8-7:わたしが求めていた言葉
ギュスターヴさんは困ったふうに頭をかく。
「ところで、だ。お前の好きな者とは誰だ」
「……」
「な、なんで黙っている。教えないつもりか」
別に言っても構わないのだけれど、不安なことが一つあった。
この人だからやりそうなことが。
わたしはジト目で尋ねる。
「ギュスターヴさん、その人に決闘を申し込んだりはしませんよね? わたしをかけて」
「なっ!?」
ギュスターヴさんがすっとんきょうな声を出す。
それからぷんすか怒る。
「俺はあきらめのよい人間だっ。もうお前のことなどどうでもいいっ。うぬぼれるなっ」
「ならいいんですけど」
「まったく……。このイモ娘め……」
ギュスターヴさんはため息をついた。
「で、誰なんだ? お前の恋している相手は」
「えっとですね。それは――」
そのときだった。
ギュスターヴさんの背後から見知った人が現れたのは。
その人を見た瞬間、わたしは目をまんまるにしてしまった。
まるで見計らったかのような登場だった。
わたしは言いかけていた言葉を飲み込んでしまった。
「ルゥさま」
レオンだった。
「お前は、イモ娘の執事か」
「こんにちは、ギュスターヴさま。二人でどうされたのですか?」
なにげなく尋ねてくるレオン。
さっきまでの会話を聞かれてはいなかったらしい。
「少々このイモ娘に話があっただけだ」
「気になりますね。ギュスターヴさまの話」
ううー、こういうときに限って興味を示してくるんだから……。
わたしはさっきの話をどうしてかレオンには聞かれたくなったのだ。
ギュスターヴさんもわたしの気持ちにはまったく気づいてないみたいだ。
「大したことではない。執事が余計な口をはさむな」
「承知しました」
「で、イモ娘。さっさと聞かせろ」
「えっ!? 今言うんですか!?」
「今言わず、いつ言うのだ」
「だ、だって、そこにレオンがいるし……」
「別にこいつがいたっていいだろう」
よくないよ!
心の中で叫ぶ。
「おじゃまなら僕は失礼しますが」
「う、うん。ごめんね、レ――」
「いや、せっかくだから貴様も聞いていけ」
なんで!?
「貴様の将来の主人になるであろう人間の名が出てくるのだからな」
ギュスターヴさん、どうしてこんなときにかぎってそんなお節介するの!
さっきからわたしは心の中で叫んでばかりだった。
「おっしゃっている意味がよくわからないのですが……」
レオンはぽかんと首をかしげている。
「今、こいつから恋している者の名を聞くところだったのだ」
「え……」
レオンが驚く。
「俺は勇気を出してお前に告白した。ならばルゥ・ルーグ。お前もそうすべきだ。いや――」
ギュスターヴさんはえらそうな態度をあらためてから言い直す。
真剣な口調で。
「俺は聞きたい。お前の恋している者の名を。どういう人間がお前の好みなのかを」
「……ルゥさま」




