7-14:対決ガルアーノ
「貧困層居住区の救済は俺が責任をもってやり遂げる。だからゼロ。泥棒稼業はこれで終わりにしろ。これまで重ねてきた窃盗の罪もなかったことにする」
「スラムの子供たちが腹を満たせるようになったのを見届けてからな」
おなかをすかせた子供たちがいる限り、怪盗ゼロはいなくならない。
「あと俺、自分のやったこと、罪だなんて思ってないし」
にやりと笑った。
ゼロらしいな。
お城の外ではゼロのお迎えの馬車が待っていた。
御者を務めるのはメイドのリーゼロッテさん。
「なあ、ルゥ。俺と結婚する気はないか?」
別れ際になってゼロが求婚してくる。
わたしは「うーん」と悩む――ふりをする。
さんざんじらしたあと、満面の笑みで――
「お断りしますっ」
拒否した。
そう返答されるのがあらかじめわかっていたらしいゼロは「いい男なのによ。後悔するぜ」と言った。
わたしはちらりと横目でレオンの表情を盗み見る。
レオンはまったく動じずいつもの笑みをたたえていた。
それはそれでちょっと不満かも。
でもレオン、前はやきもち焼いてくれたんだよね。
「だいたい、ゼロにはリーゼロッテさんがいるじゃない。ちょっとしか話したことのないわたしでもわかるよ。二人がお似合いの恋人同士だって」
「恋人、ですか」
照れるか容赦なく否定するかと思いきや、リーゼロッテさんはふしぎそうに首をかしげる。
「あのなあ……」
ゼロが困ったふうに頭をかく。
「リーゼロッテは俺の妹だ」
「妹!?」
「だからいっしょの屋敷に住んでるんだろうが」
あ、そうか。そうだよね。
メイドの衣装だったから兄妹だとはちっとも思わなかった。
驚いてつい大声出しちゃった。
「このたびは面倒な兄の面倒ごとにまきこんで申し訳ありませんでした。とても面倒だったかと思われます」
リーゼロッテさんが謝罪する。
「何回『面倒』って言ってんだよ!?」
「それと、ガルアーノを倒していただきありがとうございます。亡き父もよろこんでいるかと」
「スラムが今よりもよくなるといいですね」
「そうなることを願っています」
「俺は正直、あの王さまはあんまりアテにしてないけどな」
「怪盗ゼロ。城の目の前で国王陛下の侮辱は少々うかつかと」
ゼロが馬車に乗ると、リーゼロッテさんが手綱を操る。
「またな、愛しのルゥ。また会いにいくからよ」
「おいしいお茶とお菓子を用意して待ってるね。リーゼロッテさんも『刻のアトリエ』にお越しになるのを待ってます。今度は兄妹そろって遊びにきてください」
「ありがとうございます。救国の聖女よ」
「そ、その呼び方はちょっと照れちゃうかも……」
馬車はひづめで石畳を鳴らしながらわたしとレオンのもとから去っていった。




