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ルゥと刻のアトリエ  作者: 帆立
わたしが求めていた言葉
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8-8:わたしが求めていた言葉

 ギュスターヴさん。

 レオン。

 二人にじっと見つめられる。


 わたしはうつむいたまま。

 もう逃げられない。


 もしかすると、これは運命なのかもしれない。

 ギュスターヴさんの言葉を借りれば、この場にレオンが来たのは運命なのだ。

 こんな都合のいい展開、神さまが運命を操ったからとしか思えない。


 この機会を逃したら、わたしは自分の想いをレオンに伝えられないだろう。二度と。

 そしてレオンはわたしのもとから離れてしまうのだ。

 そんな未来はぜったいに嫌だ。


 わたしを思い切り息を吸い込む。

 そして吐き出す。

 深呼吸をすると、動揺していた気持ちが妙に落ち着いた。


「わたしの好きな人は――」


 しぜんと声が出てきた。

 そして微笑むこともできた。

 これなら言える。


「待て。ルゥ・ルーグ」


 ギュスターヴさんは手をかざしてわたしを止める。


「気が変わった。俺は失礼する」

「え、帰っちゃうんですか?」

「……俺とて、この程度の気づかいはできる」


 気付かれちゃったんだ。


「お前たちの未来に幸運のあらんことを」


 そう言い残してギュターヴさんは去っていった。

 ……やっぱりあの人、いい人だ。

 わたしとレオンの二人きりになる。


「ルゥさま」


 レオンが笑みをたたえたまま言う。


「ギュスターヴさまも行かれたことですし、無理におっしゃらなくても結構ですよ」

「んーん。言うよ」

「よいですか?」

「うん。だから聞いて」

「……」


 レオンはしばらく黙り込む。

 それから首を縦に振った。


「わかりました。聞かせてください。ルゥさまの好きな人を」


 わたしたちは見つめ合う。

 レオンの緊張した面持ちから不安が伝わってくる。

 その感情を読み取れて、わたしは安心した。


 レオンが戸惑ってくれている。

 つまり、そこから考えられるのは、レオンも本当は……。


「わたしが好きな人、それは――」


 一歩、前に進む。

 レオンに一歩近づく。


 もう一歩、進む。

 レオンにもっと近くなる。


 そしてもう一歩進み、レオンに抱きついた。


「レオンだよ」


 ちからいっぱい抱きしめた。

 自分の気持ちがどれだけ強いか伝えるために。


 レオンの返事を待つ。

 さいわいにも、待つ時間は短くて済んだ。

 レオンが抱きしめ返してくれたのだ。


 やさしい抱擁。

 そのやさしさから彼の気持ちが確かに伝わってきた。


「レオン、好きだよ」


 二人で『刻のアトリエ』をはじめてから、そのセリフを一度も言ったことがなかった。

 こんなかんたんなセリフを今まで言えなかったなんて。


 わたしはどれだけ甘えていたのだろう。ぜったいに安心できる主従関係に。

 ここから先は主従関係を超えた関係にならなくちゃいけない。

 そのためにはわたしは、勇気を出さないといけないのだ。


 だから言った。

 真正面から。

 レオンが好きだと。


 レオンはしばらく黙っていた。

 でも、わたしはその沈黙は怖くなかった。

 わたしを抱きしめ返してくれているから。

 それが彼の返事として受け取れたのだ。


「僕も好きです。ルゥさまのことが」


 胸がじんわり熱を帯びてくる。

 わたしの心にレオンの言葉がしみこんでくる。


「ルゥさま。あなたのことを愛しています」

「わたしも愛してるよ。レオン」

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