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ルゥと刻のアトリエ  作者: 帆立
わたしが求めていた言葉
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8-1:わたしが求めていた言葉

 今日もなんの変哲もない一日――に、なるはずだった。

 いつものように『刻のアトリエ』を開いて、お客さんたちを依頼をこなす。

 わたしの時間を操る力『刻星術』で。


 ともどき失敗もするけれど、それでもお客んさんたちには好評だ。

 おかげですっかり王都の人たちに知れている。

 最近ちょっと忙しくなってきたけど、充実している。


 わたしのとなりにはレオンがいるから。

 ……レオンがいるから。

 だからしあわせ。



 アトリエの閉店時間間近。

 この時間になるとさすがにもうお客さんは来ない。

 来ても依頼した品物を受け取りにくるくらいだ。


「うーん」


 わたしは背伸びする。

 今日も一日がんばったな。


「お疲れさまです、ルゥさま」


 レオンがにこりと言う。

 わたしも「てへへ」と笑う。


「今日の夕食はハンバーグにいたしましょう」

「やったーっ」


 レオンが奥の部屋に行った。

 レオンの焼くハンバーグ。

 楽しみだ。


 時計に目をやる。

 時計の針はちょうど閉店時刻を指していた。

 店じまいをしようとカウンターを立ったそのとき、ドアベルがなってドアが開いた。


 来客だ。

 入ってきたのは男の子だった。

 見た目から判断すると、14歳くらいかな。


 その立派な服装からして貴族の子供だとわかる。

 髪もしっかり整えられていて、きりっとした表情から礼儀と知性がうかがえる。

 たぶん、年齢以上にしっかりした子なのだろう。


「閉店間際に失礼したします」


 少年がそう言う。


「ここが『刻のアトリエ』ですか」

「そうだよ。閉店前だけど、依頼なら受け付けるよ」

「いえ、僕は依頼で訪れたのではありません」


 少年が首を横に振る。

 それからこう問いかけてくる。


「あなたはルゥ・ルーグですね」

「う、うん。そうだよ」


 わたしの名前はいろいろな依頼を解決してきたので知れ渡っているから、この子が知っていてもおかしくない。

 でも、今のこの子の質問は、どうしてか問い詰めるような口調だった。

 わたしを好意的に見ているわけではないのがなんとなくわかった。


「僕の名前はアラン」


 それからアランくんは思いもよらぬことを言った。


「グレイス王家の第七王子です」


 グイレス王家……。

 グレイス王家!?

 レオンの国を統治する王族!


「兄上を――レオン王子を迎えに参りました」


 わたしは貧血のような寒気に見舞われる。

 いつからくると思っていた、二人のしあわせで平凡な生活の終焉。

 それが唐突に訪れた。


 わたしは硬直する。

 身体が動かないし、思考も働かない。


「ルゥさま。ハンバーグの付け合わせの野菜ですが――」


 レオンが戻ってくる。

 そしてアランくんの姿が視界に入ると、表情を一変させた。


「アラン……」

「お久しぶりです、兄上」


 アランくんがにこりと微笑んだ。

 その笑顔で兄であるレオンのことを慕っているのが理解できた。

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