6-11:オリオンオークション
「実は私、ルゥさんに一目ぼれしてしまいましてね」
……へ?
「最初はこの『花畑』をちょうだいしようと思っていたのですが、予定を変更してこの美しき聖女さまをいただこうと思います」
ど、どどどどどういうこと!?
わたしは気が動転する。
オリオンさん、わたしが好きだったの!?
「ルゥさまから離れてください!」
異変に気付いたレオンが舞台袖から飛び出してきた。
同時に、オリオンさんがわたしの肩に手を回して抱き寄せる。
「ナイトさまのご登場か」
このセリフ……。
まさかこの人……。
「あなた、オリオンさんではありませんね!」
「フフフ。バレちゃあしょうがない」
オリオンさんがあごの下に手をやる。
そしてバリバリと顔の表面を引きはがした。
オリオンさんの顔は変装だった。
オリオンさんの顔の下から現れたのは、あの軟派なパンドロボウだった。
「怪盗ゼロ、参上だ」
偽オリオンさん――怪盗ゼロがニヤリと笑った。
会場がどよめく。
周囲にいた衛兵たちが一斉に舞台の上に集まり、わたしと怪盗ゼロを包囲した。
しかし、衛兵たちは怪盗ゼロを捕まえようとしない。
人質にされたわたしがいるせいだ。
わたしは今、怪盗ゼロの腕の中にいる。
「怪盗ゼロ。ルゥさまを離してください」
「イヤだね。この子は俺のものだ」
「あなたのものではありません!」
「おっと、近づくなよ」
怪盗ゼロがナイフを手にする。
それをわたし――ではなく、絵画『花畑』につきつけた。
「一歩でも近づいてみろ。『花畑』のズタズタに引き裂く」
「卑怯者め……」
「悪いね。俺は欲しいものを手に入れるためなら手段を選ばないんだ」
怪盗ゼロが丸いものを床に投げつける。
すると丸いものが弾け、中から白い煙が出てきた。
舞台はあっという間に白い煙に包まれる。
視界が遮られてしまった。
「けほっ、けほっ」
咳き込む。
「ハハハハハッ。あばよっ」
怪盗ゼロはわたしをしっかりと抱きしめたまま、恐るべき跳躍で窓ガラスを割って外に逃げ出したのだった。
「ひゃっほーっ! 大成功だぜ!」
満月がかかる夜空の下。
怪盗ゼロは街の屋根から屋根を伝って駆ける。
赤いマントが風を受けてはためいている。
「ちょっと、離してよ!」
「もう少し辛抱してくれよ。俺のアジトまでもうすぐだからさ」
「行きたくない!」
「安心しろって。女の子はみんな俺に惚れる。ルゥもすぐに俺のことが好きになるさ」
キザな笑みを浮かべる怪盗ゼロ。
くやしいけど、魅力的な笑顔だ。
女の子がみんな惚れるというのも本当だろう。
「あっ、それって!」
今更気が付いたけど怪盗ゼロ、空いたほうの手で『花畑』を持っている。
ちゃっかりこっちも盗んだのだ。




