表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/29

22話「計画を立てよう」


「馬車の偽装、解けてたわ」


「やっぱりモノによって、偽装の継続時間が違うのか」


「お待たせしました〜」


「ああ、どうも」


 注文した料理が届いたみたいだ。


 この店の名はトマティ食堂。

 店内は治安の悪い輩がいない限り、静かで落ち着いた雰囲気があって俺好みだ。


 おすすめメニューは、新鮮なトマトを使ったスパゲッティ似の麺料理らしい。

 二人前を頼み、食事を始めた。


「いただきます」


 うん……スパゲッティだ。

 特有の酸味と、弾力のある歯応えが素晴らしい。


「アメハル、魔神を倒すための手順は知っているかしら」


「んー?」

 

 俺は麺を頬張りながら返事をする。

 数秒間噛み、飲み込んだ後ようやく口を開いた。

 

「さあ……剣で斬るとか、魔法を叩き込むとか?」


「そうじゃないわ。そこに至るまでの過程の話よ」


 彼女は一拍置いて、続ける。


「魔神はね、自分の力を分け与えた存在を生み出すの。

 それが『眷属』。人類滅亡を掲げているくせに、人間を手下にするなんて皮肉な話だけど」


 眷属……前にも何度かその名を聞いた。

 どういうものであるかは、聞きそびれていたな。


「眷属になった者は悪に染まり、同時に常人をはるかに超えた力を得るわ。

 そして何より、魔神に異常なほど忠実になるの」


 レイネはスパゲッティに、無料で置いてある黒胡椒のようなものをかけた。


 アルタが良い例、いや悪い例か?

 あのイカれた行動や言動は、眷属化の影響なのだろう。

 

「でも、眷属化にも代償がある。人間を手足として使える代わり、同時に足枷がはめられる」


「というと?」


「魔神と眷属の間には、力の繋がりができている。その繋がりが――弱点になる」


 弱点。

 優秀な駒を得る分の引き換え、デメリットか。

 明確に弱点が存在するのはありがたい。

 

「眷属を倒せば、その繋がりを無理やり断つことができるわ。すると魔神は、一時的に弱体化するのよ」


 レイネはそれを表現するように、自分の歯で一本の麺を噛みちぎってみせた。


 弱体化。

 それが魔神を倒すために必要な過程というわけだ。


「弱体化していない魔神は、比類なき強さを誇る存在。正面から挑んでも、勝ち目は薄い」


 レイネは指を順に3本立てる。


「だからまず眷属を倒す。そうして魔神を弱体化させてから、ようやく本体との戦いに挑む。

 ――この流れが必須ね」


「うーん、一筋縄じゃあいきそうにないってことか」


 難易度はえげつない。

 それでも、俺たちのやるべきことは決まった。

 

 この流れには既視感がある。

 重要な取り巻きを倒すと、ギミックによってボスがデバフによって弱体化するんだ。

 同じ要領でも、苛立ちそうなことには変わりないが。


「今、魔神らしき反応はみっつ。この内のどれかが魔神で、他のふたつは眷属だとおもうわ」


 つまり、最初に眷属ふたりを引かなければならない。

 アタリの魔神を引くのはラストだ。

 途中で魔神を引いてしまえばハズレ。

 

 順番通りに引かなければ、全てハズレになる、か。


「ん? ちょっと待ってくれ。その2人の眷属が、1体の魔神の眷属とは限らないんじゃ?」


 俺の疑問に、レイネは食べていた手を止めた。


「魔神は自分の眷属を、自分の近くにしか配置できない……はず」


 違う可能性も捨て切れないのだろう。

 だが彼女は再び、スパゲッティを口に運んだ。

 

「今まではそうだったわ。だから、先人たちの知恵を信じましょう」


「……そうだな」


 気にしている場合じゃない。

 どちらにせよ、全てを倒すことに変わりないんだ。

 

「今度こそ成功させなきゃ。……勇者の一族に賭けて」


 レイネは力強くつぶやいた。

 

 彼女とテーブルの正面に座る俺には見えた。

 レイネの目は、スパゲッティの一点に固定されている。

 なにを考えているのかはわからないが――


「……ソース、ほっぺについてるぞ」


「え!? み、みないでちょうだい」


「ぷっ、逆だよ逆」


 レイネは恥ずかしそうに、左頬についたソースを布ナプキンで拭った。

 

 彼女には時々、このような一面が垣間見えるのだ。

 しっかりしているようで、意外と抜けているところがあるのかもしれない。


「……食べ終わったら、反応がある場所に向かいましょう」


 もし魔神たちと鉢合わせたら?

 その懸念を言う前に、レイネは答えた。


「向こうは私たちを知らないわ。

 自然に振る舞えば大丈夫よ」


 それもそうか。

 レーダーがあるのはこっちだけだ。

 こっそり様子を伺うことができる。


「わかった。案内してくれ」


 おっと、スパゲッティの感想を述べていなかった。

 フォークが勝手に動き出すほど美味い。

 これも俺好みの、濃い味付けだった。



――――



 ひとつ目の目的地には徒歩で向かう。

 

 整備された道だ。

 磨かれた石畳の大通りに、帝国の紋章らしき旗。

 まわりの住宅はほとんどが石造建築だった。

 

 驚いたのは、なんといっても国の広さ。

 アスタフィアの約3倍はあるという。

 どおりで、これだけ歩いてもなかなか着かないわけだ。


 帝国民は、毎回の予定に間に合っているのだろうか?


「ここよ」


「ここは……」


 さっきから見えていた建造物。

 その前で俺たちは足を止めた。

 

 ものすごく高くて、大きい建物だ。

 それに他とは違い、外観がおしゃれだ。

 周りには、帝国軍とは異なる制服を着る若者が。


「なにかの学校か?」


「あそこ……『東カルヴェルム総合学園』って書いてあるわね」


 総合学園。

 俺は改めてこの建物を見上げてみる。

 貴族とか、金持ちが通う場所だな。多分。


「ここから魔神の力を感じる」

 

「つまり、潜伏してるのか……?」


 魔神は人間を憎み、滅亡させようとしている。

 それでまだ騒ぎになっていないということは、生徒か教師に紛れて生活していることなんだ。


「困ったわ。まさかこんな場所に……」


「流石に、ここへ忍び込むのは……」


 レイネの認識阻害のローブ。

 それを持ってしても難しくおもえてしまう。

 部外者があまりにも目立ちすぎる。


 実際に、この辺りを行き交う学生たちの視線が……。


「なあ、俺の格好ってそんなに変か?」


「変よ。今まで気づかなかったの?」


 レイネは俺の青ジャージ姿を頭から見直した。


「色が均一で、かつ珍しい素材。伸縮性があって簡素すぎる見た目なんて、きっとアメハルだけでしょうね」


 前々からどうにかしなきゃとは考えていた。

 今のコーデは、青いジャージ上下セットに鉄靴。

 側からすれば珍獣だろう。


「ついでに服も買わなきゃな。それに風呂入りたい」


 来る途中で、浴場のような施設を発見したのだ。

 できることなら、新しいマイウェアも揃えたいところ。


「はあ、学園はひとまず後回しにするわ。もうひとつの反応の方に向かいましょう」


 俺とレイネは学園の前を後にした。


 またしばらく歩く。

 建物の外周をまわるだけでも一苦労だな。


「あっちね」


 次にレイネが指し示した道。

 それは、薄暗い路地だった。


「ここ通るのか?」


「ええ、近道な気がする」


「……やっぱりレイネって直感型だよな?」


 レイネは黙ったまま、裏路地へ歩いていってしまった。


 俺から見て帝国は、治安がやや悪い。

 また昼間の連中みたいな輩に会ったらどうする。

 今止めても、聞きそうにないんだけどさ。


 気乗りしないが、彼女についていこう。


「なにも起きませんように」


「案外ひょんなことから魔神に繋がることもあるのよ? むしろ起きてほしいわね、事件」


「流石、魔神ぶっ倒すマンは一味違いますね」


「褒めてるのそれ?」


 その立派な精神は見習いたいところだ。

 

 この薄暗い道。

 アスタフィアの裏路地を思い出してしまう。

 クソ、嫌な予感を誘う象徴にならないか心配――


「――お前、明日からくんじゃねぇよ」


 誰かの声が奥から聞こえてきた。

 道の突き当たりにスペースがあるらしい。

 そこから、複数人の声がする。


 レイネと顔を見合わせた。

 俺たちの動きは極端に静かになる。

 

 気配をなるべく消して、こっそりと壁際を覗き込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ