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24話「MISSION:学園潜入」


 翌日の早朝。

 俺は爽やかな風とともに、通学路を歩く。

 

 見慣れない道だ。

 とはいえ、向かうべき場所はわかっている。

 同じ制服をきた人たちと、一緒に流されればいい。


 東カルヴェルム総合学園。

 帝国東部に設立された、若者を育成するための教育機関だ。

 入学者の多くは貴族で、一般教養の習得や魔法技術の向上を目的に通わせられているらしい。


 ちなみに、東……とあるように、西も存在する。

 そちらは庶民階級が主に通える学園だ。

 いやあ、はっきりとした区別がいっそ清々しいね。


 さて――学園の前に着いた。


 俺は自然体で正門を通過する。

 誰にも疑われることはなかった。

 学生たちや警備員の目が、俺に向くことはない。


 深い紺色の制服。

 教科書類が入れられた手提げ鞄。

 ネクタイを締め、ピカピカの靴で闊歩する。


 これらは偽装ではない。

 顔と体型以外、すべてルシアンの私物である。

 違和感を持たせる要素を、少しでも減らすためだ。


「……よし、何事もなく入れたな……」


 真正面に学園の校舎が見えた。

 白く磨かれた外壁と、広すぎる中庭。

 石造りのタイルを歩けば、コツコツと音が鳴った。


 俺は行き交う学生たちに紛れ、校舎の中を目指す。

 ルシアンの教室へ急がなければ。

 

 まさか異世界に来てまで、また高校生をやる羽目になるなんて夢にもおもわなかった。

 つい最近まで不登校だったんだぞ、俺。


「頼むから、バレないでくれよ……!」


 挙動を不審がられないように努めるんだ。

 

 そう、教えられた注意事項を思い出せ――


 

 ▽▽▽▽


 

 昨日の路地裏にて。


「なるほど、噂に聞く契術というやつか」


 ルシアンは俺の偽装に感心を示してくる。

 この世界で、契術はポピュラーなものでもないのか。


「えっと……元に戻るには……」


 この場を誰かに見られるのはややこしい。

 偽装は確認できた。

 今、解いてしまいたいが――


「偽装終わり! 偽装オフ! 偽装解除! これか!」


 偽装は晴れるように霧散する。

 俺の姿は元に戻った。

 

 最後の『偽装解除』が合言葉か?

 時間経過を待たずに、任意のタイミングで偽装を終わらせることもできるらしい。


 俺はレイネに改めて、作戦を聞く。


「それで、具体的にどうすれば?

 レイネにしか眷属の位置はわからないじゃないか」


 俺だけが潜入したところで、だ。

 単身で乗り込んだとして、その後はどうすればいい。

 

「私が特定できるのは、あくまで『そこにいる』という曖昧なもの。確実にわかるわけじゃない」


 魔神の気配がデカすぎる……そんな感じ?

 細かい反応は拾えないのか。


「じゃあ……なおさらダメなんじゃ?」


「アメハルには眷属だとおもう人物を、マーキングしてもらいます」


「マーキング?」


 レイネは「いい?」と3本の指を上げる。

 なにかと3本指を立てることが多いな。

 

「魔神の眷属には、特徴がある。

 まず怪しい。次におかしい。そしてつよい」


 キャッチフレーズかよ。

 なんだその、うまい、早い、安いみたいな。


「その3つを注視すれば、誰でも眷属を暴くことができるわ。

 明らかに様子がおかしいとか、以前と性格や様子が違う……とかね」


 奴らの判別方法、だいぶアバウトだ。

 案外、目立つような特徴ってことか?

 怪しい人をマーキング……。


「ルシアンから、なにか気をつけることはあるかしら?」


「それはあとで話してやる。この路地裏から離れるぞ、いつまでもここにいたくない」


「まあ、そうだな」


 ルシアンは立ち上がる。

 と……なぜか俺のそばに寄ってきた。

 すんすんと鼻を鳴らす。


「ん? なんだよ」


「――臭うな。貴様、何日風呂に入っていない」


「え、臭う!? 嘘つけよ臭わないって!」


 俺は自分のジャージを嗅ぐ。

 うん、全然臭くない。


「うわ……体を綺麗にしようという意識がないわけね。どうりで……」


「いやいやいや、俺が何人だとおもってんの!?」


 天下の風呂好き、日本人だ。

 俺だって今日は風呂に入りたいなって考えてたさ!


「そんなナリで俺の代わりが果たせるか。こい、今夜は客人として家に招いてやる」


「あ、ありがとう??」


 俺が臭うからでそれ判断したのか?

 だとしたら、ものすごく心外だぞ。


 大変不服ではあるが……泊まる場所はありがたい。

 前をゆくルシアンに、俺たちはついていった。


 

 ▽▽▽▽



「クソ、ルシアンの奴。俺を不潔扱いやがって……!」


 思い出したら腹立ってきた。


 ――って、そうじゃない!

 

 注意事項だよ、注意事項……。

 ルシアンの家で頭に叩き込んだからな。


 改めて、順に確認していこう。

 

 魔神の眷属の見分け方はわかった。

 常に怪しい人物をマーキングするのが最優先。


 それから、ルシアンからの気をつけること。

 

 ひとつ目は、口調や所作、雰囲気などの話だ。

 どれかが欠ければ、疑われることがあるという。

 俺はルシアンだ。貴族らしい動きを心がけよう。


 あと、こんなことも言っていたな。


『俺には姉がいる。最近会っていないが、学園にはきてるはずだ』


 思い起こさせる、ルシアンの顔。


『いいか……そいつには絶対、鉢合わせるな』


 苦そうなものを噛んだような。

 彼はそんな顔をしていた。


『仲が悪いのか?』


『そういうわけではないが……とにかく注意しろ』


 とのことだ。

 ルシアンの姉に会うと、まずいらしい。

 肝心なお姉さんの特徴を聞いていないが。


 ……絶対に聞くべきだったよな?


 姉ってことは、上級生だろ。

 向こうが俺を訪ねてこなければ大丈夫だ。たぶん。


「えーっと、教室は……あっちか?」


 学園内は、油断すると迷子になる広さだ。

 俺の高校の何倍もある。

 ルシアンから経路案内の紙をもらっておいてよかった。

 

 ルートを確認しながら、廊下を進んでいく。


 長時間、他人の姿でいるのは慣れないな。

 自分の体型と離れていればなおさらだ。

 偽装がいつ解けるかもわからない……。


 どこまでもその不安だけが残る。

 今日一日、偽装の継続時間を測ってみるか。


 契術はこれから長く使っていくことになるだろう。

 便利な分、不便な箇所が浮き彫りになってしまう。

 その点をどうにか工夫して、補填しなければ。


「魔法を教えてるところなら、契術のことも知る機会があるかもしれないな」


 希望を口にして、まもなく。


 俺はルシアンの教室に着いた。

 経路案内はここを示している。

 扉の上に『2-1』……って書いてあるのかな。

 

 相変わらず文字は読めない。

 これを機に文字もなんとか――


「あれ、シュタイン君?」


「おおっとッ!?」


「ほわあっ……! ど、どうしたの?」


 俺は勢いよく、首を横へ向ける。

 そこには、見知らぬ青髪の女学生が立っていた。

 

 い、いきなり話しかけられた。

 シュタインって、ルシアンの家名だったよな?

 思わず変な声を出してしまったじゃないか!


「だい、大丈夫だ! 悪いすぐ開けるから!」


「う、うん……?」


 俺は強引に取り繕って、扉に手をかけた。

 

 この子は、ルシアンと普通に話す程度の仲なのか?

 しかもこんな……美少女。

 あの不良たち以外、そんなに関係は悪くないのかも。


 俺は教室の扉をガラガラと開けた。


「それで……あ――」


 ガヤガヤと騒がしかった教室。

 その空気は、一瞬で静まり返った。

  

 教室にいた学生たちのほとんどが、俺に注目してくる。

 驚いた顔の者、顔を俯かせる者と、多種多様な反応だった。

 

「おいおい! 誰だよそいつ呼んだの!」


 静寂はその一声によって、打ち破られた。

 

 声の方に目をやる。

 そこには後ろの机陣取っているグループがあった。

 1人の男が立ち上がって、俺の方へ歩いてくる。


 ――昨日、ルシアンをいじめていた不良だ。

 

「なんできてんだよ。昨日くるなって言ったよな?」


「そうだぜ? ルドが優しく教えてあげたのにさ〜?」

 

 ルドと呼ばれた不良。

 そいつと取り巻きは、俺を見て邪悪な笑みを浮かべた。

 

 ルシアンと同じクラスだったのか。

 え……というか、コイツらも貴族なの?

 こんな品のかけらもない奴らが?


「ん? お前……傷が治ってんな? ひょっとして治療院にでも駆け込んだのかァ?」

 

 ルドはそう言って、俺の胸ぐらを掴んできた。

 昨日の構図と同じだな。

 中身は全く違うがね。


「金がもったいねぇぜ、また殴られるってのによぉ。

 いや、今度は魔法ぶち込んでほしいのか? はは!」


 俺はまわりを見渡した。

 

 今にも殴られそうな状況に、誰も口出ししない。

 全員が声を押し殺し、なるべく見ないようにしている。

 よく聞く傍観者も罪だという話は……残念ながら本当のことのようだ。


 まったく、嘆かわしい。


「……あ? なんだその目」


 ルドの声はワントーン低くなった。

 俺の蔑むような目が、お気に召さなかったらしいな。


「魔法技術は底辺、剣術はカス、成績も下の下。

 ……そんなお前が、誰にその目を向けてんだ?」


 ルシアンの現状を丁寧に教えてくれた。

 

 それがどういうレベルかは知らないさ。

 彼は努力を怠った? 才能がなかった?

 彼自身の能力は、仕方のないことかもしれない。

 

 だが、いじめの標的にしていいわけでもない。


「おまけにシュタイン家の落ちこぼれで、姉からも見捨てられる始末だ。なあ、今どんな気分か教えてくれよ!」


 ルドは高らかに言い放つ。

 拳を振り上げ、俺に狙いを定めてきた。

 

 どんな気分かだって?


「――知らねえよ」


「ぐっ!?」


 俺はほぼ全力で、ルドを押し除けた。

 彼は張り手を食らい、後ろに大きくよろけた。


「てめぇ、誰に向か――」


「誰に向かって口をきいている!」


「なっ……」


 教室中にどよめきが走った。

 全員が驚愕した表情を向けてくる。


「俺は、ルシアン・フォン・シュタインであるぞッ!!」


 俺の盛大な名乗り。

 そして、ルドへの真正面からの反抗に。



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