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11話「狩りがはじまる」


 爆発。


 テレビで見たことがある。

 戦隊モノがポーズを決めると、後ろで爆薬が起動するんだ。

 これも同じだ。


 俺が開けたから、作動したんだ。


 木造の宿屋に激震が走る。

 俺は爆発の余波に吹き飛ばされた。


 痛い。

 床に転がり、体のあちこちをぶつけた。


 焦げ臭い火花。

 立ちこめる煙。

 ぼろぼろと落ちる木屑の音がする。


「いって……」


 俺は幸い、生きていた。

 爆発に直接巻き込まれたわけじゃなかった。


 確か、レイネが俺を押してくれて――


「レ、レイネ……だいじょぶか……」


 俺の喉から掠れた声が出た。

 上手く大声が出せない。

 レイネは無事なのか!?


 俺は倒れたまま、爆発が起きた方を見上げた。

 宿屋の壁が、木っ端微塵にされていた。

 外から丸見えの穴が出来上がっている。

 

 夜風がダイレクトに入ってきて、俺の意識をはっきりとさせてくれる。

 

 あのまま、あれが手の上にあったままだったら。

 想像したらゾッとした。


「大丈夫!?」


「あ、ああ」


 レイネが駆け寄ってきた。


 俺は床に転がった。

 でもそのおかげで、勢いを殺すことができたんだ。

 彼女に逆に心配されるなんて、なんだか情けないな……。

 

「咄嗟にあれを投げてくれて、助かったよ」


「まったくだわ、硬まってる暇があったら動きなさい。危うく死ぬところだったのよ?」


「うっ……ごめんなさい」


 ぐうの音もでない。


 レイネが包み紙を素早く掴み、壁の方へ投げ捨てたのだ。

 それで、爆風に吹き飛ばされるだけで済んだ。


 彼女も怪我をしていないようだ。

 俺を庇うように爆発から守ってくれた気がしたのだが、かすり傷しかないようでよかった。


 しかし、目下で考えるべきことがある。

 

「なんで爆発なんか……」


「――おや、声がするということは、死んでいませんね?」


 声が響いた。

 理解できずにいる頭に直撃してきた。

 次から次へと、休む時間をくれよ……ッ!


 爆発で風穴を開けられた壁。

 俺たちはその向こう側を見た。


 何者かが、月光を浴びてそこにいる。


「あ、あんたは!」


 宿屋の受付にいた、おじさんだ。


 彼が声の持ち主だった。

 だが様子が違う。

 背中に黒い翼を生やし、宙に浮いている。


 にやにやと不気味に笑うおじさん。


「せっかく二度と目覚めない眠りにつくことができたのに、そちらのお嬢さんの勘がよかったのかな?」


 おじさんはレイネに目をやる。

 彼女はうざったそうな顔をした。


「調合された魔力がダダ漏れ。

 よほどのバカじゃない限り、警戒するに決まってるわ」


「マジかよ……」


 迂闊だった。


 まさか罠とはおもわなかったな。

 初対面の奴に、知らないものは貰わない方がいい。

 寝不足のせいだ。こんな当たり前を忘れるなんて。


「ちょうどこの村の在庫が尽きてね、君たちには今夜の食事になってもらう予定だった。

 楽に血を吸えると思って期待したが、何事も簡単にはいかないねぇ」


 歪んだ笑みを浮かべるおじさん。

 さらっとえげつないことを言っている。


「なんだそれ、吸血鬼のつもりか?」


「ご名答」


 え、本当に吸血鬼?


 おじさんの顔の形がボコボコと変形する。

 もはやおじさんではない。

 別の誰かが、その正体を現す。


「そう、我らは吸血鬼。

 宴の贄として、血を垂らしながら死ね!」


 おじさん改め、吸血鬼。


 彼の容姿が若返っと。

 そして、歯が牙と呼べるものに変わっている。

 彼は狂気の笑みをさらに浮かべた。


 同時に、羽ばたくを

 翼を広げて、こっちへ一直線に襲ってくる!


「さあどちらから、いただこうかぁ!」


 やばいぞこれは。

 突っ込んでくるぞどうすれば!?

 

「ちょっとどいてッ、《ヴェルト・サンダー》!」


 動けずにいた俺の前に、レイネが立った。


 彼女は2本の短剣をクロスさせる。

 勇猛果敢にも、吸血鬼を迎え撃った。


「ぬおっ!? この小娘が!」


「はあッ!」


 赤い雷を纏ったレイネ。

 宿屋の壁から、勢いよく飛び出した。


 砕けた木片と埃が舞う。

 彼女はそのまま、吸血鬼と鍔迫り合いになっていた。


 力の押し合いだ。

 レイネと吸血鬼は村の奥へ消えていく。

 すぐに、暗闇で見えなくなってしまった。


 ……レイネ1人で大丈夫なのか?


「た、助けにいかなきゃ」


 棒立ちしてる場合じゃない。


 彼女も疲れているはず。

 レイネに迷惑かけたままじゃダメだ。

 少しでも恩を返さなければ。


 あの力を使うか?

 でも、危険かもしれないって話だし――


「ん?」


 ふと、物音がした。

 廊下の方からか?

 派手に爆発したから、他の宿泊客が見に来て……?


「ず……ゔぁぁ……」


 最初は人間だと思った。


 でも違った。

 部屋に入ってきたそれは、生きている人間の動きをしていなかった。


 人の形をしている何かだ。

 歩き方、呼吸、視線。

 どれも正常ではないことがすぐにわかった。

 

 体が崩れていて歩みは遅い。

 人の名残として服と防具、その手には武器を持っていた。


 ああ、これゾンビだ!!


「冗談じゃないぞ……!」


 パニック映画の中に迷い込んだのか?

 次々と似たような奴らが、部屋に雪崩れ込んでくる。


「やばいやばい! 銃なんてないのに!」


 奴らの動きはゆっくりだ。

 それでも、俺は確実に後ろへ追いやられている。


 このままじゃ、風穴の空いた壁に落ちる……!


「そ、そうだ、魔法! 出ろ、アルマ・ファイア!」


 俺は魔法を唱えた。


 出ない。

 

 ちゃんと唱えたはずだ。 

 もしかしてセンスも必要なのか?

 出る気配すら感じられないのは、なんとも虚しい。


 魔力がある今ならできると思ったのに!


「ぐ、クソッ、来るな! どうすれば――」


 やっぱり、あれしかないのか……?

 

 アスタフィア王国から何時間経った?

 レイネは俺が魔力切れと言っていた。

 魔力っていうのは、こんな短時間で回復するものなのか?


 どちらにせよ、それしか手段が見つからない。


「できてくれ、やれなきゃ終わりだ。

 頼むできてくれ、頼む……!」


 早口で祈った。

 やらないと詰む。

 体調は元気なんだ、きっと大丈夫。


 悪魔との契約。

 それを契術というのだそう。


 物騒な代物だ。

 レイネによると些細なことで死ぬ。

 でも、迷っている暇なんかない。


 一番近くに寄ってきた、仮称ゾンビ。

 持っていた剣が振りかざされる。

 

 俺の首めがけて、薙いできた。


「〈偽装〉……オーバーキャスターッ!」


 剣が届くよりも前に、信じて叫んだ。


 ――できた。

 

 全身に力が漲るのを感じる。

 俺は黒いモヤが晴れるよりも、速く動き出した。


 ゾンビの剣を躱す。

 その腕を乱雑に掴んだ。

 すかさず、右腕を正拳突きのように繰り出した。


「どけ」


 鈍い感触。


 手の甲がゾンビの腹にぶち込まれる。

 ゾンビは苦しみのようなうめきをあげ、仲間もろとも宿屋の廊下に吹っ飛んだ。


「ったく、いい加減休ませろっての」


 無事変身は完了した。


 さて、これからどうするか。

 仮にこの変身に、時間制限があるとしよう。

 できる限り下手な行動は控えるべきだろうな。


「確かあの吸血鬼、「我ら」とか言ってたな。

 このゾンビ操ってる奴が別にいんのか?」


 種族的な意味か。

 それとも他に仲間がいるのか。

 この村に隠れている場合、いちいち走り回って探すのは面倒だな。


「コイツら片っ端から倒せば勝手に出てくるんじゃないか? ハッ、じゃあ暴れるか。そうするぜ!」


 俺は腰から剣を抜く。


 ゾンビたちに向かって走った。

 部屋を出て通り様に、斬り刻む。

 次から次にターゲットを変えて狩る。

 

 奴らは遅い。

 よくこれで俺を殺ろうとしたものだ。


 量じゃ圧倒的な質に敵うはずがない。

 それを今から証明しよう。


「経験値がいっぱいだなァ!?

 そら、早く出てこないとテメェの手持ちがなくなっちまうぜ、吸血鬼野郎!」


 輩みたいに笑いながら戦った。

 こんなこと、今まであっただろうか。

 

 やけに気分がいいのだから、仕方のないことだ。

 

 レイネは……多分大丈夫だろう。

 俺は俺として、レベル上げに専念する。


 狭い建物の中で、向かってくるゾンビたちを躊躇なく倒していった。


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