9-2:エピローグ
今日はレオンとのデート!
一番お気に入りの服を着て、鏡の前に立つ。
うん、かわいいよ、わたし。
決してイモ娘なんかじゃない。
イモ娘なんかじゃないんだから……。
頭に浮かぶ二人の顔。
親切だけど基本は意地悪なカシマール先生。
いい人だけどプライドが山より高いギュスターヴさん。
二人も今のわたしをイモ娘とは決して呼ぶまい。
……たぶん。
「お似合いですよ、ルゥさま」
にこにことわたしをほめるレオン。
恋人にほめられるのは悪い気分じゃないけれど……。
支度が出来たので食卓へ。
「女神かと見まがうばかりの美貌です」
レオン、わたしがなにをしてもほめるからな……。
仮にわたしがカシマール先生みたいなだらしのない服装でもむりやりほめるだろう。
わたしはテーブルに目をやる。
「レオンのサンドイッチもおいしそうだね」
「鶏肉の皮がパリパリでおいしいですよ」
本当はデートのお弁当はわたしが作りたかったのだけれど、料理の腕はどうあがいてもレオンのほうが上だからね。
ついこの前、クッキーでやらかしてしまったから「わたしが作るよ」とは言いだせなかったのだ。
この分だとデートの主導権も彼に握られそうだ。
「って、レオン!」
とても残念なことに気付いたわたしはつい声を上げてしまった。
びしっとレオンを指さす。
彼の服装は――いつもの執事の制服。
「今日はデートするんだよ!」
「もちろん、承知していますが」
ふしぎそうに首をかしげるレオン。
とぼけているわけではなさそうだ。
わたしは心から叫ぶ。
「デートなんだから私服を着てよー」
「いえ、大事な恋人とのデートなのですから、この衣装でないと」
そうだった。レオンは執事であることに誇りを持っているんだった。
わたしたちは恋人同士になったけれど、相変わらずレオンはわたしをご主人さま扱いする。
本当は「ルゥ」って呼び捨てし欲しかったのだけれど、レオンは頑なにそうしなかった。
「僕はルゥさまの恋人であり、そして執事でもあるのです」
レオンがそのことに誇りを持っているから、執事をやめろとは言えなかった。
見てみたかったな、レオンの私服。
支度が整ったわたしとレオンはデートに出かけた。
繁華街に並ぶお店を回って、いろんなものを二人で見たり買ったりした。
途中、公園に寄って二人で噴水の縁に腰かけてランチをとる。
日が暮れるころになると、さすがに歩き疲れたわたしたちは帰路に着いた。
……これ、恋人になる前からもやってるよね。
デートって言えるのかな……。
あ、一つだけ、恋人になったあかしがあった。
……キスをしたんだった。
てへへ。




