7-8:対決ガルアーノ
「いらっしゃいませ、カシマール先生。待ってたんです」
「おっと、俺なら妻子がいるから無理だぜ」
「いえ、ぜんぜんそういうのじゃないんで」
「冗談だよ。もっと慌てろよ」
なんて軽口を言い合ってから、さっそく本題を切り出した。
社交パーティーの夜、ガルアーノ大臣の姿が魔物に見えた件をカシマール先生に話す。
「見間違いじゃないのか?」
「わ、わたしもだんだん自信がなくなってきたんです。でも、本当に魔物が化けているのだとしたら、王国の政治に魔物が関わっちゃってるってことなんですよ」
「ふむ」
カシマール先生は考え込む。
「だとしたら国家の一大事だ」
「でしょ?」
ガルアーノ大臣が魔物かどうか判別する方法はないかカシマール先生に尋ねる。
「うーん」
「や、やっぱりないですよね……」
「ある」
「悩んだフリしないでくださいっ」
カシマール先生はこう言った。
魔力を帯びた道具に、邪悪なるものを退ける効果を持つものがある。
それをガルアーノ大臣に渡してみればいい。
大臣が魔物なら正体を暴けるし、ただの人間ならなんの効果もない。
献上したい品があるとでも言えば、あの強欲な大臣ならよろこんで受け取るだろう。
「いい作戦ですっ。さっそくためしましょう! レオンも協力してくれるよね?」
「……ひとつ、お尋ねしたいことが」
わたしは不安になる。
一言で賛成してくれると思っていたレオンが暗い表情をしていたのだ。
「大臣の正体を暴くのはルゥさまの純粋な正義感のためでしょうか。それとも――」
一度言葉を切ってから続ける。
「怪盗ゼロのためでしょうか」
わたしは驚く。
レオンがそういうことにこだわるとは思いもよらなかったから。
もしかして、やきもちを焼いてるの……?
「両方だよ」
「そうですか……」
「誤解がないように言っておくけど、ゼロに惚れたりはしてないから安心してね」
「そうですか!」
レオンの表情がぱあっと明るくなった。
レオンが嫉妬してくれるなんて、結構嬉しかったり。
だいじょうぶだよレオン。わたしが好きなのはあなただけだから。
――と口に出す勇気はまだなかった。
カシマール先生もいるしね。
「その、邪悪なるものを苦しめる魔法道具って貸してくれるんですか」
「ちょっと待て待て。気が早いぞ。この作戦にはひとつ、大きな問題がある」
「問題ですか?」
「仮にガルアーノ大臣が魔物だったとしよう。もしその正体を暴いた後、ガルアーノ大臣が襲いかかってきたらどうするんだ」
「えっ」
わたしが言葉に詰まると、カシマール先生は大きなため息をついた。
「命がけの戦いになるって意味だぞ? 本当に理解してるのか?」




