8-5:わたしが求めていた言葉
胸が苦しい。
レオンがわたし以外の女の子と仲良くしているのを見ると、もやもやした気持ちになる。
レオンが遠くに行ってしまった気がした。
「ルゥ・ルーグ」
「ひゃいっ!?」
いきなり背後から名前を呼ばれたので飛び上がってしまった。
振り返ると、そこにはいつものえらそうな金髪の青年――ギュスターヴさんがいた。
「わ、わたし! のぞき見してたんじゃないんです! ぐ、偶然です!」
「なにをわけのわからんことを言っている」
挙動不審なわたしを見て怪しんでいるギュスターヴさん。
とりあえず、深呼吸して落ち着こう。
息を吸って、吐く。……落ち着いた。
「えっと、こんにちは、ギュスターヴさん」
それにしても驚いた。
こんな街中で偶然ギュスターヴさんに会うなんて。
「今日はお買い物ですか? って、そういうのは召使いの人に任せますよね。あはは」
「買い物ではない。ルゥ・ルーグ。お前に用事があって街に出たのだ」
「わたしですか?」
わたしは自分を指さす。
どんな用事だろう。
見当もつかない。
「お前の店に行こうと思ったが、偶然にもここでお前を見つけたのだ」
それからなぜかギュスターヴさんは顔を赤らめる。
「いや、これはもしや偶然ではないのかもしれん」
「偶然ではない……?」
「運命かもしれん」
運命……?
街で出会ったくらいで運命だなんて、大げさな人だ。
ギュスターヴさんは咳ばらいしてからこう言った。
「ルゥ・ルーグ。今、時間はあるか?」
「はい。ありますけど」
「よかった」
「どんな用事ですか?」
「そ、それはおいおい話す。とにかくついてきてくれ……」
そう言われてわたしはギュスターヴさんの後に続いた。
そういやギュスターヴさん、わたしを名前で呼んでくれた。
いつもはイモ娘呼ばわりなのに。
そうしてわたしとギュスターヴさんは公園にやってきた。
きれいな噴水がシンボルの、王都で人気の公園だ。
今も多くの人たちで賑わっている。
公園でわたしに用事……。
見当もつかない。
しかもギュスターヴさん、妙に落ち着きがなくてそわそわしている。
「えっと、わたしに用事って――」
「ちょっ、ちょっと待て! 俺にも心の準備というものがあるのだ!」
視線もあっちこっちをさまよっている。
それなのになぜかわたしとは頑なに目を合わせようとしない。
しばらく待っていると、ようやく彼はこう切り出してきた。
「俺ももう、結婚相手を選ばなければいけない年齢だ。両親からもたびたび貴族の令嬢との見合いを提案されている」
「へー。お見合いは成立したんですか?」
「いや、今のところすべて断っている」




