8-2:わたしが求めていた言葉
「兄上、ずっとさがしておりました」
アランくんが小走りにレオンへと寄ってくる。
レオンも家族にたいする愛しげな笑みを浮かべていた。
「久しぶりだね、アラン。背が伸びたような気がする」
「お気づきになりました。実はそうなんです」
家族との再会。
それは祝福すべき場面であるはずのなのに、わたしは不安でいっぱいだった。
アランくん。彼はわたしにとって終わりをもたらす存在。
「ずっと兄上に会いたかったです。こうしてようやく会いに来れました」
「ごめん、アラン。いきなりいなくなって」
「仕方のないことです。兄上は王位継承者としてとても近い立場だったのですから」
アランくんは続ける。
「最初は隠れ住んでいるというルーグ家をさがしたのですが、今はルーグ家の娘と王都で暮らしているという話を聞きまして、この店の存在を知りました」
アランくんがちらりとわたしに目をやる。
「あの方が?」
「うん。ルゥさまは僕の大切な人だよ」
「ルゥ『さま』……?」
わたしの呼び方に首をかしげるアランくん。
それも当然だ。
本来ならわたしとレオンの立場は真逆なのだから。
「僕は今、ルゥさまの執事として暮らしているんだ」
「そういう『フリ』をしているのですね……?」
「フリじゃないよ。僕にとってルゥさまは仕えるべき女性なんだ」
アランが怪訝な面持ちをするのも当然。
本来、王になってもおかしくない人が、田舎貴族の娘の執事をしているのだから。
「その話はひとまず置いておくとして……。いきなりで申し訳ありませんが、本題に入らせてもらいます」
「……うん」
表情を引き締めるレオン。
レオンもわかっているようだ。
アランくんが次になにを言うのか。
「単刀直入に言います。グレイス王国にお戻りください」
グレイス王家は今、王位継承問題で混乱状態にある。
王さまが王位継承者を決める前に亡くなったからだ。
そのせいで王位を継ぐ権利のある者たちで争いが起きている。
レオンはその争いから逃れるため、身分を隠してルーグ家にかくまわれていたのだ。
「王位を継ぐ者は兄上、あなたの他におりません。国民もあなたの即位を望んでいます」
「……僕は、そんな人間じゃないよ」
「いえ、あなたのような高潔で誠実な人間こそ王になるべきなのです」
「僕は真っ向から戦うことをしないで逃げた。その時点で王になるべき器じゃないよ」
「兄上……」
アランくんが離れた位置で会話を聞いてたわたしをにらみつける。
怒りの感情が含まれている。
「ルゥ・ルーグ。あなたが兄上をたぶらかしているのですね」
「アラン。ルゥさまはそんなお方じゃない」
珍しくレオンが怒る。
アランくんはそれでも納得がいかないようす。




