6-12:オリオンオークション
「もらえるもんはもらっておかないとな」
「ドロボウはいけないんだよ!」
「ドロボウにそれを言うかね」
怪盗ゼロに抱きかかえられ、冷たい風を受けながら夜の街を駆ける。
恐るべき跳躍で屋根から屋根へ。
まさしく物語に出てくるような怪盗だ。
「この絵画はどうせ金持ちどもの税金逃れに使われる。そんなくだらない使われ方をするよりも、貧しい子供たちの腹を満たすためにお金に換えたほうがいいだろ?」
「それは……」
わたしは言い淀む。
オークション会場の大人たちは、狂ったように宝石や芸術品に高値を付けて買っていった。
古びたツボ、よくわからない彫刻、奇妙なオブジェ……。
それらにつけられた値段のお金でいったいどれだけの貧しい人を助けられただろう。
それを実行に移したのが彼――怪盗ゼロなのだ。
「ルゥはわかってくれたみたいだな。うれしいぜ」
にこりと笑う――ゼロ。
いたずらっ子が見せる、無邪気な笑顔だ。
彼が悪い人ではないのがその笑顔でわかった。
王都を囲む壁を抜けて王都の外へ。
街道を今、わたしとゼロは歩いている。
月夜。二人並んで、誰もいない静かな道を歩く。
「ルゥはいくつだ?」
「歳を聞いてるの? 16歳だけど」
「俺は21」
「ふーん」
「なんだよ。不機嫌そうじゃないか」
「あたりまえだよ。わたし、あなたにさらわれたんだよ」
「あははっ。そうだよな。まあ、イヤなら家に送ってやるよ」
わたしは別に身体を縛られたりはしていない。
逃げようと思えばかんたに逃げられるし、たぶんそうしたらゼロは追ってこないだろうとなんとなく思っていた。
「衝動的になるのは俺の悪いクセだな。欲しいものは盗っちまう」
自嘲するゼロ。
「ルゥ。お前のことはどうしても欲しかったんだ」
「わたしは物じゃないもん」
「そういうつもりで言ったんじゃないんだ。そこは謝る」
「女の子とデートするのにも手順ってものがあるんだよ」
「はははっ。そのとおりだ」
ゼロが立ち止まったのでわたしも止まる。
「あの執事も心配してるだろうから、デートはここまでだな」
そのときだった。
夜の暗がりに石畳をたたくひづめの固い音が聞こえてきたのは。
わたしたちの前に馬車が止まった。
「迎えにきましたよ、ゼロ」
御者がフードを脱いだ。
女性だ。
金髪の美しい女性が手綱を握っていた。
「お迎えごくろうさん、リーゼロッテ」
「首尾よくいったようですね」
「おう」
この人はゼロの仲間なのかな。
リーゼロッテと呼ばれた女性の視線がゼロの絵画からわたしに向けられる。
眉間にしわを寄せる。
「彼女はもしかして、例の……」
「おう。俺の一目ぼれしたルゥだ」
「あなたという人は……」
リーゼロッテさんは心底呆れたようすでため息をついた。
「今すぐ返してきてください」
ま、まるで同情で拾われた捨て犬みたいな言い草だ……。




