊下から声が聞こえてきた。
ルドの詠唱をかき消し、上書きするような声。
「ぐ……なにッ!?」
ルドの右手全体が、闇に覆われた?
俺が出す黒霧とは違う、渦巻く闇だ。
発動寸前だった魔法陣は姿を消す。
コツコツと、足音が鳴る。
俺は音がした廊下の方へ顔を向けた。
「朝から元気なことだ。クロイツ家のルド君」
「べ、ベルマン学年主任……!」
ベルマンと呼ばれた、ハンサムな男がいた。
彼は教室に入ってきて、ルドの前まで歩いていく。
「だが忘れたかい。学園内で許可なく魔法を使うのは、懲罰ものの禁止事項」
「それは――」
学年主任……ということは、それなりの立場なのか。
あのルドが歯噛みするような面持ちになっている。
いいぞ。
もっと叱ってやってくれ。
あとルシアンをいじめていた事実も――
「そしてシュタイン君。君のあの啖呵は、少々度が過ぎていたと自覚したまえ」
「え? あぁ、はい」
ベルマンは微笑み、俺にも注意をしてきた。
廊下からでも聞こえていたらしい。
自分なりに、正論を放ったつもりだ。
後悔はないが……やりすぎだっただろうか。
「ホームルームを始める。早く席に座るといい、2人はできるだけ離れた距離でね」
「だって。ほらいこう?」
「あ、ああ」
名も知らない青髪女学生に手を引っ張られる。
この子は、本当にルシアンの友達か?
にしても距離が近い。
彼女に流されるまま、席に連れていかれた。
「……覚えていろ」
俺とのすれ違い様、ルドにそうつぶやかれた。
謹慎処分で汚い部分を曝け出させる。
簡単にはいかないか、貴族の調子煽って失脚作戦。
「では改めて、私はベルマン。みんなご存知の通り、魔法学を担当している」
ベルマンは教壇に立って自己紹介した。
背が高く、声も優しい。
男女問わずモテそうな印象を持っているな。
「初回授業なので、軽く概要を説明して終わろうとおもう」
するとベルマンは、俺の方をチラリと一瞥してくる。
彼はすぐに目線を外すと、声のトーンを落とした。
「新学期は始まったばかりだ。くれぐれも……トラブルは起こさないように」
十中八九、さっきの俺たちだな。
トラブルは好きで起こしているわけじゃない。
俺の目的は、魔神の眷属を見つけること。
そして、その途中で障害となるクラスメイトとの問題は、早めに取り除くべきだろう。
本物のルシアンが学園に戻った時。
彼が安心して過ごせるようにするためにも。
張り切って学園生活を謳歌する。
偽装している間は……そうやって心を強く保てる。
実に、不思議なものだ。




