8-6:わたしが求めていた言葉
しばらくためらってからギュスターヴさんはこう続けた。
「俺は、結婚するのなら、とある女性にしようと決めているのだ」
「恋ですね」
「わからん。恋愛感情を抱いているのかは定かではない。だが、困っている者を見ると放っておけなくて、見かけによらず勇敢なところのある、そんな立派な女性を自分の妻に迎えたいと思っているのだ」
ギュスターヴさんはきっと、その人に尊敬の念を抱いているのだ。
それは恋愛とは違うかもしれない。
けど、結婚の相手に選ぶのなら応援してあげないと。
「それで、その女性は誰なんですか?」
「……俺の目の前にいる」
周囲を見回す。
わたしたちの回りには公園でくつろぐ人々はいるものの、ギュスターヴさんの目の前にはわたししかいない。
「まだわからないのか」
ため息をつくギュスターヴさん。
それから照れくさそうにこう言った。
「俺が結婚したい相手はルゥ・ルーグ――お前だ」
「へ……?」
思考が停止する。
この人の言葉の意味を頭の中で何度も理解しようと努める。
けれど、どう考えてもその言葉の意味はひとつしかなかった。
「わたしと結婚したいんですかーっ!?」
「俺とて不本意だがな」
「えっと、どうしてわたしなんですか……?」
「それはさっき言ったろう。お前は今まで様々な困難を切り抜けてきた。そして困っている者たちを助けてきた。妹のミントの願いを叶えてくれた恩は忘れていない」
ギュスターヴさんは顔を横に向け、真剣な面持ちで続ける。
「ルゥ・ルーグ。お前が俺を嫌っているのは知っている。嫌われてしまった原因が俺にあるのもな。ただ、それでも俺は、結婚するのならお前のような女性がいいと思うようになってしまったのだ」
「わ、わたしはギュスターヴさんを嫌ってはいませんけど」
「そうだったのか? なら好都合だ」
彼は直球でこう言った。
「ルゥ・ルーグ。俺と結婚してくれ」
……。
すぐには答えられなかった。
「意外だな」
ギュスターヴさんが驚く。
「俺はてっきり即答で断られるかと思った。迷ってくれているのか」
「い、いえ、お断りさせてもらいます」
「な、なんだと!? ならば期待させるようなそぶりをするなっ」
ぷんすかギュスターヴさんが怒った。
迷っているとき、わたしは考えていた。
ここでギュスターヴさんの求婚を受け入れたら、レオンはどんな反応をするだろう。
……そんなことを。
「わたしには好きな人がいるんです」
「ならば仕方あるまい。俺も断れるのを覚悟で告白した。この件は忘れてくれ」
「ごめんなさい」
「謝る必要がどこにある」




