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23話「入れ替わり作戦」


 俺たちは静かに、彼らの様子を伺う。


「は、はなせ……」


「ルシアンくぅん、人に頼むときは目を見て言おうか」


 ルシアンと呼ばれた、くすんだ金髪がひとり。

 やや小太りだが顔立ちはキリッとしている。

 

 彼は壁にもたれかかるように倒れていた。

 顔にあざのような傷をつけられ、衣服も汚れてしまっている。

 

 それを囲って笑っている奴らが、4人。

 リーダー格とおもわれる男は、怪我をしたルシアンの胸ぐらを掴んでいた。


 彼らの服装は……さっきの学園の?


「ははっ!」


「ぐぶぉッ!?」


 ルシアンは容赦なくみぞおちを殴られた。

 苦しそうに、うずくまる。


「ふぅ、今日はこれくらいにしといてやるか」


「ルドちゃん優し〜。おい、感謝しろよ豚!」

 

「お小遣い持ってきてくれたら、また可愛がってあげるからなぁ」


 なんと胸糞の悪い。

 典型的ないじめっ子の不良かよ。

 皇帝よ、全体的な治安の見直しを要求する。


 幸い不良たちは、俺たちがいる方とは逆の道へ帰っていった。

 いじめ現場に残された荒い呼吸は、実に痛々しかった。


「おい……大丈夫か?」


 気を見計らい、表に出る。

 俺は倒れ込むルシアンに声をかけた。


「っ!! み、見るなッ、見ないでくれ!」


 すると、ルシアンはひどく怯えて後ずさった。


「今のを、見たのか!?」

 

「いや、ごめん。でも怪我を……」


 確かに一部始終を見てしまった。

 彼らの行動を止めることなく。

 

 それは本当に申し訳ないと――

 

「か、金はやる! だから誰にも言わないでくれ! 頼む、誰にも……!」


「……落ち着いてくれ。大丈夫だ」


 嫌な気分だ。

 

 ルシアンに対してではない。

 この様子から一瞬で想像できてしまう。

 こんな状態まで、彼を放置した環境を許せなかった。


 俺はその場にしゃがんだ。

 彼の目をまっすぐ見る。


「初対面だけど、俺たちは君の味方だ。だろ?」


「ええ。今すぐ奴らを燃えかすにしたっていいわ」


「は、はあ?」


 レイネは俺の言葉に頷いてくれた。


 魔神より先に、不良どもを駆逐したい。

 この気持ちは彼女と一致しているようだ。


「な、なんなんだ……お前らは……?」


 ルシアンは心底戸惑ったような顔になった。



 


 レイネは傷ついた彼に手を向けた。


「《エルダ・シャイン・ヒーリング》」


 唱えると、淡い光の魔法陣が出る。

 光はルシアンに当てられ、その傷を少しずつ癒した。

 ほんと魔法って便利でいいなぁ。


「嫌なところを、見られたものだ」


 ルシアンは少し落ち着いたようで、じっとしている。

 簡単な自己紹介は済ませておくか。

 

「俺はアメハル、こっちはレイネ。この帝国に今日きたばかりなんだ」


「……そうか」


「君の名前はルシアン、でいいんだよな?」


 彼は沈んだ表情だった。

 それでも、肯定するように頷いてくれた。

 

 レイネは治療を終え、立ち上がる。


「ねぇルシアン。どうして彼らから暴力を?」


「……俺が弱小貴族で、その中でも落ちこぼれだからだ」


 ルシアンは貴族なのか。

 前に弱小とつけているが、それが理由だって?


「アイツらは上級貴族。……日頃の鬱憤を晴らすには、俺はちょうどいい的なんだろう」


 貴族階級のいじめ。

 彼につけられていたのは、絶対にバレるような傷ばっかりだぞ。

 恨みを買う程度じゃないと、こんな仕打ちは信じられない。

 

「そろそろ限界なんだ。近いうちに俺は、学園を去ることになるだろうさ」


 ルシアンは下をうつむく。

 自分の学園での死期を、悟るように。


「新学期が始まったばかりだというのにこのザマじゃ、明日もいけそうにない。

 もう、父上たちに頭を下げるしか……」


 学校に行きたくない気持ち、か。

 

 俺もいじめられたわけじゃないが、理解できる。

 沈んだ心が、もう一度浮上するのは容易じゃない。

 もっとも、俺の高校生活はルシアンと比べられるほどひどいものではなかったが……。

 

「――思い付いたわ」


 レイネが突然、そんなことを言い出した。


「え、なにを?」


「ルシアン。それなら私たちに協力して」


 彼女はためらいなく、なにかの提案をした。


「はあ? いきなりなんだ……」


 当然ルシアンも、頭の上にハテナを浮かべる。

 なにを言い出すんだ?


「このアメハルを、あなたの代わりに登校させてほしい」


「「はい?」」


 俺とルシアンの声がハモった。

 レイネの突拍子のないお願いに。


 俺を、ルシアンの代わりに学園へ通わせる……!?


「れ、レイネさん?」


「私たちはどうしてもあの学園に用がある。でも頼れる知人のツテはないし、侵入も困難で打つ手がないの」


 ちょっと止まりなさい。

 これ以上、話を続けると流石に怒るぞ?

 俺がなににでも流される男だとおもったら大間違いだ。


「無理やり突破する以外の道は、これしかないわ」


「無茶苦茶だ! そんなの確定でバレるって!」


「アメハルには偽装があるでしょう? 上手くいえば、眷属を特定して接近までもっていける」


 レイネは真剣な眼差しを向けてくる。

 

 偽装はまだ試運転の段階なんだ。

 危険すぎるし、ルシアンに偽装できるかもわからない。

 それに万が一、途中で偽装が切れて、部外者である俺の姿が晒されたりしたら……!


「どう、ルシアン」


「……」


「家の評判を落とさず、イジメ問題も解決できるとしたら……この提案を受ける価値があるとおもわないかしら」


 レイネはルシアンを見下ろした。


 この交渉はまず、彼の同意が必要だ。

 俺たちのような、見ず知らずの部外者を学園に招き入れるなんて真似はしないはずだ。


 第一、出会って間もなすぎる。


「それは俺自身が乗り越えたことにならない」


 ほら。


「だが――受けよう。お前たちが何者であれ、今の俺には救世主に見えた。

 学園がどうなっても、どうでもいい」


 オッケー出しちゃったよ。


 ルシアンがよくても、俺はよくない。

 学園に侵入して、それでバレたらどうするんだ。

 捕まって野垂れ死ぬ可能性だってある!


「ありがとう。アメハル、さっそくルシアンに偽装してみて」


「えぇ……でも……」


 レイネを偽装しようとした時は失敗した。

 どんな条件なのかわからない以上、やってみる他ないのはわかっているが……。


「これはアメハルにしかできないことよ。あなたがいなきゃまず成立しない……だから、おねがい」


「ぐ……わ、わかったよ、やればいいんだろ」


 ずるいぞ。

 俺にしかできないこと。

 この言葉は効いてしまう。


「――〈偽装〉、ルシアン」


 俺は契術を発動させた。


 黒霧が……出た。

 体全体が黒く包まれていく。

 

「なっ、なんだそれは!?」


「できたわね」


 霧が晴れて、俺は確認する。

 腕や腹が、一回りほどデカくなった気がした。

 視線も若干高くなったか?


 2人の反応を見るに。

 俺はルシアンに……偽装できたらしい。

 

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