9-1:エピローグ
ある日のこと、わたしはお菓子作りに挑戦していた。
挑むお菓子はクッキー。
図書館で借りてきたレシピ本とにらめっこしながら生地をどうにか作った。
そこまで作るには結構な苦労をして、キッチンもだいぶ散らかってしまっていた。
けど、あとは形を作ってオーブンで焼くだけ。
……。
なんだけど。
気になる。視線が。
「……」
扉の陰に隠れているけれど、さっきからずっとレオンがわたしのようすを見ている。
最初、レオンに「お手伝いいたしましょう」と頼まれたのをわたしは断ったのである。
プレゼントする相手に手伝ってもらうわけにはいかないからね。
そう、これはプレゼント。
恋人から恋人への。
だからわたしは『刻星術』に頼らず、自力で作らないといけないのだ。
それにしてもレオン、いつまでたっても立ち去ろうとしない。
そんなにわたしが心配だなんて……。
よし、ぜったいにおいしいクッキーを焼いてレオンを驚かせちゃおう!
星形の型枠で型を抜いて、古代文明のオーブンでにそれを入れる。
スイッチを入れると、ガラス越しに内部がオレンジ色になって発熱しだしたのがわかった。
頼むよ、オーブン。
なんて、心の中で祈った。
それからしばらく待つと、いいにおいが漂ってきた。
完成だ。
クッキーはきれいな星型にしっかり焼けてくれた。
次はラッピング。
雑貨屋で仕入れたかわいい箱にかわいい包み紙で包み、さらにはリボンまでつけちゃったりした。
うん、かなりかわいい――見た目は。
問題は味なのだ。問題は……。
「なんというおいしさ。このクッキーは王家専属のパティシエールの一品に匹敵するでしょう。さすがはルゥさまです」
「……ありがとう。でも、無理にほめなくていいよ。かえってむなしくなるし。あはは……」
クッキーの出来は……、大失敗だった。
薄い。ひたすら味が薄い。
ついでにやたらとパサパサしている。
それは砂漠の砂を固めたような、悲惨な代物だった。
「でも、ルゥさまのクッキーが失敗してよかったです」
「へ?」
「これで僕が手取り足取り教えることができますから」
にこりと笑うレオン。
結構落ち込んでいたわたしは、その笑顔で元気を取り戻した。
レオンらしいはげましかただ。
「てへへ。なら、すっごいおいしくなるように教えてね」
「おまかせください」
今度はわたしとレオンの二人でクッキーを作った。
完成したクッキーはびっくりするほどおいしかった。
それももちろんうれしかったけど、なにより楽しかったのは、二人で共同でお菓子を作れたこと。
愛する人と何気ない日常を共有。
それこそなににも代えがたい、だいじなだいじなものだと気づいたのだった。




