7-5:対決ガルアーノ
勢いで言ってしまって「しまった」と思った。
ギュスターヴさんはガルアーノ大臣が悪人だと知っている。
なのにガルアーノ大臣が今も平然と大臣をやっているということは、糾弾できない事情があるのだ。
政治というものは善悪でぴったり分けられるものではないくらい、わたしにもわかる。
ギュスターヴさんが困惑しているうちにわたしは首をぶんぶん横に振る。
「や、やっぱり今のなし!」
「……すまん」
彼にしてはしおらしく謝った。
「イモ娘。お前の正義感は感心すべきだが、政治にはヘタに口を挟まないほうがいい。この『刻のアトリエ』が大事ならな。脅すような言い草だが」
「んーん。いいの」
大臣を怒らせたらわたしは王都にいられなくなる。
レオンやギュスターヴさんにだって迷惑がかかる。
わたしは天秤ではかる。
このお店とゼロを。
天秤は左右に揺れ続けていた。
「ルゥさまの決断は間違っていません」
二人が帰った後、レオンがなぐさめてくれた。
それでもやっぱり後味が悪かった。
ゼロの寄付を横取りした悪者をやっつけられないなんて……。
思いがけないできごとが起きた。
王国から社交パーティーの誘いがきたのだ。
「どうしてわたしが誘われたんだろう」
ここ最近、『刻のアトリエ』は順調に経営できているとは思っていたけれど、まさか国のパーティーに招待されるほど人気になっていたなんて。
うれしいというか、驚きだ。
ぜんぜん実感がわかない。
「ルゥさまの人望の賜物ですね」
「でも、パーティー用のドレスは実家に置いてきちゃったし」
「でしたら僕が仕立てましょう。ルゥさまの美貌に釣り合う美しいドレスを」
「できるの?」
「執事ですので」
執事ってなんでもできるんだね……。
いや、たぶんレオンだけだ。
レオンは懐から巻尺を取り出す。
「寸法を測らせていただきます」
「は、恥ずかしいな……」
「失礼いたします」
巻尺で寸法を測られる。
くすぐったい。
「測り終えました」
「ドレス、間に合うの? パーティーは三日後だよ」
「明日の朝には完成しているかと」
……え?
レオンなりの冗談だろうか。
翌朝。
「ルゥさま、ドレスが完成いたしました」
完成させていた。
……器用とかそういうの通り越してない?
「ど、どうやって一晩で仕立て上げたの……?」
「執事ですので」
信じられないけれど、ドレスは確かにわたしの目の前にあった。
おしゃれで、それでいて華美すぎない、上品な意匠だ。
試着してみるとぴったり身体に合った。




