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ルゥと刻のアトリエ  作者: 帆立
わたしが求めていた言葉
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8-4:わたしが求めていた言葉

 あれ……? 本当にいつもの朝だ。

 昨日はあんなことがあって、それから二人ともぎこちなかったのに。

 レオンはいつもの笑みをたたえている。


「どうかしました、ルゥさま」

「え? んーん。なんでもない」

「着替えて顔を洗ってこられたら朝食にいたしましょう」


 服を着替えて、顔を洗ってから食卓に着く。

 ちょうどいい頃合いを見計らってレオンが朝食を運んできた。

 ベーコンエッグとパンにスープ。


 二人で向かい合って食卓に着き、朝食を食べる。

 食べながら二人で他愛のない雑談をした。

 今朝の新聞に書いてあったできごと、アトリエの仕事のことなど。


 いつもの朝食だ。

 カリカリしたベーコンの食感とたまごのトロッとした味がたまらない。

 パンもふわっとしていて、スープもおいしい。


 昨日のあの出来事は本当にあったことなのか不安にさえなる。

 もしかして本当はわたしの夢だったのでは……。


 雑談をしていても、レオンはアランくんの話は一切出さなかった。

 わたしも怖くて言い出せなかった。

 食事を食べ終える。


「食器を下げますね」


 レオンがお皿を重ねて立つ。

 そのとき、一番上に乗っていたお皿がするりと滑って床に落ちた。

 ガシャン、と音を立ててお皿は砕け散った。


「す、すみません!」


 慌ててお皿の破片を拾うとするレオン。


「ッ!」


 レオンが手を引っ込める。

 見てみると、食器の破片で指を切ったらしかった。

 指先から赤い血がぷっくりと浮かんでいる。


「すぐ手当てしないと」

「これくらい平気ですよ」

「もー、ダメだって」


 指の手当てをする。

 レオンがこんな失敗をするなんて……。

 やっぱり昨日のことは本当に起きたことだったんだ……。


 レオンは演じているのだ。

 今日もなんの変哲もない一日であるように。

 それは逆説的に、もう、そんな日々には戻れないのを意味していた。


 わたしとレオンの『刻のアトリエ』での日常は終わった。

 運命の日が来たとき、どんな決断をすべきか決めなくてはいけなくなった。



 それから数日、わたしたちは平凡な日々を演じていた。

 いつもと同じようで、明確に違う日々。

 こんなこと無意味だとわかっていながらわたしも演じてしまう。


 怖かった。

 この日々が終わるのが怖くてひたすら現実逃避していた。


 わたしもレオンもまだ子供だったのだ。

 運命を受け入れる覚悟も、立ち向かう勇気もなかった。

 ベッドに隠れて震える子供だった。



 ある日、本屋に行った帰り道、偶然にもレオンを見つけた。

 声をかけようと思って思いとどまる。

 彼のそばには見知らぬ女性がいた。


 わたしと年頃は同じくらいだろう。

 二人とも仲良くおしゃべりしている。

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